• 緑内障は「幸福と感じていない」ことと関連、特に男性で顕著

     国内7県の地域住民を対象とした研究で、自己申告による緑内障の既往歴がある人は、主観的に「幸福と感じていない」割合が高いという結果が示された。この緑内障で幸福と感じていない割合が高い傾向は、特に40~59歳の男性で顕著だったという。これは慶應義塾大学医学部眼科学教室と国立がん研究センターなどとの共同研究による結果であり、「BMJ Open Ophthalmology」に2月19日掲載された。

     これまでの研究で、ドライアイや老眼と幸福度の低さとの関連が報告されている。緑内障は、眼圧(目の硬さ)が高い状態が続くことなどにより視神経が障害され、徐々に視野の障害が広がる病気だ。緑内障患者は、テレビの視聴や読書などの楽しみが減少し、転倒リスクが高まるなど、日常生活に悪影響を及ぼし、視覚関連QOLが大きく損なわれる可能性がある。

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     そこで著者らは、2011~2016年に開始された次世代多目的コホート研究「JPHC-NEXT」のデータを用いて、自己申告による緑内障の既往歴と幸福度との関連を解析した。対象は、国内7県(岩手、秋田、長野、茨城、高知、愛媛、長崎)の計16市町村の地域住民(40〜74歳)のうち、がん、心筋梗塞、狭心症、脳卒中、心不全、糖尿病、うつ病の既往歴のある人などを除外した、計9万2,397人。質問紙により緑内障の既往歴(医師の診断)を調べた。全体的に幸せな状態かどうかの質問に関する4つの選択肢(幸せでない、どちらとも言えない、幸せ、大変幸せ)のうち、「幸せでない」または「どちらとも言えない」と回答した人を「幸福と感じていない」とした。

     その結果、緑内障の既往歴のある人は1,733人(1.9%)であり、男性が635人(1.6%)、女性が1,098人(2.1%)だった。緑内障の既往歴がある人は、緑内障の既往歴がない人と比べて年齢が有意に高かった(平均63.0±8.3対57.5±9.6歳)。

     年齢のほか、地域、教育レベル、世帯収入、喫煙、飲酒量、身体活動の差を調整した上で、男性における「幸福と感じていない」のオッズを解析した結果、緑内障の既往歴がある人の方が、緑内障の既往歴がない人よりも有意に高かった(オッズ比1.26、95%信頼区間1.05~1.51)。女性でも、「幸福と感じていない」割合と緑内障の既往歴が関連する傾向にあったが、関連は有意ではなかった(同1.05、0.90~1.23)。

     さらに、年齢層を分けて解析すると、「幸福と感じていない」割合と緑内障の既往歴との関連が最も強かったのは40〜59歳の男性であることが明らかとなった(同1.40、1.04~1.88)。一方、60〜74歳の男性(同1.20、0.96~1.51)、40〜59歳の女性(同1.21、0.92~1.59)、60〜74歳の女性(同0.99、0.83~1.20)では、有意な関連は認められなかった。

     以上から著者らは、「特に男性において、緑内障の既往歴は幸福と感じていない割合と関連する」と結論。性別や年齢層で差があったことの背景として、社会的に求められる役割や雇用状況、視野の障害による仕事への支障などの可能性を挙げている。また、緑内障は日本の中途失明の原因として最も多い病気だが、「診断と治療を早い段階で行えば、進行速度を遅らせ、機能障害を最小限に抑えることができる」と述べている。

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  • ペット型ロボットが血液内科の無菌室で活躍

     造血幹細胞移植を受ける血液がん患者は、治療に伴い、身体的にも心理的にも大きな痛みを経験する。新たな研究により、患者が血液内科の無菌室で治療・療養している間、犬型ロボットの「aibo」と触れ合うことで、心理的ストレスが軽減されることが明らかとなった。東京医科大学血液内科学分野の研究チームによる研究結果であり、「Scientific Reports」に2月27日掲載された。

     強い抗がん剤を使用する血液がん患者は、感染症を予防するため無菌室に入室する。閉鎖的な空間で長期療養を要することから、一般病棟の患者と比べて不眠や抑うつが多く生じる。近年、慢性疾患患者の精神的ケアの一つとしてセラピードッグなどが導入されつつあるが、免疫力が低下している血液がん患者には適していない。そこで著者らは、人工知能(AI)を搭載したソニーグループ株式会社の犬型ロボット「aibo」を導入し、患者の心理面に及ぼす効果を検証した。

