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4月 24 2023 尿酸値の低さが腎機能の急速な低下リスクと関連――日本人の健診データの解析
尿酸値が基準範囲内であっても低値の場合は、腎機能が急速に低下するリスクが高いという関連を示すデータが報告された。ただし、高齢者ではこの関連が見られないという。帝京大学ちば総合医療センター腎臓内科の寺脇博之氏らの研究によるもので、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に2月11日掲載された。
尿酸値が高すぎる状態「高尿酸血症」は、痛風だけでなく腎機能低下のリスクとなる。しかし、それとは反対に尿酸値が低いことの腎機能への影響はよく分かっていない。尿酸には強力な抗酸化作用があるため、理論的には、尿酸値が低いことも腎機能低下リスクとなる可能性も考えられるが、そのような視点での研究報告は少ない。そこで寺脇氏らは、健診受診者のビッグデータを用いてこの点に関する検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。都内の健診センターの1998~2001年度の4年間の受診者のうち、2002~2005年度にも受診していて4年以上の追跡が可能だった1万1,129人から、低尿酸血症(2.0mg/dL未満)、積極的な治療が必要とされる高尿酸血症(8.0mg/dL以上)、および糖尿病の治療を受けている患者を除外した1万547人を解析対象とした。対象者の主な特徴は、平均年齢53.3±11.6歳、男性50.4%で、BMIは22.9±2.99、尿酸値5.22±1.23mg/dL、eGFR83.1±10.1mL/分/1.73m2。なお、治療中の糖尿病患者を除外したにもかかわらず、501人(4.8%)は糖尿病ないし糖尿病疑いと判定された。
eGFRが1年間に3mL/分/1.73m2以上の速度で低下していた場合を「急速な腎機能低下」と定義すると、5.4±1.6年の追跡で333人(3.2%)がこれに該当した。急速な腎機能低下群と対照群のベースラインデータを比較すると、年齢や性別(男性の割合)、BMI、尿酸値には有意差がなく、血圧やeGFRは前者が高値、アルブミンは後者が高値という有意差が見られた。
ベースラインの尿酸値を基に全体を6群に分けると、急速な腎機能低下の発生率は以下のように、4.0~4.9mg/dLの群が最も低かった。2.0~2.9mg/dLでは4.5%、3.0~3.9mg/dLは4.0%、4.0~4.9mg/dLは2.4%、5.0~5.9mg/dLは3.3%、6.0~6.9mg/dLは3.1%、7.0~7.9mg/dLは3.4%。
尿酸値4.0~4.9mg/dLの群を基準として、他群での急速な腎機能低下の発生リスクを検討。その結果、交絡因子未調整では、2.0~2.9mg/dLの群〔オッズ比(OR)1.93(95%信頼区間1.01~3.70)〕と、3.0~3.9mg/dLの群〔OR1.72(同1.20~2.45)〕、および5.0~5.9mg/dLの群〔OR1.43(同1.05~1.96)〕で有意なオッズ比の上昇が認められた。
腎機能の低下速度に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、収縮期血圧、ヘモグロビン、ALT、血清アルブミン、eGFR、HDL-C、TG、CRP、糖尿病・高血圧・脂質異常症・脳卒中・虚血性心疾患の既往)を調整後も、3.0~3.9mg/dLの群では有意性が保たれていた〔OR1.73(同1.20~2.50)〕。ベースライン登録後に判明した糖尿病(ないし疑い)患者を除外した解析の結果も同様だった。
性別のサブグループ解析からは、男性、女性ともに全体解析と同様の結果が示された。一方、年齢で層別化したサブグループ解析からは、65歳以上の高齢者では、尿酸値が低いことと急速な腎機能低下のリスクとの関連が非有意となることが分かった。
著者らは本研究の特徴の一つとして、尿酸値や腎機能に関連のある、血清アルブミンを含む多くの交絡因子を調整していることを挙げている。なお、血清アルブミンについては、著者らの研究グループが、基準範囲内でも低値の場合、急速な腎機能低下が発生しやすい可能性を既に報告している。一方、研究の限界点としては、腎機能低下との関連のある尿アルブミンや処方薬の情報が把握されていないこと、対象が健診受診者であるため健康リテラシーの高い集団と考えられることなどが挙げられるという。
