AIチャットボットによるてんかん教育介入の効果、「えぴろぼ」の実用性と今後の課題

てんかんを正しく理解し、偏見なく接する社会をつくるには、患者本人だけでなく周囲の人々の知識と意識の向上が欠かせない。こうした中、患者やその支援者にてんかんに関する情報や心理的サポートを提供する新しい試みとして、人工知能(AI)を活用したチャットボット「えぴろぼ」が登場した。今回、「えぴろぼ」の利用によって、てんかん患者に対する態度の改善や疾患知識の向上が認められたとする研究結果が報告された。研究は、国立精神・神経医療研究センター病院てんかん診療部の倉持泉氏らによるもので、詳細は「Epilepsia Open」に7月28日掲載された。
近年、AIやデジタルヘルスの進展により、チャットボットを活用した医療支援が注目されている。てんかん患者の多くは、自身の疾患に関する知識が不十分で、治療への関与や生活の質(QoL)にも影響を及ぼしている。また、スティグマや心理的負担から、教育プログラムへの参加率も低いのが現状である。こうした課題を受けて、埼玉医科大学、埼玉大学、国立精神・神経医療研究センターなどの研究チームは、患者や支援者が場所や時間を問わず情報にアクセスできる新たな教育支援ツールとして、AIチャットボット「えぴろぼ」を開発した。本研究では、「えぴろぼ」がてんかんに関する知識や意識の改善にどのように寄与するかを検討した。

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本研究は2つのフェーズで構成されていた。最初に、チャットボットの内容を洗練させるための予備的な試験フェーズを実施し、その後、本介入フェーズに移行した。本フェーズでは、スマートフォンアプリを通じて「えぴろぼ」を利用するために176名(てんかん患者13名、現在支援者として関わっている者69名、将来支援者となる可能性がある者28名、その他66名)が登録した。調査では、チャットボット使用前後での、てんかんに関する知識や偏見・スティグマ、患者自身のセルフスティグマ(内在化されたスティグマ)を評価した。経時的な変化の分析には、対応のあるt検定およびWilcoxonの符号付き順位検定を用いた。
登録した176名のうち、82名(てんかん患者9名、患者家族25名、支援者25名、医療従事者12名、その他11名)が介入前後の調査を完了した。参加者の平均年齢は41.8歳であり、ほとんどの参加者がてんかんについてある程度の知識をもっていた。約半数の参加者はてんかん発作を目撃した経験があると回答していたが、発作への対応について自信があると回答した者は半数に満たなかった。
「えぴろぼ」による介入は、てんかん患者に対する職場での平等に関する意識に有意な改善をもたらし(P<0.001)、てんかん治療に関する知識の向上にもつながった(P=0.022)。QOLやてんかんに関する一般的な知識については、統計的に有意ではなかったものの改善傾向を示した。一方で、てんかん患者(n=9)では、てんかんに関連するセルフスティグマのわずかな増加が観察された(P=0.31)。
本研究について著者らは、「今回の結果は、『えぴろぼ』がてんかんに関する教育や心理的支援において、広く活用できるデジタルツールとしての可能性を示している。その一方で、患者自身のセルフスティグマへの対応は今後の課題として残されている」と述べた。
なお、介入によりセルフスティグマが増加した理由について、著者らは評価期間が約1カ月と短いこと、また対象に含まれるてんかん患者が少数であることを限界として指摘した上で、「教育介入によって知識が増えた結果、むしろ自身が置かれた社会的立場や偏見を意識するようになり、結果として一時的にセルフスティグマが強まった可能性が考えられる」と言及している。

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