• フレイル女性では台所で過ごす時間が長いほど食生活が健康的

     高齢の日本人女性を対象に行われた研究から、台所で過ごす時間が長いほど健康的な食生活を送っていて、この関連はフレイルの場合により顕著であることが分かった。高崎健康福祉大学、および、お茶の水女子大学に所属する佐藤清香氏らが行った横断研究の結果であり、詳細は「Journal of Nutrition Education and Behavior」に7月20日掲載された。

     フレイルは、「加齢により心身が老い衰えた状態」であり、健康な状態と要介護状態の中間のこと。フレイルを早期に発見して栄養不良や運動不足に気を付けることで、フレイルが改善される可能性がある。フレイルの初期には、台所で行われる調理作業の支障の発生という変化が生じやすいことが報告されており、調理に手を掛けられなくなることは栄養の偏りにつながる可能性がある。また、台所での作業は身体活動の良い機会でもある。そのため、台所で過ごす時間の減少を見いだすことは、フレイルの進行抑止につながる可能性がある。これらを背景として佐藤氏らは、高齢女性が台所で過ごす時間と健康的な食事を取る頻度との関係を調査し、その関係にフレイルが及ぼす影響を検討した。

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     2023年1月に、調査会社の登録者パネルを用いたオンライン調査を行い、国内に居住している65歳以上の女性600人(平均年齢73.8±5.7歳)から回答を得た。食生活については、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度を質問して、それが1日2回以上の場合を「健康的」と判定した。なお、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が高いほど「日本人の食事摂取基準」に示されている栄養素量を満たしていることが多いと報告されており、また「健康日本21(第三次)」でも「ほぼ毎日主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上摂取する人の割合を令和14年度までに50%とする」という目標が掲げられている。

     フレイルの判定は、市町村の介護予防事業対象者の抽出に用いられている25項目の質問から成る基本チェックリストを用いた。その結果、21.2%がフレイル、34.0%がプレフレイルと判定された。主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を1日2回以上摂取する頻度については「ほぼ毎日」が77.5%を占めていたが、フレイルの有無別に比較すると、健常群では84.8%であるのに対して、プレフレイル群では77.0%、フレイル群では63.8%と少なかった(P<0.001)。台所で過ごす時間(P=0.02)や台所の使用頻度(P=0.004)についても、健常、プレフレイル、フレイルの順に低値となるという関連が認められた。なお、台所で過ごす時間は「1日2時間」が最も多く選択され(44.8%)、台所の使用頻度は「毎日」が最多(95.0%)だった。

     次に、1日に2回以上主食・主菜・副菜を組み合わせた食事を摂取する頻度を従属変数として、フレイルの判定および1日に台所で過ごす時間との関連を検討した。結果に影響を及ぼし得る、年齢、BMI、婚姻状況、独居/同居、就労状況、介護サービス利用状況の影響は調整した。

     解析の結果、健常であること(b=0.61〔95%信頼区間0.34~0.89〕)と台所で過ごす時間が長いこと(b=0.38〔同0.23~0.53〕)はともに、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度の高さと有意な関連が認められた。また、フレイルと台所で過ごす時間の交互作用が認められた(b=-0.10〔-0.17~-0.035〕)。これは、フレイルまたはプレフレイルの人において、台所で過ごす時間が長いほど主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が高いという関連が、より強いことを示している。

     著者らは、台所で過ごす時間が減少する背景因子が調査されていないことや、横断研究であるため台所で過ごす時間が長いことと健康的な食生活の因果関係は分からないことなどを限界として挙げた上で、「高齢女性、特にフレイルの女性に対して、料理や盛り付け、後片付けなどのために台所で過ごす時間を増やすという推奨が、健康的な食生活につながり、フレイルの進行抑制につながる可能性があるのではないか」と総括している。

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    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

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    HealthDay News 2024年9月9日
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  • 体重増加による血管への悪影響は60歳未満で顕著

