• COVID-19パンデミック前後で医療の利用状況が大きく変化

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック前後で、国内医療機関の利用状況が大きく変わったことが明らかになった。全国的に入院患者の減少傾向が続いているという。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュートの野村周平氏、東京海洋大学の田上悠太氏、東京大学のカオ・アルトン・クアン氏らの研究の結果であり、詳細は「Healthcare」に11月19日掲載された。著者らは、「入院患者数の減少は通常の状況下では医療システムの効率化の観点からポジティブに捉えられる可能性がある一方で、パンデミック期間中には超過死亡も観測されていることから、入院患者数の減少による国民の健康への潜在的な影響も排除できない」としている。

     COVID-19パンデミックが世界中の医療体制に多大なインパクトを与えたことは明らかで、影響の大きさを詳細に検証した論文も既に多数報告されている。ただし、パンデミック収束後の実態に関する研究は多くない。また、日本は他の先進国と異なり、パンデミック初期には患者数が少なかったものの、オミクロン株が主流になって以降に患者数が顕著に増加するというやや特異な影響が現れた。これらを背景として野村氏らは、パンデミック以前の2012年1月から2023年11月までの厚生労働省「病院報告」の月次データを用いて、パンデミックによって国内の医療機関の利用状況がどのように変わったかを検討した。

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     「病院報告」では、一般病床、精神病床、感染症病床、療養病床などの病床種類別の入院患者数や利用率、在院日数などが月ごとに報告されている。これらのうち本研究では、パンデミックが医療に与えた間接的な影響(COVID-19治療以外の医療)に焦点を当てるという意図から、一般病床と精神病床のデータを解析対象とした。解析には、準ポアソン回帰モデルという手法を用いた。

     まず、一般病床に関する解析結果を見ると、入院患者数はパンデミック以前から経年的に減少傾向にあった。これは、病院から地域(在宅や療養型施設)へという政策の推進によるものと考えられる。しかし、パンデミックが始まった2020年3月以降の入院患者数は、パンデミック以前の減少傾向から予測される患者数を有意に下回り、解析対象期間の最終月である2023年11月まで有意に少ない状態が続いていた。例えば、2023年の一般病床の1日平均在院患者数は62万6,450人で、パンデミック前の2017~2019年の67万9,092人と比較して、7.8%少なかった。月当たりの新規入院患者数についても、パンデミック以降は予測値より有意に少ない月が多く発生し、約10%減少していた。

     病床数も2021年以降に減少傾向が見られたが、その変化は入院患者数の減少速度より緩徐であり、絶対数の減少幅は1%未満だった。病床数がわずかな減少で入院患者数は大きく減少した結果として、病床利用率は、パンデミック前の2017~2019年の平均が73.5%であるのに対して、パンデミック以降の2020~2022年は67.5%と、6パーセントポイント低下していた。

     次に、精神病床について見ると、一般病床と同様、パンデミック前から入院患者数が経年的に減少傾向にあったが、パンデミック発生後には以前の減少傾向から予測される患者数を有意に下回り、解析対象期間の最終月である2023年11月まで有意に少ない状態が、ほぼ連続していた。また、新規入院患者数についても、パンデミック以降は予測値より有意に少ない月が多く発生し、約8%減少していた。病床利用率は、パンデミック前の2017~2019年が平均85.6%であったのに対し、2023年には81.3%へと5.3パーセントポイント低下していた。

     これらの解析の結果として著者らは、「COVID-19パンデミックは国内の医療機関の利用状況を根本的に変え、その影響は世界保健機関(WHO)が2023年5月に緊急事態宣言を終了した後も続いている」と総括している。また、国内においてパンデミック後期にCOVID-19以外の超過死亡が報告されていたことに関連して、入院患者数の減少が国民の健康アウトカムに潜在的な影響を及ぼしていた可能性を指摘。「脱施設化や長期ケアの地域医療への移行を進める中で、政策立案者は医療提供パターンの変化を注意深くモニタリングし、適切な医療アクセスの確保に注意を払う必要がある」と付け加えている。

