高齢者宅へのIH調理器導入のタイミングが遅すぎる可能性

 高齢者世帯の火災予防のために、調理用コンロをIH調理器に交換するよう勧められることがあるが、その交換のタイミングが総じて遅すぎるのではないかとする論文が発表された。認知機能が低下している高齢者では、マニュアルを見ながらでもIH調理器をほとんど操作できず、認知機能が正常の高齢者でも困難だという。東北大学未来科学技術共同研究センター/高齢者高次脳医学研究プロジェクトの目黒謙一氏らの研究によるもので、詳細は「Dementia & Neuropsychologia」に4月11日掲載された。

 2018年の消防庁の統計によると、全火災事故の約13.9%がコンロの取り扱いに関連している。また、高齢者では鍋を焦がしてしまうという体験と、記憶力や判断力、実行機能の低下が有意に関連していることが報告されている。このような高齢者のコンロの取り扱いミスによる火災リスクを抑制する対策として、自治体によってはIH調理器への交換を推奨している。しかし、認知機能の低下した高齢者でもIH調理器を使用可能かどうか明らかでない。目黒氏らは、宮城県涌谷町の高齢者を対象として、この点を検討した。

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 研究参加者は、75歳以上の地域在住高齢者166人。臨床的認知症尺度(CDR)により、66人はスコア0で「健康」、79人はスコア0.5で「認知症の疑い」、21人はスコア1以上で「認知症」と判定された。また、本人と家族へのインタビューから、過去の火災につながるような体験(鍋を焦がす、タバコやストーブの消し忘れ、畳を焦がすなど)の有無を把握し、その頻度と重大性から、火災を引き起こすリスクを判定。その結果、98人は該当する経験がなく「安全」、39人は「低リスク」、29人は「高リスク」と分類された。

 研究参加者に、「IH調理器を使って、インスタント麺を作るのに必要な水をできるだけ速く沸騰させるように」との課題を与え、実行可能かを判定した。なお、調理器のマニュアルは自由に読んでよいこととし、読みやすいように拡大したものを手渡した。また、手順が分からず先に進めない場合は、研究スタッフが作成した説明書を参照してもらったり、スタッフが助言をした。

 やかんを置き、主電源、加熱ボタンの順にオンにし、パワーを最大にして、沸騰したら電源をオフにするという手順を全て完了できたのは、健康な群では約15%、認知症疑い群では約8%であり、認知症群では0%だった。この3群で課題を完了できた人の割合に有意差はなかったが、全体的に課題を完了できない人の多さが際立つ結果となった。なお、健康な群であっても、過去の体験から火災「高リスク」と分類された群には、課題を完了できた人が1人もいなかった。

 次に、認知症群を除外して健康な群と認知症疑い群を、完了できた/できなかった人に二分して、認知機能(MMSE)を比較。すると、課題を完了できた人の認知機能スコアの方が有意に高かった(26.1±2.9対24.5±3.1、P<0.05)。また、実行機能(数字記号置換テスト)の結果も、課題を完了できた人の方が有意に高かった(35.1±11.4対29.7±8.8、P<0.05)。ただし実行機能の別の指標(TMT-A)は有意差がなかった。

 著者らは本研究の限界点として、課題を実行できるか否かを1機会のみで確認し、学習効果を評価していないことなどを挙げている。その上で、「火災予防のためにIH調理器を導入するタイミングは、火災につながる何らかのインシデントがあってからでは遅すぎる。また、IH調理器に交換する前に、高齢者の認知機能や実行機能を評価すべきではないか」と述べている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2022年8月8日
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