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5月 19 2021 アルツハイマー型認知症による国内コストは年間12.6兆円に及ぶ可能性
国内のアルツハイマー型認知症の医療や介護に要するコストは、家族による無償の介護を金額に換算した額を含めると、最大で年間12兆6000億円を超えるとの推計値が報告された。国際医療福祉大学医学部公衆衛生学の池田俊也氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Alzheimer’s Disease」に3月23日掲載された。
アルツハイマー型認知症は、認知症の50~75%を占めるとされ、最も頻度の高いタイプの認知症。2015年には国際アルツハイマー病協会が、世界の認知症の有病者数は4680万人であり、医療や介護関連のコストは年間約90兆円という推計値を報告。国内でのコストに関しては2014年時点で14兆5000億円との報告がある。しかし、認知症の中でも有病者数の増加が特に顕著なアルツハイマー型認知症の医療・介護コストに焦点を当てた研究は少ない。池田氏らはこの点を明らかにするため、政府が公表しているデータに加え、文献検索により入手したデータを用いて詳細な分析を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。文献検索には、MEDLINE、医中誌Web、および厚生労働省研究費補助金制度のデータベースを活用。ヒットした3,364報から抽出された145報を基に、疫学、生活の質(quality of life;QOL)、疾病負担(burden of illness;BOI)、要介護や在宅介護の状況、生産性の低下などの実態を把握。その上で、公的データでは分からないインフォーマルな介護(家族などが無償で行う介護)のコストや、そのような介護に伴う生産性の低下などもコストに換算した。
コストの推計に必要なデータのうち、主要な項目は以下のとおり。アルツハイマー型認知症の有病者数は約360万人で、65歳以上の人口の10%。家族介護者は258万8,000人(男性72万1,000人、女性186万6,000人)で、そのうち介護による生産性への影響が高いと考えられる20~69歳は192万5,000人(男性48万1,000人、女性144万4,000人)。
検討したコストのうち、まず医療費については、アルツハイマー型認知症の治療薬が年間1508億円で、治療薬以外の医療費が9225億円、合計では1兆734億円だった。これをアルツハイマー型認知症の人の人数で割ると、1人当たり年間29万7,524円となった。次に公的介護費は、年間4兆7832億円であり、1人当たり132万5,862円だった。
続いて介護による家族の就労・家事労働での生産性の低下については、欠勤・時短勤務や就労時の能率低下も含めた総労働損失(overall work impairment;OWI)が9680億円、介護のための離職による損失が2535億円、家事労働の生産性低下(activity impairment;AI)により3255億円のコスト負担が発生していると見込まれ、これらを合計すると年間1兆5470億円、アルツハイマー型認知症の人1人当たりでは42万8,827円だった。家族が無償で行うインフォーマルな介護のコストは年間6兆7718億円、アルツハイマー型認知症の人1人当たり187万7,077円となった。
結論として、アルツハイマー型認知症の医療・介護に伴う年間コストは、介護者の生産性低下をコスト換算した場合、合計7兆4036億円、アルツハイマー型認知症の人1人当たり205万2,213円であり、介護者のインフォーマルな介護をコスト換算した場合、合計12兆6283億円、アルツハイマー型認知症の人1人当たり350万463円と推計された。
著者らは、「アルツハイマー型認知症関連コストは、日本の公的資金と家族に大きな影響を及ぼす。アルツハイマー型認知症に伴う経済的負担を最小限に抑えるために、健康寿命を延ばす取り組みが重要」と述べている。
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軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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10月 24 2020 食事の多様性が脳の海馬の萎縮を抑制――国立長寿医療研究センター
多様性に富んだ食習慣の人ほど、加齢による脳の海馬の萎縮が抑制されることが明らかになった。国立長寿医療研究センターの大塚礼氏らによる日本人対象の縦断研究の結果であり、詳細は「European Journal of Clinical Nutrition」9月2日オンライン版に掲載された。
