• 持ち家と公的・民間賃貸住宅、死亡リスクが低いのは?

     住宅は健康や生死を左右するかもしれない。国内9市町村における高齢者4万人以上のデータを用いた研究で、公的な賃貸住宅に住む人は、民間の賃貸住宅に住む人と比べて死亡リスクが低いことが明らかとなった。また、死亡リスクが最も低いのは持ち家であることも示された。これは東京大学先端科学技術研究センターの古賀千絵氏らによる研究の結果であり、「Scientific Reports」に3月30日掲載された。

     住宅には持ち家と賃貸住宅があるが、賃貸住宅はさらに民間の賃貸住宅と公的な賃貸住宅に分けられる。公的な賃貸住宅には、UR都市機構(旧公団)が供給する住宅、都道府県や市町村による公営・公社の住宅が含まれる。住宅と健康の関係についてはこれまでに国内外でさまざまな研究が行われているものの、日本における住宅の種類の違いが死亡リスクに及ぼす影響は明らかにされていなかった。そこで古賀氏らは、日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを用いて、日常生活動作が自立した65歳以上の高齢者4万4,007人(男性47.3%)を対象に、追跡期間9年間(2010~2019年)の死亡リスクを分析した。

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     対象者のうち、持ち家に住む人は3万7,761人(85.8%)で最も多かった。民間の賃貸住宅に住む人は2,280人、公的な賃貸住宅は2,497人で、その他(社宅や寮など)が586人だった(不明883人)。9年間で合計1万638人(24.2%)が死亡していた。

     社会人口統計学的要因(年齢、性別、婚姻状況、所得、教育歴、最長の職業など)、健康状態(うつ、生活習慣病、がんなど)、社会的状態(スポーツや趣味への参加、社会的サポート)、環境要因(居住地の人口密度、居住歴)の影響を統計的に調整した上で、死亡率のハザード比を算出した。その結果、死亡リスク(持ち家との比較)は、民間の賃貸住宅で1.45倍(95%信頼区間1.34~1.58)、公的な賃貸住宅で1.17倍(同1.07~1.27)高かった。すなわち、公的な賃貸住宅に住む人は、民間の賃貸住宅に住む人と比べて、9年間の死亡リスクが28%低いことが明らかとなった。

     以上のように、民間の賃貸住宅と比べて、公的な賃貸住宅に住む高齢者の方が死亡リスクは有意に低いという結果が得られたが、これは諸外国の研究結果とは異なるものだったという。この点について古賀氏らは、JAGESの別調査から、公的な賃貸住宅の中ではUR都市機構が開発した大規模な団地に住む人が多いと考えられることに言及。このような住宅はコミュニティの育成を目指した「近隣住区論」をベースに、学校などの公共施設、商店、緑地や公園、オープンスペースなど、周辺環境が計画的に配置されており、近隣環境が健康行動に影響を及ぼしたのではないかと説明する。

    その上で古賀氏らは、「公的な賃貸住宅で死亡リスクが低い要因を明らかにすることは、健康長寿社会の実現に向けた住宅政策や街づくりの検討に役立つ可能性がある」と話す。また、今回の研究では考慮されていない要因(対象者の資産、住宅の改修歴、エアコンの有無など)を挙げ、住環境と死亡リスクの関連やそのメカニズムについて、「今後も引き続き検証したい」としている。

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    HealthDay News 2024年7月9日
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  • 心電図所見から夜間の自殺企図を予測できる?

     精神疾患と心電図所見の関連については多くの研究が行われている。新たな研究として、自殺企図歴のある日本人の精神疾患患者を対象に、夜間の自殺企図と心電図の波形との関連が検討された。その結果、早期再分極を示す心電図により、夜間の自殺企図を予測できる可能性のあることが示された。東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科の亀山洋氏らによる研究結果であり、「Neuropsychopharmacology Reports」に3月17日掲載された。

     早期再分極パターン(early repolarization pattern;ERP)は、心電図におけるQRS-ST接合部(J点)の上昇(スラーやノッチと呼ばれる波形)を特徴とする。ERPは男性に多く、健常人にも見られるが、精神疾患との関連が報告されており、自殺企図などの衝動性と関連する可能性も示唆されている。自殺行動は夜間の時間帯に多いことが知られているため、その危険性を事前に予測することが重要となる。

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     そこで著者らは、自殺企図歴があり、2015年1月から2023年1月に東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科を受診、または身体科入院中に精神神経科が介入した精神疾患患者で、心電図検査を行った人を対象とする後ろ向き症例対照研究を行い、心電図におけるERPと夜間の自殺企図との関連を検討した。全身状態が悪いなど心電図に影響が及ぶ可能性のある患者、自殺企図の時間帯が不明な患者、夜間(18時~6時)の心電図しか記録されていない患者などは対象から除外し、日中に記録された最初の心電図を用いて評価した。

