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11月 05 2024 発酵乳製品の摂取頻度の多寡で高齢者の歩行速度に差が生じる――中之条研究
発酵乳製品が加齢に伴う歩行速度の低下を抑制することを示唆するデータが報告された。摂取頻度の多寡によって、男性では歩行速度に7.3年分に相当する差が生じ、さらに日常の歩数の多寡も考慮した場合、最大で22.0年分の差が生じる可能性があるという。東京都健康長寿医療センター研究所運動科学研究室の青栁幸利氏らの研究によるもので、詳細は「Beneficial Microbes」に7月5日掲載された。
加齢に伴い身体機能およびトレス耐性が低下した、要介護予備群とも言える「フレイル」への公衆衛生対策が急務となっている。フレイルの予防には適度な運動とバランスの良い食事が大切と考えられていて、特に食事に関してはタンパク質摂取の重要性とともに近年、ヨーグルトなどの発酵乳製品の有用性が示されてきている。ただし、その効果を実際にヒトで検討した研究報告はまだ少ない。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。以上を背景として青栁氏らは、群馬県中之条町で行われている地域在住高齢者対象疫学研究「中之条研究」のデータを用い、横断的および縦断的解析を実施した。解析対象は、自立した生活を送っていて、慢性・進行性疾患(がん、認知症、関節炎、パーキンソン病など)のない65歳以上の高齢者。栄養士が食事調査を行い、発酵乳製品(チーズを除く)の摂取頻度が週3日未満/以上で二分。また、加速度センサーで把握された歩数が1日7,000歩未満/以上で二分した上で、歩行速度を比較検討した。
横断的解析の対象は581人(年齢範囲65~92歳、男性38.6%)で、発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上の割合は、男性では56.3%、女性は71.1%。男性・女性ともに両群間で年齢、BMI、および1日の歩数に有意差はなかった。男性の日常の歩行速度は、発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上の群が1.37±0.21m/秒、摂取頻度が3日未満の群は1.31±0.20m/秒であり、最大歩行速度は同順に2.15±0.45m/秒、2.02±0.42m/秒だった。交絡因子(年齢、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、およびエネルギー摂取量またはタンパク質摂取量)を調整後、両群の歩行速度に有意差が観察された。女性の歩行速度については、有意差が認められなかった。
一方、1日の歩数が7,000歩以上の割合は、男性では48.2%、女性は45.1%であり、7,000歩以上の群は年齢が若くBMIが低かった。交絡因子(年齢、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣)を調整後、性別にかかわらず日常の歩行速度および最大歩行速度ともに、歩数7,000歩以上の群の方が有意に速いことが分かった。
発酵乳製品の摂取頻度と歩行速度を組み合わせて全体を4群に分けて比較すると、男性では発酵乳製品の摂取頻度が高くて歩数が多い群の日常の歩行速度が最も速く、他の3群との間に有意差が認められ、女性もほぼ同様の結果(歩数7,000歩以上で発酵乳製品の摂取頻度3日/週未満の群との差は非有意)だった。
なお、男性では、1歳高齢になるごとに日常の歩行速度が0.0082m/秒低下すると計算された。発酵乳製品摂取頻度の多寡による2群間の歩行速度の差は0.06m/秒であったことから、歩行速度上は7.3年分の年齢差が存在していると考えられた。さらに歩数の多寡を考慮した場合、発酵乳製品の摂取頻度が高くて歩数が多い群と発酵乳製品の摂取頻度が低くて歩数が少ない群との群間差は0.18m/秒であり、22.0年分の年齢差が生じていると計算された。
縦断的解析は、2014年と5年後の2019年の調査に参加した240人(年齢範囲65~91歳、男性42.9%)を対象として実施された。2014年時点で発酵乳製品の摂取頻度が週3日以上だったのは68.8%だった。2019年の日常の歩行速度は、摂取頻度が週3日未満の群では5年前と比べて0.11±0.14m/秒低下していたのに対して、摂取頻度が3日以上の群の低下幅は0.064±0.169m/秒にとどまっており、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙習慣、飲酒習慣、2014年時点の日常の歩行速度)を調整後に有意な群間差が認められた。
