• アルコール摂取と白内障リスクとの関連が明らかに――日本人約3万人の症例対照研究

     アルコールの摂取習慣と白内障リスクとの間に、有意な用量反応関係があることが、日本人約3万人のデータを用いた症例対照研究の結果として示された。飲酒をやめた人は白内障リスクが低下する可能性があることも明らかになった。東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学の深井航太氏、東京慈恵会医科大学眼科学の寺内稜氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月22日掲載された。

     白内障は眼のレンズである水晶体が混濁して視機能が低下する病気で、多くは加齢現象として生じる。詳細な検査を行えば高齢者の大半に認められるほど有病率の高い病気のため、仮に修正可能なリスク因子があるとすれば、公衆衛生対策の大きな効果が期待できる。これまでに、飲酒も白内障のリスク因子の一つである可能性が検討されてきているが、結果に一貫性が見られない。また、それらの研究は主に海外で行われており、超高齢社会の日本は白内障治療を受ける患者数が多いにもかかわらず、そのような視点での研究がほとんど行われていない。深井氏らの研究はこうした背景の下で行われた。

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     この研究には、国内最大級の入院患者レジストリである、34カ所の労災病院グループによる「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータが用いられた。2005~2019年度に同グループ病院へ加齢性白内障の手術治療のために入院した40~69歳の患者を「症例群」、性別、年齢(±5歳以内)、入院年などが一致する白内障以外の疾患での入院患者を「対照群」として抽出。各群1万4,861人からなる症例対照研究として実施した。なお、加齢性白内障は高齢であるほどハイリスクとなるため、飲酒量との関連を検討するという目的から、年齢上限を69歳とした。

     飲酒量については、飲酒の頻度(飲酒習慣なし、以前は飲酒習慣があったが現在はなし、週1~3回、週4~7回)、1日当たりの飲酒量〔飲まない、1日2ドリンク以下、2超~4ドリンク以下、4ドリンク超(1ドリンクはエタノール換算10g相当)〕を把握。さらに、両者の積により飲酒の生涯累積摂取量〔摂取なし、40以下、40超~60以下、60超~90以下、90超(単位はdrink-years)〕を算出した。また、飲酒以外の共変量として、喫煙習慣、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満)の有無、屋外作業の有無、職業上の放射性被曝リスクの有無などを把握した。

     症例群と対照群を比較すると、前者は飲酒習慣のある人や、高血圧・糖尿病患者や屋外作業をしている人の割合が有意に高かった。喫煙習慣や教育歴、職業上の放射性被曝リスク、脂質異常症、肥満の割合などは有意差がなかった。

     前述の共変量を全て調整したロジスティック回帰分析の結果、飲酒頻度、1日当たりの飲酒量、生涯累積摂取量のいずれについても、高値であるほど白内障手術を受ける人の割合が高いという有意な傾向性が認められた(全てP<0.01)。例えば、過去に飲酒習慣のない人を基準として飲酒頻度が週4~7回の群のオッズ比(OR)は1.30(95%信頼区間1.21~1.40)であり、また飲酒頻度が週に1~3日〔OR1.10(同1.03~1.17)〕や、1日当たりの飲酒量が2ドリンク以下〔OR1.13(1.06~1.20)〕であっても、有意なオッズ比の上昇が認められた。

     それに対して、以前は飲酒習慣があったものの現在は飲んでいない群はOR1.00(0.91~1.09)で、関連は非有意だった。なお、性別に解析した結果は、男性・女性ともに全体解析の結果と同様であり、全て有意な傾向性が認められた。生涯累積摂取量については、男性では90超〔OR1.26(1.14~1.39)〕で有意なオッズ比上昇が見られたのに対して、女性では40超~60以下〔OR1.31(1.14~1.51)〕でもオッズ比上昇が認められた。

     感度分析として、既知の白内障リスク因子である糖尿病患者を除外した解析では、以前は飲酒習慣があったものの現在は飲んでいない群でオッズ比低下が認められ、特に女性でその傾向が強かった〔男性はOR0.93(0.81~1.06)、女性はOR0.86(0.74~1.00)〕。

     著者らは、本研究では白内障リスクを入院での手術症例のみで判断しており、日帰り手術が含まれていないためリスクを過小評価している可能性があることなどを、限界点として挙げている。その上で、「日本人ではエタノール換算20g/日程度の低用量の飲酒であっても白内障リスクが上昇する可能性が示された。また、飲酒量と白内障リスクとの間に用量反応関係が認められた。白内障患者に対しては、飲酒量を抑えるという生活習慣の改善が推奨される」と結論付けている。

     なお、飲酒が白内障の進行を促すメカニズムについては、「アルコール代謝は酸化ストレスと関連があり、その過程で発生する活性酸素種が水晶体タンパク質の変性を引き起こすといった経路が考えられる」と考察している。

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    HealthDay News 2022年12月19日
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  • 白内障手術を受けた人は幸福感が上昇――慶大など

     白内障の手術を受けた人は、手術を受ける前に比べて主観的幸福感が有意に高くなるというデータが報告された。慶應義塾大学医学部眼科の根岸一乃氏らが行った調査の結果であり、詳細は「Scientific Reports」に10月14日掲載された。