論文の結論は、「われわれの研究により、特に若年から中年の成人において、基準範囲内で低レベルの尿酸値が腎機能の急速な低下のリスクと独立して関連していることが示された」とまとめられている。なお、その機序については文献的考察から、「尿酸はビタミンCを上回る抗酸化作用を有しており、そのレベルが低いことで、血管内皮細胞での酸化ストレスの亢進、アポトーシスの誘導、接着分子の発現などが生じることの影響が考えられる」と述べられている。また、高齢者では尿酸値低値の影響が非有意であることについては、「活動性が高い若年~中年期には酸化ストレス抑制のため尿酸の需要が高いのに対して、高齢期にはその需要が減るためではないか」と推察している。
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3月 10 2021 痛み止め+胃薬で急性腎障害のリスクが増加――京大など
鎮痛薬の非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)と、プロトンポンプ阻害薬(PPI)という胃薬を併用すると、腎機能が急激に低下する「急性腎障害(AKI)」のリスクが大きく上昇することを示唆するデータが報告された。京都大学医学部附属病院薬剤部の中川俊作氏、昭和大学病院薬剤部の百賢二氏らの研究によるもので、「BMJ Open」に2月15日掲載された。
NSAIDとPPIはどちらも広く使われており、併用もされやすい薬。例えば、NSAIDでは胃が荒れやすいため、それを抑える目的でPPIが処方されることも少なくない。これまでにも、これらの薬によるAKIリスク上昇を懸念する指摘はあったが、両者を併用した場合に、どの程度リスクが高まるのかについては、よく分かっていなかった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。中川氏らは、健康保険の医療費請求データベースを用いたコホート内症例対照研究により、NSAIDとPPI、および、やはり処方機会の多い代表的な抗菌薬の使用によるAKIリスクを検討した。解析に際して、PPI使用開始から30日以内に腎機能低下のリスクが高いとの既報に基づき、PPIが処方されていた時期により、新規処方症例(処方開始30日以内の患者)、最近の処方症例(過去31~90日に処方されていた患者)、過去の処方症例(91日以前に処方されていた患者)の3群に分類して、リスクを比較した。
PPI処方歴があった患者から、過去に腎疾患の既往がある人、および尿路感染症や造影剤使用により腎機能が低下していた人を除外し、21万9,082人(年齢45±13歳、女性44%)を解析対象とした。平均2.4±1.7年の追跡期間中に317人がAKIを発症。1万人年当たりのAKI粗発症率は6.1であり、PPI新規処方症例では18.8、最近の処方症例では5.3、過去の処方症例では3.7だった。
AKIを発症しなかった群から、年齢、性別、追跡期間を一致させた対照群を、AKI発症群に対し1:10の比率で割付け、3,150人を抽出。多変量解析にて、腎毒性のある薬剤(日本腎臓学会のガイドラインに記されている薬剤)の使用、およびチャールソン併存疾患指数などで調整の上、PPIの過去の処方に対する新規処方のAKI発症オッズ比(OR)を求めると、2.79(95%信頼区間2.06~3.79)となり、既報と同様にPPI新規処方時はAKIリスクが有意に高い可能性が示された(最近の処方は非有意)。
また、PPIとNSAIDを併用した場合のAKI発症率は、NSAIDを使用していない場合に比べてOR3.12(同1.84~5.37)と、発症率が3倍以上に上昇することが分かった。PPIを抗菌薬と併用した場合は、フルオロキノロン(OR2.35、同1.12~4.95)やセファロスポリン(OR1.88、同1.02~3.47)の併用時に、AKI発症率が有意に高かった。なお、ペニシリン併用は有意な影響がなく、マクロライド併用ではOR0.47(同0.21~0.96)だった。
以上の結果から著者らは、「NSAIDとPPIを併用するとAKIのリスクが大幅に増加するため、両剤併用時には腎機能に注意する必要がある。また、フルオロキノロンやセファロスポリンとPPIの併用も、AKIリスクの増加と関連していることが示唆された。これらの関連性の確認のための追試と、生物学的メカニズムの研究が求められる」と結論付けている。
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