• 浴槽入浴が糖尿病患者の治療を後押し?

     湯に漬かる入浴(浴槽入浴)の頻度が高い糖尿病患者は、血糖コントロールの指標であるHbA1cが良好であるというデータが報告された。国立国際医療研究センター国府台病院糖尿病・内分泌代謝内科の勝山修行氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiology Research」6月発行号に掲載された。HbA1c以外に体格指数(BMI)や拡張期血圧も、浴槽入浴の頻度が高い患者の方が良好だという。

     サウナや浴槽入浴の頻度が、心血管イベント発生率と逆相関することが既に報告されている。ただし、これまでに国内で行われた研究は解析対象者数が少なく、また、心血管イベントの既知のリスク因子を網羅的に解析した研究は見られない。勝山氏らは、同院の外来糖尿病患者約1,300人を対象とする横断研究を実施し、この点を検討した。

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     2018年10月~2019年3月に同院を受診し、入浴の習慣に関するアンケートに回答した糖尿病患者のうち、2型以外の糖尿病、および必要なデータが欠落している患者を除外して、1,297人を解析対象とした。解析対象者の主な特徴は、平均年齢66.9±13.6歳、男性55%、BMI25.9±5.3、HbA1c7.17±1.14%で、冠動脈疾患の既往者が6.6%、脳卒中の既往者が5.5%含まれていた。また、99.9%は自宅に浴槽付きの風呂を有していた。なお、季節による入浴頻度への影響を抑えるため、アンケート実施期間を冬季に限定した。

     浴槽入浴の頻度は週に平均4.2±2.7回で、1回当たりの入浴時間は16±14分だった。浴槽入浴の頻度は年齢と有意に正相関(高齢であるほど頻度が高い)していた(R=0.098、P<0.001)。反対に、HbA1c(R=-0.078、P=0.005)、BMI、(R=-0.104、P<0.001)、拡張期血圧(R=-0.118、P<0.001)とは有意な負の相関が認められた。収縮期血圧や血清脂質(コレステロール、中性脂肪)、および腎機能(eGFR)や肝機能(AST、ALT、γ-GT)の指標は、浴槽入浴との有意な相関がなかった。

     浴槽入浴の頻度に基づき全体を3群(週に4回以上、1~3回、1回未満)に分類して比較検討した結果も同様に、浴槽入浴の頻度の高い群は、高齢で(P<0.001)、HbA1c(P=0.012)やBMI(P=0.025)、拡張期血圧(P=0.001)が低いという関係が認められた。一方、性別(女性の割合)や収縮期血圧、血清脂質、および腎機能の指標は、この3群間で有意差がなかった。また、心血管代謝関連の処方薬のうち、GLP-1受容体作動薬のみ、浴槽入浴の頻度が低い群で処方率が有意に高く(P=0.038)、その他の薬剤の処方率は有意差がなかった。

     次に、入浴頻度との有意な関連が認められた、HbA1c、BMI、拡張期血圧について、それらを従属変数とする重回帰分析を行った。その結果、HbA1c(β=-0.078、P=0.020)、BMI(β=-0.074、P=0.012)、拡張期血圧(β=-0.110、P=0.006)、いずれに対しても、入浴頻度が独立した有意な関連因子として抽出された。

     著者らは本研究の限界点として、横断研究であり因果関係は不明であること、入浴頻度の高い患者は身体活動量が多い可能性があることなどを挙げている。その上で、「われわれの研究結果は習慣的な浴槽入浴が、肥満、拡張期血圧および血糖コントロールを、わずかながら改善する可能性のあることを示唆している。浴槽に漬かるという温熱療法は、2型糖尿病患者の心血管疾患抑制のための補助的なオプションとなる可能性があるのではないか」と結論付けている。なお、既報文献を基にした考察から、浴槽入浴による効果発現のメカニズムとして、「体温上昇と血管拡張による血流や血管内皮機能の改善、一酸化窒素(NO)産生の増加、インスリン感受性の亢進などが考えられる」と述べている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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    HealthDay News 2022年8月10日
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  • 毎日コーヒーを飲む高血圧患者は血管の機能が良好