大塚氏らは以前、多様性の豊かな食習慣が認知機能テスト(Mini-Mental State Examination)のスコア低下を抑制することを報告している。今回の研究では、より客観的に、MRI検査によって計測した海馬と灰白質の容積を指標とした検討を行った。海馬や灰白質は加齢に伴い萎縮していくが、アルツハイマー病などの認知症では早期から萎縮することが知られている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。検討対象は、国立長寿医療研究センターが行っている、地域住民を対象とした老化に関する長期縦断疫学研究の参加者のうち、2008年7月~2012年7月に実施した2時点の調査に参加した、認知症の既往者などを除く40~89歳の1,683人(男性50.6%)。2時点の調査でMRI検査を施行し海馬と灰白質の容積を計測。またベースライン時点では、3日間にわたって食事内容を記録してもらい、それを基に食事多様性スコア(Quantitative Index for Dietary Diversity)を算出した。
食事多様性スコアは、摂取した食品を13のグループに分けて評価した。このスコアが高いほどより多彩な食品を摂取していることを表す。ベースライン時の食事多様性スコアを性別の五分位に分けると、スコアの高い群ほど高齢で身体活動量が少なく、高血圧や糖尿病、脂質異常症の割合が高かった。また、穀類の摂取量は少ない一方、他の12のグループの食品摂取量が多かった。
ベースラインから2年後に再度MRI検査を行い、海馬と灰白質の容積を計測すると、海馬は平均(±標準偏差)1.00(±2.27)%減少し、灰白質は0.78±1.83%減少していた。
海馬や灰白質の萎縮に影響を及ぼす可能性のある因子(年齢、性別、教育歴、喫煙・飲酒・身体活動状況、脳卒中・脂質異常症・糖尿病・高血圧・心疾患の既往。モデル1)で調整の上、食事多様性スコアの五分位群で比較すると、海馬(傾向性P=0.004)、灰白質(傾向性P=0.018)ともに、スコアの高い群ほど容積の減少が少ないという有意な関係が認められた。調整因子にベースライン時の海馬または灰白質の容積を追加した解析(モデル2)でも、海馬(傾向性P=0.003)、灰白質(傾向性P=0.028)ともに、やはり同様の有意な関連が維持されていた。
2年間での海馬容積の変化率(モデル1の因子で調整)で比較すると、第1五分位群(食事多様性が最も少ない群)が1.31±0.12%の減少、以下、第2五分位群が1.07±0.12%、第3五分位群が0.98±0.12%、第4五分位群が0.81±0.12%の減少を示し、最も食事多様性に富む第5五分位群は0.85%±0.12%の減少にとどまっていて、食事多様性スコアが高いほど萎縮が抑制されていた(傾向性P=0.003)。また灰白質も、同様の関係が認められた(傾向性P=0.017)。
この結果について著者らは、「食事の多様性の高さが海馬や灰白質の萎縮と負の関連があることが示された。海馬の平均的な萎縮は2年間で1.00%であるのに対して、食事の多様性の違いによって萎縮度の差が最大0.5%に及ぶという顕著な違いが認められた。よって、さまざまな食品を食べることは、海馬の萎縮を防ぐ新しい効果的な栄養戦略になり得る」と研究の成果を強調している。
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4月 25 2020 アルツハイマー型認知症の医療・介護にかかる社会的費用は月平均22.5万円/人
アルツハイマー型認知症の医療・介護にかかる社会的費用は、当事者1人当たり月に平均約22万5,000円であることが、国内のデータを用いた検討から明らかになった。費用の6割近くは介護者の労働損失など、直接的な医療・介護費以外(インフォーマルケア費用)が占めるという。観察研究「GERAS-J」のデータを解析した結果であり、東京都医学総合研究所の中西三春氏らが「Journal of Alzheimer’s Disease」1月19日オンライン版に報告した。
GERAS-Jは、国内13カ所の大学病院を含む30施設で行われた多施設共同前向き観察研究で、日本イーライリリー株式会社の資金提供により実施された。外来治療を受けているアルツハイマー型認知症の当事者とその家族介護者を18カ月追跡した。今回の研究はGERAS-J調査開始時のデータを用いて、社会的費用を算出したもの。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象となったアルツハイマー型認知症の当事者は553人で、平均年齢80.3±7.3歳、女性72.7%。重症度は認知機能テスト(MMSE)で判定し、軽度(21~26点)が28.3%、中等度(15~20点)が37.8%、重度(14点以下)が34.0%だった。全体の70.9%が要介護認定を受けており、57.9%が介護サービスを利用していた。最も利用率が高い介護サービスはデイケアで、49.4%が利用していた。
一方、介護者側は、平均年齢62.1±12.5歳、女性70.7%。当事者の子が49.0%、配偶者が37.1%を占め、78.8%が当事者と同居し、39.2%は1人で介護を担っており、47.7%は介護に加え就労もしていた。
