• 痛みを抑える目的でタバコを吸う人々の存在とその特徴

     喫煙者の一部は、身体の痛みを抑えることを目的にタバコを吸っている。そのような人々は若年者に多く、痛みをより強く感じているといった特徴があるようだ。これは、順天堂大学大学院医学研究科疼痛制御学の山田恵子氏らの研究によるもので、「Neuropsychopharmacology Reports」に1月2日、短報として掲載された。

     タバコに含まれるニコチンには「ごく一時的な」鎮痛作用があるらしいことが過去に報告されている。ただし喫煙と痛み(疼痛)との関連は複雑で、長期にわたる喫煙は痛みを生じるリスク因子であることや、ニコチン離脱時(タバコを吸えない時や禁煙開始時)には、痛みがむしろ強まることも報告されている。タバコを吸うという行動と潜在的に関係する心理的な要因や生活環境も、痛みに影響を及ぼし得ると推測される。しかし、痛みを緩和する目的での喫煙の実態は、これまでほとんど調査されていない。山田氏らは本研究を「痛みの緩和を目的としてタバコを吸う人々の存在にスポットを当てた、国内初の研究」と位置付けている。

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     この調査は、2020年10~11月に、インターネット調査会社の登録者から、年齢が20~69歳で過去1カ月以内に体のどこかに痛みのあった人を、年齢、性別、居住地の分布を日本の人口構成に近くなるよう調整し、2,000人を抽出して実施した。回答者から、元喫煙者399人と喫煙歴のない人1,129人を除外し、現喫煙者472人(女性23.1%、慢性疼痛患者〔症状持続期間3カ月以上〕が57.6%)を解析対象とした。

     主要な質問項目は二つで、「痛みを抑える目的でタバコを吸うか」と「タバコを吸うと痛みが和らぐか」を質問した。それぞれ「まったくそのとおりだ」、「そのとおりだ」、「どちらともいえない」、「そうではない」、「まったくそうではない」の五つから選択してもらい、いずれも前二者を同意(痛みを緩和する目的で喫煙している人、および、喫煙により痛みが緩和すると感じている人)と判定した。

    痛みの緩和目的での喫煙者は、472人中31人(6.6%)だった(急性・亜急性疼痛患者〔症状持続期間3カ月未満〕の3.5%、慢性疼痛患者の8.8%)。また、痛みの緩和目的ではない喫煙者441人(93.4%)のうち、5.2%が喫煙による痛みの緩和を実感していると回答した。

     このほかに、喫煙本数や鎮痛薬(市販薬/処方薬)の使用、痛みの強さ、不安・うつレベル、治療中の精神疾患、運動習慣、世帯収入なども調査し、前記二つの質問の回答との関連を解析した。なお、解析では、背景因子を検討するために合計26回の検定を行い、偽陽性のリスクを避ける目的で、有意水準を通常の0.05を26で割った値に近い0.002未満に設定した。

     喫煙の目的が痛みの緩和の人とそうでない人を比較すると、前者の群は若年であり(平均38.1対46.5歳)、痛みに対する治療中(71.0対22.9%)、鎮痛薬使用中(市販薬は67.7対25.2%、処方薬は51.6対21.3%)、統合失調症治療中(9.7対0.7%)の割合が高いという有意差が認められた。また、痛みがより強く(NRSという10点満点のスコアが6.5対5.1点)、痛みの増強に関与する中枢感作が強く生じていると推測され(CSIという100点満点のスコアが41.0対27.5点)、運動習慣のある割合が高い(68.9対19.4%)という有意差も認められた。

     貧困傾向やうつ病治療中の割合、3カ月以上続く慢性の痛み、痛みに対する悲観的な思考、不安レベルなどについては、喫煙の目的が痛みの緩和である群で高い傾向が認められた(P値が0.002~0.05の間)。P値は、結果が偶然である可能性を示す値であり、この範囲では一定の関連性が示唆される。一方、性別の分布、喫煙本数、教育歴、短時間睡眠者の割合などには有意差が見られなかった(P>0.05)。

     山田氏らは、「痛みのある喫煙者の6.6%が痛みの緩和を期待してタバコを吸っており、その行動には心や生活環境など多面的な要因が関係していて、鎮痛薬などによる痛み治療が十分な効果を発揮していない可能性が示唆された」と結論付けている。そして、日本で慢性の痛みのある人が約2500万人という推計値と、慢性の痛みのある人の42~68%が喫煙者であるとする過去の調査報告、および本調査で得られたデータに基づき、痛みの緩和目的で喫煙している人が国内に90万~150万人いる可能性があると推算し、「今後の喫煙や慢性の痛み対策ではこのような人々の存在を考慮する必要があるのではないか」と付け加えている。