     コーヒー摂取習慣のある高血圧患者は、血管の内皮と平滑筋の機能が良好であることを示すデータが報告された。広島大学病院未来医療センターの東幸仁氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に6月29日掲載された。

     適量のコーヒー摂取には健康上のさまざまなメリットのあることが報告されているが、高血圧の治療に対する有益性の研究結果は一貫性がない。東氏らはこの点について、血管内皮機能と血管平滑筋機能の面から検討を加えた。

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     動脈血管の最も内側の層に当たる内膜の内皮細胞は、血管を拡張する一酸化窒素(NO)を産生するなどの役割を担い、中膜の平滑筋は血管のしなやかさに関与している。動脈硬化の初期段階では内皮機能が低下し、続いて平滑筋機能が低下してくる。これらを測定することで、血管が狭くなるなどの形態学的な変化や臓器障害が現れる前に、動脈硬化のリスクを把握でき早期介入が可能となる。

     一般に内皮機能は、上腕(二の腕)の血流を一時的に駆血(遮断)し、それを開放した時に血流の刺激を受けた内皮細胞がNOを産生することで起こる血管拡張反応(flow-mediated vasodilation;FMD)で評価する。測定結果は、ベースライン(駆血前)の血管径を基準に開放後の血管径を比較してパーセントで表す。一方の平滑筋機能は、ニトログリセリン投与による血管拡張反応(nitroglycerine-induced vasodilation;NID)で評価し、やはりベースラインからの血管径の変化の割合で結果を表す。いずれも数値が大きい方が、内皮や平滑筋の機能が良好と判定される。

     研究の対象は、2016年4月~2021年8月に同大学病院で健診を受けた高血圧患者462人。血管拡張作用のある硝酸薬が処方されている患者、NYHA分類III以上の心不全患者、コーヒー摂取習慣に関する情報のない患者は除外されている。FMDとNID測定値への影響を避けるため、研究参加者には一晩の絶食のほか、検査の12時間前からは、アルコール、カフェイン(コーヒーなど)、抗酸化ビタミン、喫煙を控えてもらった。

     研究参加者の主な特徴は、年齢65±13歳、男性59.7%、BMI24.4±3.8で、血圧は130±17/79±12mmHgであり、糖尿病患者が29.2%、心血管疾患既往者が20.6%、喫煙者(現喫煙者と前喫煙者の合計)が54.7%含まれていた。コーヒー摂取習慣のある患者が84.6%で、その平均摂取量は1日2杯だった。コーヒー摂取習慣の有無で比較すると、摂取習慣のある群は、男性の割合、クレアチニン、心血管疾患既往者の割合が低く、LDL-コレステロールと糖尿病の有病率が高いという有意差があり、年齢やBMIなど、その他の指標は有意差がなかった。

     FMDは全体の平均が3.2±2.9%、NIDは11.0±5.4%であった。コーヒー摂取習慣の有無別に見ると、FMD(2.6±2.8対3.3±2.9%、P=0.04)、NID(9.6±5.5対11.3±5.4%、P=0.02)ともに、摂取習慣のある群の方が有意に高値だった。

     次に、FMDの三分位で3群に分け、第1三分位群(FMD1.6%未満)を内皮機能障害と定義。ロジスティック回帰分析により内皮機能に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、収縮期血圧、喫煙、脂質異常症・糖尿病・心血管疾患の既往)を調整後、習慣的なコーヒー摂取群では内皮機能障害該当者が有意に少ないことが分かった〔オッズ比(OR)0.55(95%信頼区間0.32~0.95)〕。

     NIDの第1三分位群(NID8.4%未満)を平滑筋機能障害と定義して解析した結果も同様に、習慣的なコーヒー摂取群では平滑筋機能障害該当者が有意に少なかった〔OR0.50(同0.28~0.89)〕。コーヒーの摂取量との用量反応関係を解析した結果、1日に0.5~2.5杯(約100~500mL)の範囲で、内皮・平滑筋機能障害のオッズ比が最も低いことが分かった。

