• 重症ED患者はアディポネクチン高値だが心血管リスクが高い可能性

     勃起障害(ED)の重症度が高い男性は、“善玉”のサイトカインとされているアディポネクチンが高値であるというデータが報告された。ただし、それにもかかわらず、重症ED患者をアディポネクチン値の高低で比較すると、低値群の方がBMIや体脂肪率が高く、糖・脂質代謝は悪化しているという。金沢大学大学院医薬保健学総合研究科泌尿器集学的治療学の重原一慶氏らが、性腺機能低下症の男性を対象に行った研究の結果であり、詳細は「The Aging Male」に10月3日掲載された。

     EDは近年、心血管イベントの関連因子の一つとして位置付けられており、ED患者では血管内皮機能が低下したり、糖・脂質関連指標が悪化していることが多い。一方、アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されているサイトカインであり、インスリン感受性を高めたり炎症を抑制する作用があり、一般的には“善玉”と呼ばれている。ただ、EDとアディポネクチンとの関連はよく分かっていない。重原氏らは、金沢大学附属病院の患者データを後方視的に解析し、この関連を検討した。

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     解析対象は、2008~2015年に同院にて治療を受けた性腺機能低下症〔遊離テストステロン(FT)が11.8pg/mL未満〕の患者のうち、解析に必要なデータのある218人。ED治療薬や男性ホルモン製剤などが処方されている患者、心不全・腎不全患者などは除外されている。解析対象者の平均年齢は65.1±8.3歳、FTは7.4±2.2pg/mL、腹囲長86.8±9.4cm、BMI23.6±3.3、体脂肪率22.8±6.7%であり、男性用性健康調査票(SHIM)のスコアは11.1±6.3だった。なお、SHIMスコアは低いほどED重症度が高いと判定される。

     SHIMスコアが12点以上をEDなし~中等症EDと定義すると104人(47.7%)が該当し、12点未満の重症EDは114人(52.3%)だった。両群を比較すると、年齢とアディポネクチンに有意差が認められた一方、BMIや腹囲長、体脂肪率、FT、糖・脂質代謝関連指標、併存疾患の有病率には有意差がなかった。

     具体的には、年齢は重症ED群の方が高く(67.4±7.6対62.5±8.5歳、P<0.001)、アディポネクチンも重症ED群の方が高かった(6.9±5.1対5.6±3.5μg/mL、P=0.0168)。重回帰分析からも、重症EDの有意な関連因子として抽出されたのは、年齢とアディポネクチンレベルのみだった。心血管イベントリスクが高いと考えられる重症ED群の方がアディポネクチンレベルが高いという結果について、著者らは「驚くべきことであり、このような関連を示したデータは本研究が初めてではないか」と述べている。

     次に、重症ED群(114人)をアディポネクチン7.0μg/mLをカットオフ値として、低値群36人(31.6%)と高値群78人(68.4%)に二分して比較。すると、この検討では全体的に、アディポネクチン低値群の方が検査指標〔BMI、腹囲長、体脂肪率、空腹時血糖、中性脂肪、HDL-コレステロール、動脈硬化指数(AI)〕の悪化を示しており、有意差が認められた。年齢についてはアディポネクチン低値群の方が若年だった(65.9±7.2対70.5±7.7歳、P=0.00156)。

     著者らは本研究の対象者が性腺機能低下症の患者に限られていること、EDの重症度を自己評価に基づき判定していることなどを限界点として挙げている。その上で、「非EDまたは中等症以下のED患者よりも、重症ED患者の方がアディポネクチンレベルが高かった。それにもかかわらず、さまざまな心血管代謝関連指標は、アディポネクチンレベルが低い重症ED患者の方が、有意にハイリスクであることを示していた。アディポネクチン低値の重症ED患者は、心血管イベントリスクが高い可能性がある」と結論付けている。

