自分の歩行速度は速いと感じる人は心不全リスクが低い

 非高齢者の主観的な歩行速度が、心不全発症や心血管疾患の初回イベントのリスク判定に有用とする研究結果が報告された。同世代の他者よりも歩行速度が速いと感じている人は、交絡因子を調整後にも有意にリスクが低いという。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に7月8日掲載された。

 歩行速度が心不全などの予後と関連があることは既に知られている。ただしその関連を示した研究の多くは、心不全や心血管疾患を発症後の患者または高齢者を対象に行われており、一次予防の対象である非高齢者での知見はほとんどない。さらに、正確な歩行速度の判定には時間やコストの負担が少なくない。現在、心不全患者が急増していて一次予防の重要性が高まる中、非高齢者集団を対象に簡便にリスクを評価できるツールが求められている。

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 金子氏らは、60以上の保険団体の健診および医療費請求データを用いて、主観的な歩行速度と心不全発症や心血管疾患イベント発生との関連を検討した。2005年1月~2020年4月の医療費請求データベースから、心不全・心筋梗塞・狭心症・脳卒中・腎不全の既往者、年齢20歳未満、および解析に必要なデータの欠落者を除外した265万5,359人〔年齢中央値45歳(四分位範囲38~53)、男性55.3%〕を対象とした。主観的な歩行速度は、健康診断の際の「同世代の他者より歩行速度が速いと思うか?」との質問で判定。この質問に対して46.1%が「はい」と答えていた。

 平均1,180±906日の追跡期間中に、5万991人(1.9%)において心不全の診断が記録された。年齢、性別、喫煙・運動習慣、肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症で調整後、歩行速度が速い群は遅い群よりも心不全発症リスクが9%有意に低いことが示された〔ハザード比(HR)0.91(95%信頼区間0.90~0.93)〕。同様に、心筋梗塞〔HR0.90(同0.86~0.95)〕、狭心症〔HR0.94(0.92~0.95)〕、脳卒中〔HR0.94(0.92~0.96)〕のいずれについても、歩行速度が速い群の方が有意に低リスクだった。

 感度分析として実施した、歩行速度に影響を及ぼす可能性のある末梢動脈疾患の既往を調整因子に加えた解析や、追跡期間が1年以上の対象者に絞り込んだ解析でも、同様の結果が得られた。なお、年齢や性別、併存疾患の有無などでの層別解析の結果、高血圧や糖尿病を有する場合、歩行速度が速い群での心不全リスクがより低いという、有意な交互作用が認められた。

 以上を基に論文には、「主観的な歩行速度の速さは、一般人口における心不全や心血管イベントリスクの低さと関連していることが示された。一次予防を目的としたスクリーニングに主観的な歩行速度が有効である可能性がある」と述べられている。なお、歩行速度と心不全などとの関連のメカニズムに関しては、歩行速度が全身の身体機能の指標という側面があり、骨格筋量や筋力も歩行速度に反映されることや、炎症や酸化ストレスと歩行速度が相関するという報告があるとし、それらが疾患リスクの高低として現れる可能性を指摘している。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2022年9月20日
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