• 胃がん手術、低CXIは予後不良・再発リスクと関連

     「がん悪液質」は、筋肉量の減少や低栄養、全身性炎症などを特徴とし、患者の予後に影響を及ぼすことが知られている。今回、これらを統合的に評価するCachexia Index(CXI)が、胃がん手術患者の予後や再発リスクを予測する指標として有用である可能性が示された。研究は、東京大学医学部附属病院胃食道外科の小島晴樹氏、菅原弘太郎氏らによるもので、詳細は7月13日付の「Surgery Today」に掲載された。

     胃がんの予後は病期が最も重要な決定因子とされる一方、患者の全身状態も術後の生存に影響することが知られている。そのため、近年では、がん悪液質を総合的に評価する指標であるCXIが注目されている。肺がんや胆管がん、肝細胞がんでは、CXI低値が予後不良と関連することが報告されている。一方、胃がんではCXIの有用性を示唆する報告はあるものの、病期別の予後や再発パターンとの関連については十分に検討されていなかった。そこで著者らは、胃がん手術患者を対象に、CXIと術後の全生存期間、無病生存期間、再発パターンとの関連を検討した。

    【胃がんの治験について相談したい方へ】
    治験情報の探し方から参加検討まで、専門スタッフが一緒にサポートします

     著者らは、東京大学医学部附属病院で胃がんの根治切除を受けた1,166人を対象に後ろ向き解析を実施した。術前CT画像から評価した骨格筋量や血清アルブミン値、好中球リンパ球比を基にCXIを算出し、男女別の下位4分の1を低CXI群、それ以外を高CXI群に分類した。約7年間の追跡データを用いて、全生存期間、無病生存期間、再発パターンとの関連を検討した。

     生存者の追跡期間中央値は83.9カ月だった。低CXI群は高CXI群と比べて年齢中央値が高く(70歳 vs. 65歳)、併存疾患を有する患者や進行病期の患者の割合も高かった。また、術後合併症の発生率も低CXI群で高かった(25.7% vs. 20.5%、P=0.04)。

     5年生存率は、低CXI群で63.4%と、高CXI群の78.5%を有意に下回った(P<0.001)。この傾向は病期I~IIIのいずれでも認められ、低CXI群では一貫して予後が不良だった。また、5年無病生存率も低CXI群で61.0%と、高CXI群の76.7%より有意に低かった(P<0.001)。

     さらに、再発リスクが低い病期Iを除いた病期II/IIIの患者では、低CXI群で再発率が高かった(35.4% vs. 24.9%、P=0.023)。特に、血行性再発(血流を介した遠隔転移)は低CXI群で13.6%と、高CXI群の6.9%より有意に多かった(P=0.026)。一方、局所再発、リンパ節再発、腹膜再発の発生率には有意差は認められなかった。

     多変量解析では、低CXIは全生存期間の独立した予後不良因子であり(ハザード比〔HR〕1.58、95%信頼区間〔CI〕1.20~2.07、P<0.001)、無病生存期間についても独立した予後不良因子であることが示された(HR 1.60、95%CI 1.24~2.07、P<0.001)。

     著者らは、CXIは胃がん手術患者の予後を予測する簡便な指標となる可能性があると指摘。CXIは筋肉量や栄養状態、炎症状態を反映することで、患者の身体的脆弱性と腫瘍の悪性度の双方を捉えている可能性があるとした。また、術前にCXIを評価することで、術後合併症や再発リスクが高い患者を特定し、栄養療法やリハビリテーションなどの介入につなげられる可能性があるとしている。

     なお、本研究の限界として、単施設の後ろ向き研究であることに加え、CXIの最適なカットオフ値がまだ確立されていない点を挙げている。著者らは、今後は他施設での検証に加え、低CXI患者に対する栄養介入やリハビリテーションなどの有用性を検討する研究が必要だとしている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2026年8月24日
    Copyright c 2026 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 62万人の解析で見えてきた、日本人のバレット食道リスクとは

     「バレット食道」は、胃酸などの逆流によって食道の粘膜が本来とは異なるタイプの細胞(円柱上皮)に置き換わる状態を指す。この状態は、将来的に食道腺がんの発生母地になることが知られている。今回、日本人約62万人の大規模データを解析した研究から、胃食道逆流症(GERD)や食道裂孔ヘルニアなどが、日本人におけるバレット食道のリスク因子である可能性が示された。研究は、静岡県立総合病院消化器内科の平田太陽氏、静岡社会健康医学大学院大学の菅原照氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏らによるもので、詳細は2月6日付で英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