     白内障は眼のレンズである水晶体が濁る、高齢者に多い病気で、かすみ目や羞明(まぶしさ)、視力の低下などが現れる。ほとんどの場合、水晶体を人工眼内レンズに置き換える手術によって視機能が回復する。この手術による視機能回復とともに、生活の質(QOL)が向上することが報告されている。根岸氏らは今回、主観的幸福感に及ぼす手術の影響に焦点を当て、変化の有無と変化に影響する因子を検討した。

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     検討対象は、2016年6月~2018年6月に、慶應義塾大学病院および複数の関連施設で白内障手術を受けた患者のうち、調査に協力した247人(平均年齢67.9±11.4歳、女性59.9%)。手術前後の1カ月に、主観的幸福感尺度(Subjective Happiness Scale;SHS)と、ピッツバーグ睡眠質問票(Pittsburgh Sleep Quality Index;PSQI)に基づき睡眠の質を評価、また術後1カ月に手術に対する満足度を評価した。

     なお、白内障には主に、水晶体の周辺部が濁る「皮質白内障」、水晶体の背側が濁る自覚症状が比較的強い「後嚢下白内障」、水晶体の中央部が濁る「核白内障」というタイプがある。今回の検討対象者では、皮質白内障が71人、後嚢下白内障が54人、核白内障(5段階の進行レベルのうち3以上)が54人を占めていた。また、同時期に両眼の手術を受けた人が173人、片眼のみ手術を受けた人が74人だった。手術は全て超音波水晶体乳化吸引術という、標準的な方法で行われた。

     結果について、まず手術前と手術後の変化を見ると、視力関連指標が手術後に改善していたことに加えて、主観的幸福感(SHS)が手術前の4.6±0.7から手術後は4.8±0.7になり、有意な上昇が認められた(P=0.007)。また、睡眠の質(PSQI)も5.1±2.7から4.8±2.7となり、有意な改善が認められた(P=0.009。PSQIスコアは低いほど睡眠の質が高いことを意味する)。なお、手術に対する満足度は5点満点中4.2±0.9だった。

     手術前の主観的幸福感に関連する因子として、多変量解析の結果、核白内障と矯正視力の2つが、有意な関連因子として見いだされた。次に、手術後の主観的幸福感に関連する因子を見ると、高齢であること、および、手術前の主観的幸福感が高いという2項目が、有意に正相関する因子だった。

     続いて、手術前から手術後の主観的幸福感の変化に関連する因子を検討すると、手術後の満足度スコアが高いことのみが有意な因子として抽出された(β=0.169、95%信頼区間0.051~0.287、P=0.005)。そこで、手術後の満足度スコアに関連する因子を検討すると、術後の主観的幸福感の他に、後嚢下白内障の解消(β=0.277、同0.033~0.520、P=0.026)と、術後の睡眠の質が高いこと(β=-0.041、同-0.079~-0.003、P=0.035)が有意に関連していた。

     これらの結果をもとに著者らは、「白内障手術は視機能だけでなく、患者の主観的幸福感も改善する可能性があることが示された。その主観的幸福感は手術に対する満足度と関連しており、手術に対する満足度は、睡眠の質の改善と後嚢下白内障の解消の影響を受けることが明らかになった」と結論付けている。

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    HealthDay News 2020年11月16日
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  • 白内障手術で高齢女性の寿命が延びる?

    白内障手術を受けた高齢女性は視力が改善するだけでなく、寿命も延長する可能性があることが、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のAnne Coleman氏らによる研究で示された。

    詳細は「JAMA Ophthalmology」10月26日オンライン版に掲載された。

    今回の研究の対象は、米国で実施された女性健康イニシアチブ(Women’s Health Initiative;WHI)に参加した65歳以上の女性のうち白内障と診断された女性7万4,044人(平均年齢70.5歳)。
    このうち4万1,735人は白内障手術を受けていた。

    人口学的要因や合併症、喫煙、飲酒の有無のほか、BMI(体格指数)、身体活動量などで調整して解析した結果、手術を受けた女性では、手術を受けなかった女性と比べて全死亡リスクが60%低かった。
    また、血管疾患や呼吸器疾患、がん、事故、神経疾患、感染症など原因別の死亡リスクも37~69%の低下が認められた。

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    この結果を踏まえ、Coleman氏らは「白内障手術を受けるメリットは視力改善だけにとどまらない可能性がある」との見方を示している。
    ただし、同氏らは「男性にもこの結果が当てはまるかどうかは不明だ」としている。

    なお、この研究結果は因果関係を示すものではない。
    また、この研究では死亡リスクに影響しうる肥満などの生活習慣に関連した要因が考慮されてはいるが、手術を受けることを選択した女性は自身の健康管理を積極的に行うタイプの女性である可能性もある。

    この研究結果について、米ノースウェルヘルスの眼科医であるMatthew Gorski氏は「なぜ白内障手術が死亡リスクの低減に寄与するのかが明確に示されていない」と指摘。
    その上で「眼科検診の重要性をあらためて示した研究結果ともいえる」と付け加えている。

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    HealthDay News 2017年10月26日
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