• 歯科受診で介護コストが抑制される可能性――日本老年学的評価研究

     歯科を受診することが、その後の要介護リスク低下や累積介護費の抑制につながる可能性を示唆するデータが報告された。特に予防目的での歯科受診による抑制効果が顕著だという。東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学分野の竹内研時氏、木内桜氏らの研究グループによる論文が、「The Journals of Gerontology. Series A, Biological Sciences and Medical Sciences」に8月5日掲載された。

     超高齢社会の進展を背景に増大する介護費への対策が、喫緊の社会的課題となっている。介護費増大の要因として脳卒中や心血管疾患、認知機能低下などが挙げられるが、それらのリスク因子として、歯周病や咀嚼機能の低下といった歯科で治療可能な状態の関与を示唆する研究報告が増えている。このことから、適切な歯科治療によって要介護リスクが低下し、介護コストが抑制される可能性が考えられるが、そのような視点での検証作業はまだ行われていない。これを背景として竹内氏らは、全国の自治体が参加して行われている「日本老年学的評価研究(JAGES)」のデータを用いた研究を行った。

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     JAGESは、2010年に自立して生活している高齢者を対象とする長期コホート研究としてスタート。今回の研究では、調査実施前6カ月間の歯科受診状況、および2018年まで(最大91カ月)の介護保険利用状況を確認し得た、8,429人のデータを解析に用いた。ベースライン時の平均年齢は73.7±6.0歳で、男性が46.1%であり、過去6カ月以内の歯科受診状況は、予防目的での受診ありが35.9%、治療目的での受診ありが52.4%、予防か治療いずれかの目的での受診ありが56.3%だった。

     約8年の追跡期間中に1,487人(17.6%)が介護保険の利用を開始し、1,093人(13.0%)が死亡していた。介護保険の利用期間の全体平均は4.5±13.2カ月であり、累積介護費の全体平均は4,877.0米ドルだった。

     追跡期間中に介護保険を利用した群と利用しなかった群のベースラインの特徴を比較すると、前者は高齢で女性や配偶者なしの人が多く、BMIが低い、歩行時間が短い、教育歴が短い、低収入などの傾向があり、また、医科の健診を受けていない人が多く、過去6カ月以内に歯科を受診していない人が多い傾向が見られた。

     介護保険の平均利用期間は、過去6カ月以内に治療目的で受診していた群はそうでない群より短く、過去6カ月以内に予防か治療いずれかの目的で受診していた群もそうでない群より短かった。過去6カ月以内に予防目的で受診していた群もそうでない群よりも短かった。介護費用に関しては、これら3通りの比較でいずれも、歯科受診をしていた群の方が有意に少なかった。

     交絡因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙習慣、歩行時間、婚姻状況、収入、教育歴、歯数、地域、基礎疾患〔糖尿病、高血圧、脳卒中、心臓病、がん、うつ状態〕)を調整後、ベースラインから過去6カ月以内に予防か治療いずれかの目的で受診していた群は、そうでない群よりも追跡期間中の介護保険利用が有意に少なかった(オッズ比〔OR〕0.86〔95%信頼区間0.76~0.98〕)。予防目的のみ、または治療目的のみの受診の有無での比較では、介護保険利用率に有意差が見られなかった。

     次に、介護保険を利用した人において、ベースラインから過去6カ月以内の歯科受診の有無により累積介護費が異なるのかを、相対コスト比(RCR)を算出して検討。その結果、予防目的で受診していた群はRCR0.82(95%信頼区間0.71~0.95)と、要介護状態になったとしても介護費が有意に少ないことが分かった。治療目的のみ、または予防か治療いずれかの目的での受診の有無での比較では、RCRに有意差は認められなかった。

     続いて、歯科受診の有無別に予測される累積介護費を算出。すると、予防目的での受診により累積介護費が-1,089.9米ドル(95%信頼区間-1,888.5~-291.2)と、有意に少なくなることが予測された。また、予防か治療いずれかの目的での受診では、-980.6米ドル(同-1,835.7~-125.5)の有意な減少が見込まれた。治療目的での受診では有意差は認められないものの、-806.7米ドル(同-1,647.4~34.0)の減少が見込まれた。

     以上一連の結果を基に著者らは、「歯科受診、特に予防目的での受診は、累積介護費の低下と関連していた。歯科受診を通して口腔の健康を維持することで、介護費を抑制できる可能性がある」と結論付けている。

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    HealthDay News 2024年10月21日
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  • 高齢女性の4人に3人が加齢による視機能低下「アイフレイル」

     高齢女性の4人に3人は「アイフレイル」であり、その該当者は「基本チェックリスト」のスコアが高く、要介護ハイリスク状態であることを示す研究結果が報告された。国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科の糸数昌史氏、視機能療法学科の新井田孝裕氏、医学部老年病学の浦野友彦氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月11日掲載された。

     アイフレイルは、日本眼科啓発会議により「加齢に伴って眼が衰えてきた上に、さまざまな外的ストレスが加わることによって目の機能が低下した状態、また、そのリスクが高い状態」と定義されており、簡単な10項目の質問によるスクリーニングツールも既に開発されている。ただし、アイフレイルの有病率やスクリーニングツールの妥当性はまだ十分検討されていない。糸数氏らは、介護予防のために実施されている「フレイル健診」受診者を対象とする調査によって、それらの点を検討した。

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     2021年6月~2022年1月の栃木県大田原市が主催するフレイル健診を受診した地域在住高齢者のうち、研究協力の呼びかけに応じた225人が研究に参加。そのうち、解析に必要なデータを得られなかった人を除外した192人の女性を解析対象とした。また男性は解析に十分な参加者数に達しなかったため、女性のみで検討した。

