• 緑内障患者では皮膚カロテノイドレベルが認知機能と関連している

     強力な抗酸化作用を持つカロテノイドの体内レベルが低いことが、緑内障患者の認知機能低下と関連がある可能性を示すデータが報告された。島根大学医学部眼科学講座の谷戸正樹氏らが、皮膚で非侵襲的に測定したカロテノイドレベルと認知機能テストの結果との関連を解析した結果であり、詳細は「Current Issues in Molecular Biology」に7月3日掲載された。

     緑内障は視神経の障害によって視野の不可逆的な異常が進行する疾患で、高齢化を背景に患者数が増加しており、国内の失明原因のトップを占めている。認知症も高齢化を背景に患者数が増加しており、両者ともに神経変性疾患であるという共通点があって、発症や進行に活性酸素の関与が想定されている。一方、野菜や果物に豊富に含まれているカロテノイドは強い抗酸化作用があり、これらの神経変性疾患に対して保護的に働く可能性が示唆されている。とはいえ、体内のカロテノイドの測定には採血が必要なこともあり、眼科領域での研究はあまり進んでいない。しかし近年、反射分光法を用いて体内のカロテノイドを皮膚レベルで測定する技術が確立され、新たな展開を迎えている。

    緑内障に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     谷戸氏らはこの測定法を用いて、緑内障患者のカロテノイドレベルと認知機能や眼科所見との関係性を検討した。解析対象は、同大学医学部附属病院眼科外来の緑内障患者406人(812眼)。緑内障以外の眼底疾患が併存している患者は除外されている。主な特徴は、平均年齢が79.5±7.6歳、男性56.2%で、病型は約6割(57.6%)が原発開放隅角緑内障であった。皮膚カロテノイド(SC)レベルは0~1,200au(任意単位)の間で評価され、研究参加者の平均は325.1±19.3auだった。

     認知症のスクリーニングに用いられているMini-Cogというテストで、5点中2点以下の場合を「認知症の疑いあり(陽性)」と判定したところ、28人(6.9%)がこれに該当した。認知症の疑いの陽性群と陰性群を比較すると、年齢は陽性群が高く有意差が認められ(79.5±7.6対69.0±11.3歳、P<0.0001)、SCレベルも前者が低値という有意差が認められた(269.5±86.5対329.2±120.4au、P=0.01)。性別の分布やBMI、血圧、喫煙者率などには有意差がなかった。陽性群の眼科所見(56眼)を陰性群(756眼)と比較すると、陽性群は眼圧が高く、視力と視野感度は低く、有水晶体眼が少ない(白内障手術後が多い)という有意差が認められた。緑内障のタイプの分布は差がなかった。

     次に、SCレベルを従属変数として混合回帰モデルで検討した結果、現喫煙、心拍数高値とともに、認知症の疑いが陽性であることが、SCレベルが低いことの独立した関連因子として特定された。反対に女性であることはSCレベルが高いことの独立した正の関連因子として特定された。年齢やBMI、血圧、視力、視野感度などは、SCレベルの独立した関連因子ではなかった。

     続いて視野感度を従属変数とする検討を施行。その結果、眼圧高値、有水晶体眼、眼科手術の既往などとともに、認知症の疑いが陽性であることが、視野感度の独立した負の関連因子として特定された。年齢や性別、現喫煙、BMI、血圧、心拍数、およびSCレベルは、視野感度の独立した関連因子ではなかった。

     著者らは本研究が横断的デザインで行われているという限界点を述べた上で、「緑内障患者において、Mini-Cogで評価した認知機能の低下がSCレベルの低下と関連していた。これは、認知機能低下抑制のため、カロテノイドレベルを維持するという戦略に潜在的なメリットがあることを示唆している」と総括している。一方、本研究ではカロテノイドの視野感度に対する保護的作用は示唆されなかったが、カロテノイドの神経保護作用の報告もあることから、「さらなる研究が求められる」としている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2024年9月2日
    Copyright c 2024 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 脳梗塞入院時の口腔状態が3カ月後の生活自立度と有意に関連

     脳梗塞で入院した時点の歯や歯肉、舌などの口腔状態が良くないほど、入院中に肺炎を発症したり、退院後に自立した生活が妨げられたりしやすいことを示すデータが報告された。広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学の江藤太氏、祢津智久氏らが、同大学病院の患者を対象に行った研究の結果であり、詳細は「Clinical Oral Investigations」に7月19日掲載された。

     全身性疾患の予防や治療における口腔衛生の重要性に関するエビデンスが蓄積され、急性期病院の多くで入院中に口腔ケアが行われるようになってきた。ただし、脳梗塞発症時点の口腔状態と機能的転帰や院内肺炎リスクとの関連については不明点が残されていることから、祢津氏らはこれらの点について詳細な検討を行った。

