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2月 16 2022 脳卒中や心臓発作と網膜静脈閉塞症との有意な関連が明らかに
網膜の静脈の流れが滞り、視野の異常などが生じる「網膜静脈閉塞症」の患者は、心臓や脳の血管が詰まったり心不全になるリスクが有意に高いことが、日本人を対象とする研究から明らかになった。順天堂東京江東高齢者医療センター眼科の小野浩一氏らの研究によるもので、詳細は「Medicine」に12月30日掲載された。
網膜静脈閉塞症(RVO)は、眼底の網膜にある静脈が閉塞して血流が遮られ、網膜に出血や浮腫が起きる病気。視野が欠けたり、しばらくたってから出現する新生血管の影響で網膜剥離や血管新生緑内障などが引き起こされ、より深刻な視覚障害を招くことがある。RVOが起きる原因の多くは、静脈と隣接している動脈に生じる動脈硬化にある。そのためRVOの患者は、動脈硬化によって生じる心筋梗塞や脳卒中などにもなりやすいと考えられる。しかし、その関係を実際に証明した日本人対象の研究データはこれまでなかった。小野氏らは、この点を検証するために以下の検討を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究は、単一施設の後ろ向きコホート研究として実施された。順天堂東京江東高齢者医療センター眼科で2012~2019年にRVOと診断され、解析に必要なデータに欠落のない患者57人を「RVO群」(76.8±9.4歳、男性40.4%)とし、2012年1~4月に同院で白内障手術を受けた125人を「非RVO群」(75.6±8.6歳、男性34.4%)とした。
両群の特徴を比較すると、RVO群は血圧が高く有意な群間差があった(収縮期/拡張期血圧ともにP<0.001)。ただし、年齢や男女比、BMI、血清脂質、腎機能(eGFR)、糖尿病患者の割合、飲酒・喫煙習慣、抗凝固薬・抗血小板薬の処方状況の群間差は非有意だった。なお、新生血管の活動を抑えるために用いる、血管内皮増殖因子(VEGF)の働きを抑制する抗VEGF薬の眼球内投与の回数は、RVO群の方が多かった(P<0.001)。
虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)、心不全入院、脳卒中、一過性脳虚血発作(TIA)、心血管死で構成される複合エンドポイントを評価項目として、カルテの記録を解析。RVO群はRVOの診断から追跡を開始、非RVO群は白内障手術施行日から追跡を開始して、複合エンドポイントのイベント発生まで、イベント非発生の場合は最終診察日まで追跡した。
RVO群は2.68±2.04年の追跡で7件(脳卒中5件、心不全入院とTIAが各1件)、非RVO群は2.81±2.70年の追跡で2件(心筋梗塞と心不全入院が各1件)のイベントが記録されていた。罹患率比は8.07(95%信頼区間1.54~79.6)、相対リスクは7.68(同1.65~35.8)と計算され、RVO群の方が有意にハイリスクだった。
多変量解析の結果、イベント発生に独立して関連する因子として、RVOの既往〔ハザード比(HR)16.1(同2.29~113.74)〕、および、年齢〔1歳ごとにHR1.26(同1.06~1.49)〕の2項目が抽出された。
以上から、RVO患者は脳心血管イベントや心不全リスクが高いことが明らかになった。著者らは、「眼底の評価は、特に高齢者の脳心血管イベントを予測する上で意義のあるツールと言える。眼底検査の結果は眼科医だけでなく内科医にも共有されるべきだ」と述べている。
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10月 19 2021 白内障手術で網膜色素変性症患者のQOLが有意に改善――千葉大
網膜色素変性症患者に対する白内障手術によって、視力や視覚関連の生活の質(QOL)が有意に改善することが明らかになった。また、術前の中心窩エリプソイドゾーン(EZ)長が、術後の視覚関連QOL改善の予測に有用であることが分かった。千葉大学大学院医学研究院眼科学の三浦玄氏らの研究によるもので、詳細は「BioMed Research International」に9月13日掲載された。