医療・介護にかかる費用は以下の3つに分けて積算し、月平均費用を算出した。1.当事者の医療費(外来、入院医療費と薬剤費)、2.当事者の社会的介護費用(介護サービス費、家屋の改築、消耗品など)、3.介護者のインフォーマルケア費用(介護に要する時間や欠勤などによる労働損失を含む)。なお、費用算出の基礎データとしては、国内の医療・介護サービスおよび労働賃金、労働時間などの全国平均値と、介護者へのアンケートから得られた情報を利用した。
結果についてまず介護者が費やした時間を見ると、月平均130.2時間費やしていることがわかった。当事者の重症度が高いほど多くの時間を要しており、軽度で97.2時間、中等度で118.2時間、重度では171.3時間だった。
次に社会的費用は、月平均22万4,584円かかっていることが分かった。このうち、前記の分類1の当事者の医療費は2万6,744円、分類2の当事者の社会的介護費用は6万9,179円だった。残り6割近い12万8,661円は分類3の介護者のインフォーマルケア費用が占めていた。重症度別に見ると、軽度で15万8,454円、中等度で21万1,301円、重度では29万4,224円だった。
医療・介護の社会的費用を目的変数とする多変量解析の結果、当事者が独居でないことや日常生活機能(ADL)が高いこと、介護者が複数いることなどが、費用の低下と有意に相関していた。反対に費用の増大と有意に相関する因子として、要介護認定を受けていること、アルツハイマー型認知症診断からの経過期間が長いこと、介護者負担尺度(ZBI)のスコアが高いことが抽出された。
これらの結果のまとめとして著者らは「アルツハイマー型認知症の社会的平均費用が当事者の重症度とともに増加することがわかった。また介護者のインフォーマルケア費用が最も大きなウエイトを占めていた。従来の統計上は社会的費用として反映されない介護者の負担を減らすために、新たな介入が求められる」と述べている。
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4月 24 2020 日常会話からアルツハイマー病を見つける新技術
アルツハイマー病の患者を日常会話から検出できる可能性のある新技術に関する報告が「JMIR Mental Health」1月12日オンライン版に掲載された。日本アイ・ビー・エム株式会社東京基礎研究所の山田康智氏らの研究によるもので、その識別力は90%以上に上るという。
アルツハイマー病をはじめとする認知症の症状が現れているにも関わらず、その診断を受けていない患者は少なくない。適切な治療やサポートがなされずに、患者本人と家族に負担が生じているケースもある。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。こうした背景から、高齢者に負担の少ない方法で日常生活を継続的にモニタリングし、認知症症状を検出する技術の開発が期待されている。山田氏らは、日常会話に現れる話の繰り返しを自動的に抽出・定量化することで、アルツハイマー病による症状の変化を検出可能との仮説を立て、電話による会話型見守りサービス(株式会社こころみ)で交わされた日常会話を分析した。
会話型見守りサービスは、トレーニングを受けたコミュニケーターが週に1~2回、利用者と電話で10~20分日常的な会話を行い、その内容が文字情報に書き起こされ、利用者とは別の場所で暮らす家族へメールで送られるサービス。今回の研究では、このサービスを利用した2人のアルツハイマー病患者を含む15人の高齢者(平均年齢76.8±9.4歳、うち女性12人)の会話データを分析した。分析対象データは、1人当たり平均16.1カ月にわたる68.8回分で、合計1,032回分の会話。
分析ではまず会話中の「単語」の繰り返し、および「トピック」の繰り返しをそれぞれ自然言語処理および機械学習技術を用いて定量化した。続いてそれらを、「1回の会話」内で繰り返されたケースと、「異なる2回の会話」間で繰り返されたケースに分けて調査。後者の2回の会話については、会話間の日数、および、会話間の回数でそれぞれ別に傾向を比較した。
検討の結果、「単語」「トピック」ともに、一定期間の日数をあけた2回の会話間における繰り返しの程度が、アルツハイマー病患者と健康な高齢者との間で最も大きく違っていた。特に、約7日間間隔があいた2つの会話間での「トピック」の繰り返しの程度を比較したときに識別力が最大となり、ROC解析による曲線下面積(AUC)は0.91に達した。また、先行研究で示されている「テキスト特徴量」による識別力と比較しても、一定期間あけたときの単語・トピックの繰り返しの程度による識別力の方が高かった。
これらの結果について山田氏らは、「アルツハイマー病患者では、イベント発生後の時間経過とともに、健常高齢者との記憶の差が大きくなると考えられる。本研究で示された日常会話の中での『話の繰り返し』も、その現象が顕在化したものと考えられる」と述べている。そして、「日常会話を継続的にモニタリングし、異なる日での話の繰り返しを自動的に定量化することで、アルツハイマー病の検出、あるいは早期発見に活用できるかもしれない」とまとめている。
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