     アイフレイルのスクリーニングツールの10項目(目が疲れやすくなった、夕方になると見えにくくなることがある、信号や道路標識を見落としたことがある、など)のうち2問項目以上に「はい」と答えた場合をアイフレイルと判定すると、74.5%とほぼ4人に3人が該当した。アイフレイルでない群と比較すると、年齢やBMI、骨格筋指数(SMI)、ふくらはぎ周囲長、握力には有意差がなかったが、歩行速度はアイフレイル群の方が有意に遅かった(1.30±0.22対1.20±0.34m/秒、P=0.02)。

     次に、二項ロジスティック回帰分析により、アイフレイルと関連のある因子を検討した結果、フレイル健診での「基本チェックリスト」のスコアと有意な正の相関が認められた(β=0.326、P=0.000)。一般に基本チェックリストのスコアが高いことは、要介護リスクの高さを表すとされていることから、明らかになった結果はアイフレイルが要介護のリスク因子である可能性を示すものと考えられる。なお、既報文献で示されている定義に基づき判定した、身体的フレイル、社会的フレイル、および過去の転倒経験などは、アイフレイルの有無との有意な関連が見られなかった。

     続いて、基本チェックリストに含まれている7種類の具体的なリスクとアイフレイルとの関連を検討。すると、閉じこもり(β=0.891、P=0.021)、認知機能(β=0.716、P=0.035)、うつ気分(β=0.599、P=0.009)という3種類のリスクの高さとアイフレイルとの有意な関連が認められた。

     このほか、アイフレイルのスクリーニングツールの回答の分析からは、視力低下、コントラスト感度低下(明暗のはっきりしないものや輪郭のぼんやりしたものが見えにくい状態)、視野障害が、アイフレイルを有することに強く影響を及ぼしていることが分かった。

     著者らはこれらの結果を基に、「地域在住高齢者のアイフレイルの有病率は74.5%であり、社会的引きこもり、認知機能低下、抑うつとの関連が認められた」と総括している。その一方で、フレイル健診に自主的に参加した女性のみを対象としていること、視機能に関する眼科学的な検査を行っておらず、疾患の影響なども検討されていないことなどを研究の限界点として挙げ、アイフレイルの背景因子および、身体的・社会的・精神的フレイルとの関連について、さらなる研究の必要性があるとしている。

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    HealthDay News 2023年2月6日
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  • 降圧薬の中止でフレイル改善?

     フレイル外来に通院中の患者に対する降圧薬の処方中止が、身体機能にプラスの影響をもたらす可能性を示唆するデータが報告された。国立長寿医療研究センター薬剤部の長谷川章氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of International Medical Research」に10月31日掲載された。

     フレイルは、身体的・精神的なストレスに対する耐性が低下した状態のこと。高齢者の要介護リスクの高い状態として位置付けられているが、早期介入によって非フレイルの状態に戻ることも可能。その介入方法としては、筋力トレーニングやタンパク質を中心とした十分な栄養摂取などが挙げられる。

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     一方、高齢者に対する多剤併用(ポリファーマシー)とフレイルとの関連が近年注目されており、降圧薬を処方されているフレイルの高齢者は死亡リスクが高いとする報告も見られる。しかし、降圧薬の処方中止がフレイルの改善につながるのか否かはよく分かっていない。長谷川氏らは、このトピックに関するパイロット研究を行った。

     解析対象は、2016年3月~2019年7月に同センターのフレイル外来を受診した患者498人のうち、初診時に降圧薬が処方されていない患者、追跡期間が1年未満の患者、および解析に必要なデータの欠落者を除外した78人〔年齢中央値77.0歳(四分位範囲72.3~82.0)、女性69%〕。このうち1年間の追跡中に降圧薬処方が中止されていた患者が19人含まれていた。

     降圧薬が中止された患者と継続された患者のベースラインデータを比較すると、年齢、性別(女性の割合)、血圧、処方されていた降圧薬の種類や数、併存疾患、アルブミンレベル、ビタミンDレベル、ビタミンD製剤の処方率などは有意差がなかった。評価した指標の中で唯一、骨格筋指数(SMI)のみ有意差があり、中止群の方が高かった(7.2±1.7対6.2±1.0、P<0.01)。

     降圧薬中止の影響は、SMI、要介護リスク把握のための「基本チェックリスト(KCL)」や「簡易身体機能評価指標(SPPB)」で評価した。このほかに、既報研究を基に「転倒リスクスコア」を算出した。これらのうち、KCLと転倒リスクスコアは点数が高いほど高リスクと判定され、SMIとSPPBは点数が高いほど良好と判定される。

     1年間の追跡でSMIは両群ともに有意な変化が見られなかったが、KCLの総合スコアは中止群(中央値8点から6点、P<0.05)と継続群(同7点から5点、P<0.01)の双方で有意に低下(改善)していた。さらに、KCLの体力に関するサブスコアは、中止群のみで改善が認められた(3点から2点、P<0.05)。継続群の体力に関するサブスコアは3点で不変だった(P=0.20)。

     SPPBの合計スコアは、中止群のみ有意な上昇(改善)が認められ(8.9から10.4点、P<0.05)、継続群は有意な変化がなかった(9.9から10.2点、P=0.20)。一方、転倒リスクスコアに関しては、継続群で有意に低下(改善)し(10.2から9.3点、P<0.05)、中止群では有意な変化がなかった(9.8から8.7点、P=0.27)。

     著者らは本研究の限界点として、サンプルサイズが十分ではないことや、どのような理由で降圧薬中止が判断されたかを検討できていないことなどを挙げている。その上で、「フレイルリスクのある患者への降圧薬の処方中止が、身体機能に対してはプラスに働く可能性があるのではないか」と結論をまとめている。

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    HealthDay News 2023年1月30日
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