• 抑うつ症状の強い女性には下部尿路症状が多い――国内ネット調査

     日本人女性では、頻尿や尿失禁などの下部尿路症状と抑うつ症状との間に有意な関連のあることが明らかになった。特に若年女性で、より強固な関連が認められたという。横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科の河原崇司氏らが行ったインターネット調査の結果であり、詳細は「Lower Urinary Tract Symptoms」に3月30日掲載された。

     頻尿、尿意切迫感、尿失禁、排尿後の尿漏れといった下部尿路症状(LUTS)は加齢とともに増え、特に女性では尿失禁や尿漏れが男性に比べて起こりやすい。LUTSは命にかかわるものではないものの、生活の質(QOL)を大きく低下させる。一方、うつ病も女性に多い疾患であり、かつ、うつ病は時に命にかかわることがある。これまで海外からは、女性のLUTSがうつ病リスクに関連していることを示す研究結果が報告されている。ただし、それを否定する研究もあり、また日本人女性対象の研究報告はまだない。河原氏らの研究は以上を背景として行われた。

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     インターネット調査のパネル登録をしている日本人女性5,400人に、LUTSと抑うつ症状を把握するためのアンケートへの回答を呼びかけ、4,151人(76.9%)から有効回答を得た。LUTSは、過活動膀胱症状質問票(OABSS)と尿失禁症状に関する質問票(ICIQ-SF)により評価。抑うつ症状は、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)という指標で評価した。

     解析対象4,151人の主な特徴は、平均年齢48.3±13.8歳、配偶者のいる女性64.2%、子どものいる女性52.7%であり、過活動膀胱の有病率が14.2%、切迫性尿失禁は20.3%だった。QIDS-Jで評価した抑うつ症状は、若年層ほど重症度の高い人の割合が高く、20代では重度が12.7%、極めて重度が7.9%を占めていた。

     抑うつ症状(QIDS-J)と過活動膀胱の症状(OABSS)の関連を解析した結果、QIDS-Jスコアが高いほどOABSSスコアが高いという、有意な正相関が認められた(P<0.001)。具体的には、QIDS-Jが正常群のOABSSスコアは1.43±1.76点、軽度群は2.16±2.22点、中等度群2.55±2.58点、重度群3.11±3.05点、極めて重度群4.49±4.44点だった。また、過活動膀胱や切迫性尿失禁の有病率も、抑うつ症状が強い群ほど高いという結果だった。

     これらの関係を年齢層別に解析すると、全ての年齢層で有意な関連が認められたが、若年層ほど、抑うつレベルが高いこととLUTSの関連が強いことが分かった。例えば、60~80歳の高年者では、QIDS-J正常群を基準として、極めて重度群では過活動膀胱や切迫性尿失禁のリスクが3~4倍〔相対リスク(RR)が同順に3.73、3.05〕であるのに対して、20~39歳では同じ比較で7倍以上のリスク差が見られた(過活動膀胱はRR7.42、切迫性尿失禁はRR7.44)。なお、40~59歳の抑うつレベルとLUTSの関係は、若年者と高年者の中間だった(同順にRR4.71、3.58)。

     以上より著者らは、「日本人女性では、LUTSの悪化が抑うつ症状と相関しており、特に若年層でその関連が強く認められる」と結論付けている。なお、高年者より若年者で抑うつとLUTSとの関連が強固であることの理由については、既報文献に基づく考察から、「高年者ではLUTSに影響を及ぼし得る婦人科系疾患や糖尿病などの有病率が高いために、抑うつの影響が相対的に弱まる。反対に若年者はそれらの影響が少ないために、抑うつによる血管内皮機能や膀胱平滑筋への影響などを介したLUTSリスクが、より明確に現れるのではないか」と推察している。

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    HealthDay News 2023年5月15日
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  • 女性の隠れ肥満は過活動膀胱のリスクの可能性――長崎大

