認知症の人に配偶者の死を伝えるべきか?――ケアマネージャー対象調査

 認知症の人の配偶者が亡くなった場合に、その事実を伝えるべきだろうか。また、伝えた場合や伝えなかった場合に、どのような問題が発生し得るのだろうか。このような疑問について、国内のケアマネージャーを対象に行った調査の結果が、「European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education」に2月8日掲載された。東京大学医学部医学倫理学分野・秩父市立病院の加藤寿氏らの研究によるもの。

 認知症の人に対しても自律的な人間として接し、患者本人の知る権利に配慮する必要がある。一方で、配偶者の死という人生で最大級のつらい出来事を知らされることで、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)が悪化したり、うつリスクが増大したり、記憶力低下のために配偶者の死という情報の伝達が繰り返されるという状況も起こり得る。介護の現場では、こうした問題への対応は、しばしばケアマネージャー(CM)がキーパーソンとなって判断されている。そこで加藤氏らは、2019年3~12月に国内で開催された介護関連学会の会場で、CM対象の質問紙調査を行った。

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 質問紙は、3人の臨床医と24人のCMによるパイロット研究によって妥当性を確認した後に使用した。回答方法は自記式で匿名とした。707人に配布され、513人(72.6%)から回答を得られ、508人の回答を解析対象とした。75.8%が女性であり、7割以上が10年以上の経験を有していた。

 CMの81.3%が、認知症の人の配偶者の死の経験を有していた。その中で、本人への配偶者の死の伝達(以下、情報開示)をした割合は、0~30%が28.1%、40~70%が30.5%、80~100%が34.9%であり、広い範囲に均等に分布していた。情報開示経験のある人の中で、BPSDの悪化に遭遇した経験のある割合は18.4%、うつ病悪化に遭遇した経験のある割合は26.0%だった。

 次に、情報開示に関する考え方を問うと、「開示すべき」が39.6%、「開示した方が良い」が43.1%、「開示の必要はない」が14.4%、「開示しない方が良い」が1.2%となった。情報開示の際に考慮すべき事柄を複数回答で選択してもらうと、家族の意向(51.0%)、患者の知る権利(48.2%)、認知症のステージ(25.0%)、本人の性格(24.8%)、うつ病の有無(24.4%)、BPSDの有無(23.2%)、夫婦関係(20.1%)、家族構成(6.1%)、医療提供者の意見(5.3%)などとなった。また、家族が開示に否定的な場合の対応については、「家族の意向を尊重する」が38.6%、「開示のメリットとデメリットを伝えて再考を促す」が39.8%、「患者の知る権利を尊重して開示を提案・説得する」が15.4%だった。

 続いて、認知症の人の配偶者の死の経験を有するCMを、情報を開示する頻度が高い(60%以上)群と低い(50%以下)群に二分した上で、属性や上記の質問への回答の傾向を検討。その結果、年齢や性別、CM経験年数に有意差はなく、また、配偶者の死の経験数、開示によるBPSDやうつ病の悪化に遭遇した経験を有する割合にも有意差が見られなかった。

 ただし、情報開示の際に考慮すべき事柄として、「本人の性格」を挙げた割合は、開示頻度が高い群は21.7%であるのに対して、開示頻度が低い群は37.2%であり、後者で多く選択された(P=0.007)。同様に「BPSDの有無」を考慮する割合も17.1%、38.8%の順であり、開示頻度が低い群で高かった(P<0.001)。反対に「夫婦関係」を挙げた割合は、開示頻度が高い群が34.9%、開示頻度が低い群は19.8%であり、前者の群で高かった(P=0.007)。

 著者らによると本研究は、認知症の人の配偶者の死の情報開示に関する初のCM対象調査だという。結論としては、「情報開示は家族の意向が反映されることが多いが、BPSDやうつ病悪化のリスクも考慮されているようだ。回答者の8割以上が開示に肯定的であるにもかかわらず、実際に開示する頻度はそこまで高くなかったことは、現場のジレンマを表しているのではないか」と総括されている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2023年5月1日
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