網膜色素変性症(RP)は遺伝性の網膜疾患で、発症した場合は徐々に視機能が低下していき、長い年月の経過を経て失明に至ることもある。治療法が確立されていない指定難病の一つ。一方の白内障は眼内のレンズである水晶体が濁る疾患で、大半が加齢によるものであり高齢者にはごく一般的に見られる。水晶体を眼内レンズに置き換える手術により良好な視機能を取り戻せる。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。RP患者は一般人口よりも若年で白内障を発症する傾向のあることが指摘されている。RP患者の視機能低下に白内障も関与している場合、手術によって視機能の部分的な回復を期待できる。ただしこれまでのところ、白内障手術がRP患者の視覚関連QOLをどの程度改善するかは不明であり、また白内障手術後のQOLに関連する因子は分かっていなかった。
三浦氏らはこれらの点を明らかにするため、千葉大学病院で2009年1月~2018年1月に白内障手術を施行したRP患者54人、80眼を対象とした前向き研究を行った。術前と術後3カ月に、矯正視力と視覚関連QOLを評価。また術前には、病状評価の指標である中心窩EZ長や中心窩網膜厚(CFT)を測定した。なお、視覚関連QOLの評価には、国際的に頻用されているNEI VFQ-25というスコアを用いた。
対象者の白内障の状態は、Emery-Littleという6段階の分類でグレード2~3であり、全例で超音波水晶体乳化吸引術および眼内レンズの移植が行われた。術前のEZ長は平均2,721.5±23.6μm、CFTは平均213.7±69.6μmだった。術後3カ月時点までに、後発白内障(白内障手術後に生じることのある後嚢の混濁)が認められた患者はいなかった。
術前と術後3カ月の評価を比較すると、矯正視力、およびNEI VFQ-25スコアの下位尺度のうち色覚を除く全てのスコア(全体的見え方、近見視力、遠見視力、社会的機能、メンタルヘルス、役割制限、見え方による自立、周辺視野)が有意に改善していた。最も大きく改善していたのは全体的見え方(general vision)で、術前の100点中44.44±18.1点から術後には64.40±20.4点に上昇していた(P<0.0001)。
次に、術前のEZ長やCFTと術後のNEI VFQ-25スコアの関連を検討すると、術前のCFTと術後の色覚スコアとの関連が非有意であることを除いて、術後NEI VFQ-25の全ての下位尺度が術前のEZ長やCFTと有意に相関していた。
続いて術後のNEI VFQ-25スコアの改善度を目的変数、術前のNEI VFQ-25スコア、矯正視力、EZ長、CFTを説明変数とする統計解析を実施。その結果、術前のNEI VFQ-25スコアは、術後のNEI VFQ-25下位尺度のうち、社会的機能とメンタルヘルスを除く全てのスコアの改善度と有意な負の相関が認められた。また術前のEZ長は、全体的見え方、遠見視力、メンタルヘルス、見え方による自立などの改善度と有意に正相関していた。一方、術前の矯正視力やCFTは、術後NEI VFQ-25スコアの改善度と有意な相関が認められなかった。
これらの結果を基に著者らは、「網膜色素変性症患者においては、術前の視覚関連QOLスコアが低くても、白内障手術によってQOLの改善が期待できる。また術前のEZ長は、手術によるQOL改善を予測する重要な因子と考えられる」と結論付けている。
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1月 19 2018 観測用眼鏡なしで皆既日食を見た女性の網膜に穴
2017年8月21日、米国では国民の多くが皆既日食を見るために空を見上げた。その際、繰り返し注意が呼び掛けられていたにもかかわらず、観測用眼鏡を使用せずに日食を観測したために網膜の一部が焼け、穴が開いてしまった20歳代の女性がいる。
この女性患者の眼の状態について、米ニューヨーク眼・耳病院(NYEE)マウントサイナイのChris Y. Wu氏らが「JAMA Ophthalmology」12月7日オンライン版に掲載された論文で報告した。この女性は8月21日、肉眼で約6秒間にわたって太陽を見た後、観測用眼鏡をかけた上で15~20秒間、日食を観測した。
その4時間後、両眼ともに物がぼんやりと歪んで見えるようになり、黒以外の色が見えなくなってしまったという。3日後にNYEEの医師らが診察したところ、女性の眼の網膜には熱傷による穴が認められ、日光網膜症および光化学性の熱傷と診断された。
なお、診断に際しては、補償光学(AO)と呼ばれる技術を利用して、細胞レベルの眼の損傷を確認することができたという。網膜に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
お近くの治験情報を全国から検索できます。今回の論文の共著者であるNYEEのAvnish Deobhakta氏は、「このような症例に遭遇することは極めてまれであるため、つい最近までこうした先進技術によって日光網膜症の状態を調べることはできなかった。
