• 出勤とテレワークの反復による時差ぼけで心理的ストレス反応が強まる可能性

     出勤日とテレワークの日が混在することによって生じる時差ぼけによって、心理的ストレス反応が強くなる可能性を示唆するデータが報告された。久留米大学の松本悠貴氏らをはじめとする産業医で構成された研究チームによるもので、詳細は「Clocks & Sleep」に10月16日掲載された。

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックとともに、新たな働き方としてテレワークが急速に普及した。テレワークによって、仕事と私生活の区別がつきにくくなることや孤独感を抱きやすくなることなどのため、以前の働き方にはなかったストレスが生じることが報告されている。また、テレワークの日と出勤日が混在している場合には睡眠時間が不規則になり、「ソーシャルジェットラグ(社会的時差ぼけ)」が発生しやすくなるとの指摘もある。

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     社会的時差ぼけとは、平日と休日の睡眠時間帯が異なることによって、週明けになるとあたかも海外から帰国した直後のような身体的・精神的不調が現れること。松本氏らは、テレワークと出勤の繰り返しによって生じる社会的時差ぼけを、「テレワークジェットラグ(テレワーク時差ぼけ)」と命名。社会的時差ぼけと同様にテレワーク時差ぼけも不調を来す可能性を想定し、オンラインアンケートによる検討を行った。

     2021年10~12月に、東京都内にある企業4社の従業員2,971人(日勤者のみ)にアンケートへの協力を依頼。2,032人から回答を得て、過去1カ月以内にテレワークをしていない人や休職をしていた人などを除外して、1,789人(平均年齢43.2±11.3歳、男性68.8%)を解析対象とした(有効回答率60.2%)。出勤日とテレワークの日の就寝時刻と起床時刻の中央の時刻(睡眠中央値)の差が1時間以上ある場合を「テレワーク時差ぼけ」と定義。232人(13.0%)がこれに該当した。

     心理的ストレス反応の評価には、「ケスラー6(K6)」という指標を用いた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究ではK6スコアが10点以上を「心理的ストレス反応が強い」と定義したところ、265人(14.8%)が該当した。

     睡眠の時間帯に着目すると、テレワーク時差ぼけでない群の起床時刻は出勤日、テレワーク日ともに6時30分で、就床時刻は出勤日が0時30分、テレワーク日が23時30分だった。一方のテレワーク時差ぼけ群は、就床時刻はどちらも0時30分で変わらないものの、起床時刻は出勤日が6時30分であるのに対してテレワーク日は8時30分と2時間遅く起床していた。

     心理的ストレス反応が強いと判定された人の割合は、テレワーク時差ぼけでない群は13.7%、テレワーク時差ぼけ群では22.0%であり、有意差が認められた(P<0.001)。

     次に、結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、テレワークの頻度や場所・期間、同居者の有無、職業、雇用形態、労働時間、仕事の裁量や他者からのサポート状況、通勤時間、飲酒・喫煙・運動習慣、カフェイン摂取量、睡眠時間、不眠症状(アテネ不眠尺度で評価)、仕事以外での電子端末等の使用など〕の影響を調整した上で比較。その結果、テレワーク時差ぼけと心理的ストレス反応の間には有意な関連性が示された〔オッズ比1.80(95%信頼区間1.16~2.79)〕。

     著者らは本研究が横断研究であること、および交絡因子として収入や服薬状況が把握されていないことなどを限界点として挙げた上で、「出勤とテレワークが混在する『テレワーク時差ぼけ』が、心理的ストレス反応を増大させている可能性が示された」と結論付け、「労働者の健康を守りながらテレワークという新しい働き方を持続可能なものとするためにも、このトピックに関する縦断研究によって因果関係を確認することが望まれる」と述べている。

     なお、時差ぼけによる不調には睡眠時間の長短自体が影響を及ぼしている可能性が考えられるが、本研究では上述のように交絡因子として睡眠時間を調整後にも有意なオッズ比上昇が観察された。この点について論文には、「テレワークの日の起床時刻が出勤日よりも遅くなることによって、起床直後に太陽光に当たる時間が遅くなり、メラトニンなどのホルモン分泌パターンが変動する。そのような変化も、テレワーク時差ぼけによってメンタルヘルス不調が生じる一因ではないか」との考察が加えられている。

