食育プログラムが子どもと大人の孤独を改善
地域における多世代を対象とした食育プログラムを実施した結果、参加した子どもと大人の孤独感に対して肯定的な影響が認められ、食育が孤独を改善する手段として有効である可能性が示唆された。昭和女子大学大学院生活機構研究科の黒谷佳代氏らが行った研究の成果であり、「Nutrients」に5月28日掲載された。
孤独対策では、人と人との「つながり」を実感できる地域作りが重要である。つながりを感じられる場所を確保する手段の一つとして、日本では食育が推進されている。例えば、子ども食堂は地域の子どもたちと大人が一緒に食事をすることができ、多世代が集うコミュニケーションの場所となっている。しかし、地域における多世代を対象とした食育について、その効果をまとめた研究報告は少ない。
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そこで著者らは、多世代を対象に、孤独感の緩和を目的とした1日完結型の食育プログラムを実施する単群介入研究を行った。プログラムは東京都調布市において、2022年12月、2023年7月と8月に実施した。参加者の数は全体で、小学生の子どもが21人、保護者が16人、大学生が3人、高齢者が6人だった。無料のパン作り体験としてプログラムを設計し、発酵の時間にはバター作りやシャーベット作りを行い、自作のパンの試食会を行った。世代の異なる参加者とペアになってもらい、参加者同士が会話を楽しめるようにスタッフがサポートした。
小学生の子ども21人の特徴は、低学年が多く(1~2年生10人、3~4年生7人)、女子の割合が66.7%で、パン作りの経験割合は71.4%だった。大人25人の年齢範囲は20歳から84歳で、女性の割合が88.0%だった。
「さみしさを感じる」など5項目の質問からなる「子ども用孤独感尺度(Five-LSC)」を用いて、子どもの孤独感を評価したところ、介入前後で合計得点が有意に低下し、孤独感が軽減していることが示唆された。項目それぞれの得点の変化については有意ではなかった。
大人については、孤独を感じることが「決してない」と回答した人の割合が、介入前の12.5%から介入後は20.8%へと有意に上昇した。しかし、3項目からなる「UCLA孤独感尺度」の合計得点による評価では、有意な変化はなかった。各項目のうち、仲間付き合いがないといつも感じている人は減少した一方で、疎外されていると時々感じる人は増加していた。また、ソーシャルキャピタルのうち、地域の人が他の人の役に立とうとすると思うことや地域への愛着について、大人において評価が向上した。
参加後に知り合いや友人を作ることができた人の割合は、大人が70%、子どもが43%で、参加者全員がプログラムを楽しんだと回答した。楽しんだ人の割合が高かった内容は、バター作り(子ども88.9%、大人93.3%)、シャーベット作り(子ども77.8%、大人80.0%)、自分で焼いたパンを食べる(子ども77.8%、大人73.3%)、世代間交流(子ども55.6%、大人93.3%)だった。
今回の結果から著者らは、「日本では、多世代を対象とする食育プログラムが子どもの孤独感に肯定的な影響を及ぼし、大人の孤独感には部分的に肯定的な影響を及ぼすことが示唆された」と結論付けている。また、今後はさらに、長期的影響について対照群を設定したサンプル数の多い介入研究により検討する必要性を指摘している。
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