これら一連の結果を基に著者らは、「発酵乳製品の習慣的な摂取が高齢者の歩行速度の低下抑制に寄与する可能性があり、また歩数が多いことと相加効果も期待できるのではないか」と述べている。なお、発酵乳製品の効果発現のメカニズムとしては、既報研究からの考察として、発酵乳製品中に含まれる微生物による腸管内の短鎖脂肪酸の増加を介して筋肉にエネルギーが供給されたり、慢性炎症が抑制されたりすることの関与が考えられるとしている。
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11月 05 2024 社員の生活習慣とメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率に有意な関連
運動習慣のある社員や良好な睡眠を取れている社員の割合が高い企業ほど、メンタルヘルス関連での欠勤者や離職者が少ないという有意な関連のあることが明らかになった。順天堂大学医学部総合診療科学講座の矢野裕一朗氏らの研究結果であり、詳細は「Epidemiology and Health」に8月2日掲載された。
メンタルヘルスは世界各国で主要な健康課題となっており、日本人のメンタルヘルス不調の生涯有病率は20%を超えるというデータも報告されている。メンタルヘルス不調者の増加はその治療のための医療費を増大させるだけでなく、欠勤やプレゼンティズム(無理して出勤するものの生産性が上がらない状態)を介して間接的な経済負担増大につながる。このような社会課題を背景に経済産業省では、企業の健康経営を推進するため、健康経営優良法人の認定や健康経営銘柄の選定などを行っており、それらの基礎資料とするため「健康経営度調査」を行っている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。健康経営度調査では、喫煙者率、習慣的飲酒者率のほかに、普通体重(BMI18.5~25)の社員や運動習慣(1回30分、週2回以上)のある社員の割合、よく眠れている社員の割合、および、メンタルヘルス関連の欠勤率や離職率などが調査されている。矢野氏らは、2020年度の同調査のデータを用いた横断的検討を行った。この年の回答者数は1,748社で、社員数は合計419万9,021人、女性が26.8%、勤続年数は平均14.4±4.6年であり、メンタルヘルス関連の欠勤率は1.1±1.0%、離職率は5.0±5.0%だった。
交絡因子未調整の粗モデルの解析では、メンタルヘルス関連の欠勤率に関しては普通体重者の割合を除いて、前記の因子の全てが有意に関連していた。交絡因子(業種、上場企業か否か、勤続年数、および全ての生活習慣関連指標)を調整すると、習慣的飲酒者率との関連は有意性が消失したが、その他の因子は以下のように引き続き有意だった。まず、運動習慣のある社員が1パーセントポイント(PP)多いと、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.005%低く(P=0.021)、よく眠れている社員が1PP多いことも同様に欠勤率が0.005%低いという関連があった(P=0.016)。また、喫煙者率が1PP高いことも、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.013%低いことと関連していた(P<0.001)。
次に、離職率について見ると、粗モデルでの段階で、普通体重者の割合と運動習慣のある社員の割合は関連が非有意だった。前記同様の交絡因子を調整後、喫煙者率と習慣的飲酒者率については有意性が消失し、よく眠れている社員の割合のみが有意な因子として残り、その割合が1PP多いと離職率が0.020%低かった(P=0.034)。
著者らは、本研究が横断研究であるため因果関係の解釈は制限されるとした上で、「運動の奨励や睡眠習慣の指導は、社員のメンタルヘルス関連の欠勤や離職を防ぐ介入として有用といえるのではないか」と述べている。なお、喫煙者率が高いほどメンタルヘルス関連の欠勤が少ないという結果について、「今回のような一時点での横断解析では、先行研究においても、喫煙がストレスを軽減するというデータがある。しかし、経時的に評価した縦断研究では喫煙がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことや、禁煙介入によりメンタルヘルスが改善されることがシステマティックレビューからも報告されている。本研究は観察的および横断的なデザインであり、因果関係を立証することはできず、この点は限界点として認識すべき」と考察を述べている。
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