     なお、重症ED患者の方がアディポネクチンレベルが高いという意外な結果の背景については、「不明」としながらも以下のような考察を述べている。まず、CKD患者ではアディポネクチン高値の方が心血管イベントリスクが高いといった、アディポネクチンを“善玉”とは言い切れないことを示すデータが報告されているという。また、透析患者ではアディポネクチンレベルは上昇するがその受容体は減少しているという報告もあり、アディポネクチンの作用が低下した代償としてアディポネクチン高値となる現象も想定されるのではないかとしている。ただし、「これは仮説であり、今後の研究による検証が求められる」と記されている。

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    HealthDay News 2022年11月28日
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  • EDと頻尿はどちらが先に現れる?――日本人男性の縦断的調査

     男性は年齢とともに頻尿などの尿路症状や勃起障害(ED)が増える。では、尿路症状とEDのどちらが先に現れることが多いのだろうか? 札幌医科大学医学部泌尿器科の小林皇氏らが、日本人男性を14年以上追跡した研究から、その答えが明らかになった。研究の詳細は、「Sexual Medicine」に2月1日掲載された。

     小林氏らの研究は、北海道島牧村の住民を対象とする縦断的な研究。1992年に同村の40~79歳の男性682人のうち319人(47%)を対象に、尿路症状〔国際前立腺症状スコア(IPSS)で評価〕やEDの有無などを調査。そのうち185人が2007年に同村に居住しており、うち135人(73%)が追跡調査に参加した。排尿や性機能に影響を与える疾患の既往がある人などを除外し、108人を解析対象とした。

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     なお、ED症状は日本版の自記式質問票で判定した。これは、陰茎が完全に硬くなる場合を6点、全く硬くならない場合を1点とする評価法。本研究では、3点(硬くはなるが性交には十分でない)以下をEDと定義した。

     ベースライン時(1992年時点)における参加者の年齢は中央値57歳で、追跡期間は同14.4年だった。この間に、尿路症状(IPSSの中央値)は7点から9点に上昇(P=0.01)、前立腺容積は17.7mLから24.3mLに増加(P<0.01)、EDスコア(中央値)は5点から2点へと低下し(P<0.01)、全て有意に変化していた。また、ベースライン時には、尿路症状もEDもない男性が42.6%(46人)を占めていたが、追跡調査では尿路症状とEDがともにある男性が43.5%(47人)を占めていた。

     追跡調査で尿路症状とEDを併発していた47人について、ベースライン時の状態を遡って調べた結果、両方の症状がなかった人が19.1%、両方とも症状のあった人が34.0%であり、尿路症状のみだった人が34.0%、EDのみだった人が12.8%だった。つまり、EDよりも尿路症状が先に現れていた人が2.6倍以上多かった。また、尿路症状の中でも生活の質(QOL)の低下につながりやすい夜間頻尿とEDの発症順序も、同様の前後関係にあることが確認された。

     EDより先に尿路症状が現れやすいことが明らかになったことから、次に、統計解析によりEDの発症予測因子の特定を試みた。年齢(60歳以上)、IPSSの合計スコア、夜間頻尿(トイレのための睡眠中断が2回以上)、前立腺容積、およびQOL指数を説明変数とする多変量解析の結果、年齢〔オッズ比(OR)7.10、95%信頼区間2.09~24.13〕と夜間頻尿(OR15.83、同3.05~82.15)が有意な予測因子として抽出された。

     著者らは本研究の限界点として、解析対象者数が十分ではないこと、縦断的な研究デザインではあるが2時点のみの評価であること、尿路症状やEDに影響を及ぼすBMIや男性ホルモンの値が考慮されていないことを挙げている。その上で、「EDよりも尿路症状、特に夜間頻尿の先行が多いことが明らかになった」と結論付けている。

     なお、EDに先行し尿路症状が現れやすいことの理由については、「明らかでない」としながらも、加齢に伴う膀胱と前立腺の血流障害が尿路症状の背後にあり、血流障害がより顕著になるとEDを発症するのではないかと考察している。EDは近年、心血管疾患の予測因子としても注目されていることから、尿路症状への介入がEDの予防、さらには心血管疾患のリスク低下につながるのか、今後の研究が期待される。