     歳とともに体重が増えることによる血管への悪影響は60歳未満で顕著であり、60歳を超えると有意なリスク因子でなくなる可能性を示唆するデータが報告された。名古屋大学大学院医学系研究科産婦人科の田野翔氏、小谷友美氏らの研究結果であり、詳細は「Preventive Medicine Reports」7月号に掲載された。

     BMIで評価される体重の増加が、動脈硬化性疾患のリスク因子であることは広く知られている。しかし、体重増加の影響力は人によって異なり、体重管理により大きなメリットを得られる集団の特徴は明らかでない。田野氏らは、動脈硬化の指標である心臓足首血管指数(CAVI)とBMIの変化との関連を検討することで、体重増加の影響が大きい集団の特定を試みた。

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     この研究は、愛知県で複数の医療施設を運営しているセントラルクリニックグループでの企業健診受診者データを用いて行われた。2015年から2019年(新型コロナウイルス感染症パンデミックにより人々のBMIなどに変化が生じる前)に年間BMI変化量を評価でき、かつ2019年にCAVIが測定されていた459人(男性71.9%)を解析対象とした。

     459人中53人(11.5%)が、2019年時点のCAVIが9以上であり、動脈硬化の進展が疑われた。CAVI9以上/未満で比較すると、9以上の群は高齢で男性が多く、高血圧、脂質異常症、糖尿病などの動脈硬化リスク因子の保有率が高いという有意差が認められた。一方、BMIは2015年と2019年のいずれの時点でも有意差がなかった。ランダムフォレストモデルという統計学的手法により、CAVIが9以上であることに寄与する因子として、年齢が最も重要であり(重要度を表す値が17.09)、次いで脂質異常(総コレステロールが同7.86、HDL-コレステロールは7.04)で、その次が体重(現在〔2019年時点〕のBMIが6.09、年間BMI変化量が5.98)であることが分かった。

     次に、交絡因子(年齢、性別、現在のBMI、年間BMI変化量、血圧、糖・脂質代謝指標など)の影響を調整し、2019年時点のCAVIと関連のある因子を重回帰分析で検討すると、独立した正の関連因子として、年齢と中性脂肪とともに、年間BMI変化量(β=0.09)が抽出された。反対に、独立した負の関連因子として、性別が女性であることと、現在のBMI(β=-0.34)が抽出された。

     続いて年齢60歳未満/以上で層別化した上で、CAVI9以上に関連する因子を検討した。その結果、60歳未満の群では、年齢(調整オッズ比〔aOR〕1.32〔95%信頼区間1.15~1.52〕)以外では、年間BMI変化量(aOR11.98〔同1.13~126.27〕)のみが有意な関連因子として抽出された。性別や血清脂質および現在のBMIとの関連は有意でなかった。一方、60歳以上の群における有意な関連因子は年齢(aOR1.44〔同1.17~1.76〕)のみであり、現在のBMIや年間BMI変化量を含むその他の因子は独立した関連が示されなかった。なお、60歳以上における年齢の影響を性別に比較した場合、有意水準に至らないものの、女性の方がより大きな影響を及ぼしていた。

     著者らは本研究で明らかになった主なポイントとして、第一にCAVIに最も影響を及ぼす因子は年齢であること、第二に年間BMI変化量はCAVIと正の関連があった一方で現在のBMIは負の関連があること、第三に60歳未満では年間BMI変化量がCAVI9以上の関連因子であるが60歳以上ではそうでないことを挙げている。中でも60歳未満で年間BMI変化量がCAVI高値の独立した関連因子であるという点は、肥満と動脈硬化進展に関する新たな知見だとしている。現在のBMIとCAVIとの関連が負であることについては、肥満が健康リスク因子であるにもかかわらず、生命予後に対して保護的に働くという、いわゆる「肥満パラドックス」を表しているのではないかと考察されている。

     なお、本研究は観察研究のため、介入によって体重管理を行った場合にCAVI上昇が抑制されるかは不明なことなどが、解釈上の注意点として付記されている。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

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    HealthDay News 2024年9月9日
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