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  • 喫煙+受動喫煙で身体的フレイルのリスクがより上昇――日本人対象縦断研究

     タバコを吸うことで身体的フレイルのリスクが有意に上昇し、受動喫煙が加わるとさらにリスクが高くなることを示すデータが、国内の地域在住高齢者を対象とする縦断研究から示された。国立長寿医療研究センター研究所老年学・社会科学研究センター老化疫学研究部の西田裕紀子氏、台中栄民総医院(台湾)の朱為民氏らの共同研究によるもので、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に10月26日掲載された。

     喫煙や受動喫煙が有害であることについては、膨大な研究によって強固なエビデンスが確立されており、近年ではフレイル(要介護予備群)との関連も報告されている。ただし受動喫煙とフレイルとの関連を示した研究の大半は横断研究であり因果関係は確認されておらず、また喫煙と受動喫煙が重なった場合にフレイルリスクがどのように変化するのかは明らかにされていない。西田氏らは、同研究所による「老化に関する長期縦断疫学研究(NILS-LSA)」のデータを用いてこれらの点を検討した。

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     NILS-LSAは、愛知県大府市などの40~79歳の日本人一般住民2,267人を対象とする前向きコホート研究で、1997~2022年に全9回の調査が実施されている。本研究では、喫煙状況とフレイルの関連の解析に必要な情報が収集されていた第3次調査(2002~2004年)から第7次調査(2010~2012年)のデータを利用した。フレイルという高齢者に多い状態のリスクを評価するという目的から、65歳未満は解析対象から除外。そのほかに、研究参加登録時点でフレイルと判定されていた人、追跡調査に参加していなかった人などを除外し、最終的に540人(平均年齢71.4±4.6歳、男性52.4%)を解析対象とした。

     喫煙状況はアンケートの回答に基づき判定。喫煙歴がない人と禁煙後の人を「非喫煙者」、現在も吸っている人を「喫煙者」として全体を二分すると、後者が13.2%だった。また受動喫煙については、家庭内や職場環境などでの自分以外の喫煙者の有無と、その人に接する頻度を問い、それらの喫煙者との接触頻度が「なし」以外(毎日または時々のいずれか)の場合を「受動喫煙曝露者」と定義した。

     フレイルについては、CHS基準という基準を用いて、身体的フレイルに該当するか否かを判定。平均6.6年間の追跡で、139人が新たに身体的フレイルと判定された。

     解析ではまず、全体を非喫煙者と喫煙者に二分して、交絡因子(年齢、性別、教育歴、婚姻状況、雇用状況、余暇身体活動、うつ症状、慢性疾患、残存歯数など)の影響を調整後に比較すると、喫煙者は身体的フレイルのオッズ比が2.4倍高い可能性が示された〔オッズ比(OR)2.39(95%信頼区間1.21~4.74)〕。

     次に、非喫煙/喫煙および受動喫煙の曝露なし/ありにより全体を4群に分け、非喫煙かつ受動喫煙曝露のない群を基準として比較。すると、喫煙者で受動喫煙曝露のある群は、身体的フレイル発症のオッズ比が3.5倍高かった〔OR3.47(同1.56~7.73)〕。自分の喫煙のみや受動喫煙のみの群は、有意なオッズ比上昇が観察されなかった。

     続いて性別や年齢で層別化したサブグループ解析を施行。性別の解析からは、男性では全体解析と同様に、非喫煙者に比較して喫煙者は有意なオッズ比上昇が認められたが〔OR3.75(1.76~8.00)〕、女性は非有意だった。年齢層別の解析からは、75歳以上では全体解析と同様に、非喫煙者に比較して喫煙者は有意なオッズ比上昇が認められたが〔OR4.12(1.43~11.87)〕、75歳未満は非有意だった。

     最後に、解析対象を喫煙者のみとし、喫煙者の受動喫煙曝露の有無でオッズ比を算出。すると、喫煙者ながらも受動喫煙曝露のない群に比べて、喫煙かつ受動喫煙曝露のある群でのフレイル発症オッズ比は9倍を上回ることが明らかになった〔OR9.03(2.42~33.77)〕。

     著者らによると、本研究は日本人高齢者の喫煙および受動喫煙の状況と身体的フレイルのリスクとの関連を縦断的に検討した初の研究だという。結果の総括として、「累積喫煙量を評価していないことなどが限界点として挙げられるが、喫煙と受動喫煙はフレイルリスクを相加的に高めることが示唆された。それら両者に対する公衆衛生対策の強化が必要と考えられる」と述べられている。

