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6月 11 2024 卵を摂取するほど、抑うつのリスク低下と関連
400人以上の従業員を対象として、日常的に摂取している食品の中から抑うつと関連する食品群を調べる研究が行われた。その結果、卵類の摂取量が多いほど、抑うつのリスク低下と関連することが明らかとなった。また女性では、抑うつと野菜の摂取量との関連も見られた。山形県立米沢栄養大学健康栄養学科および山形大学大学院医学系研究科の北林蒔子氏らによる研究であり、「BMC Nutrition」に1月30日掲載された。
抑うつと栄養素の関係については、これまでにn-3系多価不飽和脂肪酸、マグネシウム、鉄、亜鉛、ビタミンD、ビタミンB12、葉酸などに関する報告がある。ただ、抑うつの予防には、日常的に摂取する食品や食事パターンを調査することも重要だ。野菜や果物、魚介類、乳製品などに関する研究はあるものの、その数は少なく、特に日本人を対象とする研究は限られていた。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。そこで著者らは、2020年10月から11月に、山形県米沢市役所の従業員を対象とする横断研究を実施。過去1カ月間の食事内容を「簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)」で尋ね、各食品の摂取量を調査した。また、15種類の食品群(穀類、いも類、砂糖類、豆類、緑黄色野菜、その他の野菜、全野菜類、果物、魚介類、肉類、卵類、乳製品、油脂類、菓子類、嗜好飲料)の摂取量(g)を算出した。抑うつの評価には自己評価尺度の「CES-D」を用い、16点以上を「抑うつあり」と判定した。
解析対象は423人で、そのうち男性は251人(平均年齢43.1±10.5歳)、女性は172人(同40.7±11.2歳)だった。CES-Dの平均点は、全体で13.0点、男性12.1点、女性14.3点であり、女性の方が有意に高かった。抑うつあり(16点以上)の人の割合は、全体で28.4%、男性24.3%、女性34.3%だった。
抑うつの有無で15種類の食品群の摂取量を比較すると、抑うつありの男性は抑うつなしの男性に比べて、いも類、その他の野菜(緑黄色野菜以外)、全野菜類、肉類、卵類の摂取量が有意に少なかった。女性でも、抑うつありの人の方がこれらの食品群の摂取量は少ない傾向にあったものの、有意な差はなかった。
次に、いも類、その他の野菜、肉類、卵類について、摂取量が「多い」「中間」「少ない」の3グループに分け、抑うつとの関連を調べた。年齢、睡眠時間、運動、飲酒や喫煙の影響を調整して解析すると、男性では、卵類の摂取量が少ないグループが抑うつと有意に関連していた(多いグループと比較したオッズ比2.59、95%信頼区間1.21~5.54)。女性では、卵類の摂取量が少ない(同2.68、1.07~6.70)または中間(同2.59、1.06~6.33)のグループと、その他の野菜の摂取量が少ない(同2.86、1.11~7.36)または中間(同2.72、1.09~6.82)のグループが、抑うつと有意に関連していた。また、男性では卵類、女性では卵類とその他の野菜の摂取量が少ないほど、抑うつのオッズが高くなるという有意な傾向が認められた。
著者らは、横断研究であるため因果関係は示されないという限界点を挙げた上で、「抑うつのオッズは、卵の摂取量が少ない男性と女性、野菜の摂取量が少ない女性で高い」と結論。日本人を対象とした先行研究では、職種により抑うつの割合は27.8~37%と異なっているが、本研究の米沢市役所の従業員では28.4%であり、特に抑うつが多いという対象ではなかったとしている。また、抑うつの要因として神経伝達物質であるセロトニンの不足を挙げ、卵にはトリプトファン(セロトニンの材料となる必須アミノ酸)が豊富に含まれていると説明。抑うつのリスクには食事、睡眠、運動などが関連するとされるが、今回の研究は、基本的な食材の重要性を示すものといえる。
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6月 11 2024 「社会とのつながり」が死亡や要介護のリスクに影響
人と交流する機会など、社会とのつながりが減少し、社会的に虚弱な状態にあることを「社会的フレイル(social frailty)」という。新たな研究の結果、この社会的フレイルにより、死亡のリスクは1.96倍、要介護などの機能障害が発生するリスクは1.43倍に上昇することが明らかとなった。徳島大学大学院医歯薬学研究部の後藤崇晴氏らによる研究であり、「Scientific Reports」に2月10日掲載された。
社会的フレイルや社会的孤立は高齢期に引き起こされやすいが、一人暮らしや、経済的困窮などの社会的問題とも関係するとされる。また社会的フレイルは、うつ状態や認知機能の低下などの「精神・心理的フレイル」、運動能力や筋力などが衰える「身体的フレイル」にも影響を及ぼす。これまでにフレイルに関して多くの研究が報告されているものの、社会的フレイルと健康状態との関連について、体系的な分析は行われていなかった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。そこで著者らは、文献データベースを用いた検索およびハンドサーチにより、社会的フレイルと総死亡(全死因による死亡)または機能障害との関連が研究された英語の論文を収集した。機能障害に関しては、介護保険の利用開始や日常生活活動(ADL)の低下などにより機能障害の発生が評価された研究を対象とした。
その結果、社会的フレイルと総死亡に関する研究が6件(前向きコホート研究5件、後ろ向きコホート研究1件)抽出された。これらは2013年~2022年に発表され、3件が日本の研究だった。6件のうち4件は、社会的フレイルは総死亡と有意に関連すると報告していたが、2件では有意な関連は報告されなかった。その他に、総死亡に加えて機能障害についても評価した日本の前向きコホート研究(2018年)は、社会的フレイルが総死亡および機能障害の有意なリスク因子であることを示していた。
社会的フレイルと機能障害との関連については、2014年~2022年に発表された研究が8件(前向きコホート研究4件、横断研究4件)抽出され、そのうち3件が日本の研究だった。8件中1件は、社会的フレイルは手段的ADL(IADL)の障害に影響を与えないとしていた。残りの7件は、社会的フレイルがADLまたはIADLと有意に関連することを示していた。
次に、総死亡に関する研究6件のメタアナリシス(統合解析)を行った結果、社会的フレイルにより総死亡のリスクが1.96倍(ハザード比1.96、95%信頼区間1.20~3.19)有意に上昇することが明らかとなった。ただし、これらの研究間の異質性(ばらつき)は高かった。社会的フレイルと機能障害との関連については、2件のハザード比、3件のオッズ比を統合し、それぞれ1.43(95%信頼区間1.20~1.69)、2.06(同1.55~2.74)という結果が得られた。これらの研究間の異質性は低かった。
著者らは、以上のシステマティックレビューとメタアナリシスの結果から、「社会的フレイルは総死亡および機能障害のリスクと有意に関連する」と結論付けている。また、高齢者では社会的フレイルの頻度が8.4%~11.1%と報告されていることに言及し、「社会的フレイルに関する議論は極めて重要だ」と指摘している。
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