新型コロナウイルスに感染した医療従事者の3割は未診断――国立国際医療研究センターでの調査

 国立国際医療研究センターの職員を対象とする血清疫学調査の結果、2022年12月時点で4割近くの職員がこれまでに新型コロナウイルスに感染しており、その3割は未診断、すなわち感染に気付いていないことが明らかになった。同センター臨床研究センター疫学・予防研究部の溝上哲也氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and Infection」に3月8日掲載された。

 国内の感染症治療の基幹病院である同センターは、COVID-19パンデミック発生以来、東京都新宿区の本院と千葉県市川市の国府台病院とで、職員の抗体陽性率を定期的に調査してきている。その調査には毎回、職員のほぼ80%が参加しており、悉皆性の高いデータを得られている。

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 医療従事者はCOVID-19患者と接する機会が多いため感染リスクが高いと考えられるものの、パンデミック初期の同調査では、同センター職員の抗体陽性率はむしろ一般住民よりも低く、感染防御対策の徹底が奏功していることが示されていた。ただしその後、感染力の強いオミクロン株が出現するという状況の変化が生じている。今回の論文は、昨年12月に実施された調査データを含めた最新の報告。

 この調査では、自己申告に基づき院内レジストリと照合して確認されたCOVID-19の診断歴がある場合と、ロシュ社またはアボット社の定性試薬を用いて測定した血中のヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体が陽性の場合のいずれかに該当する場合を、「新型コロナウイルス感染歴あり」と定義している。その定義による累積感染率は、2021年6月時点では2.0%だったが、デルタ株が優勢になった後の2021年12月では5.3%に増加した。2022年1月からのオミクロン株による流行拡大を受け、累積感染率は3月には8.7%、6月には16.9%に達した。

 オミクロン株はその後も少しずつ変異を繰り返していたが、同年(昨年)夏にはオミクロンBA.5が大流行し、患者数の急拡大を招いた。そして、同年12月の最新の調査では、同センター職員の累積感染率は39.0%と、ほぼ4割となった。また、新型コロナウイルスの感染歴ありとされた職員の約3割(29.7%)が、自分自身が感染していたことを自覚していなかった。

 職種別に見た場合、オミクロン株出現以前は、特に感染率の高い職種は特定されていなかった。しかしオミクロン株出現以降は、若年の職員、事務職より医師や看護師、感染リスクが高い部門に勤務する職員で、感染率が高くなる傾向が認められた。

 以上の結果に基づいて著者は、「都心に位置する当センターでは、オミクロン株出現後に職員の間で感染が急速に拡大したことが示された。2022年12月の時点で、職員の4割近くが感染していた可能性がある」とまとめている。また、感染の既往が再感染リスクや再感染時の重症化リスクを低下させる可能性があることを踏まえ、同センターで継続的に行っている職員対象の血清疫学調査が、「未診断を含めた新型コロナウイルス感染のモニタリングにとどまらず、いわゆる『ウィズコロナ』時代に向けて、個人および集団の免疫の評価にも役立つのではないか」と付け加えている。

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参考情報:リンク先
HealthDay News 2023年5月1日
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