• 一次健診での肝線維化評価にFIB-4 indexは適していない?

     肝臓の線維化マーカーとして最近普及が進んでいる「FIB-4 index」について、一次健診への導入にはいくつかの留意点があることが明らかになった。広島大学大学院医系科学研究科疫学・疾病制御学の田中純子氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Gastroenterology」に5月13日掲載された。高齢者では「線維化リスクあり、消化器科へコンサルテーション推奨」と判定される割合が極めて高くなる可能性があるという。

     肝線維化が進行するほど、肝硬変や肝がんのリスクが高くなる。肝線維化の背景因子として、ウイルス性肝炎とアルコール性肝炎のほかに近年では、それらのいずれにも該当しない非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が増えている。NAFLDの一部は非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、肝がんへと進行する。日本人のNAFLDの有病率は2~3割に上ると報告されており、そのような多くの患者の中から、NASH進行リスクの高い人をどのように効率よく割り出すかが問題になっている。

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     NASHの診断方法のゴールドスタンダードは肝生検だが、NAFLDと判定された人の全てに肝生検を施行することは現実的でない。そこで、侵襲の少ない検査の結果から肝線維化高リスク者を割り出すため、「FIB-4 index」などのスコアリングツールが提唱されている。田中氏らは、このFIB-4 indexの一次健診(一般住民を対象とするスクリーニング)における有用性を検討した。

     検討対象は、広島県と岩手県で住民健診を受け、腹部超音波検査が施行されていた人からウイルス性肝炎患者を除いた7万5,666人。このうち1万476人は、NAFLD診断における飲酒量の基準値(エタノール換算で男性は30g/日、女性は20g/日)を超過していた。

     飲酒量が上記基準値未満であることから「非飲酒者」と分類され、かつ、腹部超音波検査にて脂肪肝を認めたことでNAFLDと判定されたのは、1万7,968人(23.7%)であった。FIB-4 indexは、対象全体の平均が1.20±0.63であり、年齢層別に解析すると、50歳未満は0.82±0.31、50歳代は1.23±0.44、60歳代1.60±0.75、70歳以上2.10±0.75であり、NAFLD群(非飲酒者、かつ脂肪肝あり。P<0.0001)、非NAFLD群(非飲酒者、かつ脂肪肝なし。P<0.0008)ともに、高齢であるほどFIB-4 indexが有意に高値だった。

     NAFLD群の中で、肝線維化低リスクと判定される「FIB-4 index1.3未満」の割合は、50歳未満96.4%、50歳代73.7%、60歳代41.9%、70歳以上11.9%であった。つまり、FIB-4 indexによるスクリーニングでは、高齢NAFLD患者の大半(60歳代の58.1%、70歳代の88.1%)が「肝線維化リスクあり」と判定され、肝臓専門医へのコンサルテーションの勧奨対象となることが分かった。FIB-4 indexが、もともと40歳前後の患者群を対象とする研究データから開発された指標であることが、今回の研究で明らかになった、高齢者での過剰診断のリスクなどにつながっているのではないかと著者らは考察している。

     一方、非飲酒者における脂肪肝の有無別にFIB-4 indexを比較すると、NAFLD群(非飲酒者、かつ脂肪肝あり)1.12±0.58、非NAFLD群(非飲酒者、かつ脂肪肝なし)1.23±0.63であり、前者の方が有意に低いことも明らかになった(P<0.000)。年齢層別に解析しても、全ての年齢層で同様の結果が認められた。つまり、健診受診者(非飲酒者)にFIB-4 indexを用いると、脂肪肝のない人の方が、脂肪肝を有する人よりも「肝線維化リスクあり」と判定されるケースが多いと考えられた。

     FIB-4 indexは、肝機能マーカーのAST、ALT、血小板数、および年齢を用いて算出する。AST/ALTの比を検討すると、NAFLD群はALTがASTよりも高い傾向があるのに対し、非NAFLD群はAST、ALTともに正常範囲内であるもののASTがALTよりも高い傾向が認められた。著者らは、このようなAST/ALT比の傾向の相違が、前述の意外な結果につながっており、FIB-4 indexを健常者に用いる際のピットフォールとなり得ると指摘している。

     以上を基に論文の結論は、「FIB-4 indexは一般健診の結果から算出可能な簡便な指標ではあるものの、高齢NAFLD患者のFIB-4 indexのカットオフ値、および、一次健診へのFIB-4 indexの適用は再考を要する」とまとめられている。

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    HealthDay News 2022年7月11日
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  • 生活習慣病による肝硬変が増加中――全国多施設共同研究の結果

     わが国の肝硬変の原因に関する全国調査の結果が報告された。従来はC型肝炎による肝硬変が多数を占めていたが、その割合は近年減少してきており、かわって非ウイルス性肝炎による肝硬変が増加している実態が明らかになった。

     この報告は全国79施設が参加して行われた多施設共同研究の結果。2018年の第54回日本肝臓学会総会において各施設から報告された、肝硬変患者の原因疾患のデータを、加納総合病院名誉院長の西口修平氏(研究時点の所属は兵庫医科大学肝胆膵内科)らが取りまとめたもの。詳細は「Journal of Gastroenterology」3月号に掲載された。