     なお、山田氏らは現在、対象者の数を増やした上で、より詳細な質問内容を使ったデータ解析を進めていて、その解析でも本報と同様の傾向が観察されているという

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    HealthDay News 2025年2月25日
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  • 免疫チェックポイント阻害薬治療中の生存率にインスリン分泌能が独立して関連

     免疫チェックポイント阻害薬(ICI)による治療を受けているがん患者において、インスリン分泌能が良好であることが、全生存期間(OS)や無増悪生存期間(PFS)の延長に独立して関連しているとする研究結果が報告された。岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腎・免疫・内分泌代謝内科の渡邉真由氏、江口潤氏らが行った前向きコホート研究によるもので、詳細は「Frontiers in Endocrinology」に12月11日掲載された。

     ICIは種々のがんに対してしばしば著効を示すが、従来の抗がん剤とは異なる副作用があり、糖尿病を有する場合はインスリン分泌能低下リスクのあることが知られている。ただし、糖尿病でないがん患者に関しては、まれに劇症1型糖尿病を引き起こすリスクがあることを除き、糖代謝へどのような影響が生じるのかという点の知見は限られている。

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     渡邉氏らはこの点について、同大学病院の患者を対象とする前向きコホート研究により検討した。解析対象は、2017年6月~2019年8月に進行がんと診断され、ICIによる初回治療が行われた87人。ベースライン以前および研究期間中に糖尿病と診断・治療された患者、および糖代謝に影響を及ぼし得るステロイドが処方された患者などは除外されている。

     主な特徴は、年齢中央値(以下、連続変数は全て中央値)が65歳(四分位範囲56~72)、男性67.8%、BMI19.2。がん種は頭頸部がん52人、胃がん19人、その他16人であり、全身状態を0~4で表すECOG PSは0~1(比較的良好なパフォーマンス)が80.5%を占めていた。糖代謝に関しては、HbA1c5.6%、空腹時血糖値97mg/dL、インスリン分泌能を表すHOMA-βが59.4(四分位範囲37.1~85.3)、Cペプチドが1.52ng/dL(同1.01~2.24)、インスリン抵抗性を表すHOMA-IRが1.11(0.72~2.34)であり、腎機能(eGFR)は70.9mL/分/1.73m2(63.5~87.2)と良好だった。投与されたICIは、ニボルマブが78人、ペムブロリズマブが10人、イピリムマブが1人だった(2人は2剤併用)。

     ICI投与開始1カ月後、HbA1cの有意な低下(P=0.018)とCペプチドの有意な上昇(P=0.022)が観察され、ICIは非糖尿病患者の糖代謝にも影響を及ぼし得ることが示唆された。

     観察期間中に82人(94.3%)が死亡し、OSは中央値7カ月、PFSは同3カ月だった。OSの中央値で2群に分けて比較すると、HOMA-βはベースラインおよび投与1カ月後の両時点で有意差があり、OSが7カ月以上の群のほうが高値だった。その他の糖代謝関連指標の群間差は非有意だった。ROC解析により、OSが7カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は64.24と計算され、AUCは0.665だった。また、PFSが3カ月以上であることを予測するHOMA-βの最適なカットオフ値は66.43、AUCは0.582だった。

     次に、年齢、性別、BMI(最適なカットオフ値である18.58以上)、eGFRおよびHOMA-β(64.24以上)を独立変数、OSの短縮(中央値である7カ月未満)を従属変数とする多変量ロジスティック回帰分析を施行。その結果、BMI(ハザード比〔HR〕0.481〔95%信頼区間0.299~0.772〕)とHOMA-β(HR0.623〔同0.393~0.989〕)の2項目が、OS延長に独立して関連していることが明らかになった。続いて行ったPFSの短縮(中央値である3カ月未満)を従属変数とする解析からは、HOMA-β(66.43以上の場合にHR0.557〔0.339~0.916〕)のみが、PFS延長に独立して関連していることが明らかになった。

     著者らは本研究が単施設の患者データに基づく解析であり、サンプルサイズも十分でないことなどを限界点として挙げた上で、「得られた結果は、ICI治療を受ける非糖尿病患者において、インスリン分泌能の高さがOSやPFSの延長に独立して関連することを示している。HOMA-βは、ICI投与が予定されるがん患者の予後予測指標となり得るのではないか」と結論。また、「ICIが膵β細胞機能に影響を及ぼすメカニズムの解明が期待される」と付け加えている。

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    肺がんは初期の自覚症状が少ないからこそ、セルフチェックで早めにリスクを確かめておくことが大切です。セルフチェックリストを使って、肺がんにかかりやすい環境や生活習慣のチェック、症状のチェックをしていきましょう。

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    HealthDay News 2025年2月25日
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