心血管疾患リスクが高くても身体活動量が多い高齢者は脳体積が大きい

 高齢者では身体活動量が多いほど脳の体積が大きく、心血管疾患リスクの高い集団においてもその関連が見られたとするデータが報告された。国立長寿医療研究センター予防老年学研究部の牧野圭太郎氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Cardiovascular Medicine」に7月13日掲載された。

 中~高強度の身体活動が認知機能に対して保護的に働くことは複数の研究で示されている。ただし、高齢な人々や心血管疾患リスクが高い人々は、中~高強度の身体活動が困難であることも少なくないため、低強度の身体活動の有益性に関するエビデンスが求められている。そこで牧野氏らは、認知機能と密接に関連する脳の体積を指標として、強度別の身体活動量との関連を検討した。

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 同研究センターが行っている地域住民対象のコホート研究(NCGG-SGS)の参加者の中で、MRI検査によって脳体積が計測されている、愛知県高浜市の60歳以上の一般住民1,220人のデータを対象に横断的な検討を行った。この対象者のうち、認知症や精神神経疾患、心血管疾患の病歴を持つ人、重度の認知機能低下者(MMSEと呼ばれる検査の得点が21点未満)、要支援/介護認定者、および解析に必要なデータが欠損している人などを除外し、725人(平均年齢69.6±6.0歳、女性52.3%)を解析対象とした。就寝と入浴時以外は加速度計を身に着けて生活してもらい、日常生活における身体活動の強度と時間を把握。また脳体積は、皮質灰白質、皮質下灰白質、大脳白質と呼ばれる、3つの部位で評価した。

 まず、世界保健機関(WHO)の心血管疾患リスク予測チャートに則して、対象者を低リスク群(向こう10年間の心血管イベントリスクが9%以下)222人、中リスク群(同10~14%)269人、高リスク群(同15%以上)234人に分類して脳体積を比較。その結果、3つの部位の全てにおいて、低リスク群に比較し中リスク群と高リスク群は体積が小さく、かつ大脳白質については、中リスク群より高リスク群の方が小さいという有意差が認められた。

 次に、加速度計の記録に基づき、中~高強度身体活動と低強度身体活動それぞれの1日あたりの平均時間を四分位で4つのレベルに分類し、交絡因子(年齢、性別、教育歴、頭蓋内容積)を調整したうえで、脳体積との関連を検討。すると、中~高強度身体活動の時間が長いほど、皮質灰白質(傾向性P=0.041)や大脳白質(同0.021)の体積が大きいという有意な関係が認められ、さらに大脳白質に関しては、低強度身体活動の時間が長いほど体積が大きいという関係も確認された(同0.009)。

 続いて、前記の心血管疾患リスクの高低で対象者を3群に分類したそれぞれの群で、身体活動量と脳体積との関連を検討したところ、低リスクや中リスクの群では、中~高強度身体活動、低強度身体活動ともに脳体積との有意な関連が見られなかった。それに対して高リスク群では、中~高強度身体活動の時間が長いほど大脳白質の体積が大きいばかりでなく(同0.045)、低強度身体活動の時間が長いほど大脳白質の体積が大きいという有意な関連が認められた(同0.015)。

 まとめると、地域在住高齢者では強度にかかわらず身体活動量が多いほど大脳白質の体積が大きいことが明らかになった。心血管疾患リスクで層別化すると、ハイリスク集団では中~高強度身体活動だけでなく低強度身体活動についても、大脳白質との関係が有意だった。著者らは、本研究の限界点として、横断研究であり因果関係には言及できないこと、アルツハイマー病の既知のリスク因子であるApoE4などの影響を評価していないことなどを挙げた上で、「心血管リスクが高い高齢者では低強度の身体活動が、脳の老化抑制のための実行可能性の高い介入戦略となり得るのではないか」と述べている。

 なお、身体活動と脳体積との関連の機序としては、身体活動が神経栄養因子の放出を誘導したり炎症を抑制したりすることを介して、神経変性を防ぐように働くのではないかとしている。また、心血管リスクの高い群で身体活動と大脳白質の関連が有意だったことに関しては、そのような集団では白質病変が進行していたり、心血管リスク因子が炎症を亢進させているケースが多いことから、その分、身体活動による恩恵を受けやすく、両者の関連性が強調された可能性があると考察している。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2022年9月26日
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