術後の吐き気、アロマセラピーで改善か

 術後の悪心・嘔吐(PONV)は、全身麻酔による手術を受けた患者の約30%で発生する。口腔外科手術では、PONVの発生する割合がさらに上がることが報告されているが、今回、アロマセラピーにより術後悪心(PON)の重症度が軽減されるという研究結果が報告された。北海道大学大学院歯学研究院歯科麻酔学教室の石川恵美氏らの研究によるもので、詳細は「Complementary Therapies in Medicine」に3月26日掲載された。

 PONVの管理は、全身麻酔での手術後の予後と患者の治療満足度にとって重要な要素の1つだ。海外のPONVのガイドラインでは、女性や、高リスクの手術、揮発性吸入麻酔薬の使用といった複数のリスク因子を有する患者に対しては、3~4つの対策を講じることが望ましいとされている。しかし、国内では保険適用可能な薬剤の数が限られており、これらの高リスク患者のPONV管理においては、複数の対策を講じるための代替となる新しい手段の検討が必要である。

治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

 PONVおよびPONの予防・治療に関しては、携帯性が高く、処方箋不要で、比較的低コストで、副作用のリスクが少ないといった観点から、アロマセラピーの活用がこれまでに研究されてきた。しかし、PONVおよびPONの管理に関して、高いエビデンスに基づいた研究は限られている。このような背景を踏まえ、著者らは口腔外科手術後のPON発症に対するアロマセラピーの効果を検討する単施設のランダム化比較試験を実施した。

 試験には、2022年7月16日から2023年12月31日の間に、北海道大学病院で全身麻酔下による口腔外科手術を受けた20歳以上の成人患者182人が含まれた。患者は1:1でアロマ群(93人)と対照群(89人)に割り付けられた。アロマ群には、ペパーミント・ショウガ・ラベンダーの3種類のエッセンシャルオイルからなる希釈液を吹き付けた綿がジッパー付きの袋に入れて渡された。対照群の袋には精製水を吹き付けた綿が入れられた。患者はPONの初回発症時に、渡された袋を開き2分間の深呼吸を行うよう指示された。PONの重症度は視覚アナログスケール(VAS)を用いて評価した。連続変数、順序変数(および名義変数)の比較にはそれぞれt検定、フィッシャーの正確確率検定を使用した。

 アロマ群で32人、対照群で25人の患者がそれぞれPONを発症した。この中から、麻酔中に予防的制吐剤を投与されていた患者、介入前にレスキュー制吐剤を使用した患者を除外し、アロマ群と対照群でそれぞれ26人と21人が最終的な解析に含まれた。介入前から介入後2分までのVASの変化量は、アロマ群で-19.15±3.67、対照群で-2.00±1.08であり、アロマセラピーにより有意にPONの重症度が軽減されることが示された(P<0.001)。

 PON発症後にレスキュー制吐剤が使用された患者の割合は、アロマ群(30.77%)が対照群(52.38%)よりも低かったものの、統計的に有意な差は認められなかった。

 試験終了時に行われた、5段階のリッカート尺度による治療満足度の評価では、満足度が高い(4または5)と回答した患者の割合は、アロマ群(79.23%)が対照群(14.29%)より有意に高かった(P<0.001)。なお、試験期間中に有害事象は観察されなかった。

 本研究の結果について著者らは、「本研究では、アロマセラピーが全身麻酔下での口腔外科手術後のPONの重症度と患者満足度を大幅に改善することが示された。したがって、その利点を考慮すると、アロマセラピーは複数の制吐策の1つとして有望なのではないか」と述べている。

 なお、本研究の限界点については、アロマセラピーの性質上、精製水との比較において患者の盲検化ができないこと、単施設の研究であったことなどを挙げている。

治験に関する詳しい解説はこちら

治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

治験・臨床試験についての詳しい説明

参考情報:リンク先
HealthDay News 2025年5月12日
Copyright c 2025 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
記載記事の無断転用は禁じます。