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     今回の研究は、東京医科大学病院で2020年2月~2022年8月に造血幹細胞移植を受けた患者を対象に行われた。対象患者はaibo群と対照群にランダムに分けられ、aibo群の患者はaiboに好きな名前を付けて、無菌室で触れ合うことができた。無菌室に入室し、移植を受け、無菌室退室に至るまで、ストレスホルモンである唾液クロモグラニンA(CgA)、血清オキシトシン、血清コルチゾールの値が定期的に測定された。

     解析対象の患者21人のうち、aibo群は11人(男性4人、女性7人)で年齢中央値は48歳(範囲24~65歳)、対照群は10人(男性7人、女性3人)で同57歳(44~67歳)だった。

     CgA値について、入室時からの平均変化量を比較すると、移植時にはaibo群で121±135%、対照群で287±358%、退室時には同順に65±42%、218±258%となり、それぞれ有意な群間差が認められた。すなわち、aibo群では退室時のストレスレベルが有意に低下していた一方で、対照群では上昇していることが明らかとなった。また、オキシトシンとコルチゾールの測定結果からも、aibo群ではストレスが軽減している可能性が示された。

     さらに、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)を用いて抑うつ症状を比較した結果、aibo群と対照群で合計点数に有意な差は見られなかったが、精神運動状態の項目は、aibo群で入室時の1.6点から退室時の0.5点へと有意に改善していた(対照群では0.2点から0.3点)。

     以上から著者らは、「aiboの導入により、造血幹細胞移植を受ける血液がん患者のメンタルヘルスを改善できることが示唆された」と結論付けている。ただ、移植後の身体的疼痛が強い期間はaiboと過ごせる時間が短くなることから、効果を最大化できるタイミングや、医療費・入院期間も踏まえた有用性などに関しては、さらなる検討が必要だとしている。

     なお、著者らによると、aiboは実際の犬のように「もふもふ」とはしていないが、毛で覆われていないため、免疫力の低下している人でも感染を防ぎやすいという。aiboは歌ったり、踊ったりする。なでると喜ぶ。室内の散歩やラジオ体操を一緒にすることで体を動かし、手洗いやうがいも促してくれる。著者らは、「aiboのおかげで、患者と病棟スタッフとのコミュニケーションも良好だった」と付け加えている。

     ※aiboは、ソニーグループ株式会社の商標です。

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  • 妊娠中のナッツ摂取が子どもの「仲間関係の問題」を予防?

     約1,200組の母子を対象としたコホート研究の結果から、妊娠中にナッツを摂取すると、生まれた子どもの「仲間関係の問題」を予防できる可能性が示唆された。これは愛媛大学大学院医学系研究科疫学・公衆衛生学講座の三宅吉博氏らによる研究結果であり、「Journal of Pediatric Gastroenterology and Nutrition」に3月7日掲載された。

     著者らの研究グループはこれまでに、妊娠中のさまざまな栄養素の摂取が、生まれた子どもの感情・行動の問題と関連することを報告している。食品に着目すると、栄養密度が高いことで知られるナッツは、不飽和脂肪酸、タンパク質、食物繊維、ビタミンやミネラルといった栄養素を豊富に含んでいる。そこで今回の研究では、妊娠中のナッツの摂取と5歳児の行動的問題との関連を調べた。

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     研究対象は「九州・沖縄母子保健研究」の参加者で、2007年4月~2008年3月に妊娠し(年齢中央値32.0歳)、生まれた子どもが5歳の時の追跡調査に参加した母子1,199組。妊婦の栄養データは、妊娠中に食事歴法質問調査票を用いて入手した。子どもの行動的問題は、5歳時の調査で、母親に「子どもの強さと困難さアンケート(Strengths and Difficulties Questionnaire;SDQ)」に回答してもらい、評価した。

     その結果、1,199人の子ども(生後59~71カ月)のうち、SDQの下位尺度である「情緒の問題」は12.9%、「行為の問題」は19.4%、「多動の問題」は13.1%、「仲間関係の問題」は8.6%、「向社会的な行動の低さ」は29.2%に認められた。また、ナッツを摂取していた妊婦は618人、摂取量の中央値は0.8g/日(四分位範囲0.4~1.3g/日)であり、ナッツの種類としてはピーナッツの割合が36.2%、他のナッツが27.3%、ピーナッツと他のナッツの両方が36.4%だった。

