• 高齢女性の4人に3人が加齢による視機能低下「アイフレイル」

     高齢女性の4人に3人は「アイフレイル」であり、その該当者は「基本チェックリスト」のスコアが高く、要介護ハイリスク状態であることを示す研究結果が報告された。国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科の糸数昌史氏、視機能療法学科の新井田孝裕氏、医学部老年病学の浦野友彦氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月11日掲載された。

     アイフレイルは、日本眼科啓発会議により「加齢に伴って眼が衰えてきた上に、さまざまな外的ストレスが加わることによって目の機能が低下した状態、また、そのリスクが高い状態」と定義されており、簡単な10項目の質問によるスクリーニングツールも既に開発されている。ただし、アイフレイルの有病率やスクリーニングツールの妥当性はまだ十分検討されていない。糸数氏らは、介護予防のために実施されている「フレイル健診」受診者を対象とする調査によって、それらの点を検討した。

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     2021年6月~2022年1月の栃木県大田原市が主催するフレイル健診を受診した地域在住高齢者のうち、研究協力の呼びかけに応じた225人が研究に参加。そのうち、解析に必要なデータを得られなかった人を除外した192人の女性を解析対象とした。また男性は解析に十分な参加者数に達しなかったため、女性のみで検討した。

     アイフレイルのスクリーニングツールの10項目(目が疲れやすくなった、夕方になると見えにくくなることがある、信号や道路標識を見落としたことがある、など)のうち2問項目以上に「はい」と答えた場合をアイフレイルと判定すると、74.5%とほぼ4人に3人が該当した。アイフレイルでない群と比較すると、年齢やBMI、骨格筋指数(SMI)、ふくらはぎ周囲長、握力には有意差がなかったが、歩行速度はアイフレイル群の方が有意に遅かった(1.30±0.22対1.20±0.34m/秒、P=0.02)。

     次に、二項ロジスティック回帰分析により、アイフレイルと関連のある因子を検討した結果、フレイル健診での「基本チェックリスト」のスコアと有意な正の相関が認められた(β=0.326、P=0.000)。一般に基本チェックリストのスコアが高いことは、要介護リスクの高さを表すとされていることから、明らかになった結果はアイフレイルが要介護のリスク因子である可能性を示すものと考えられる。なお、既報文献で示されている定義に基づき判定した、身体的フレイル、社会的フレイル、および過去の転倒経験などは、アイフレイルの有無との有意な関連が見られなかった。

     続いて、基本チェックリストに含まれている7種類の具体的なリスクとアイフレイルとの関連を検討。すると、閉じこもり(β=0.891、P=0.021)、認知機能(β=0.716、P=0.035)、うつ気分(β=0.599、P=0.009)という3種類のリスクの高さとアイフレイルとの有意な関連が認められた。

     このほか、アイフレイルのスクリーニングツールの回答の分析からは、視力低下、コントラスト感度低下(明暗のはっきりしないものや輪郭のぼんやりしたものが見えにくい状態)、視野障害が、アイフレイルを有することに強く影響を及ぼしていることが分かった。

     著者らはこれらの結果を基に、「地域在住高齢者のアイフレイルの有病率は74.5%であり、社会的引きこもり、認知機能低下、抑うつとの関連が認められた」と総括している。その一方で、フレイル健診に自主的に参加した女性のみを対象としていること、視機能に関する眼科学的な検査を行っておらず、疾患の影響なども検討されていないことなどを研究の限界点として挙げ、アイフレイルの背景因子および、身体的・社会的・精神的フレイルとの関連について、さらなる研究の必要性があるとしている。

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    HealthDay News 2023年2月6日
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  • 降圧薬の中止でフレイル改善?