     評価対象者43人(男性17人、女性26人)のうち、ERPのある患者は21人(平均年齢46.9±18.7歳、男性9人)、ERPのない患者は22人(同55.7±19.1歳、同8人)だった。自殺企図が夜間に行われたのは、男性、女性のどちらも11人ずつだった。夜間の自殺企図の割合は、ERPのある患者で76.2%、ERPのない患者で31.8%だったが、この差は統計学的に有意ではなかった。

     自殺企図の行われた時間帯を比較すると、ERPのある患者では早朝5時と夜間21時が最も多かった。一方、ERPのない患者では8時と14時が最も多く、早朝や夜間の自殺企図は少ないという特徴が見られた。また、心電図所見を比較したところ、心拍数、QRS間隔、QTc間隔について、ERPの有無で有意な差は認められなかった。

     さらに、夜間の自殺企図との関連を検討するため、ERP、男性、50歳代を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。その結果、ERPは夜間の自殺企図に対する有意な予測因子であることが明らかとなった(オッズ比5.25、95%信頼区間1.32~20.8)。一方、男性(同2.50、0.61~10.2)および50歳代(同3.07、0.22~43.3)に関しては、夜間の自殺企図の有意な予測因子ではなかった。

     以上の結果について著者らは、単一施設での後ろ向き研究であること、症例数が少なかったことなどから一般化可能性には限界があるとした上で、結論として、「ERPと夜間の自殺企図との関連が明らかになり、ERPから夜間の自殺企図を予測できる可能性が示唆された」と述べている。

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    HealthDay News 2024年5月13日
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  • 年齢や婚姻状況で異なる、「世帯の人数」と心理的苦痛の関係

     日本の全国調査データを活用して、年齢・性別や婚姻状況により、世帯の人数と心理的苦痛の関係が異なるかどうかを調べる研究が行われた。その結果、若い世代や未婚者では、世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いという関係が認められた。奈良県立医科大学県民健康増進支援センターの冨岡公子氏らによる研究結果であり、「Frontiers in Public Health」に3月11日掲載された。

     一人暮らしや少人数の世帯は増加の一途をたどっている。2024年4月には「孤独・孤立対策推進法」が施行され、孤独や孤立への総合的な対策が必要とされている。これまでにも世帯の人数とがんや認知症、幸福感、メンタルヘルスなどとの関連が研究されているが、世帯の人数が及ぼし得る影響は、年齢や性別、配偶者の有無などにより異なる可能性がある。

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     そこで著者らは、厚生労働省による2019年の「国民生活基礎調査」のデータを用いて、世帯の人数と心理的苦痛との関係を詳細に分析した。「K6」という尺度で評価された「こころの状態」の結果で、合計得点が13点以上の場合を「心理的苦痛が強い」と定義。世帯の人数は5人以上、3~4人、2人、1人に分類し、年齢層、性別、婚姻状況ごとに調査した。

     20歳未満の人などを除外した結果、研究対象者は40万5,560人(男性19万3,346人、女性21万2,214人)となった。心理的苦痛が強い人の割合は、男性3.6%、女性4.7%と有意な男女差が認められた。年齢層ごとにみると、男女とも、心理的苦痛が強い人は25~29歳で最も多く、30~60歳で減少、65~74歳で最も少なく、75歳以降で再び増加していた。

     次に、世帯の人数と心理的苦痛との関連を検討するため、社会経済状況や生活習慣、現病歴などの影響を調整した上でロジスティック回帰分析を行った。その結果、世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いという有意な量反応関係が、男性で20~59歳、女性では20~39歳の年齢層で認められた(全て傾向性P<0.001)。すなわち、5人世帯と比べたオッズ比(95%信頼区間)は、3~4人、2人、1人世帯の順に、20~39歳の男性では1.09(0.97~1.23)、1.33(1.13~1.56)、1.96(1.64~2.34)、40~59歳の男性では1.02(0.90~1.16)、1.17(1.02~1.36)、1.52(1.28~1.81)、20~39歳の女性では0.98(0.88~1.08)、1.40(1.22~1.60)、1.78(1.50~2.11)だった。一方、これより上の年齢層では、同様の関係は認められなかった。

     性別と婚姻状況で層別化すると、男女とも未婚者でのみ、同様に世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多かった(男女とも傾向性P<0.001)。5人世帯と比べたオッズ比(95%信頼区間)は、同順に、男性では1.16(0.999~1.35)、1.46(1.22~1.75)、1.89(1.58~2.26)、女性では1.02(0.89~1.17)、1.37(1.16~1.63)、1.64(1.37~1.96)だった。

