• 妊婦の親子関係の不良は妊娠中高血糖の予測因子

     両親との親子関係にあまり満足していない妊婦は、妊娠中に高血糖を来すリスクが高いというデータが報告された。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Pregnancy and Childbirth」に4月4日掲載された。藤原氏は、「妊婦健診の際に親子関係を尋ねることが、妊娠中高血糖のリスク評価に役立つのではないか」と述べている。

     妊娠中に血糖値の高い状態が続いていると、難産や巨大児出産などのリスクが高くなるため、妊娠中の積極的な血糖管理を要する。また、妊娠以前から糖代謝異常のリスク因子を有する女性は、妊娠糖尿病などの妊娠中高血糖(HIP)のリスクが高く、その糖代謝異常のリスク因子の一つとして、子ども期の逆境体験(ACE)が挙げられる。そのためACEのある女性は、HIPになりやすい可能性がある。とはいえ、妊婦健診などにおいて全妊婦のACEの有無を把握することは現実的でない。

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     一方、成人後の親子関係が良くないことは、ACEの表現型の一つと考えられている。よって、妊婦の現在の親子関係を確認することでACEの有無を推測でき、それによってHIPリスクを評価できる可能性が想定される。以上を背景として藤原氏らは、妊婦に対して親子関係の良し悪しを質問し、その答えとHIPリスクとの間に関連があるか否かを検討した。なお、HIPには、妊娠糖尿病(妊娠中に生じる高血糖)と、妊娠前からの糖尿病、および妊娠時に判明した糖尿病を含めた。

     解析対象は、2019年4月~2020年3月に、4府県(大阪、宮城、香川、大分)の産科施設58件を受診した全妊婦から、データ欠落者などを除外した6,264人。初診時に行った「両親との関係について満足しているか?」との質問に対して、93.3%が「満足している」、5.5%が「あまり満足していない」、1.2%が「全く満足していない」と回答。この3群間に、年齢、未婚者の割合には有意差がなかった。親子関係の満足度が高い群ほど教育歴(高卒以上の割合)は有意に高く、自己申告による精神疾患既往者の割合(全体で5.6%)は低かった(いずれもP<0.01)。

     HIPは4.4%に認められた。「親子関係に満足している」群を基準とするロジスティック回帰分析の結果、交絡因子未調整の粗モデルでは、「あまり満足していない」群のHIPのオッズ比(OR)が1.77(95%信頼区間1.11~2.63)であり有意に高かった。ただし、年齢、教育歴、精神疾患の既往を調整すると、OR1.53(同0.98~2.39)でありわずかに非有意となった(P=0.06)。「全く満足していない」群は、粗モデルでも有意な関係が認められなかった。

     次に、HIPの既知のリスク因子である精神疾患の既往の有無で層別化して検討。すると、精神疾患の既往がなく親子関係に「あまり満足していない」群のHIPリスクは、粗モデルでOR1.85(1.17~2.95)、年齢と教育歴を調整後にもOR1.77(1.11~2.84)であり、独立した有意な関連が認められた。一方、精神疾患の既往があり親子関係に「あまり満足していない」群では、有意なオッズ比上昇は認められなかった。なお、親子関係に「全く満足していない」群は、精神疾患の既往の有無にかかわらず非有意だった。

     著者らは既報研究に基づく考察から、親子関係の不良がHIPリスクを高めるメカニズムとして、喫煙や体重管理の悪化などの不健康な行動が関与している可能性があると述べている。また、親子関係に「あまり満足していない」群でHIPリスクが高いのに対して「全く満足していない」群はそうでなかった理由については、後者の群にはACEリスクがより高いために児童福祉支援を受けて育った女性が多く含まれており、逆説的にACEによるHIPリスクを高めるような行動増加などの影響が小さくなった可能性が考えられるとしている。

     以上より論文の結論は、「精神疾患の既往のない妊婦では親子関係の良くないことがHIPリスクと有意に関連していた。妊婦の診察においてACEの有無を直接評価することは困難だが、親子関係を問うだけでACEの影響により生じるHIPリスクを推測できるのではないか」とまとめられている。なお、研究の限界点として、BMIや喫煙習慣、妊娠中の体重増加、血圧など、HIPの既知のリスク因子を考慮していないことなどを挙げ、さらなる研究が必要としている。

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    HealthDay News 2023年7月3日
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  • 労働時間の変化にかかわらず睡眠時間減少が心理的苦痛に関連――パンデミック下の調査