     フレイル外来に通院中の患者に対する降圧薬の処方中止が、身体機能にプラスの影響をもたらす可能性を示唆するデータが報告された。国立長寿医療研究センター薬剤部の長谷川章氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of International Medical Research」に10月31日掲載された。

     フレイルは、身体的・精神的なストレスに対する耐性が低下した状態のこと。高齢者の要介護リスクの高い状態として位置付けられているが、早期介入によって非フレイルの状態に戻ることも可能。その介入方法としては、筋力トレーニングやタンパク質を中心とした十分な栄養摂取などが挙げられる。

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     一方、高齢者に対する多剤併用(ポリファーマシー)とフレイルとの関連が近年注目されており、降圧薬を処方されているフレイルの高齢者は死亡リスクが高いとする報告も見られる。しかし、降圧薬の処方中止がフレイルの改善につながるのか否かはよく分かっていない。長谷川氏らは、このトピックに関するパイロット研究を行った。

     解析対象は、2016年3月~2019年7月に同センターのフレイル外来を受診した患者498人のうち、初診時に降圧薬が処方されていない患者、追跡期間が1年未満の患者、および解析に必要なデータの欠落者を除外した78人〔年齢中央値77.0歳(四分位範囲72.3~82.0)、女性69%〕。このうち1年間の追跡中に降圧薬処方が中止されていた患者が19人含まれていた。

     降圧薬が中止された患者と継続された患者のベースラインデータを比較すると、年齢、性別(女性の割合)、血圧、処方されていた降圧薬の種類や数、併存疾患、アルブミンレベル、ビタミンDレベル、ビタミンD製剤の処方率などは有意差がなかった。評価した指標の中で唯一、骨格筋指数(SMI)のみ有意差があり、中止群の方が高かった(7.2±1.7対6.2±1.0、P<0.01)。

     降圧薬中止の影響は、SMI、要介護リスク把握のための「基本チェックリスト(KCL)」や「簡易身体機能評価指標(SPPB)」で評価した。このほかに、既報研究を基に「転倒リスクスコア」を算出した。これらのうち、KCLと転倒リスクスコアは点数が高いほど高リスクと判定され、SMIとSPPBは点数が高いほど良好と判定される。

     1年間の追跡でSMIは両群ともに有意な変化が見られなかったが、KCLの総合スコアは中止群(中央値8点から6点、P<0.05)と継続群(同7点から5点、P<0.01)の双方で有意に低下(改善)していた。さらに、KCLの体力に関するサブスコアは、中止群のみで改善が認められた(3点から2点、P<0.05)。継続群の体力に関するサブスコアは3点で不変だった(P=0.20)。

     SPPBの合計スコアは、中止群のみ有意な上昇(改善)が認められ(8.9から10.4点、P<0.05)、継続群は有意な変化がなかった(9.9から10.2点、P=0.20)。一方、転倒リスクスコアに関しては、継続群で有意に低下(改善)し(10.2から9.3点、P<0.05)、中止群では有意な変化がなかった(9.8から8.7点、P=0.27)。

     著者らは本研究の限界点として、サンプルサイズが十分ではないことや、どのような理由で降圧薬中止が判断されたかを検討できていないことなどを挙げている。その上で、「フレイルリスクのある患者への降圧薬の処方中止が、身体機能に対してはプラスに働く可能性があるのではないか」と結論をまとめている。

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    HealthDay News 2023年1月30日
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  • 除脂肪量でサルコペニアの低筋肉量をスクリーニング

     比較的簡便な体組成の評価方法である、生体インピーダンス(BIA)法で測定した除脂肪量指数〔FFMI(除脂肪量(kg)を身長(m)の二乗で除した値)〕が、サルコペニアの低筋肉量スクリーニングに利用できる可能性を示唆するデータが報告された。早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員・明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Medical Directors Association」に9月27日掲載された。