    脳梗塞に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     2017年7月~2023年8月に脳梗塞急性期治療のため同院へ入院し、データ欠落がなく発症前の生活が自立していた(修正ランキンスケール〔mRS〕2点以下)連続247人を解析対象とした。口腔状態は、歯や歯肉だけでなく、舌や口唇、口内粘膜の状態、および含漱(うがい)ができるか否かなどの8項目を評価する指標(modified oral assessment grade;mOAG)で判定した。mOAGは同院の西裕美氏らが独自に開発した口腔衛生状態を表す指標で、0~24点の範囲にスコア化され、スコアが高いことは口腔状態の不良を意味する。

     入院3カ月後のmRSの評価で、137人(55.5%)が転帰良好(スコア上限が2点〔仕事や活動に制限はあるが日常生活は自立している〕)、110人(44.5%)が転帰不良(スコア下限が3点〔食事やトイレなどは介助不要だが外出時には介助を要する〕)と判定された。入院時の口腔状態は、転帰良好群がmOAGスコアの中央値6点(四分位範囲5~7)、転帰不良群が11点(同10~14)で、後者が有意に高値(不良)だった(P<0.001)。

     交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒習慣、脳卒中の既往、併存疾患、入院前mRSスコア、神経学的重症度〔NIHSSスコア〕、発症から入院までの期間など)を調整した多変量解析の結果、入院時のmOAGスコアが予後不良に独立した関連のあることが明らかになった(1点高いごとにオッズ比〔OR〕1.31〔95%信頼区間1.17~1.48〕)。mOAGスコアで予後不良を予測する最適なカットオフ値は7であり、感度83.9%、特異度65.5%、予測能(AUC)0.821と計算された。またmOAGスコアが7点以上の場合、予後不良のオッズ比は4.26(2.14~8.66)だった。

     入院中に肺炎を発症したのは13人(5.3%)だった。入院時の口腔状態は、肺炎非発症群がmOAGスコアの中央値6点(四分位範囲4~9)、肺炎発症群が10点(同8~12)で、後者が有意に高値(不良)だった(P<0.001)。

     交絡因子を調整した多変量解析の結果、入院時のmOAGスコアが院内肺炎発症に独立した関連のあることが明らかになった(1点高いごとにOR1.21〔95%信頼区間1.07~1.38〕)。mOAGスコアで院内肺炎発症を予測する最適なカットオフ値は8であり、感度84.6%、特異度64.5%、AUC0.783と計算された。またmOAGスコアが8点以上の場合、院内肺炎発症のオッズ比は7.89(1.96~52.8)だった。

     なお、同院では全入院患者に対して標準化されたプロトコルに基づく口腔ケアが実施されている。その結果、入院中にmOAGが2回評価されていた患者(159人)のうち91人は、mOAGスコアの改善を認めた。しかしこの改善と、3カ月後のmRSや院内肺炎発症率との関連は有意でなかった。その理由として、「mOAGが2回評価されていた患者は重症例が多かったためではないか」との考察が加えられている。

     以上一連の結果を基に著者らは、「脳梗塞急性期のmOAGスコアは、院内肺炎リスクや3カ月後の機能的予後と独立して関連していた。脳梗塞患者の入院に際して、口腔状態の評価結果を医療従事者間で共有し、積極的な口腔衛生介入をすべきではないか」と述べている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2024年9月2日
    Copyright c 2024 HealthDay. All rights reserved.
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 歯周ポケットなどの歯科健診項目は嚥下機能と関連

     75歳以上の日本人高齢者を対象に、歯科健診の結果と嚥下機能との関連を調べる縦断的研究が行われた。その結果、歯周ポケットの深さが4mm以上、硬いものが噛みにくいこと、水やお茶でむせること、口が乾くことは、将来の嚥下機能低下と関連することが明らかとなった。朝日大学歯学部口腔感染医療学講座社会口腔保健学分野の岩井浩明講師、友藤孝明教授らによる研究であり、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に5月24日掲載された。

     加齢に伴う筋肉量の減少などにより、嚥下機能は低下する。また、ストレスや抑うつなどのメンタルヘルスの問題も嚥下機能低下のリスクであるとされる。口腔の健康状態に関しては、唾液の分泌、残存歯数、歯周病菌などと嚥下機能との関連が報告されている。しかし、口腔に関するどのような要因が、嚥下機能低下につながるのかは明らかになっていない。

    嚥下困難に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     そこで著者らは、2018年4月から2019年3月に岐阜県内の4つの市で歯科健診を受診した75歳以上の地域住民を2020年4月から2021年3月まで追跡し、歯科健診項目と2年後の嚥下機能低下との関連を検討した。歯科医師による歯科健診として、嚥下機能、残存歯数、虫歯の有無、歯周ポケットの深さなどを評価した。反復唾液嚥下試験を行い、嚥下回数が30秒間に3回未満の場合を嚥下機能低下と判定した。また、自記式質問票を用いて、硬いものが噛みにくいか、お茶や水でむせるか、口が乾くかどうかや、喫煙習慣などについても調査した。