     次に、対象者の背景の差(妊娠年齢、妊娠週数、居住地、子どもの数、両親の教育歴、世帯収入、妊娠中の食事内容・抑うつ症状・飲酒量・喫煙、子どもの出生体重・性別、生後1年間の受動喫煙、母乳摂取期間)を調整し、妊娠中のナッツの摂取と子どもの行動的問題の関連を解析した。その結果、妊娠中のナッツの摂取は子どもの「仲間関係の問題」のリスク低下と有意に関連していることが明らかとなった(ナッツ非摂取と比較したオッズ比0.64、95%信頼区間0.42~0.97)。

     この「仲間関係の問題」は、SDQのアンケート項目「一人でいるのが好きで、一人で遊ぶことが多い」「いじめの対象にされたりからかわれたりする」「他の子どもたちより、大人といる方がうまくいくようだ」など、5つの項目から評価されたもの。一方で、子どもの行動的問題のうち「情緒の問題」「行為の問題」「多動の問題」「向社会的な行動の低さ」に関しては、妊娠中のナッツ摂取との有意な関連は認められなかった。

     以上から著者らは、「妊娠中の母親のナッツ摂取は、子どもの5歳時点における仲間関係の問題のリスク低下と関連している可能性がある」と結論付けている。また、この予防的関連の背景にあるメカニズムについては、さらなる研究が必要としている。

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  • レム睡眠行動障害の男女差が明らかに

     レム睡眠行動障害の臨床的特徴を性別に着目して検討した結果、男性と比べて女性では、睡眠の質が悪く、抑うつ傾向が強いことが明らかとなった。愛知医科大学病院睡眠科の眞野まみこ氏らによる研究結果であり、「Journal of Clinical Medicine」に2月5日掲載された。

     レム睡眠中には筋肉の活動が低下しているため、夢を見て、夢の中で行動しても手足や体は動かない。しかし、レム睡眠行動障害では筋肉の活動が抑制されず、夢の中でとっている行動がそのまま現実の行動として現れる。寝ながら殴りかかったり、暴れたりするなどの異常行動を伴い、本人や周囲の人が怪我をする危険もある。

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     また、レム睡眠行動障害はパーキンソン病やレビー小体型認知症などのリスク因子とされている。発症年齢の中央値は49歳と報告され、加齢とともに増加する。しかし、その特徴の男女差についてはまだ十分に研究されていない。

     そこで著者らは、2013年5月~2022年3月に愛知医科大学病院睡眠科を受診し、終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)を用いてレム睡眠行動障害と診断された患者の臨床的特徴を後方視的に評価した。40歳未満の患者やパーキンソン病の患者などを除外し、研究対象は204人(男性133人、女性71人)となった。睡眠や抑うつなどに関する質問紙調査も行った。

     その結果、男性は女性と比べて、年齢が有意に低く(平均67.9±8.0対70.5±8.2歳)、BMIが有意に高い(平均23.5±2.7対22.5±3.3)などの特徴が見られた。主観的評価では、男性と比べて女性の方が、睡眠の質が有意に悪く(ピッツバーグ睡眠質問票の平均得点:5.9±3.8対7.2±3.6)、抑うつ症状が有意に高かった(うつ病自己評価尺度の平均得点:38.0±8.7対41.7±8.5)。一方、男性の方が女性よりも、レム睡眠行動障害の症状は有意に高かった(スクリーニング問診票の平均得点:8.6±2.9対7.7±3.1)。

     PSGによる客観的評価では、中途覚醒時間に男性と女性で有意な差は見られなかった(97.3±57.3対89.0±57.0分)。総睡眠時間に占めるノンレム睡眠のステージ1(N1)の割合(48.8±17.7対36.5±18.2%)およびステージ2(N2)の割合(32.1±16.4対45.4±17.4%)には有意差が認められた。最も深い睡眠段階であるステージ3(N3)の割合は、有意差はなかったものの、女性の方が高かった(0.4±1.4対1.0±2.9%)。レム睡眠時間の割合に有意差はなかった(18.7±7.7対17.1±6.6%)。無呼吸低呼吸指数(AHI:15.1±7.6対7.2±7.9回/時)および覚醒反応指数(ArI:29.5±16.3対22.3±11.8回/時)は、男性の方が有意に高かった。