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  • TG/HDL-C比は2型糖尿病発症の強力な予測因子――日本人12万人の縦断的研究

     中性脂肪(TG)と善玉コレステロール(HDL-C)の比が、将来の2型糖尿病の発症リスクの予測に利用できることが、12万人以上の日本人を長期間追跡した結果、明らかになった。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の弓削大貴氏、岡田博史氏、福井道明氏、パナソニック健康管理センターの伊藤正人氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiovascular Diabetology」に11月8日掲載された。2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値は、2.1だという。

     TGをHDL-Cで除した値「TG/HDL-C比」は、インスリン抵抗性の簡便な指標であることが知られているほか、脂肪性肝疾患や動脈硬化性疾患、および2型糖尿病の発症リスクと相関することが報告されている。ただしそれらの報告の多くは横断的研究またはサンプルサイズが小さい研究であり、大規模な追跡研究からのエビデンスは存在せず、2型糖尿病発症予測のための最適なカットオフ値も明らかになっていない。弓削氏、岡田氏らは、国内の企業グループの従業員を対象とするコホート研究(Panasonic cohort study)のデータを用いた縦断的解析によって、この点を検討した。

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     2008~2017年に健診を受けた計23万6,603人から、ベースライン時点で既に糖尿病と診断されている患者、脂質異常症治療薬を服用している患者、およびデータ欠落者などを除外し、12万613人を解析対象とした。主な特徴は、平均年齢44.2±8.5歳、男性76.0%、BMI22.9±3.4kg/m2であり、TGは110.0±85.9mg/dL、HDL-Cは60.5±15.4mg/dLで、悪玉コレステロール(LDL-C)は123.4±31.5mg/dLだった。

     2018年までの追跡〔期間中央値6.0年(四分位範囲3~10年)〕で、6,080人が新たに2型糖尿病を発症した。2型糖尿病発症リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、空腹時血糖値、喫煙習慣、運動習慣、収縮期血圧)を調整後に、脂質関連検査値と2型糖尿病発症リスクとの間に、以下の有意な関連が認められた。

     まず、TGは10mg/dL上昇するごとのハザード比(HR)が1.008(95%信頼区間1.006~1.010)だった。同様の解析でHDL-CはHR0.88(同0.86~0.90)、LDL-CはHR1.02(1.02~1.03)であり、TG/HDL-C比は1上昇するごとにHR1.03(1.02~1.03)となった。

     次に、向こう10年間での2型糖尿病発症を予測するための最適なカットオフ値と予測能(AUC)を検討。すると、予測能が低い指標から順に、LDL-Cがカットオフ値124mg/dLでAUCは0.609、HDL-Cは54mg/dLでAUC0.638、TGは106mg/dLで0.672であり、最も高いAUCはTG/HDL-C比の0.679であって、そのカットオフ値は2.1と計算された。TG/HDL-C比の予測能は、他の3指標すべてに対して有意に優れていた(いずれもP<0.001)。

     続いて、性別およびBMI別のサブグループ解析を施行。すると、男性では全体解析と同様に、TG/HDL-C比が1上昇することによる2型糖尿病発症のHRは1.03(1.02~1.03)だったが、女性は1.05(1.02~1.08)であり、より強い関連が示された。ただし交互作用は非有意だった。

     BMI25kg/m2未満/以上で層別化した解析からは、25未満の群でTG/HDL-C比が1上昇するごとのHRは1.04(1.03~1.05)である一方、25以上の群ではHR1.02(1.02~1.03)であって、有意な交互作用が観察された(交互作用P=0.0001)。最適なカットオフ値は、BMI25未満では1.7、25以上では2.5だった。

     著者らは本研究の特徴として、日本人を対象とする縦断的研究でありサンプルサイズも大きいことを挙げる一方、女性が少ないこと、比較的若年者が多いことなどの限界点があるとしている。その上で「TG/HDL-C比は、LDL-C、HDL-C、TGよりも10年以内の2型糖尿病発症の強力な予測因子であることが示された。この結果は、2型糖尿病発症抑制のための今後の医療政策に有用な知見となり得る」と述べている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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    HealthDay News 2023年12月18日
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  • 会話の時間が短いと非高齢者でも嚥下機能が低下?