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    HealthDay News 2021年3月15日
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  • EDを自覚していない男性の特徴は?――かかりつけ医での調査

     勃起障害(ED)の症状が現れているのに、自分がEDだと認識していない男性が少なくないことが明らかになった。プライマリケア医(かかりつけ医)にかかっている中高年男性の9割以上がEDの可能性があるにもかかわらず、自分がそのような性機能不全に該当する状態だと認識していたのは4割足らずだという。手稲家庭医療クリニックの竹内優貴氏らの研究によるもので、詳細は「Family Medicine and Community Health」に1月22日掲載された。

     かつてEDの治療は主として泌尿器科で行われていたが、現在は一般内科でも治療可能。EDが心血管疾患のリスクと関連するといった報告もあり、EDの症状をかかりつけ医に相談することが、それらの疾患の治療につながる場合もある。しかし、かかりつけ医にEDをはじめとする性機能不全について相談する日本人男性は少ない。竹内氏らは、かかりつけ医を受診中の男性患者のED有病率を推測し、かつ、かかりつけ医への相談を妨げている要因を特定するため、以下のアンケート調査を実施した。

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     手稲家庭医療クリニックは、内科、小児科、産婦人科を標榜し、調査が行われた2018年11月時点で医師14人(うち女性4人)が勤務していた札幌市内の診療所。定期的な診察(主として生活習慣病の管理)のために同院を受診した40~69歳の男性78人を対象にアンケートへの回答を依頼し、66人から有効回答を得た。平均年齢は60歳で、98%に生活習慣病があり(高血圧80%、脂質異常症42%、糖尿病33%など)、71%は既婚者だった。

     「あなたは性機能不全を抱えていますか?」という質問に「はい」と回答したのは39.3%(26人)と4割足らずだった。しかし、国際勃起機能スコア(IIEF-5)を測定すると、9割以上(92.4%)にEDが疑われ、EDであるのに性機能不全を自覚していない男性が多数存在する可能性が明らかになった。

     「性機能不全の治療を受けたいですか?」という質問には、回答者の半数弱にあたる48.5%(16人)が「はい」と回答した。さらに、その治療希望者16人のうち75%(12人)は、「かかりつけ医による性機能不全の治療を受けたいですか?」に「はい」と回答していた。ところが実際に主治医にEDをはじめとする性機能不全の相談をしたことがあるのは1人のみだった。

     かかりつけ医による性機能不全の治療を受けたいと回答した12人に、それまで治療を受けなかった理由を複数選択で回答してもらったところ、「恥ずかしかった」を7人、「かかりつけ医が性機能不全の治療を行っていると知らなかった」を5人、「性機能不全は治らないと思っていた」を2人が選択した。「主治医が女性だからためらわれた」を選択した人はいなかった。

     アンケートの自由記述などを解析した結果、EDをはじめとする性機能不全を抱えているにもかかわらず治療を受けようとしない男性には、6つの特徴が存在することが分かった。具体的には、性機能不全を老化現象であり仕方がないと考えていること、健康的な生活のために性的活動が重要とは考えていないこと、かかりつけ医との十分な信頼関係が築けていないこと、性機能不全は治療できないとの誤解、性欲の低下のために治療の必要性を感じていないこと、性的パートナーとの親密な関係の欠如が、性機能不全治療の妨げになっていると考えられた。

     著者らは本研究の結果を、「日本のプライマリケア医を受診する中高年男性の大半がEDを抱えている可能性があるが、それらの男性の多くはEDに気付いていないことが推測される。また、EDを含む性機能不全治療に関する知識が不足していたり、誤解も少なくないことが治療の妨げとなっている」とまとめている。また、「生活習慣病などで継続受診している男性患者の健康状態をより改善するために、臨床医は診察の際、定期的にEDをはじめとする性機能不全について話題として取り上げることで、患者が性の問題について相談しやすい環境を作っていく必要がある」と述べている。

