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11月 27 2024 コロナ禍を経て高知県民の飲酒行動が変わった?――急性アルコール中毒搬送件数の分析
お酒好きが多いことで知られる高知県から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが終息した後も、人々が羽目を外して飲酒する頻度は減ったままであることを示唆するデータが報告された。同県での急性アルコール中毒による搬送件数を経時的に解析した結果、いまだ2019年の水準より有意に少ない値で推移しているという。高知大学医学部附属病院次世代医療創造センターの南まりな氏らの研究によるもので、詳細は「Environmental Health and Preventive Medicine」に10月8日掲載された。
COVID-19パンデミック中は、外出自粛、飲食店の時短営業などの影響を受け、高知県において急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に低下したことを、南氏らは既に報告している。その後、2023年5月にWHOが緊急事態の終息を宣言し、国内でも感染症法上の位置付けが5類となって、社会生活はほぼパンデミック前の状態に戻った。それによって、高知県民の飲酒行動が元に復した可能性があることから、南氏らは最新のデータを用いた検証を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究は、高知県救急医療・広域災害情報システム「こうち医療ネット」のデータを用いて行われた。2019~2023年の救急搬送のデータから、解析に必要な情報がないもの、および急性アルコール中毒の記録が存在しない9歳以下と80歳以上を除外した10万7,013人を解析対象とした。このうち1,481人(1.4%)が、急性アルコール中毒による救急搬送だった。
救急搬送者数に占める急性アルコール中毒による搬送者の割合を経時的に見ると、パンデミック前の2019年は1.8%、パンデミック初期に当たる2020年は1.3%であり、その後、2021年と2022年は1.2%で、2023年は1.3%と推移していた。
2019年を基準として、年齢、性別、救急要請場所、消防管轄区域(高知市か高知市以外)、および重症度を調整し、救急搬送のオッズ比(OR)を算出すると、以下に示すように2020年以降はすべて有意に低値であり、2023年にわずかに上昇する傾向が認められた。2020年はOR0.79(95%信頼区間0.68~0.93)、2021年はOR0.74(同0.63~0.87)、2022年はOR0.72(0.61~0.84)、2023年はOR0.77(0.66~0.90)。
著者らは、「COVID-19パンデミックが終息し人々の生活パターンがある程度元に戻ったにもかかわらず、高知県での急性アルコール中毒による救急搬送は、若干増加しているとはいえ、いまだパンデミック以前のレベルに至っていない。この結果は、パンデミックを経て飲酒行動が変化したことを示唆している」と結論付けている。また、そのような変化が生じた背景として、特に急性アルコール中毒のハイリスク集団である若年世代の娯楽の多様化で、アルコール離れが生じた影響ではないかとの考察を加えている。
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11月 27 2024 前立腺肥大症治療薬のタダラフィルが2型糖尿病リスクを抑制
前立腺肥大症(BPH)の治療に用いられているタダラフィルが、2型糖尿病(T2DM)発症リスクを低下させる可能性が報告された。京都大学大学院医学研究科薬剤疫学分野の髙山厚氏らによる研究の結果であり、論文が「Journal of Internal Medicine」に9月17日掲載された。
タダラフィルはホスホジエステラーゼ5阻害薬(PDE5i)と呼ばれるタイプの薬で、血管内皮細胞からの一酸化窒素の放出を増やして血管を拡張する作用があり、BPHのほかに勃起障害(ED)や肺高血圧症の治療に用いられている。近年、T2DMの発症に血管内皮機能の低下が関与していることが明らかになり、理論的にはPDE5iがT2DMリスクを抑制する可能性が想定される。ただし、そのエビデンスはまだ少ない。これを背景として髙山氏らは、リアルワールドデータを用いて実際の臨床試験をエミュレート(模倣)し、観察研究でありながら介入効果を予測し得る、ターゲットトライアルエミュレーションによる検証を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。研究には、日本の人口の約13%をカバーする医療費請求データベースの情報を用いた。2014年5月~2023年1月にBPHと診断され、タダラフィル(5mg/日)の処方、またはα遮断薬の処方の記録がある40歳以上の男性患者から、糖尿病の既往(診断、血糖降下薬の処方、HbA1c6.5%以上の検査値で把握)、タダラフィルとα遮断薬の併用、薬剤使用禁忌症例などを除外。タダラフィル群5,180人、α遮断薬群2万46人を特定し、T2DMの発症、処方中止・変更、死亡、保険脱退、または最長5年経過のいずれかに該当するまで追跡した。なお、α遮断薬はBPH治療薬として広く使われている薬で、T2DMリスクには影響を及ぼさないとされている。
ベースライン時点において、タダラフィル群の方がわずかに若年でHbA1cが低かったものの有意差はなく、その他の臨床指標もよく一致していた。追跡期間は、タダラフィル群が中央値27.7カ月、α遮断薬群は同31.3カ月だった。T2DMの発症率は、タダラフィル群では1,000人年当たり5.4(95%信頼区間4.0~7.2)、α遮断薬群は同8.8(7.8~9.8)と計算され、タダラフィルの処方はT2DM発症リスクの低下と関連していた(リスク比〔RR〕0.47〔0.39~0.62〕、5年間の累積発症率差-0.031〔-0.040~-0.019〕)。
前糖尿病(HbA1c5.7%以上)に該当するか否かで二分した上での解析(前糖尿病ではRR0.49〔0.40~0.69〕、HbA1c5.7%未満ではRR0.34〔0.20~0.63〕)や、肥満(BMI25以上)の有無で二分した解析(肥満ではRR0.61〔0.43~0.80〕、非肥満ではRR0.38〔0.24~0.62〕)でも、全てのサブグループで全体解析同様の結果が示された。また、感度分析として、T2DM発症の定義などを変更した15パターンでの解析を行ったが、結果は一貫していた。
著者らは、保険非適用のPDE5i処方(ED治療目的)が把握されていないことや残余交絡が存在する可能性などを研究の限界点として挙げた上で、「BPH男性の治療におけるタダラフィルの処方はα遮断薬の処方と比較して、T2DM発症リスクの低下と関連しているようだ。この関連のメカニズムを明らかにし、同薬のメリットを得られる集団の特徴をより詳細かつ明確にする必要がある」と述べている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。