• 会話の時間が短いと非高齢者でも嚥下機能が低下?

     50~60歳代という誤嚥性肺炎が生じるにはまだ早い年齢層であっても、人と会話をする時間が短い人は、嚥下機能が低下している可能性のあることを示すデータが報告された。大分大学医学部呼吸器・感染症内科学の小宮幸作氏らの研究によるもので、詳細は「Cureus」に10月29日掲載された。

     日本人の死亡原因の上位の一角は毎年、肺炎が占めている。死因としての肺炎の多くは高齢者の誤嚥性肺炎と推測されるが、その誤嚥性肺炎につながる嚥下機能の低下は高齢者に特有のものではなく、より若い年齢から加齢とともに徐々に進行していくと考えられる。ただし、どのような因子が嚥下機能の低下に関連しているのかは明らかにされていない。これを背景として小宮氏らは、医師を対象とするインターネットアンケートによる横断調査を行い、関連因子の特定を試みた。

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     調査対象は、アンケート調査パネルに登録している50~60歳代の医師310人。対象を医師に限った理由は、嚥下機能を評価するための反復唾液嚥下テスト(RSST)を、医師であれば正確に行えると考えられるため。RSSTは、30秒間にできるだけ多く唾を飲み込んでもらい、飲み込む回数が多いほど嚥下機能が良好と判定する。なお、嚥下機能の正確な評価にはバリウムを用いる画像検査が行われるが、RSSTの回数はその検査の結果と強く相関することが報告されている。

     アンケートではこのRSSTの回数のほかに、年齢、性別、BMI、併存疾患(脳血管疾患、COPD、胃食道逆流症、頭頸部腫瘍、神経筋疾患など)、服用中の薬剤、生活習慣(飲酒・喫煙・運動習慣、睡眠時間、歯みがきの頻度、1日の会話時間)、自覚症状(口呼吸、口渇、鼻閉、飲み込みにくいなど)について質問。なお、RSSTは上限を20回として、0~20の間で回答を得た。また、会話の時間は、自分が話している時間と相手の話を聞いている時間を区別せずに答えてもらった。

     回答者の年齢は中央値59歳(四分位範囲54~64)、女性6.1%だった。RSSTスコアは中央値12で、1~12回を低RSST群(52.3%)、13~20回を高RSST群(47.7%)とした。

     両群を比較すると、年齢や性別の分布、会話時間以外の生活習慣、自覚症状に有意差は見られず、脂質異常症の割合〔低RSST群19.8%、高RSST群30.4%(P=0.030)〕と会話時間〔1日に3時間未満が同順に66.0%、50.6%(P=0.006)〕のみ有意差が認められた。このほかに、睡眠時無呼吸症候群(P=0.054)や口呼吸(P=0.076)、窒息しかけた体験の有無(P=0.084)が、有意水準未満ながらも比較的大きな群間差が認められた。

     次に、有意差または有意に近い群間差が認められた上記の因子を独立変数、低RSSTであることを従属変数とする多変量解析を施行。その結果、低RSSTに独立した関連のある因子として、1日の会話の時間が3時間未満であることのみが抽出された〔オッズ比1.863(95%信頼区間1.167~2.974)〕。

     著者らは本研究の対象が医師のみであり、RSSTの中央値も比較的高かったことから(既報研究での中央値は一桁台)、この結果から得られた知見を必ずしも一般化できないと述べている。その上で、「誤嚥性肺炎のリスクが高まる年齢層より若い世代において、会話の時間が少ないことが嚥下機能の低下と有意な関連があることが明らかになった。会話時間は将来の誤嚥性肺炎の予測因子となるのではないか。誤嚥性肺炎のリスク抑制を目的として会話を増やすという介入研究の実施が望まれる」と結論付けている。

     なお、論文中には本研究で示された関連のメカニズムとして、会話をすることが口腔の筋力や認知機能を維持するように働き、嚥下機能の低下を抑制するのではないかとの考察が加えられている。また、脂質異常症の該当者が高RSST群で有意に多かった点については、「脂質異常症は脳血管障害のリスク因子であるため、嚥下機能低下と関連すると考えられる。示された結果はそのような理解に反するものだが、嚥下機能が優れている人は食事摂取量が多いことを反映した結果かもしれない」と述べられている。

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    HealthDay News 2023年12月18日
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  • 女性はタンパク質摂取量と肺炎による死亡率に有意な関連――JPHC研究

     国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)から、総摂取エネルギー量に占めるタンパク質の割合が高いほど、肺炎による死亡リスクが低いことが明らかになった。ただし、これは女性に特徴的な現象で、男性ではこの関係は認められなかったという。研究の詳細は、「The American Journal of Clinical Nutrition」に12月16日掲載された。

     JPHC研究からはこれまでに、植物性タンパク質の摂取比率の高さが全死亡や循環器疾患死のリスク低下に関係することが報告されている。ただし、日本人高齢者の主な死因である肺炎については、死亡リスクとタンパク質摂取量との関連が未だ明確になっていない。

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     今回発表された研究の対象は、1990年と1993年に、岩手県二戸、東京都葛飾区、長野県佐久、高知県中央東、長崎県上五島、沖縄県中部など11の保健所管内に居住していた40~69歳の地域住民。そのうち、がん、循環器疾患、腎疾患、糖尿病に罹患しておらず、研究開始から5年後に行った食事調査票に回答した8万3,351人。これらの対象者を2016年まで追跡して、動物性タンパク質、植物性タンパク質、および総タンパク質の摂取量と、肺炎死亡リスクとの関連を調べた。

     食事調査の結果を用いて、総摂取エネルギー量に対するタンパク質摂取量の割合を男女別に算出。得られた割合の四分位で全体を四群に分けた。そして、第1四分位群(タンパク質摂取量の割合が最も低い下位4分の1)を基準に、残り3群での肺炎による死亡リスクを比較した。

     解析に際しては、結果に影響を及ぼす可能性のある交絡因子(年齢、地域、体格、喫煙状況、アルコール摂取量、余暇の身体活動量、降圧薬の服用の有無、コーヒー・緑茶の摂取頻度、摂取エネルギー量、閉経の有無)を調整した。

     平均18.4年の追跡期間中に、990人(男性634人、女性356人)が肺炎で死亡した。総タンパク質摂取割合と肺炎死亡リスクの関連には、明らかな男女差が認められた。すなわち、女性の場合、総タンパク質摂取割合の増加が、肺炎リスク低下と有意な関係を示した一方、男性の場合には、総タンパク質摂取割合と肺炎リスクとの間に、統計学的に有意な関連は認められなかった。

     より詳しく見ると、女性では第1四分位群に対して第4四分位群(タンパク質摂取量の割合が最も高い上位4分の1)の肺炎死亡リスクは、ハザード比(HR)0.71(95%信頼区間0.53~0.97)であり、全体の傾向性P値が0.01だった。一方、植物性タンパク質と動物性タンパク質ごとの摂取割合を基に肺炎死亡リスクを算出したところ、男女とも、統計学的に有意な関連は認められなかった。

     女性で認められた有意な関連が男性では確認されなかったことについて、研究グループでは、「男性のタンパク質摂取量の割合が女性より低いこと、喫煙や飲酒といった生活習慣の影響が大きかったことによるのではないか」との考察を加えている。

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    HealthDay News 2022年2月21日
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