     近年、欧米を中心に食道腺がんの増加が報告されており、その主要な前段階とされるバレット食道への関心が高まっている。日本を含む東アジアでは、長い範囲に及ぶ長区域バレット食道(LSBE)や、それを背景とした食道腺がんは従来まれと考えられてきたが、近年は増加傾向が指摘されている。これまで、バレット食道のリスク因子として、高齢、男性、肥満、喫煙に加え、GERDや食道裂孔ヘルニアなどが報告されてきた一方、ヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)感染は保護的に働く可能性も示唆されている。しかし、生活習慣やピロリ菌の疫学は欧米と日本で異なり、日本人集団における大規模な検証は限られていた。そこで本研究では、日本人一般集団62万人超のデータを用い、バレット食道の発症率とリスク因子を検討した。

    【胃がんの治験について相談したい方へ】
    治験情報の探し方から参加検討まで、専門スタッフが一緒にサポートします

     健康保険請求データや健診情報などを統合した静岡県市町国保データベース(SKDB)を用い、後ろ向きコホート研究を実施した。対象は2012年4月~2021年9月に市町村国保へ加入し、12カ月以上の連続加入が確認され、バレット食道の既往がない個人とした。新規発症は保険請求データで定義し、年齢、性別、併存疾患、生活習慣、GERDや食道裂孔ヘルニア、ピロリ菌感染歴、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)、ならびにヒスタミン-2受容体拮抗薬(H2RA)などの酸分泌抑制薬の使用を調整した、時間の経過を考慮して発症リスクを評価する統計手法(Cox比例ハザードモデル)を用いて解析した。

     本研究の最終的な解析対象は62万125人となり、追跡期間の中央値は6.2年だった。観察期間中に1,577人がバレット食道と診断され、新規発症率は10万人年あたり46.4例だった。

     まず1つずつの因子との関連を検討し(単変量解析)、そのうえで複数の要因を同時に調整した解析(多変量解析)を行った。GERDと酸分泌抑制薬使用は互いに関連が強い(強力な酸分泌抑制薬であるPPI/P-CABはGERDの第一選択薬である)ため、両者を別々に含めた2つの解析モデルで検討した。その結果、年齢(50~79歳)、男性、末梢血管疾患、肝疾患、食道裂孔ヘルニア、ならびにGERDまたはPPI/P-CAB使用が一貫して発症リスクの上昇と関連していた。一方、ピロリ菌感染歴やH2RA使用については、モデルによって関連の有無が異なった。なお、酸分泌抑制薬使用やピロリ菌感染歴がリスク上昇と関連した点について著者らは、薬やピロリ菌そのものが直接リスクを高めると単純に解釈すべきではないとし、背景にあるGERDの重症度や、ピロリ菌除菌後の胃酸分泌の変化などが影響している可能性を指摘している。また、身体活動は単変量解析では関連したものの、多変量解析では有意差を示さなかった。

     著者らは、「バレット食道の発症リスク因子について、本研究においては肥満や喫煙、飲酒といった生活習慣因子は他の要因を調整すると明確な関連は認められず、GERDや食道裂孔ヘルニアなどの逆流関連因子の影響がより重要である可能性が示唆された」と述べている。これらの結果は、日本人における内視鏡サーベイランスの対象選択に新たな視点を与える可能性があるとしている。

     本研究での発症率(10万人年あたり46.4例)は、数値上は欧米の報告と同程度だが、診断基準の違いに注意が必要である。日本では、全長の短い短区域バレット食道(SSBE)が主流で、内視鏡医の判断で1cm未満の非常に短いものまで診断に含まれることがある。一方、欧米では一般に1cm以上の長さと組織検査による確認という厳格な基準が用いられる。そのため、発症率やリスク因子の単純な国際比較には慎重な解釈が求められる。

     なお、本研究の限界として、診断は保険請求データに基づいており、組織学的情報が含まれていない点や、短区域バレット食道(SSBE)と長区域バレット食道(LSBE)の区別ができない点、診断漏れの可能性などが挙げられる。また、家族歴や遺伝的素因といった臨床情報や、ピロリ菌感染状態(現在感染か除菌後かなど)を詳細に評価できていない点も限界である。さらに、本研究は観察データに基づくものであるため、因果関係を断定することはできない。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2026年3月16日
    Copyright c 2026 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。