     さらに、ロジスティック回帰分析により、性別と睡眠の質および抑うつとの関連が検討された。年齢、BMI、AHI、ArIの差を調整した解析の結果、女性は睡眠の質の悪化(男性と比較したオッズ比2.03、95%信頼区間1.082~3.796)および抑うつ(同2.34、1.251~4.371)と有意に関連していることが明らかとなった。

     研究の結論として著者らは、レム睡眠行動障害の女性は男性と比べて、PSGでN2とN3の割合が高かった一方で、主観的な睡眠の質は悪く、さらに抑うつ傾向が強いことも確認されたとしている。また、「これまで、レム睡眠行動障害が睡眠の質や抑うつに及ぼす影響についてはあまり注目されてこなかった。特に、女性患者の睡眠の質と抑うつに留意することは重要である」と述べている。

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  • CVD患者のフレイルと「アクティブな趣味」の関係

     心血管疾患(CVD)で入院した患者のうち、入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、退院時のフレイルのリスクが低いという研究結果が発表された。一方で、入院前に趣味があったとしても、その趣味がアクティブなものでなければ、リスクの低下は見られなかったという。これは飯塚病院リハビリテーション部の横手翼氏らによる研究であり、「Progress in Rehabilitation Medicine」に2月22日掲載された。

     趣味を持つことと死亡や要介護のリスク低下との関連を示す研究はこれまでに報告されており、入院中の運動不足で身体機能が低下しやすいCVD患者でも、趣味を持つことが身体機能の維持やフレイルの予防に役立つと考えられる。そこで著者らは、入院前に行っていた趣味と退院時のフレイルとの関連について、趣味の内容にも着目して検討した。

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     研究対象は、2019年1月~2023年6月に飯塚病院に入院し、その後自宅に退院したCVD患者のうち、入院前から日常生活の介助を要する患者などを除いた269人(平均年齢68.4±11.5歳、男性72.2%)。対象患者のCVD・手術には、心不全、心筋梗塞、狭心症、冠動脈バイパス術、大動脈弁置換術、僧帽弁形成術、大動脈グラフト置換術が含まれた。

     患者の状態が安定した後、入院前の趣味に関する情報を入手し、身体活動を伴う趣味(スポーツ、買い物、旅行など)を「アクティブな趣味」、それ以外の趣味(テレビ・映画鑑賞、スポーツ観戦、楽器演奏など)を「非アクティブな趣味」、趣味のない場合は「無趣味」に分類した。フレイルについては退院前日に、日本語版フレイル基準(J-CHS基準)の5項目(筋力低下、歩行速度低下、疲労感、体重減少、身体活動低下)により評価。3項目以上に該当する人を「フレイル」、1~2項目に該当する人を「プレフレイル」に分類した。

     その結果、無趣味群(77人)ではプレフレイルの割合が61.4%、フレイルの割合が22.9%、非アクティブな趣味群(64人)では同順に53.2%、37.1%、アクティブな趣味群(128人)では同順に57.4%、13.9%だった。

     次に、患者背景の差(年齢、性別、BMI、疾患、入院期間、就労状況、入院時の左室駆出率、入院前のフレイル)を調整して解析すると、アクティブな趣味群は、プレフレイルまたはフレイルのオッズ低下と有意に関連していることが明らかとなった(無趣味群と比較したオッズ比0.41、95%信頼区間0.17~0.90)。一方、非アクティブな趣味群ではこの関連は認められなかった(同1.56、0.52~4.64)。また、アクティブな趣味群では無趣味群と比べて、J-CHS基準の5項目のうち、歩行速度低下、疲労感、身体活動低下のオッズが有意に低かった。

     以上から著者らは、「入院前にアクティブな趣味を持っていた患者は、趣味のない患者と比べて退院時にフレイルとなるリスクが低かった。一方で、非アクティブな趣味を持っていた患者では、リスクの低下は認められなかった」と結論。また、アクティブな趣味と疲労感の低下が関連していたことの説明の一つとして、アクティブな趣味を持つことが、入院中のリハビリテーションや理学療法への動機付けとなり、身体機能の維持に寄与する可能性があるとしている。

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    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

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  • 食事からのメラトニン摂取、肝がんのリスク低下と関連