われわれも、これまでに日食による網膜の損傷を細胞レベルで確認した経験がなかった」と話している。現在、日光網膜症に対する治療法はないが、同氏らは「今回の症例をきっかけにこの疾患の解明が進み、治療法を見つけられる可能性がある」としている。
なお、米国では次に皆既日食を観測できるのは2024年だが、Wu氏は「観測用眼鏡なしで太陽を直視することによるリスクの周知を徹底する必要がある」と指摘。
今回の症例を教訓として2024年の観測に備えてほしいと呼び掛けている。治験に関する詳しい解説はこちら
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10月 31 2017 まれな眼疾患の治療に光、米で遺伝子治療の承認へ
米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会は10月12日、RPE65遺伝子変異を原因とするまれな遺伝性網膜疾患に対し、遺伝子治療薬の承認を勧告することを全会一致で決定した。この遺伝子治療薬を開発する米Spark Therapeutics社が同日、明らかにした。この疾患は若年期から進行し、最終的に失明する場合が多いが、これまで有効な治療薬はなかった。もし承認されれば米国で初の遺伝性疾患に対する遺伝子治療となる。
遺伝性網膜疾患に関連する遺伝子は数多くあり、RPE65遺伝子はその1つ。
米国での患者数は約1,000人と推定されている。今回承認されたvoretigene neparvovec(商品名 Luxturna)は、人体に無害なウイルスをベクターとして用いてRPE65遺伝子を網膜内の細胞に注入することで同遺伝子が正常な状態に修復され、細胞の機能が回復するという。
同薬の開発にも参加した医師は「最大限の回復のためには両眼に注入する必要がある」としている。網膜疾患に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
お近くの治験情報を全国から検索できます。遺伝性網膜疾患の患者団体Foundation Fighting BlindnessのStephen Rose氏によると、米国には失明の可能性がある遺伝性疾患の患者数は約20万人と推定されており、こうした疾患に関連する約250の遺伝子が同定されている。
RPE65遺伝子はその1つで患者数は少ないが、「当事者にとっては極めて大きな問題だ」と同氏は強調する。Luxturnaによる治療は、RPE65遺伝子変異のある患者の視力を正常レベルにまで回復させるわけではないが、視機能は改善するという。Rose氏は「この治療によって患者は盲導犬や杖なしで移動できるようになる可能性があるということだ。
これまで治療法がなかった患者に希望をもたらす新たな治療といえる」と話す。FDAの諮問委員会が同薬の承認を勧告する根拠としている臨床試験では、Luxturnaによる治療を受けた患者29人のうち27人(93%)にmulti-luminance mobility test (MLMT)で評価した視機能の改善が認められたという。同試験の対象となった患者には4歳の小児もいたが、Rose氏は「できるだけ早い時期に治療を行い、網膜変性を抑制することが理想的だ」と話す。
また、遺伝子治療による効果が生涯にわたって持続するのかどうかは現時点では不明だが、10年以上前にこの治療を受けた患者の視力は現在も維持されているという。AP通信は、実際にこの治療を3年前に受けたCole Carperさん(11歳)と姉のCarolineさん(13歳)を紹介しているが、それによるとColeさんは治療後、空を見上げて母に「あの光るものは何?」と尋ね、「あれは星よ」と教えてもらったという。
また、Caroline さんは「治療の後、雪や雨が降ってくるのを見て本当に驚いた。雨や雪は地面にあるものだと思っていた」と振り返っている。今後Luxturna が承認されれば、2種類の血液がんに対する抗CD19キメラ抗原受容体T細胞(CART)療法に続く3件目の遺伝子治療の承認となり、遺伝性疾患に対する遺伝子治療としては初となる。
米ニクラウス小児病院のZenia Aguilera氏は「遺伝性眼疾患の遺伝子治療においてFDAは大きな一歩を踏み出した」と話す。
一方、Rose氏は「治療費がどの程度になるのか、またこの治療に保険が適用されるか否かは未定だが、必要とする誰もが治療を受けられるようになってほしい」と期待を示している。治験に関する詳しい解説はこちら
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