     今回の結果について著者らは、若年層は高齢者と比べて地域社会とのつながりが希薄であり、少人数世帯の場合に孤立や孤独を感じやすいと説明。一方、特に60~74歳の女性は、世帯の人数が2~4人の場合、5人以上や一人暮らしよりも心理的苦痛の強い人が多かったことに言及し、婚姻状況により家事や介護の負担に差が生じやすいことを付け加えている。

     以上から著者らは、因果関係は示されていないとした上で、「世帯の人数が少ないほど心理的苦痛の強い人が多いことを示す量反応関係が、性別に関係なく、若い世代と未婚者で認められた」と結論。「高齢者だけでなく若年者にも、単身世帯だけでなく少人数世帯にも目を向ける必要がある」と述べている。

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    HealthDay News 2024年5月7日
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  • 看護師主導の多職種連携により高齢心不全患者の死亡率が低下

     高齢化により心不全の有病率は上昇し、マルチモビディティ(多疾患併存)の状態にある患者が増えている。このような患者を対象に、看護師が主導し多職種介入を行ったところ、死亡率が有意に低下したという結果が示された。これは大阪大学大学院医学系研究科老年看護学教室の竹屋泰氏、齊前裕一郎氏らによる研究結果であり、「American Heart Journal Plus: Cardiology Research and Practice」に1月20日掲載された。

     異なる専門分野を有する医療従事者が関与する多職種連携は、患者に関わる職種の数が多い(multidisciplinary intervention)だけでは不十分で、多職種が互いに連携して協働する(interprofessional work)必要がある。看護師は、患者の疾患と生活の両方に携わり、24時間体制でケアを提供し、他の職種との関わりも多いことから、看護師主導による多職種連携の有効性についてはこれまでにも研究されている。しかし、複数の併存疾患を有し、複雑な管理を要する患者に対する効果は明らかになっていなかった。

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     そこで著者らは、急性期病院に入院し、チャールソン併存疾患指数(CCI)が2点以上の心不全患者を対象に、看護師主導による多職種連携の導入前後で患者の死亡率や緊急入院率を比較する後方視的症例対照研究を行った。導入後の2017年4月~2020年3月に入院した患者351人を多職種連携群、2014年4月~2016年3月の患者412人を通常ケア群とし、各群から年齢・性別・NYHA心機能分類でマッチングさせた200人ずつ(平均年齢80歳、男性62%)を評価対象とした。

     導入された多職種連携は3ステップからなる。ステップ1では入院3日以内に看護師がスクリーニングを実施し、日常生活動作(ADL)低下リスク、在宅医療や福祉制度の必要性など、退院後の問題を評価。ステップ2はスクリーニング基準を満たす患者への標準的支援であり、入院7日以内に看護師が情報を収集。看護師がファシリテーターとなり多職種カンファレンスを行い、退院支援の必要性などを検討。退院目標を策定し、患者と家族の同意を得て、目標達成に向けて介入した。ステップ3は、標準的支援では不十分と看護師が判断した場合に実施し、看護師が必要と判断した多職種が関与。再入院のリスクが高い場合や在宅医療が必要な場合には、在宅医や訪問看護師と協働した。

     対象患者のNYHA心機能分類の内訳は、クラスⅠが32.5%、クラスⅡが46.5%、クラスⅢが20.5%、クラスⅣが0.5%であり、CCIは平均6点だった。多職種連携群では通常ケア群と比べて、ポリファーマシー(6種類以上の薬剤を使用)および医療ソーシャルワーカーの関与の割合が有意に低く、訪問看護や在宅医への移行の割合が有意に高かった。要介護度や入院期間については両群間で有意差はなかった。

     また、全ての死因による死亡リスクは、多職種連携群の方が通常ケア群よりも有意に低いことが明らかとなり(ハザード比0.45、95%信頼区間0.29~0.69)、退院後1年時点での死亡率には7%の有意差が認められた(9%対16%)。退院後6週間以内の緊急入院のリスクも、多職種連携群の方が有意に低かった(ハザード比0.16、95%信頼区間0.08~0.30)。

     今研究における多職種介入の特長として著者らは、疾患に加え患者の生活機能に精通した看護師がファシリテーターとなり、適時適切な専門職と連携する、入院初期から退院まで、1人の入退院支援看護師が継続的に関与する、必要に応じ、患者の同意を得て地域の専門職と情報を共有・連携するといった、看護師主導の包括的な多職種連携を挙げている。研究の結論として、「看護師主導の多職種連携により、心不全と複数の併存疾患を有する患者の死亡率が低下する可能性がある」と述べている。

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    HealthDay News 2024年5月7日
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