     サルコペニアは筋肉量や筋力が低下した状態のことで、要介護などのリスクが上昇するため、早期介入による是正が重要。サルコペニア診断の低筋肉量判定には、二重X線エネルギー吸収測定(DXA)法または生体インピーダンス法による四肢筋肉量(ASM)の測定が必要とされる。このうち特に前者のDXA法は、測定機器が大型で可動性が乏しく健診会場などへ移動が困難なことや、コストや被曝の懸念があることが、現場での利用のハードルとなっている。後者のBIA法は機器に可動性があり、比較的低コストで被曝の懸念もないものの、ASMの測定が可能な機器はあまり普及していない。その一方で、除脂肪量指数(FFMI)であれば家庭用に普及している体組成計でも評価可能である。

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     これまで、FFMIが四肢筋量指数〔ASMI(四肢筋量(kg)を身長(m)の二乗で除した値)〕と相関するとの報告がある。ただし、FFMIでサルコペニアの低筋肉量スクリーニングが可能か否かという視点での研究は、まだ行われていない。川上氏らの研究は、このような背景の下で実施された。

     この研究には、早稲田大学の卒業生の健康状態を長期間観察している「WASEDA’S Health Study」のデータが用いられた。2015年3月~2020年2月に、BIA法とDXA法の両方で体組成が評価されていた、40~87歳の日本人成人1,313人が解析対象で、平均年齢は55±10歳、男性66.4%、BMI23.0±3.1、握力33.4±8.1kg、ふくらはぎ周囲長36.5±2.9cm。体組成の測定は、12時間以上の絶食後の午前中に実施した。

     アジアサルコペニアワーキンググループのサルコペニア診断基準に基づく低筋肉量該当者の割合は、BIA法で5.2%、DXA法で9.9%だった。BIA法によるFFMIとBIA法によるASMI(r=0.96)、およびBIA法によるFFMIとDXA法によるASMI(r=0.95)は、ともに強固な相関が見られた。より詳細に、年齢(60歳未満/以上)、肥満の有無(DXA法による体脂肪率が男性は25%以上、女性は30%以上を肥満と定義)でサブグループ化した解析の結果も、FFMIとASMIの相関係数(r)は0.93~0.95の範囲であり、いずれのサブグループでも強固な相関が認められた。

     次に、DXA法によるASMIで定義された低筋肉量該当者を、BIA法によるFFMIでどのくらいスクリーニングできるかをROC解析で検討。その結果、ROC曲線下面積(AUC)は、男性で0.95(95%信頼区間0.93~0.97)、女性では0.91(同0.87~0.94)と高い値を示した。低筋肉量該当者スクリーニングのためのFFMIの最適なカットオフ値は、男性17.5kg/m2(感度89%、特異度88%)、女性14.6kg/m2(感度80%、特異度86%)と計算された。

     以上より著者らは、「FFMIは年齢や肥満の有無にかかわりなく、BIA法やDXA法で測定されたASMIと強い正の相関を示した。FFMIを、サルコペニアの低筋肉量スクリーニングの代替マーカーとして利用できるのではないか。その際のFFMIのカットオフ値は男性18kg/m2未満、女性15kg/m2未満と推定される」と結論付けている。なお、本研究の限界点としては、対象者が単一大学の卒業生であり一般住民から無作為に抽出されたサンプルではないこと、使用したBIA測定器が1タイプのみであって他の機種では結果が異なる可能性のあることなどを挙げている。

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    HealthDay News 2022年11月21日
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  • 介護保険による住宅改修の実情――視覚・認知機能障害へのサポートが不足

     介護保険の住宅改修費給付制度の利用状況を調査した結果が報告された。医療経済研究・社会保険福祉協会医療経済研究機構の土屋瑠見子氏らの研究によるもの。認知機能障害や視覚障害による要支援者は、他の理由による要支援者よりも、住宅改修を行う割合が有意に低いことなどが明らかになった。詳細は、「BMC Geriatrics」に5月20日掲載された。