     著者らは本研究が単施設での横断研究であること、コーヒー摂取者でも海外からの報告に比べて摂取量が少なく、大量摂取した場合にマイナスの影響が生じる可能性が不明であることなどを限界点として挙げた上で、「適量のコーヒー摂取は高血圧患者の血管内皮機能と平滑筋機能にメリットをもたらす可能性がある」と結論付けている。また、その機序として、カフェインに含まれているポリフェノールであるクロロゲン酸による抗酸化作用、カフェインによる内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の活性上昇などが考えられるとの考察を加えている。

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    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

    心不全のセルフチェックに関連する基本情報

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年8月10日
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  • 高齢者宅へのIH調理器導入のタイミングが遅すぎる可能性

     高齢者世帯の火災予防のために、調理用コンロをIH調理器に交換するよう勧められることがあるが、その交換のタイミングが総じて遅すぎるのではないかとする論文が発表された。認知機能が低下している高齢者では、マニュアルを見ながらでもIH調理器をほとんど操作できず、認知機能が正常の高齢者でも困難だという。東北大学未来科学技術共同研究センター/高齢者高次脳医学研究プロジェクトの目黒謙一氏らの研究によるもので、詳細は「Dementia & Neuropsychologia」に4月11日掲載された。

     2018年の消防庁の統計によると、全火災事故の約13.9%がコンロの取り扱いに関連している。また、高齢者では鍋を焦がしてしまうという体験と、記憶力や判断力、実行機能の低下が有意に関連していることが報告されている。このような高齢者のコンロの取り扱いミスによる火災リスクを抑制する対策として、自治体によってはIH調理器への交換を推奨している。しかし、認知機能の低下した高齢者でもIH調理器を使用可能かどうか明らかでない。目黒氏らは、宮城県涌谷町の高齢者を対象として、この点を検討した。

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     研究参加者は、75歳以上の地域在住高齢者166人。臨床的認知症尺度(CDR)により、66人はスコア0で「健康」、79人はスコア0.5で「認知症の疑い」、21人はスコア1以上で「認知症」と判定された。また、本人と家族へのインタビューから、過去の火災につながるような体験(鍋を焦がす、タバコやストーブの消し忘れ、畳を焦がすなど)の有無を把握し、その頻度と重大性から、火災を引き起こすリスクを判定。その結果、98人は該当する経験がなく「安全」、39人は「低リスク」、29人は「高リスク」と分類された。

     研究参加者に、「IH調理器を使って、インスタント麺を作るのに必要な水をできるだけ速く沸騰させるように」との課題を与え、実行可能かを判定した。なお、調理器のマニュアルは自由に読んでよいこととし、読みやすいように拡大したものを手渡した。また、手順が分からず先に進めない場合は、研究スタッフが作成した説明書を参照してもらったり、スタッフが助言をした。

     やかんを置き、主電源、加熱ボタンの順にオンにし、パワーを最大にして、沸騰したら電源をオフにするという手順を全て完了できたのは、健康な群では約15%、認知症疑い群では約8%であり、認知症群では0%だった。この3群で課題を完了できた人の割合に有意差はなかったが、全体的に課題を完了できない人の多さが際立つ結果となった。なお、健康な群であっても、過去の体験から火災「高リスク」と分類された群には、課題を完了できた人が1人もいなかった。

     次に、認知症群を除外して健康な群と認知症疑い群を、完了できた/できなかった人に二分して、認知機能(MMSE)を比較。すると、課題を完了できた人の認知機能スコアの方が有意に高かった(26.1±2.9対24.5±3.1、P<0.05)。また、実行機能(数字記号置換テスト)の結果も、課題を完了できた人の方が有意に高かった(35.1±11.4対29.7±8.8、P<0.05)。ただし実行機能の別の指標(TMT-A)は有意差がなかった。

     著者らは本研究の限界点として、課題を実行できるか否かを1機会のみで確認し、学習効果を評価していないことなどを挙げている。その上で、「火災予防のためにIH調理器を導入するタイミングは、火災につながる何らかのインシデントがあってからでは遅すぎる。また、IH調理器に交換する前に、高齢者の認知機能や実行機能を評価すべきではないか」と述べている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

    軽度認知障害(MCI)のリスクをセルフチェックしてみよう!

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年8月8日
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