     食事からのメラトニン摂取と肝がん罹患との関連を評価する研究が、3万人以上の日本人を対象に行われた。その結果、メラトニンの摂取量が多いほど肝がんのリスクが低下することが明らかとなった。岐阜大学大学院医学系研究科疫学・予防医学分野の和田恵子氏らによる研究結果であり、「Cancer Science」に2月14日掲載された。

     メラトニンは、概日リズムを調整し、睡眠を促す内因性ホルモンである。主に脳の松果体で生成されるが、体内組織に広く分布し、抗酸化、抗炎症、免疫調節などにも関与している。メラトニンは肝臓でも合成・代謝され、細胞保護や発がん予防などの作用があることも示されている。

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     一方、メラトニンは体外からも摂取される。医療上の用途は主に睡眠の調節に限られるが、肝がんなどの他疾患への臨床応用も期待されている。また、食品中にも含まれることが知られており、含有量が比較的多い食品として、野菜、植物の種子、卵が挙げられる。医薬品やサプリメントと比べると、食品中のメラトニン含有量はかなり少ないが、メラトニンが豊富な食品の摂取により血中メラトニン濃度が上昇することが報告されている。著者らは過去の研究で食事からのメラトニン摂取量が多いほど死亡リスクが低下することを示したが、メラトニン摂取量とがん罹患の関連についてはこれまでに研究されていない。

     そこで著者らは、岐阜県高山市の住民対象コホート研究「高山スタディ」のデータを用いて、食事からのメラトニン摂取量と肝がん罹患との関連を検討した。研究対象は、1992年9月時点で35歳以上だった人のうち、がんの既往歴がある人を除いた3万824人(男性1万4,240人、女性1万6,584人)。食事に関する情報を食物摂取頻度調査票(FFQ)から入手し、食品中のメラトニン含有量の測定には液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析法を用いた。

     その結果、対象者のメラトニンの主な摂取源は、野菜(49%)、穀類(34%)、卵(5%)、コーヒー(4%)だった。エネルギー調整済みのメラトニン摂取量の三分位で3群に分けて比較したところ、メラトニン摂取量の多い群は、女性が多い、糖尿病の既往歴がある、睡眠時間が短い、喫煙歴がない、コーヒーを1日1杯以上飲むなどの傾向が見られた。メラトニン摂取量の少ない群はアルコール摂取量が多かった。

     平均13.6年の追跡期間中、189人が肝がんを罹患し、その内訳はメラトニン摂取量の多い群が49人、中間の群が50人、少ない群が90人だった。COX比例ハザードモデルを用いて、患者背景の差(性別、年齢、BMI、教育年数、糖尿病歴、身体活動、喫煙状況、アルコール摂取量、総エネルギー摂取量、コーヒー摂取量、閉経の有無、睡眠時間)を調整して解析した結果、メラトニンの摂取量が少ない群と比べて、中間の群と多い群では、肝がんのリスクが有意に低下する傾向が認められた(ハザード比はそれぞれ0.64と0.65、傾向性P=0.023)。性別による交互作用は見られなかった(交互作用P=0.54)。一方、メラトニンの前駆体であるトリプトファンの摂取量は、肝がんのリスクとは関連していなかった。

     以上の結果について著者らは、さらなる研究で確認される必要があるものの、結論として「食事からのメラトニンの摂取により、肝がんのリスクが低下する可能性が示唆された」と述べている。

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  • ピロリ菌の除菌治療の失敗は虫歯と関連

     ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の除菌治療に成功するかどうかは、虫歯の有無と有意に関連しているとの研究結果が示された。朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野の岩井浩明講師、友藤孝明教授らによる研究であり、詳細は「Scientific Reports」に2月19日掲載された。

     ピロリ菌は、胃炎、胃潰瘍、胃がんなどを引き起こす。胃がんの90%以上はピロリ菌が原因とされている。ピロリ菌の感染者は減少傾向であるものの、2017年時点で日本人の約3600万人が感染しており、年齢が上がるほど感染率は高まる。ピロリ菌の感染者には抗菌薬による除菌治療が行われるが、除菌は必ず成功するわけではない。除菌失敗の可能性としてピロリ菌の薬剤耐性が報告されているが、まだ不明な点も多く、さらなる研究が必要とされている。