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  • 上腕カフ式の家庭血圧測定により血圧が下がる

     家庭での血圧自己測定の有用性に関する新たなエビデンスが報告された。日本高血圧学会による「デジタル技術を活用した血圧管理に関する指針」策定のためのタスクフォースとして、東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の佐藤倫広氏らが行ったシステマティックレビューとメタ解析の結果であり、詳細は「Hypertension Research」に11月21日掲載された。上腕カフ式の血圧計で家庭血圧測定を行っている場合に、血圧値がより厳格に管理されることが確認されたという。

     家庭血圧測定に関する有用性は主に日本から多くのエビデンスが発信されてきており、国内のガイドラインでは診察室血圧より家庭血圧を重視することが推奨され、海外のガイドラインもそのように変化してきている。しかし、以前に行われたメタ解析では、家庭血圧の測定のみでなく、遠隔医療などを並行して行った場合において、顕著な臨床効果を期待できると結論付けられている。佐藤氏らは今回、新たな研究報告も対象に含めたシステマティックレビューとメタ解析を行い、改めて家庭血圧測定の有用性を検討した。

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     文献検索には、PubMed、コクランライブラリーなどのデータベースを用い、2023年8月1日に検索を実施した。包括条件は、家庭血圧測定の有用性を対照群(家庭血圧測定を行わない群)と比較したランダム化比較試験であり、2000年以降に英語または日本語で報告された論文。除外条件は、心血管イベント直後の患者や妊婦を対象とした研究、血糖値などの血圧以外の自己測定を並行して行った研究、教育介入効果の評価を主目的とした研究などとした。

     4,378件がヒットし、2人の研究者が独立して文献スクリーニングを行い、最終的に65件の報告を抽出した。なお、採否の意見の不一致が生じた場合は3人目の研究者が判断した。抽出された研究の参加者数は合計2万1,053人で、65件のうち63件は高血圧患者を対象としていた。

     メタ解析の結果、家庭血圧測定により血圧がより厳格に管理されることが明らかになった。具体的には、収縮期血圧(SBP)は-3.27mmHg(95%信頼区間-4.15~-2.40)となり、拡張期血圧(DBP)は-1.61mmHg(同-2.07~-1.14)に管理されていた(いずれもP<0.001)。

     遠隔管理や医療従事者のサポート(例えば定期的フォローアップ、生活習慣指導、治療調整の提案)を介入要素として追加したか否かで二分したサブグループ解析では、追加介入を行った場合に血圧がより厳格に管理されていたが(SBPは-4.27mmHg〔-5.39~-3.16〕、DBPは-1.89mmHg〔-2.55~-1.24〕)、介入を行わない場合にも有意な影響が確認された(同順に-1.93mmHg〔-3.08~-0.78〕、-1.12mmHg〔-1.68~-1.57〕)。

     その一方、手首にカフを巻いて測定するタイプの血圧計を用いた4件の研究のみを対象とするメタ解析では、SBPに対する有意な影響が認められなかった(-0.06mmHg〔-1.53~1.40〕)。この点に関連して論文中には、「研究報告数が少ないことの影響も考えられるが、効果量は臨床上ほとんど無視できる程度である。手首式の血圧計を使用して家庭血圧測定の有益性を検証する場合、根本的な方法論の見直しをしなければならない可能性がある」との考察が加えられている。

     このほか、降圧薬の処方への影響が検討されていた11件の研究を統合したところ、家庭血圧測定により降圧薬が0.17剤(0.05~0.28)有意に増えていたが、メタ回帰分析の結果では降圧薬の変化がない場合も家庭血圧測定が降圧に寄与していることが示唆された(SBP-1.72mmHg〔P=0.0085〕、DBP-1.40mmHg〔P=0.012〕)。なお、有害事象の発現率は対照群と有意差がなかった。

     今回のメタ解析で示された、家庭血圧測定でSBPが3.27mmHg低下することの臨床アウトカムへの影響を、先行研究のデータを基に推測したところ、高血圧患者の心血管イベントリスクを6.0%押し下げる可能性が示された。これらに基づき著者らは、「上腕にカフを巻く血圧計による家庭内での血圧自己測定は、高血圧の治療に有益なツールであり、特に遠隔医療や医療従事者のサポートなどの追加介入を行った場合に、より厳格な管理につながる」と総括している。

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    HealthDay News 2025年1月20日
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