     何らかの機能障害がある場合、その障害のタイプや程度に応じて住宅改修を行うことにより、転倒などによる受傷リスクが低下し生活の質(QOL)が維持され、死亡リスクが低下することが報告されている。介護保険制度でも、要支援・要介護認定を受けた場合には、住宅改修コストの1~3割、最大20万円まで助成され、手すりの設置、段差解消、便器の取替えなどが可能だ。土屋氏らは、この制度の利用状況と、障害のタイプ、性別、世帯収入などとの関連を詳細に検討した。

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     解析には、首都圏にある人口約49万人の都市の2010~2017年度の介護保険関連データを用い、要支援認定を受けた人の住宅改修状況を調べた。前記期間に要支援認定を受けた1万1,229人から、転居者や解析に必要なデータの欠落者などを除外した1万372人を解析対象とした。なお、この都市の高齢化率は27.4%で、調査実施時点の全国平均(28.1%)とほぼ一致している。

     解析対象者のうち、要支援認定の翌年までに住宅改修の助成を申請したのは15.6%であり、認定から申請までの期間は平均4.0±2.7カ月、最頻値は2カ月(改修した人の26.8%)だった。6.2%の人は改修を2回行っていた。助成額は大半が17万5,000~18万7,500円(自治体支払い分)の範囲だった。

     要支援1と2を比較すると後者、性別では女性の方が住宅改修の実施割合が高く、生活保護受給者は改修実施割合が低かった。機能障害のタイプ別に見ると、下肢障害やバランス障害による要支援者は改修実施割合が高く、認知機能障害や視覚障害による要支援者は実施割合が低かった。多変量ロジスティック回帰分析により、住宅改修実施割合に有意な関連の認められた因子は以下の通り。

     まず、調整オッズ比(aOR)が有意に高い因子として、女性〔男性に対してaOR1.182(95%信頼区間1.026~1.361)〕、下肢障害〔aOR1.290(同1.148~1.449)〕、バランス障害〔何らかのサポートにより立位保持可能でaOR1.724(1.429~2.080)、立位保持不能でaOR2.176(1.608~2.945)〕などが抽出された。

     反対に、調整オッズ比の有意に低い因子は、認知機能障害〔認知症高齢者の日常生活自立度のランクIでaOR0.774(0.690~0.868)、IIa以上でaOR0.553(0.434~0.704)〕、視覚障害〔aOR0.861(0.741~0.999)〕、生活保護受給〔aOR0.147(0.092~0.235)〕で認められた。なお、聴覚障害や上肢障害では、有意なオッズ比の上昇や低下は見られなかった。

     このほか、住宅改修コストについても、視覚障害による改修では中央値12万5,304円に対して、視覚障害以外による改修では13万8,047円で前者の方が有意に低いことなどが分かった(P=0.018)。

     これらの結果をもとに論文では、「認知機能や視機能に障害のある高齢者の住宅改修実施割合が相対的に低いことが明らかになった」と結論付けられている。著者によると、例えば温度の上限設定が可能な給湯システムへの改修によって認知機能障害のある要支援者の熱傷を防いだり、屋内の危険な箇所の素材変更や照明の設置により視覚障害者の受傷を防ぐことが可能という。ただし、これらの改修コストは、現時点では給付対象にならないことから、論文では「政策立案者は、給付制度の改善を検討する必要があるのではないか」とも述べられている。

     なお、生活保護受給者の住宅改修割合が低い理由としては、「その88.1%が賃貸住宅に居住しているため、必要があっても改修できないケースがあると考えられる」との考察を加えている。

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    HealthDay News 2022年6月27日
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  • 体重が実際より重いと思っている人は筋量で評価したサルコペニアに該当する可能性が高い――大阪府摂津市での研究

    サルコペニアとは筋量や筋力が低下し、疾患や要介護のリスクが高い状態である。自分の体重が実測値よりも重いと思っている人はサルコペニアの診断基準の1つである低筋量に該当する可能性が高いことを示す研究結果が報告された。医薬基盤・健康・栄養研究所 身体活動研究部の中潟崇氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Physiological Anthropology」に5月5日掲載された。