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     著者らは過去の研究で、日本人におけるピロリ菌感染と虫歯との関連を報告している。今回の研究では、ピロリ菌の除菌失敗と、未治療の虫歯との関連について検討した。対象は、2019年4月から2021年3月に朝日大学病院でピロリ菌の除菌治療および歯科検診を受けた226人(男性150人、平均年齢52.7歳)。対象者には標準的な初回除菌治療として、7日間の3剤併用療法(ペニシリン系抗菌薬、マクロライド系抗菌薬、プロトンポンプ阻害薬)が行われ、1カ月後に除菌の成否が尿素呼気試験で判定された。

     その結果、226人のうち除菌に失敗した人は38人(17%)だった。除菌に失敗した人は成功した人と比べて、歯磨きの回数が1日2回以上である人の割合が有意に低く、虫歯のある人の割合が有意に高かった。除菌に失敗した人と成功した人で、歯の詰め物や歯の欠損の有無について有意な差はなかった。

     次に、多変量ロジスティック回帰を用いて、年齢、性別、歯磨きの回数による影響を調整して解析した結果、ピロリ菌の除菌失敗は、虫歯ありと有意に関連していた(虫歯なしと比較したオッズ比2.672、95%信頼区間1.093~6.531)。虫歯の本数別に検討したところ、除菌に失敗した人の割合は、虫歯が1本の人では24%(21人中5人)、2本の人では40%(5人中2人)、3本以上の人では67%(6人中4人)だった。虫歯の本数が増えるほど、除菌に失敗する人の割合が高まるという有意な傾向が認められた。

     今回の研究で示された、ピロリ菌の除菌失敗と虫歯が有意に関連することの説明として著者らは、虫歯のある部位からもピロリ菌は検出されるが、この部位は血液循環が悪く、抗菌薬が浸透しにくいという可能性を挙げている。さらに、コロニーを形成した虫歯の細菌が「バイオフィルム」という膜を形成することで、ピロリ菌も抗菌薬から保護され、抗菌薬の効果が低下する可能性を指摘。一方、除菌の失敗と歯の詰め物との関連は見られなかったことから、「虫歯が発生しても、適切に治療すれば、除菌失敗のリスクを減らすことができる」と述べている。

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  • 日本人の喘息患者に睡眠時無呼吸が多く見られる

     日本人の喘息患者を対象に、閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea;OSA)の合併および臨床転帰を検討する研究が行われた。その結果、OSAの合併率は高く、特に重症OSAを有する人ほど喘息のコントロールや症状が悪いことが明らかとなった。これは川崎医科大学呼吸器内科学の小賀徹氏らによる研究結果であり、「Allergology International」に2月9日掲載された。著者らは、「喘息とOSAの合併は過小評価されている」として、臨床転帰を改善するためのOSAのスクリーニングを推奨している。

     睡眠中に気道が閉塞することにより呼吸停止が起こるOSAでは、夜間のいびきや日中の眠気など、さまざまな症状が生じる。OSAのリスク因子の1つに肥満があるが、OSAは肥満のない人でも発症する。特に日本人は欧米人と比べてBMIが低いにもかかわらず、OSAの有病率は米国と日本で同程度と報告されている。

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     今回の研究は、2020年7月~2022年3月に、定期的に川崎医科大学附属病院を受診している喘息外来患者97人(平均年齢56.5±13.9歳、そのうち女性66人)を対象として行われた。患者は自宅での睡眠時の検査として携帯型モニターを装着。睡眠中の1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数から算出する呼吸イベント指数(respiratory event index;REI)により、OSAの有無や重症度が評価された。さらに、患者報告アウトカムとして、胃食道逆流症、日中の眠気や睡眠の質、喘息コントロール(Asthma Control Test;ACT)、咳嗽症状(Leicester Cough Questionnaire;LCQ)、呼吸器症状(COPD Assessment Test;CAT)、喘息の健康状態〔Asthma Health Questionnaire(AHQ)-33〕が評価された。

     その結果、OSAなしの患者は19人(19.6%、平均41.3±13.9歳)、軽症OSAは40人(41.2%、59.0±12.0歳)、中等症OSAは24人(24.7%、61.8±10.7歳)、重症OSAは14人(14.4%、60.8±9.8歳)だった。患者の平均BMI(kg/m2)は、中等症OSA合併群で26.5±5.2、重症OSA合併群で27.8±4.4であり、OSAなし群の22.6±5.4と比べて有意に高かった。

