• よく笑う人にはオーラルフレイルが少ない

     笑う頻度が高い人にはオーラルフレイルが少ないことが明らかになった。福島県立医科大学医学部疫学講座の舟久保徳美氏、大平哲也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月5日掲載された。

     近年、笑うことが心身の健康に良いことを示唆するエビデンスが徐々に増えていて、例えば笑う頻度の高い人は心疾患や生活習慣病が少ないことが報告されている。一方、オーラルフレイルは、心身のストレス耐性が低下した要介護予備群である「フレイル」のうち、特に口腔機能が低下した状態を指す。オーラルフレイルでは食べ物の咀嚼や嚥下が困難になることなどによって、身体的フレイルのリスク上昇を含む全身の健康に負の影響が生じる。舟久保氏らは、このオーラルフレイル(以下、OFと省略)にも笑う頻度が関連している可能性を想定し、福島県楢葉町の住民を対象とする横断研究を行った。

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     2020~2021年の住民健診に参加した年齢60~79歳の1,717人のうち、研究参加への同意を得られ、データ欠落のない916人(平均年齢68.4±5.0歳、男性46.2%)を解析対象とした。両年度とも参加していた人については2020年度のデータを使用した。OFの評価には、「硬い食べ物を食べるのが困難か?」など8項目の質問から成る精度検証済みの質問票(Oral Frailty Index-8;OFI-8)を使用。そのスコアに基づき、OFなしが40.3%、プレオーラルフレイル(OFの予備群〔POF〕)が18.2%、OFが41.5%と判定された。笑いの頻度については、「声を出して笑う頻度は?」という質問で評価。ほぼ毎日が40.8%、週に1~5回が43.3%、月に1~3回が11.1%、ほとんどないが4.9%だった。

     笑う頻度が「週1回未満」の群を基準として、年齢と性別の影響を調整した解析(モデル1)の結果、笑う頻度がほぼ毎日の群にはOFが有意に少なく(オッズ比〔OR〕0.38〔95%信頼区間0.26~0.57〕)、頻度が週に1~5回の群もOFが少なかった(OR0.51〔同0.35~0.76〕)。調整因子に、喫煙・飲酒・運動習慣、身体的フレイル、高血圧・糖尿病の既往を追加した解析(モデル2)では、笑う頻度が週に1~5回の群についてはOFとの関連の有意性が消失したが(OR0.66〔0.43~1.02〕)、頻度がほぼ毎日の群では引き続きOFが有意に少ないという関連が認められた(OR0.54〔0.34~0.86〕)。

     モデル2において、笑う頻度以外に、抑うつ症状がないこともOFに対する負の有意な関連因子だった(「抑うつ症状あり」を基準とするOR0.39〔0.25~0.61〕)。その一方、高齢(1歳高齢であるごとにOR1.08〔1.05~1.11〕)、女性(OR1.74〔1.14~2.65〕)、喫煙(現喫煙がOR2.63〔1.57~4.40〕、過去喫煙がOR1.75〔1.15~2.66〕)、飲酒(毎日がOR1.70〔1.15~2.51〕、機会飲酒は非有意)は、正の有意な関連因子として特定された。運動習慣や地域活動への参加は、モデル1では有意な負の関連が認められたが、モデル2では非有意となった。

     著者らは、本研究が新型コロナウイルスパンデミック中に実施されたことが結果に影響を及ぼしている可能性を否定できないといった限界点を挙げた上で、「交絡因子を調整後、毎日笑うことと抑うつ症状がないことが、OFの少なさと関連していた。公衆衛生戦略として、社会的なコミュニケーションを拡大して人々が声を出して笑える頻度を増やし、抑うつのリスクを抑制することが、フレイル予防・改善を通じて健康寿命を延伸する可能性があるのではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2025年1月27日
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  • 運動による記憶力向上は少なくとも8週間続く

     運動することで記憶力が向上し、運動しない場合との有意差は少なくとも8週間維持されるとする研究結果が報告された。北海道教育大学岩見沢校スポーツ文化専攻の森田憲輝氏らが、学生対象クロスオーバー試験で明らかにしたもので、詳細は「Journal of Science and Medicine in Sport」に11月4日掲載された。

     記憶は、数秒から数十秒ほど保持される短期記憶と、数時間から場合によっては生涯にわたって保持される長期記憶に分類される。後者の長期記憶の中でも、本人が意識的に思い出すことができ、言葉などで表現することのできる記憶は「陳述記憶」と呼ばれ、この陳述記憶がより長期間保持されるほど、学業や就業において有利になると考えられている。

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     これまでの研究で、運動に陳述記憶の保持効果があることが示されているが、その効果の持続時間は、最長で1週間と報告されている。ただし、検証が十分行われていないだけで、実際には効果がそれよりも長期間維持される可能性もある。これを背景として森田氏らは、追跡期間11カ月に及ぶ研究を実施した。

     研究デザインは、15個の単語を覚える前に自転車エルゴメーターを使い中強度(心拍数が最大値の50%になる強度)で20分間の負荷を加える条件と、安静状態で覚えるという条件(対照条件)を、試行順序をランダム化した上で参加者全員に課すというクロスオーバー法。単語を覚える作業の終了直後、24時間後、4週間後、6週間後、8週間後、および11カ月後に、単語をいくつ覚えているかをテストした。研究参加者は同大学から募集された51人で、追跡期間中の脱落者を除き44人(平均年齢19.7±0.8歳、男性29人)が解析対象とされた(11カ月時点ではさらに3人が脱落)。

     記憶作業終了直後のテストでは、運動条件で覚えていた単語が12.9±1.9個、対照条件では12.7±2.3個で有意差はなかった。また、24時間後にも両条件ともに約83%の単語を記憶しており、有意差はなかった。それ以降は時間の経過とともに記憶している単語の数が少なくなっていき、4週間後は運動条件の方が覚えている単語が多いという有意水準未満の差(P=0.14)が観察された。そして6週間後には、覚えている単語の数に1.52個(95%信頼区間0.43~2.61)、8週間後には1.17個(同0.11~2.22)の有意な差が生じていて、いずれも運動条件の方が多かった。しかし11カ月後には再び有意差がなくなっていた。

     著者らは、本研究の対象が認知機能正常の若年者のみであり、得られた結果をそのまま一般人口に外挿できるわけではないことなどを留意点として挙げた上で、「1回の運動で記憶維持効果が少なくとも8週間維持されることが示された。この結果は、運動が長期記憶を強化する効果的な介入法であり、学業や職業上のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があることを示唆している。ただし、1年近く経過した時点では有意差が見られなかったことから、時間の経過に伴う効果の変動を理解するための研究が必要とされる」と総括している。

     なお、運動が記憶力を向上させるメカニズムについては「いまだ詳細が不明」としつつ、先行研究に基づく考察として、「運動によってドーパミンなどの神経伝達物質や脳由来神経栄養因子の産生が増加することが関与しているのではないか」と述べられている。

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    HealthDay News 2025年1月27日
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