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で行われた日本人対象の横断研究から、労働時間の増減にかかわらず、睡眠時間が減った場合に心理的苦痛が強くなる可能性が示された。産業医科大学環境疫学研究室の頓所つく実氏、藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Psychology」に3月14日掲載された。

     COVID-19パンデミックが人々のメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしていることについては、既に多くの研究報告がある。ただし、その影響を労働時間および睡眠時間の変化と結びつけて検討した研究は数少ない。パンデミックの初期には、職業や勤務形態によって労働時間が減る場合と増える場合があった。また、睡眠時間が大きく変わった人も少なくないことが知られている。藤野氏らは、産業医科大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」の一環として、パンデミック下での労働時間と睡眠時間の変化と、心理的苦痛の変化との関連を検討した。

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     2020年12月20~26日(パンデミック第3波の最中)にインターネット調査を行い、2万5,762人の労働者(正社員のほかに派遣・契約社員、在宅勤務者、自営業者などは組み入れ、アルバイトは除外)から有効回答を得た。うつ病と診断されている人や極端な低体重者(30kg未満)などは除外されている。アンケートは、パンデミックの前後で労働時間と睡眠時間がどのように変化したかという質問と、過去30日間の心理的苦痛の程度を把握する「ケスラー6(K6)」という指標の質問で構成されていた。K6は6項目の質問に対して0~4点で回答し、合計24点満点のスコアで評価する。本研究では5点以上の場合を「軽度の心理的苦痛がある」と判定した。

     アンケートの回答に基づき、全体を以下の九つのグループに分類。1.パンデミック後に、労働・睡眠時間がともに増加した群、2.労働時間は増加し睡眠時間は変化していない群、3.労働時間は増加し睡眠時間は減少した群、4.労働時間は変化せず睡眠時間が増加した群、5.労働・睡眠時間がともに変化していない群、6.労働時間は変化せず睡眠時間が減少した群、7.労働時間が減少し睡眠時間は増加した群、8.労働時間が減少し睡眠時間は変化していない群、9.労働・睡眠時間ともに減少した群。

     解析結果に影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、治療中の病気、教育歴、居住地域(緊急事態宣言が発出された地域か否か)、婚姻状況、12歳未満の子どもの有無、家族と過ごす時間、通勤時間、業種、勤務先の従業員数、就業形態(テレワークの頻度)、職位、仕事上のストレス、経済状況など〕を統計学的に調整し、「軽度の心理的苦痛がある」オッズ比を算出した。

     まず労働時間に着目すると、労働時間が増加した群は変化なしの群に比べて、軽度の心理的苦痛がある確率が有意に高かった〔オッズ比(OR)1.15(95%信頼区間1.03~1.28)〕。労働時間が減少した群は変化なしの群と有意差がなかった。次に、睡眠時間との関連を見ると、睡眠時間が減少した群は変化なしの群に比べて、軽度の心理的苦痛がある確率が2倍近く高かった〔オッズ比(OR)1.97(同1.79~2.18)〕。睡眠時間が増加した群は変化なしの群と有意差がなかった。

     続いて、前記の5番目の「労働・睡眠時間がともに変化していない群」を基準として9群の比較を行った結果、労働時間の増加・減少・不変に関係なく睡眠時間が減少した場合に、軽度の心理的苦痛がある確率が有意に増加していたことが明らかになった。一方、労働時間が増加しても睡眠時間も増加した場合は、有意なオッズ比上昇が観察されなかった。

     オッズ比の有意な上昇が認められた群は以下の通り。2番目の「労働時間は増加し睡眠時間は変化していない群」はOR1.24(1.08~1.43)、3番目の「労働時間は増加し睡眠時間は減少した群」はOR1.98(1.64~2.39)。6番目の「労働時間は変化せず睡眠時間が減少した群」はOR1.94(1.72~2.18)。9番目の「労働・睡眠時間ともに減少した群」はOR2.59(2.05~3.28)。なお、オッズ比の有意な低下が見られた群はなかった。

     以上より著者らは、「労働時間にかかわりなく、睡眠時間の減少が心理的苦痛の主な要因である可能性が示された。パンデミックの初期段階での経済的困難を伴う労働時間の減少が睡眠時間の減少を引き起こし、その結果、心理的苦痛を増大させたのではないか」と述べている。また、「この知見は、労働者の良好なメンタルヘルス維持のための睡眠衛生の重要性を物語っている」と付け加えている。

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    HealthDay News 2023年7月3日
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