• マスクにアロマシールを貼るとメンタルにも好影響

     香りのするシール(アロマシール)をマスクに貼ると、息切れなどの症状が軽くなり、メンタルヘルスにも良い影響が生じることが、無作為化二重盲検比較試験の結果として報告された。星薬科大学の湧井宣行氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に11月16日掲載された。

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、マスクを着用する機会が増加した。マスク着用時に8割以上の人が息苦しさや暑苦しさなどのストレスを感じていると報告されている。COVID-19の感染抑止にマスクが有効であったことが示されたことから、パンデミック終息後にも他の呼吸器感染症のリスク低減のために、引き続きマスク着用が推奨される傾向が続くと考えられ、着用時のストレス対策の重要性が増している。

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     対策の一つとして香り(アロマ)が役立つ可能性があり、夜勤看護師を対象に行われた研究では、アロマスプレーをマスクに吹きかけると眠気が抑制されて注意力が高まると報告されている。しかし、スプレーで噴射したアロマ成分は短時間で蒸発してしまい、効果が長続きしないという欠点がある。これに対してアロマシールは香りが長時間持続するという特徴があり、マスク貼付用のシールも流通している。ただし、マスク用アロマシールの効果をエビデンスレベルの高い研究手法で検証した結果は報告されていない。以上を背景として湧井氏らは、エビデンスレベルが最も高い研究手法とされる、プラセボ対照無作為化二重盲検比較試験を行った。

     研究参加者は、18歳以上の大学生62人(平均年齢21.1±1.6歳、女性88.5%)。アロマオイルを習慣的に用いている学生、アロマオイルが好きでない、またはアレルギーのある学生、慢性疾患のある学生などは除外されている。無作為に31人ずつの2群に分け、1群には柑橘系の香りのするアロマシールを支給し、他の1群には無臭のシールを支給して、2週間にわたって使用してもらった。香りが強すぎる場合はシールをハサミで切り、任意の大きさに調節して良いこととした。なお、柑橘系の香りは世界で最も人気がある香りとされている。

     主要評価項目は、抑うつや不安・ストレスの程度を把握する「DASS-21」という指標のスコアとした。そのほかに、マスク着用時の不快感を5点満点で回答してもらうアンケートを用いた評価、および、世界保健機関(WHO)によるメンタルヘルスの評価指標である「WHO-5」のスコアを、副次的評価項目とした。なお、DASS-21は63点満点でスコアが高いほど抑うつや不安・ストレスが強いことを表し、WHO-5は25点満点でスコアが高いほどメンタルヘルスが良好と判定する。本研究参加者のベースラインのDASS-21は8.33±7.26、WHO-5は15.39±4.01で、不快感のアンケートのスコアは2.43±1.01だった。

     ベースラインにおいて、年齢、性別の分布、上記3種類の評価指標のスコア、および、外出頻度、香りの好みに有意差はなかった。2週間の介入期間中のシール利用日数は、アロマ群は5.6±1.2/週、プラセボ群は5.4±1.3/週であり、プラセボ群の1人が介入期間中に脱落し、最終的にアロマ群31人、プラセボ群30人が解析対象となった。

     結果について、まず主要評価項目であるDASS-21の変化に着目すると、アロマ群ではベースラインから2週後に-3.68(95%信頼区間-5.42~-1.93)と有意に低下(改善)していたのに対して、プラセボ群は-1.06(同-2.48~0.71)であり有意な変化が観察されなかった。最小二乗平均の差(LSMD)は-2.61(同-5.10~-0.12)で群間に有意差が確認された(P=0.04)。また、DASS-21の下位尺度の中で、抑うつの指標についてもLSMDが-1.05(同-2.06~-0.04)であり、有意差が認められた(P=0.04)。

     不快感のアンケートのスコアも、アロマ群は2週後に-0.62(同-0.87~-0.37)と有意に低下していたのに対して、プラセボ群では-0.09(同-0.34~0.16)であり有意な変化は観察されなかった。LSMDは-0.53(同-0.88~-0.18)で有意差が確認された(P=0.004)。

     WHO-5については、下位尺度の「落ち着いたリラックスした気分で過ごした」というスコアの変化に有意差があり、アロマ群でより大きく上昇していた(P=0.02)。有害事象として、アロマ群で頭痛、プラセボ群で胸痛がそれぞれ1件報告されたが、いずれもシール貼付との関連性は確認されず、2日以内に改善していた。

     著者らは、本研究の対象が若年者のみであり、かつ、男性よりも嗅覚が優れているとされる女性が大半を占めていたという限界点を挙げた上で、「マスクにアロマシールを貼ることで呼吸の快適性が向上し、メンタルヘルス上のメリットも得られることが実証された」と述べている。また、感染症抑止という目的だけでなく、リラックス効果を得るという目的で、例えば飛行機の長時間フライト時にアロマシールを貼付したマスクを着用するという使い方もあるのではないかとの提案を付け加えている。