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     解析対象患者数は合計4万8,621人(うち男性が61.6%)で、肝硬変の原因のトップはC型肝炎で48.2%だった。以下、アルコール性肝障害19.9%、B型肝炎11.5%と続き、第4位は、メタボリックシンドロームによる肝炎と考えられている非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が6.3%を占めた。

     次に、肝硬変と診断された時期がはっきりしている4万5,834人(全体の96.4%)を対象として、経年的な推移を調べた。診断された年が2007年以前の患者(1万4,051人)、2008~10年の患者(6,506人)、2011~13年の患者(8,284人)、2014年以降の患者(1万6,993人)の4群に分け、原因疾患が占める割合を見ると、以下のように変化していた。

     まず、C型肝炎による肝硬変は、2007年以前は58.6%、2008~10年は50.4%、2011~13年は45.1%、2014年以降は40.2%と減少。B型肝炎による肝硬変も同順に、13.6%、11.1%、9.9%、9.0%と減少していた。これらウイルス性肝炎による肝硬変は、2007年以前には7割を超えていたものが、2014年以降は5割足らずに低下したことになる。

     一方、アルコール性肝障害による肝硬変は、13.7%、19.6%、23.8%、24.9%と増加。NASHによる肝硬変も、2.0%、4.7%、6.2%、9.1%と増加していた。アルコール性肝障害とNASHは、どちらも生活習慣の影響が強い肝障害と言える。それら生活習慣病を経て肝硬変に至る患者の増加が見てとれ、2014年以降に診断された患者では約3人に1人を占めることが分かった。

     このほか、地域別の比較から、B型肝炎による肝硬変の割合は北海道や中国地方で高く、東北や九州では低いことが示された。アルコールによる肝硬変の割合は、北海道、東北、九州で高く、NASHによる肝硬変の割合は、北海道と関東で高かった。北海道ではC型肝炎による肝硬変の割合が低かった。ただしこれらの傾向は既報と一部一致しない点があり、調査手法の違いが影響している可能性もあるという。

     以上の結果を基に研究グループでは、「日本ではC型肝炎がいまだ肝硬変の主要な原因ではある。しかしウイルス性肝炎による肝硬変は減少しつつあり、アルコールやNASHなどの非ウイルス性肝障害による肝硬変が増加している」とまとめている。なお、ウイルス性肝炎による肝硬変が減少したのは、近年の直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の普及や肝炎ウイルスに対する医療政策の推進が寄与したのではないかと考察している。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

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    HealthDay News 2020年5月18日
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  • 自律神経が肝臓の再生促す仕組みを解明 マウス実験で、東北大

    肝臓が大きく傷害されると、自律神経による信号が肝臓内の免疫細胞を刺激して肝臓の再生を促す仕組みが働くことを突き止めた研究成果を、東北大学大学院糖尿病代謝内科学分野准教授の今井淳太氏らの研究グループが「Nature Communications」12月13日オンライン版に発表した。この仕組みを利用することで、意図的に肝臓の再生を促すことが可能になり、肝臓がんや肝障害の新しい治療法の開発につながるものと期待される。

    肝臓が大きく傷つけられると、早期から肝臓の再生が急速に進むことが知られている。しかし、この肝臓再生の意義やメカニズムについてはほとんど分かっていなかった。そこで、今井氏らはマウスの肝臓の70%を切除して重症の肝臓傷害を起こし、肝臓再生のメカニズムを探る実験を実施した。

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    その結果、脳からの自律神経による信号によって、肝臓の急速な再生を促すという仕組みを突き止めた。そのメカニズムは、まず、脳からの信号は、迷走神経と呼ばれる全身の臓器の働きを調節する自律神経を介して肝臓に届けられ、次に、迷走神経はアセチルコリンを分泌して肝臓内の免疫細胞(マクロファージ)を刺激して、インターロイキン6(IL-6)の分泌を促す。さらに、IL-6は肝臓細胞内のシグナル伝達経路(FoxM1経路)を活性化することで、肝臓の再生を促すというもの。肝臓内に多数あるマクロファージを刺激することで、神経信号を肝臓全体に波及させる仕組みが働いていると考えられるという。

    研究グループはマウス実験で、この脳からの信号がない状況では、重症肝臓傷害を起こしたマウスの生存率が低下することも見出した。さらに、この状態下でFoxM1経路を活性化させることで生存率の回復に成功した。

    これらの結果を踏まえ、今井氏らは「肝臓がんの外科手術では、がん細胞を含む正常な肝臓を、いかに広範囲に安全域を確保して切除できるかが再発予防に重要となる。今回明らかになった神経信号が肝臓再生を促す仕組みをコントロールすることで、より広範囲な肝臓がんの切除が可能になるだけでなく、肝臓の再生を促し、肝臓切除後の合併症を減らすことにつなげられる可能性もある」と述べている。

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    HealthDay News 2018年12月25日
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