-
10月 29 2020 大豆食品摂取量と前立腺がん死亡が関連――JPHC研究
大豆食品の摂取量が前立腺がんによる死亡リスクと関連することが、日本人対象の研究から明らかになった。国立がん研究センターなどによる多目的コホート研究(JPHC研究)によるもので、詳細は「International Journal of Epidemiology」9月23日オンライン版に掲載された。
大豆食品や大豆食品に多く含まれるイソフラボンは、これまでの疫学研究から、前立腺がんに対して予防的に働くことが報告されている。JPHC研究でも過去に、大豆食品やイソフラボンの摂取量が多いほど一部の前立腺がんのリスクが低いことを報告している。大豆食品による前立腺がんリスク低下のメカニズムとしては、イソフラボンの化学構造が女性ホルモンのエストロゲンに似ていることから、エストロゲン作用が前立腺がんの進展抑制に関与するのではないかと考えられている。
前立腺がんに関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。しかし、これまで報告されてきた一連の研究は、がんの進行度によって結果が異なり、前立腺がんによる死亡リスクとの関連も明らかにされていなかった。そこで今回、同研究グループでは、大豆食品やイソフラボンの摂取量と、前立腺がんによる死亡リスクとの関連を検討した。
この研究の解析対象者は、1995年と1998年に、岩手県二戸、東京都葛飾、長野県佐久、沖縄県中部など全国11カ所の保健所管内の住民のうち、がんや循環器疾患の既往歴のない45~74歳の男性4万3,580人。食事調査アンケートの結果から、総大豆食品、および各大豆食品(納豆、みそ、豆腐類)、イソフラボンの摂取量を計算し、それぞれを五分位に群分けした上で、2016年まで追跡して前立腺がん死亡リスクを比較した。
平均16.9年の追跡期間中に、221人の前立腺がん死亡が確認された。年齢、地域、肥満度、喫煙・飲酒・身体活動習慣、糖尿病の有無、健診の受診状況、コーヒー・緑茶の摂取頻度、果物・野菜類の摂取量で調整した解析により、以下のような関連が認められた。
まず、総大豆食品の摂取量が最も少ない第1五分位群に比べて、摂取量が最も多い第5五分位群のハザード比(HR)は1.76で有意にリスクが高く、摂取量が多いほど死亡リスクが高まるという有意な関連が認められた(傾向性P=0.04)。また、イソフラボンについても、摂取量が多いほど死亡リスクが高まるという有意な関連が認められた(傾向性P=0.04)。
大豆食品を個別にみると、みそについては、第3五分位群(HR1.64)と第5五分位群(HR1.73)で有意なリスク上昇が認められたが、傾向性P値は0.09だった。納豆と豆腐に関しても、有意な関連は認められなかった。
以上の結果から著者らは、「大豆とイソフラボンの大量摂取が前立腺がんによる死亡リスクを高める可能性があることが示唆される」とまとめている。
エストロゲンは、エストロゲン受容体に結合して初めて作用を発揮できる。しかし同研究グループによると、進行前立腺がんでは、エストロゲン受容体が減少するとの報告があり、イソフラボンの前立腺がん防止効果が弱まる可能性があるという。また、動物実験では、男性ホルモンのアンドロゲンが少ないマウスでは、イソフラボンはアンドロゲン作用を示すという報告があることから、前立腺がんの治療で用いられる抗アンドロゲン薬の効果をイソフラボンが妨げる可能性も考えられるとしている。
なお、大豆食品摂取は前立腺以外の部位のがんによる死亡や、循環器疾患のリスク低下と関連することが報告されているため、研究グループは、「摂取量については他の疾患への影響を含めて総合的に考えることが大切」と付け加えている。
治験に関する詳しい解説はこちら
治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。
-
7月 26 2017 体の大きい男性は悪性度の高い前立腺がんになりやすい?
男性は身長や腹囲が大きいほど悪性度の高い前立腺がんになるリスクが高く、それにより死亡リスクも高いことが、新たな研究で示された。身長が10cm高くなるごとに、進行した前立腺がんになるリスクは21%、前立腺がんで死亡するリスクは17%増大し、腹囲(ウエスト周囲長)が10cm増えるごとに、同リスクは13%、18%増大することが分かったという。
研究を率いた英オックスフォード大学のAurora Perez-Cornago氏は、「この結果が肥満予防の新たな推進力となるはずだ」と述べている。今回の研究は、がんと栄養に関する大規模研究に参加したヨーロッパ8カ国の約14万2,000人のデータを分析。平均で約14年間にわたる追跡期間中に、約7,000人が前立腺がんと診断された。そのうち726人は悪性度の高いがん(グリソンスコア8以上)、1,388人は進行したがんであり、934人ががんにより死亡した。
これまでの研究でも、前立腺がんと身長や体重との関連は認められていたが、がんの悪性度への影響を評価した研究は今回が初めてだという。今回の研究では、身長の高さは前立腺がんの全体的な発症リスク、低・中悪性度の前立腺がんリスクには関連していなかったが、高悪性度の前立腺がんおよびそれによる死亡リスクへの影響が認められた。同様に、体格指数(BMI)と腹囲も高悪性度の前立腺がんリスクに関連していた。
今回の研究は因果関係を明らかにするものではないが、米国がん協会(ACS)のVictoria Stevens氏によると、身長によるがんリスクの増大は、幼少期の栄養状態に関連する可能性が考えられるという。一方、肥満と前立腺がんの関連については、肥満が体内のホルモンに影響を及ぼす可能性があるほか、単純に肥満の人ではがんを早期に発見しにくいことが考えられる。肥満の男性は直腸診の実施が難しく、前立腺特異抗原(PSA)検査の信頼性も低くなると、同氏は説明している。
前立腺がんに関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
お近くの治験情報を全国から検索できます。では、長身や肥満の男性は前立腺がんの検診をより頻繁に受けるべきなのだろうか。Perez-Cornago氏は、「長身の男性はがんリスクを低減する手立てがないため、入念な検診を受けるべきかもしれない。一方で、肥満の男性は減量に努めるのがよいだろう」との考えを述べている。一方、Stevens氏は「前立腺がんの多くは致死的なものではない。そのため、全ての男性に検診を実施する価値があるのか、専門家の間で再検討されている」と指摘している。
今回の研究は「BMC Medicine」に7月12日オンライン掲載された。
HOME>前立腺がん