     内臓脂肪が過剰に蓄積している女性は、過活動膀胱の有病率が高く、また内臓脂肪量と過活動膀胱の重症度に相関があることが報告された。一方で、皮下脂肪量やBMI、腹囲長などの肥満関連指標は、過活動膀胱との関連が有意でないという。長崎大学大学院医歯薬学総合研究科泌尿器科の宮田康好氏、松尾朋博氏らの研究グループの研究によるもので、詳細は「International Journal of Urology」に12月29日掲載された。

     過活動膀胱は頻尿や尿意切迫感の主要原因の一つ。国内の患者数は810万人と推計されていて、珍しい病気ではない。これまでに、肥満やメタボリックシンドロームが過活動膀胱のリスクであることが示唆されているが、詳細は明らかになっていない。そこで宮田氏らは、腹部CT検査で評価した内臓脂肪・皮下脂肪の面積や量と、過活動膀胱の有病率・重症度、超音波検査での残尿量などとの関連を詳細に検討した。

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     検討対象は長崎大学病院にて腹部CTスクリーニング検査を受けた女性182人。残尿量が100mL以上、尿閉、腎・泌尿器科疾患、排尿に影響する薬剤を服用中、などに該当する人は除外した。

     過活動膀胱症状スコア(OABSS)により、71人(39.0%)が過活動膀胱と判定された。過活動膀胱群は対照群に比較して高齢で(65.5±12.6対52.7±14.8歳)、生活習慣病(高血圧、脂質異常症、腎機能障害)の有病率が有意に高かった。BMI(23.1±5.3対21.9±3.1、P=0.071)や糖尿病有病率(11.3対3.6%、P=0.064)は、過活動膀胱群の方が高いものの群間差は有意でなかった。

     OABSSの合計スコア、およびサブスケール(昼間頻尿、夜間頻尿、尿意切迫感、切迫性尿失禁の症状)の各スコアは、すべて過活動膀胱群の方が有意に高かった。また客観的指標である1回排尿量と最大尿流量は、過活動膀胱群が有意に低値だった。

     肥満関連指標との関連では、内臓脂肪の面積・量、および、総腹部脂肪に占める内臓脂肪の割合が、過活動膀胱群の方が有意に高かった。その一方で、前述のようにBMIは同等であり、皮下脂肪の面積・量、腹囲長などの群間差も有意でなかった。

     過活動膀胱の有病率との関連が認められた前記の指標と、OABSSスコアとの関連を検討すると、総腹部脂肪に占める内臓脂肪の割合との相関が最も強かった(r=0.394、P<0.001)。また総腹部脂肪に占める内臓脂肪の割合は、最大尿流量と有意な負の相関を示した(r=-0.289、P<0.001)。ROC解析により、総腹部脂肪に占める内臓脂肪の割合による過活動膀胱の予測能は、AUC0.742と計算された(P<0.001)。

     単変量解析で過活動膀胱との関連が有意だった因子を独立変数とする多変量解析の結果、年齢〔オッズ比(OR)1.07、95%信頼区間1.09~1.10〕、メタボリックシンドローム関連疾患(高血圧、糖尿病、脂質異常症および腎機能障害。OR4.25、同2.26~8.02)、腹部脂肪に占める内臓脂肪の割合(OR7.04、同3.34~12.5)が、過活動膀胱の独立したリスク因子であることが分かった。BMIや腹囲長は単変量解析でも有意な因子でなかった。

     これらの結果を基に研究グループでは、「過活動膀胱症状のある女性は内臓脂肪量が多いこと、内臓脂肪量と過活動膀胱の重症度が相関することが明らかになった」と結論付けている。なお、両者の関連のメカニズムについては、「内臓脂肪過剰蓄積によるインスリン抵抗性が、交感神経の亢進や慢性的な虚血状態を惹起し、下部尿路機能を低下させるのではないか」との考察を加えている。

     BMIと過活動膀胱との関連が認められなかったことについては、日本人ではBMI低値でも内臓脂肪が過剰に蓄積している、いわゆる「隠れ肥満」が多いことの影響を指摘。また論文筆頭著者の大坪亜紗斗氏は、「今後は、過活動膀胱と隠れ肥満、および本研究で検討されていない男性の肥満との関連の研究が望まれる」と述べている。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

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    HealthDay News 2021年2月8日
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