     ベースライン時に嚥下機能が低下していた人などは除き、解析対象者は3,409人(ベースライン時の平均年齢81歳、男性42%)だった。

     2年後に嚥下機能低下と判定された人は429人(13%)だった。ベースライン時と比べて2年後の方が、高血圧(61%対64%)、糖尿病(35%対38%)、運動器障害(75%対78%)、要支援・要介護認定(11%対22%)を有する人の割合は有意に高く、残存歯数20本以上の人(67%対62%)の割合は有意に低かった。一方、虫歯のある人(26%対25%)、歯周ポケット4mm以上の人(66%対68%)、硬いものが噛みにくい人(24%対25%)、お茶や水でむせる人(21%対22%)、口が乾く人(30%対32%)の割合については、有意差は認められなかった。

     次に、嚥下機能低下と関連する因子を多変量ロジスティック回帰により解析した。その結果、男性(オッズ比0.772、95%信頼区間0.615~0.969)、81歳以上(同1.523、1.224~1.895)、要支援・要介護認定(同1.815、1.361~2.394)、歯周ポケット4mm以上(1.469、1.163~1.856)、硬いものが噛みにくいこと(同1.439、1.145~1.808)、お茶や水でむせること(同2.543、2.025~3.193)、口が乾くこと(同1.316、1.052~1.646)が、2年後の嚥下機能低下と有意に関連していることが明らかとなった。

     今回の研究結果に関して、嚥下機能が低下すると元の状態に戻ることは困難であることから、著者らは「歯科健診を通じて、嚥下機能低下を予防するための早期スクリーニングを行うこと」の重要性を指摘している。また、「嚥下機能低下と関連する因子が見つかった人には、早期の歯科的介入が必要となる可能性がある」と述べている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2024年8月26日
    Copyright c 2024 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 嚥下機能は睡眠の質と関連

     60歳以上の日本人を対象とした横断研究の結果、嚥下機能の低下が睡眠の質の低下と関連していることが明らかとなった。この関連は、男女ともに認められたという。広島大学大学院医系科学研究科の濵陽子氏らによる研究であり、「Heliyon」に5月31日掲載された。

     睡眠維持困難(中途覚醒)は、慢性の痛み、消化器疾患、呼吸器疾患など、さまざまな身体的状態と関連する。例えば、睡眠中は呼吸と嚥下の連携が損なわれることがあり、覚醒時と比べて嚥下後の咳が発生しやすいが、このことも睡眠維持困難の一因とされる。加齢に伴い嚥下機能が低下すると、睡眠中の嚥下コントロールが困難となる可能性があるが、嚥下機能の低下が睡眠の質に及ぼす影響は明らかになっていない。

    睡眠障害に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     そこで著者らは、J-MICC Study 静岡研究と大幸研究の2012年2月~2015年3月の調査データを用いて、60歳以上の人を対象に、嚥下障害のリスクと睡眠の健康との関係を検討した。「地域高齢者誤嚥リスク評価指標(DRACE)」を用いて、合計スコア4点以上を嚥下障害のリスクありとした。また、「ピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)」の合計スコア6点以上を睡眠の質が悪いと判定し、睡眠の持続時間、満足度、規則性などについても調査した。

     解析対象者3,058人(男性1,633人、平均年齢66.5±4.2歳)のうち、嚥下障害のリスクがある人は28.0%、睡眠の質が悪い人は19.1%だった。嚥下障害のリスクがない人に比べ、リスクがある人は、睡眠の質が悪い人が多く(15.4%対28.5%)、平均睡眠時間が短く(6.74±0.88対6.62±0.99時間)、十分な睡眠のとれている人は少なく(61.7%対48.9%)、睡眠が不規則な人が多い(7.3%対13.7%)という傾向が認められた。

     対象者の背景の差を調整後、嚥下機能と睡眠の関連を解析したところ、男性では、嚥下障害のリスクがあると、睡眠の質が悪いこと(オッズ比1.98、95%信頼区間1.38~2.83)、睡眠不満足(同1.69、1.29~2.20)、不規則な睡眠(同1.88、1.20~2.94)と有意に関連していることが明らかとなった。女性では、嚥下障害のリスクは睡眠の質が悪いこと(同1.39、1.00~1.92)、睡眠持続時間が6時間未満(同1.47、1.02~2.14)と有意に関連していた一方で、睡眠不満足、不規則な睡眠との関連は有意ではなかった。

     また、嚥下障害のリスクとPSQI各項目の点数(0点または1~3点)との関連を検討したところ、男女とも、嚥下障害のリスクは睡眠の質、入眠時間、睡眠困難、日中覚醒困難と有意に関連していた。特に、日中覚醒困難については、男性(同2.10、1.62~2.71)、女性(同2.04、1.40~2.46)ともに関連が強かった。

     研究の結論として著者らは、「日本の高齢者における嚥下障害のリスクは睡眠の質と関連していた。身体運動、口腔保健指導、栄養指導など、嚥下機能の維持に焦点を当てた戦略は、睡眠の質の改善に寄与する可能性がある」と述べている。また、睡眠維持困難の要因となり得る胃食道逆流症やドライマウスについては評価していないことなどに言及し、さらなる研究が必要だとしている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2024年8月26日
    Copyright c 2024 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。