     国際的なガイドライン(Global Initiative for Asthma)に基づく喘息の治療ステップ(1~5)は、重症OSA合併群の方がOSAなし群と比べて有意に高かった(平均4.3±1.1対3.1±1.4)。しかし、肺機能やアレルギーの指標(FeNO、血清IgE、末梢血好酸球など)には、群間で有意な差は認められなかった。重症OSA合併群では、有意に喘息コントロールが悪く、症状・咳嗽も多く、健康状態も悪かった。

     重症OSAと関連する因子を単変量ロジスティック回帰分析で検討すると、BMI、治療ステップと、患者報告アウトカムのうちACT、LCQ、CAT、AHQ-33の各スコアが有意な因子だった。次に多変量ロジスティック回帰を用いて、BMIを調整して解析した結果、治療ステップ、ACT、LCQ、CAT、AHQ-33は、BMIとは独立して、重症OSAの有意な予測因子であることが明らかとなった。

     以上の結論として著者らは、「日本人の喘息患者において、中等症以上のOSAは多く見られた(39.1%)」と述べている。また、OSAのある人ほどBMIは高かったものの、重症OSAと喘息コントロールや症状・咳嗽・健康状態の悪化などとの関連は、BMIとは独立して有意であり、さらに、肺機能には群間で差がなかったことを挙げた上で、肥満や肺機能にとらわれず、喘息の患者報告アウトカムが不良であれば睡眠時無呼吸の評価を積極的に行うことの重要性を指摘している。

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  • 卵を摂取するほど、抑うつのリスク低下と関連

     400人以上の従業員を対象として、日常的に摂取している食品の中から抑うつと関連する食品群を調べる研究が行われた。その結果、卵類の摂取量が多いほど、抑うつのリスク低下と関連することが明らかとなった。また女性では、抑うつと野菜の摂取量との関連も見られた。山形県立米沢栄養大学健康栄養学科および山形大学大学院医学系研究科の北林蒔子氏らによる研究であり、「BMC Nutrition」に1月30日掲載された。

     抑うつと栄養素の関係については、これまでにn-3系多価不飽和脂肪酸、マグネシウム、鉄、亜鉛、ビタミンD、ビタミンB12、葉酸などに関する報告がある。ただ、抑うつの予防には、日常的に摂取する食品や食事パターンを調査することも重要だ。野菜や果物、魚介類、乳製品などに関する研究はあるものの、その数は少なく、特に日本人を対象とする研究は限られていた。

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     そこで著者らは、2020年10月から11月に、山形県米沢市役所の従業員を対象とする横断研究を実施。過去1カ月間の食事内容を「簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)」で尋ね、各食品の摂取量を調査した。また、15種類の食品群(穀類、いも類、砂糖類、豆類、緑黄色野菜、その他の野菜、全野菜類、果物、魚介類、肉類、卵類、乳製品、油脂類、菓子類、嗜好飲料)の摂取量(g)を算出した。抑うつの評価には自己評価尺度の「CES-D」を用い、16点以上を「抑うつあり」と判定した。

     解析対象は423人で、そのうち男性は251人(平均年齢43.1±10.5歳)、女性は172人(同40.7±11.2歳)だった。CES-Dの平均点は、全体で13.0点、男性12.1点、女性14.3点であり、女性の方が有意に高かった。抑うつあり(16点以上)の人の割合は、全体で28.4%、男性24.3%、女性34.3%だった。

     抑うつの有無で15種類の食品群の摂取量を比較すると、抑うつありの男性は抑うつなしの男性に比べて、いも類、その他の野菜(緑黄色野菜以外)、全野菜類、肉類、卵類の摂取量が有意に少なかった。女性でも、抑うつありの人の方がこれらの食品群の摂取量は少ない傾向にあったものの、有意な差はなかった。

     次に、いも類、その他の野菜、肉類、卵類について、摂取量が「多い」「中間」「少ない」の3グループに分け、抑うつとの関連を調べた。年齢、睡眠時間、運動、飲酒や喫煙の影響を調整して解析すると、男性では、卵類の摂取量が少ないグループが抑うつと有意に関連していた(多いグループと比較したオッズ比2.59、95%信頼区間1.21~5.54)。女性では、卵類の摂取量が少ない(同2.68、1.07~6.70)または中間(同2.59、1.06~6.33)のグループと、その他の野菜の摂取量が少ない(同2.86、1.11~7.36)または中間(同2.72、1.09~6.82)のグループが、抑うつと有意に関連していた。また、男性では卵類、女性では卵類とその他の野菜の摂取量が少ないほど、抑うつのオッズが高くなるという有意な傾向が認められた。