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    HealthDay News 2023年12月25日
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  • 小児期の学校での逆境体験が成人後の社会的ひきこもりに関連――国内ネット調査

     他人との関係を築こうとせずに「社会的ひきこもり」の状態にあるとされる成人には、子どもの頃に学校で逆境体験のあった人が多いとするデータが報告された。公益社団法人子どもの発達科学研究所の和久田学氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Public Health」に10月26日掲載された。

     小児期の逆境体験(adverse childhood experience;ACE)は、成人後のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが知られている。就労や婚姻などの人生の重要なイベントに多大な影響が生じる成人後のひきこもりも、ACEと関連のある可能性が考えられるが、そのような視点での検討は十分なされていない。また、ACEに関するこれまでの研究の多くは主として家庭内で保護者から受けた行為の影響を調査しており、学校で教師や級友から受けた行為の影響については理解があまり進んでいない。これらを背景として和久田氏らは、学校でのACEを体験した成人の割合、それらの体験と成人後の抑うつ・不安レベルおよび社会的ひきこもりとの関連についてのインターネット調査を行った。

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     調査対象は、ネット調査パネルに登録している20~34歳の成人4,000人であり、匿名で回答してもらった。回答者の1人はトラップ項目(盲目的に回答している人を除外するために設けた質問)に反応したため、解析対象は3,999人となった〔平均年齢27.2±4.3歳、男性と女性がともに49.4%(その他1.2%)〕。

     ACEの評価には、10項目(保護者による身体的虐待、言葉の虐待、性的虐待、ネグレクト、夫婦間の家庭内暴力、離婚、死別など)のトラウマ体験を問い、「はい」と回答した項目数を「総ACEスコア」として解析に用いた。学校でのACEの評価には、教師から受けたACEについては前記の質問の主語の「保護者」を「学校または幼稚園の先生」と置き換えて質問し、該当項目数を「教師ACEスコア」として解析。子ども間でのACEについては、同級生または上級生によるいじめ被害の体験を「いじめACEスコア」として解析した。また、教師ACEスコアといじめACEスコアを統合した「学校ACEスコア」も解析に用いた。

     抑うつや不安のレベルは、PHQ-4という4項目の質問から成る評価指標を用いて把握した。PHQ-4は0~12点でスコア化され、スコアが高いほど抑うつや不安が強いと評価される。本研究では6点以上を中等度以上の抑うつ・不安と定義した。

     病気や妊娠、家族の介護、新型コロナウイルス感染症対策、自然災害などの理由がないにもかかわらず、6カ月以上にわたり他者との交流を伴う外出をしていない場合を「社会的ひきこもり」と定義すると、138人(3.5%)が該当した。解析対象全体のACEスコアは平均0.76±1.37で、1点以上が35.9%、4点以上が6.1%だった。学校ACEスコアの平均は0.96±1.18で、1点以上が55.1%、教師ACEスコアは0.32±0.75、いじめACEスコアは0.64±0.71だった。またPHQ-4は2.65±3.16で、16.3%が中等度以上の抑うつ・不安を抱えていると判定された。

     社会的ひきこもり状態を目的変数、年齢、性別、教育歴、世帯人員、生活環境(収入源や暮らし向き)、および総ACEスコア、学校ACEスコアを説明変数とするロジスティック回帰分析の結果、世帯人員〔1人多いごとのオッズ比(OR)1.14(95%信頼区間1.01~1.30)〕とともに、学校ACEスコア〔1点高いごとにOR1.29(同1.13~1.47)〕が独立した正の関連因子として抽出された。反対に、教育歴が長いこと〔OR0.65(0.57~0.74)〕や生活環境が良好なこと〔OR0.65(0.58~0.74)〕とは、負の有意な関連が認められた。一方、年齢や性別、および総ACEスコア〔OR1.01(0.89~1.13)〕は、社会的ひきこもりとの有意な関連が示されなかった。

     学校ACEスコアの代わりに教師ACEスコアといじめACEスコアの二つを説明変数として用いた解析でも、世帯人員以外の有意な正の関連因子は、教師ACEスコア〔OR1.23(1.01~1.51)〕といじめACEスコア〔OR1.37(1.06~1.78)〕であり、総ACEスコアは非有意だった。なお、中等度以上の抑うつ・不安を目的変数とする解析では、学校ACEスコアとともに総ACEスコアも有意な正の関連因子として抽出された。

     以上の結果を基に著者らは、「学校関連のACEは家庭内でのACEより高頻度で発生している可能性があり、かつ成人後の社会的ひきこもりの発生とメンタルヘルスの悪化に関連していた。教育関係者は、学校が成人期まで影響が続く危害を子どもたちに及ぼし得る場であることを認識する必要があるのではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2023年12月25日
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