     50~60歳代という誤嚥性肺炎が生じるにはまだ早い年齢層であっても、人と会話をする時間が短い人は、嚥下機能が低下している可能性のあることを示すデータが報告された。大分大学医学部呼吸器・感染症内科学の小宮幸作氏らの研究によるもので、詳細は「Cureus」に10月29日掲載された。

     日本人の死亡原因の上位の一角は毎年、肺炎が占めている。死因としての肺炎の多くは高齢者の誤嚥性肺炎と推測されるが、その誤嚥性肺炎につながる嚥下機能の低下は高齢者に特有のものではなく、より若い年齢から加齢とともに徐々に進行していくと考えられる。ただし、どのような因子が嚥下機能の低下に関連しているのかは明らかにされていない。これを背景として小宮氏らは、医師を対象とするインターネットアンケートによる横断調査を行い、関連因子の特定を試みた。

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     調査対象は、アンケート調査パネルに登録している50~60歳代の医師310人。対象を医師に限った理由は、嚥下機能を評価するための反復唾液嚥下テスト(RSST)を、医師であれば正確に行えると考えられるため。RSSTは、30秒間にできるだけ多く唾を飲み込んでもらい、飲み込む回数が多いほど嚥下機能が良好と判定する。なお、嚥下機能の正確な評価にはバリウムを用いる画像検査が行われるが、RSSTの回数はその検査の結果と強く相関することが報告されている。

     アンケートではこのRSSTの回数のほかに、年齢、性別、BMI、併存疾患(脳血管疾患、COPD、胃食道逆流症、頭頸部腫瘍、神経筋疾患など)、服用中の薬剤、生活習慣(飲酒・喫煙・運動習慣、睡眠時間、歯みがきの頻度、1日の会話時間)、自覚症状(口呼吸、口渇、鼻閉、飲み込みにくいなど)について質問。なお、RSSTは上限を20回として、0~20の間で回答を得た。また、会話の時間は、自分が話している時間と相手の話を聞いている時間を区別せずに答えてもらった。

     回答者の年齢は中央値59歳(四分位範囲54~64)、女性6.1%だった。RSSTスコアは中央値12で、1~12回を低RSST群(52.3%)、13~20回を高RSST群(47.7%)とした。

     両群を比較すると、年齢や性別の分布、会話時間以外の生活習慣、自覚症状に有意差は見られず、脂質異常症の割合〔低RSST群19.8%、高RSST群30.4%(P=0.030)〕と会話時間〔1日に3時間未満が同順に66.0%、50.6%(P=0.006)〕のみ有意差が認められた。このほかに、睡眠時無呼吸症候群(P=0.054)や口呼吸(P=0.076)、窒息しかけた体験の有無(P=0.084)が、有意水準未満ながらも比較的大きな群間差が認められた。

     次に、有意差または有意に近い群間差が認められた上記の因子を独立変数、低RSSTであることを従属変数とする多変量解析を施行。その結果、低RSSTに独立した関連のある因子として、1日の会話の時間が3時間未満であることのみが抽出された〔オッズ比1.863(95%信頼区間1.167~2.974)〕。

     著者らは本研究の対象が医師のみであり、RSSTの中央値も比較的高かったことから(既報研究での中央値は一桁台)、この結果から得られた知見を必ずしも一般化できないと述べている。その上で、「誤嚥性肺炎のリスクが高まる年齢層より若い世代において、会話の時間が少ないことが嚥下機能の低下と有意な関連があることが明らかになった。会話時間は将来の誤嚥性肺炎の予測因子となるのではないか。誤嚥性肺炎のリスク抑制を目的として会話を増やすという介入研究の実施が望まれる」と結論付けている。

     なお、論文中には本研究で示された関連のメカニズムとして、会話をすることが口腔の筋力や認知機能を維持するように働き、嚥下機能の低下を抑制するのではないかとの考察が加えられている。また、脂質異常症の該当者が高RSST群で有意に多かった点については、「脂質異常症は脳血管障害のリスク因子であるため、嚥下機能低下と関連すると考えられる。示された結果はそのような理解に反するものだが、嚥下機能が優れている人は食事摂取量が多いことを反映した結果かもしれない」と述べられている。

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