     著者らは、横断研究であるため因果関係は示されないという限界点を挙げた上で、「抑うつのオッズは、卵の摂取量が少ない男性と女性、野菜の摂取量が少ない女性で高い」と結論。日本人を対象とした先行研究では、職種により抑うつの割合は27.8~37%と異なっているが、本研究の米沢市役所の従業員では28.4%であり、特に抑うつが多いという対象ではなかったとしている。また、抑うつの要因として神経伝達物質であるセロトニンの不足を挙げ、卵にはトリプトファン(セロトニンの材料となる必須アミノ酸)が豊富に含まれていると説明。抑うつのリスクには食事、睡眠、運動などが関連するとされるが、今回の研究は、基本的な食材の重要性を示すものといえる。

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    HealthDay News 2024年3月18日
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  • 「社会とのつながり」が死亡や要介護のリスクに影響

     人と交流する機会など、社会とのつながりが減少し、社会的に虚弱な状態にあることを「社会的フレイル(social frailty)」という。新たな研究の結果、この社会的フレイルにより、死亡のリスクは1.96倍、要介護などの機能障害が発生するリスクは1.43倍に上昇することが明らかとなった。徳島大学大学院医歯薬学研究部の後藤崇晴氏らによる研究であり、「Scientific Reports」に2月10日掲載された。

     社会的フレイルや社会的孤立は高齢期に引き起こされやすいが、一人暮らしや、経済的困窮などの社会的問題とも関係するとされる。また社会的フレイルは、うつ状態や認知機能の低下などの「精神・心理的フレイル」、運動能力や筋力などが衰える「身体的フレイル」にも影響を及ぼす。これまでにフレイルに関して多くの研究が報告されているものの、社会的フレイルと健康状態との関連について、体系的な分析は行われていなかった。

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     そこで著者らは、文献データベースを用いた検索およびハンドサーチにより、社会的フレイルと総死亡(全死因による死亡)または機能障害との関連が研究された英語の論文を収集した。機能障害に関しては、介護保険の利用開始や日常生活活動(ADL)の低下などにより機能障害の発生が評価された研究を対象とした。

     その結果、社会的フレイルと総死亡に関する研究が6件(前向きコホート研究5件、後ろ向きコホート研究1件)抽出された。これらは2013年~2022年に発表され、3件が日本の研究だった。6件のうち4件は、社会的フレイルは総死亡と有意に関連すると報告していたが、2件では有意な関連は報告されなかった。その他に、総死亡に加えて機能障害についても評価した日本の前向きコホート研究(2018年)は、社会的フレイルが総死亡および機能障害の有意なリスク因子であることを示していた。

     社会的フレイルと機能障害との関連については、2014年~2022年に発表された研究が8件(前向きコホート研究4件、横断研究4件)抽出され、そのうち3件が日本の研究だった。8件中1件は、社会的フレイルは手段的ADL(IADL)の障害に影響を与えないとしていた。残りの7件は、社会的フレイルがADLまたはIADLと有意に関連することを示していた。

     次に、総死亡に関する研究6件のメタアナリシス(統合解析)を行った結果、社会的フレイルにより総死亡のリスクが1.96倍(ハザード比1.96、95%信頼区間1.20~3.19)有意に上昇することが明らかとなった。ただし、これらの研究間の異質性(ばらつき)は高かった。社会的フレイルと機能障害との関連については、2件のハザード比、3件のオッズ比を統合し、それぞれ1.43(95%信頼区間1.20~1.69)、2.06(同1.55~2.74)という結果が得られた。これらの研究間の異質性は低かった。

     著者らは、以上のシステマティックレビューとメタアナリシスの結果から、「社会的フレイルは総死亡および機能障害のリスクと有意に関連する」と結論付けている。また、高齢者では社会的フレイルの頻度が8.4%~11.1%と報告されていることに言及し、「社会的フレイルに関する議論は極めて重要だ」と指摘している。

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