アジア人の肥満は重症COVID-19転帰不良のリスク因子でない可能性――多施設共同研究

 アジア人の肥満は、人工呼吸器を要する重症新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者において、転帰不良のリスク因子ではないことを示唆するデータが、国内多施設共同研究の結果として報告された。東京医科大学病院救命救急センターの下山京一郎氏らによる論文が、「Scientific Reports」に7月24日掲載された。

 COVID-19パンデミックの比較的初期の段階で、肥満が重症化リスク因子の一つであると報告された。しかし重症化して人工呼吸器を要した患者において、肥満が予後に影響を与えるのかは未解明であった。また、アジア人においては大規模なコホート研究がされておらず、知見がより少ない。これを背景として下山氏らは、国内のCOVID-19治療に関するレジストリである「J-RECOVER」のデータを用いた過去起点コホート研究により、ICUに収容され人工呼吸器を要した患者の転帰に肥満が関与しているか否かを検討した。J-RECOVERは国内66施設が参加して実施され、2020年1~9月に退院したCOVID-19症例4,700件の診療報酬包括評価(DPC)データや治療転帰などの情報が登録されている。

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 解析対象は、ICUにて侵襲的機械換気(IMV)が施行されていた580人から、BMIデータが記録されている477人とした。またアジア人の肥満の影響を検討するという目的から、アジア人以外は除外している。

 この477人の年齢は中央値67歳(四分位範囲56~75)、男性78.4%、BMI中央値25.0(22.3~28.1)であり、BMI25未満の非肥満群が242人(50.7%)、BMI25以上の肥満群が235人(49.3%)。各群のBMI中央値は、非肥満群22.4、肥満群28.2だった。

 肥満の有無で比較すると、年齢は肥満群のほうが若年で(中央値61対70歳、P<0.001)、糖尿病が多い(33.2対22.7%、P=0.014)という有意差が見られた。ただし、両群ともにチャールソン併存疾患指数(CCI)が中央値0、ICU患者の重症度の指標であるSOFAスコアは4、ICU滞在期間13日で、いずれも同等であり、慢性腎臓病、心不全の有病率も有意差がなかった。

 主要評価項目として検討した院内死亡は、非肥満群が71人(29.3%)、肥満群は49人(20.9%)であり、肥満群の方が少なかった(P=0.035)。単変量解析の結果、肥満は院内死亡との有意な負の関連が見られた〔オッズ比(OR)0.634(95%信頼区間0.417~0.965)〕。ただし、説明変数に年齢、性別、CCIを加えた多変量解析では単変量解析で見られた負の関連は消失し、肥満は院内死亡との関連は見られなかった〔OR1.150(同0.717~1.840)〕。

 副次的評価項目として検討した体外式膜型人工肺(VV-ECMO)の施行は、非肥満群が38人(15.7%)、肥満群は52人(22.1%)であり有意差がなかった(P=0.080)。単変量解析の結果、肥満は有意な関連因子でなく〔OR1.530(同0.960~2.420)〕、多変量解析の結果も非有意だった〔OR1.110(同0.669~1.830)〕。

 著者らは、本研究が後方視的解析であることなどの限界点を述べた上で、「国内のICUにてIMVを要したCOVID-19患者では、肥満は院内死亡リスクと関連がないことが示された。肥満を有することは重症COVID-19転帰不良のリスク因子ではないのではないか」と結論付けている。

 なお、欧米での一部の先行研究と異なる結果となった理由について、アジア人の肥満は欧米人ほどBMIが高くなく、本研究においても肥満群のBMIは中央値28.2であって欧米の過体重の範囲にあるという相違の影響を、考察として指摘している。また、肥満群のほうが若年であったこと、および、パンデミック当初に肥満が重症化リスク因子であると報告されていたため、肥満患者に対してより早期に積極的な治療が行われていた可能性の関与も考えられるという。

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HealthDay News 2023年9月19日
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