リチウムは自殺行動を減らし、アラキドン酸は自傷行為を増やす可能性
薬剤としてではなく、水道水やふだんの食事などを介して血清リチウムレベルが微量ながらも高い状態にある人は、自殺リスクが低い可能性を示唆するデータが報告された。また、EPA(エイコサペンタエン酸)は自傷行為のリスクを減らし、一方、AA(アラキドン酸)はそのリスクを高める可能性があるという。大分大学医学部精神神経医学講座の泉寿彦氏、寺尾岳氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Psychiatry」に12月16日掲載された。
オメガ3脂肪酸であるEPAやDHA(ドコサヘキサエン酸)が、うつ病リスクを抑制するという研究結果が報告されている。しかし、DHAよりもEPAがうつ病に効果的であるという報告があり、さらに、いずれの効果も否定する最近の報告もある。一方、リチウムについては既に気分安定薬として使用されており、自殺リスクを抑制するというデータがある。薬剤としてではなく、食品や水から摂取する微量のリチウムが、自殺関連行動のリスクを抑制するという報告があるものの、それを否定する報告もある。このほか、オメガ6脂肪酸であるAAレベルの高さが、自殺関連行動のリスクの高さと相関するといった報告もある。
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寺尾氏らは以前から、自殺関連行動とリチウムやEPA、DHA、AAレベルとの関連についての研究を続けており、今回の論文はその研究の解析対象症例を追加して新たに解析した結果の報告。サンプル数が増えたことを生かして、各評価項目の多重共線性(相互の影響)に留意した検討も行っている。
解析対象は、同大学病院や大分県立病院精神医療センターで救命救急治療を受けた患者234人。初診時に採血を行い、患者が回復後に研究参加の同意を得たのち、リチウムレベルなどの測定を行った。234人中、自殺企図患者が39人、自傷行為による患者が29人含まれており、その他の166人を比較対照群とした。統合失調症患者、リチウム製剤が処方されていた患者、オメガ3脂肪酸サプリメントなどを使用していた患者は除外されている。なお、自傷行為と自殺企図の違いは、前者には自殺する意図がなく、後者にはあるということ。
まず、3群の特徴を比較すると、自傷行為群は対照群より有意に若く(P=0.018)、女性患者の割合が高かった(P=0.011)。リチウムレベルの対数変換値は対照群より自殺企図群が有意に低く(P=0.007)、EPAレベルの対数変換値は対照群より自傷行為群で有意に低かった(P=0.004)。DHAレベルやAAレベルの対数変換値は有意な群間差がなかった。
次に、調整因子として、年齢と性別のほか、リチウムレベルとEPAレベルを加えるモデル(モデル1)、リチウムレベルとDHAレベルを加えるモデル(モデル2)、リチウムレベルとAAレベルを加えるモデル(モデル3)という3通りの多重ロジスティック回帰分析を施行した。その結果、自殺関連行動とリチウムやEPA、AAレベルとの間に、以下のような有意な関連が認められた。
モデル1では、リチウムの対数変換値が1高いごとに(以下同様に、EPA、AAについても対数変換値1当たりの差を示す)、自殺企図のオッズ比が68%低く〔OR0.32(95%信頼区間0.12~0.86)〕、EPAレベルが高いと自傷行為のオッズ比が82%低かった〔OR0.18(同0.032~0.98)〕。モデル2では、リチウムレベルの高さが、自殺企図〔OR0.29(0.11~0.77)〕と自傷行為〔OR0.31(0.10~0.96)〕双方のオッズ比の低さと関連していた。
モデル3でも、リチウムレベルの高さは、自殺企図〔OR0.30(0.11~0.81)〕と自傷行為〔OR0.32(0.10~0.98)〕双方のオッズ比の低さと関連していた。また、AAの対数変換値が1高いごとに、自傷行為のオッズ比が45倍以上高まるという関連があった〔OR45.3(1.22~1681.2)〕。このほか、女性は自傷行為のオッズ比が、全てのモデルで有意に高かった(OR3.12~3.34)。
まとめると、水道水や食事などから吸収されたリチウムは、自殺企図や自傷行動のリスクを下げ、EPAは自傷行為のリスクを抑制し、一方でAAはそのリスクを高める可能性が示唆された。なお、EPAによる自殺リスク抑制の可能性が認められなかったことに関して著者らは、「既報研究で報告されているEPAの自殺リスク抑制作用は、おそらくDHAやAAとの多重共線性に起因するものではないか」と考察している。
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