    体重の自己認識の誤り(実際より軽い、または重いとの誤解)が、さまざまな疾患のリスクと関連していることが報告されている。ただし、自己認識の誤りと筋量との関連はまだ報告がないため、中潟氏らは大阪府摂津市の地域住民を対象とした、大阪府との共同事業「大阪府健康格差の解決プログラム促進事業」で得られた研究データを解析し、この点を検討した。

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    研究参加者は、40~91歳の成人525人(年齢の中央値72歳、83%が女性、平均BMIは22.5)であり、同市の広報誌などを通じて募集された。指標として、「サルコペニア」の診断基準の1つである「腕と脚の筋量を身長の2乗で除した骨格筋指数(SMI)」を用いた。アジア人のサルコペニアの診断でのSMIの基準値は、男性7.0未満、女性5.7未満(生体電気インピーダンス法による)で、本研究の参加者の該当者割合は9.3%だった。

    研究参加者に、まず自分の体重を0.1kg単位で申告してもらい、その後に体重を測定。自己申告の体重から実測値を減算して誤差を割り出し、その誤差の幅を実測値に対する比率として評価した。例えば、自己申告が65.0kgで実際の体重が66.0kgの場合、〔-1.0÷66.0×100=-0.51〕で、誤差は-0.51%。

    参加者全体の誤差は、中央値0.9%(四分位範囲-0.3~2.0)だった。体重の過小評価から過大評価の幅で男女ごとに3群に分類すると、過小評価群は中央値-0.8%(過小評価)、中央群は同0.9%(過大評価)、過大評価群は2.4%(過大評価)だった。平均BMIは同順に、23.5、22.3、21.6で、自分の体重を過大評価している群は、実際のBMIが低い傾向だった。

    SMIがサルコペニア基準値未満の割合は、全体では前述のように9.3%であり、これを3群別に見ると、過小評価群から順に、4.6%、6.8%、16.6%となった。つまり、自分の体重が実際よりも重いと思っている人ほど、低筋量に該当する割合が高かった。

    次に、年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、自己申告に基づく体力・健康度・社会経済的状況の影響を調整し、中央群を基準として、SMIがサルコペニア基準値未満に該当するオッズ比を計算。結果、過大評価群はオッズ比2.37(95%信頼区間1.03~5.44)とオッズ比が統計的に有意に高かった。過小評価群はオッズ比0.97(同0.34~2.86)で、中央群と有意差は見られなかった。

    以上より、自分の体重が実際よりも重いと思っている40歳以上の日本人は、サルコペニアの診断基準の1つである低筋量に該当するオッズ比が2.37倍高いことが明らかになった。著者らは、「われわれの研究結果は、人々が自分自身の体重を正しく認識することへの働きかけが、公衆衛生上の重要な戦略である可能性を示唆している」と結論付けている。

    なお、体重の過大評価が低筋量に該当する可能性が高いことの理由として、著者らは「横断研究のためこれらの因果関係は不明であるが、体重を過大申告する人はBMIが低い傾向にあり、このことはエネルギー摂取量がエネルギー必要量を下回っている可能性があること、また、体重測定をあまり行わない人ほど誤差が大きくなることなどの影響があるのではないかと考察している。

    医薬基盤・健康・栄養研究所は、医薬基盤研究所(大阪府茨木市)と国立健康・栄養研究所(東京都新宿区)が平成27年に統合されて国立研究開発法人としてスタートを切り、今年度中に著者らの所属する国立健康・栄養研究所が現在の東京から本研究が行われた大阪府摂津市に移転予定。中潟氏らは健康な日本人を対象とした腸内細菌叢に関する研究も展開しており、「移転後の北大阪健康医療都市(健都)からも、日本人の健康寿命延伸に資するエビデンスを発信していきたい」と述べている。

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    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先大阪府/働く世代からのフレイル予防動画国立健康・栄養研究所/腸内細菌叢データベース
    HealthDay News 2022年6月13日
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