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    HealthDay News 2021年3月1日
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  • 塩分過多が直接的にEDリスクを高める可能性

     塩分摂取量が多いと高血圧のリスクが上がることには強いエビデンスがあり、また、高血圧が勃起障害(ED)のリスク因子であることもよく知られている。しかし、塩分過多は高血圧を介した経路とは別に、直接的にEDを引き起こす可能性が報告された。名古屋市立大学大学院医学研究科臨床薬剤学分野の木村和哲氏、徳島大学大学院医歯薬学研究部泌尿器科学分野の岸本大輝氏らの共同研究によるもので、詳細は「The Journal of Sexual Medicine」7月17日オンライン版に掲載された。

     塩分の多い食事は高血圧のリスクであるとともに、それ自体が心血管疾患や腎疾患のリスクを高めることが報告されている。木村氏らは、EDも塩分過多による直接的な影響を受ける可能性を、ラットを用いて検討した。

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     6週齢の食塩感受性モデルラットを3群に分類。1群は通常食(塩化ナトリウム量0.3%)で飼育する対照群とし、別の1群は高食塩食(同8%)で飼育。さらにもう1群は高食塩負荷とともにアルドステロン拮抗薬(エプレレノン)75mg/kg/日を経口投与し、6週間の飼育後に、各群の血圧の変化や勃起機能などを比較検討した。アルドステロン拮抗薬は、食塩負荷などによって亢進する鉱質コルチコイド受容体の活性を抑制し、降圧や臓器保護効果をもたらす薬剤。

     6週間後の収縮期血圧は、対照群の125.1±2.7mmHgに比し、高食塩群は225.8±3.1mmHgで有意に高かった(P<0.01)。高食塩+エプレレノン群は210.8±6.3mmHgで高食塩群と有意差がなかった(P>0.05)。なお、体重は全ての群で群間差がなく、同等に成長していた。

     勃起機能は、海綿体内圧を平均動脈圧で除した値で評価した。結果は、対照群の0.62±0.03に比し高食塩群は0.30±0.02で、勃起機能の有意な低下が認められた(P<0.01)。一方、高食塩+エプレレノン群は0.49±0.07であり、高食塩群より有意に高く(P<0.05)、血圧は高食塩群と同等であるにもかかわらず、勃起機能の低下は抑制されていた。

     勃起のメカニズムには、血管拡張作用のある一酸化窒素(NO)が重要であり、NOの産生には一酸化窒素合成酵素(NOS)が関係している。しかし、そのNOSの働きは、非対称性ジメチルアルギニン(ADMA)という物質により阻害されてしまい、血管拡張作用が弱くなり勃起機能が低下することが知られている。そこで今回の研究では、ADMAのレベルにも検討を加えた。

     その結果、ADMAレベルは対照群の234.1±13.1mg/mLに比し、高食塩群は360.4±19.8mg/mLで有意に高かった(P<0.01)。一方、高食塩+エプレレノン群は265.0±38.8mg/mLであり、高食塩群より有意に低く(P<0.05)、NOSの働きが保たれていることが示唆された。なお、NO合成の基質であるL-アルギニンのレベルは、3群間で有意差がなかった。

     このほか、高食塩群では酸化ストレスマーカーや炎症マーカーが対照群に比し有意に上昇し、高食塩+エプレレノン群ではその上昇が抑制されることなどが分かった。

     これらの結果から研究グループは、「塩分過多は血圧への影響とは別の経路からもEDを引き起こす可能性があり、アルドステロン拮抗薬がその経路を阻害すると考えられる」と結論づけている。なお、本研究の限界点として、食塩感受性ラットを対象としていることを挙げている。ただしこの点に関しては、加齢やメタボリックシンドロームによって食塩感受性亢進状態にある人が少なくない現状を指摘するとともに、たとえ食塩非感受性であっても高食塩によって内皮依存性血管拡張作用は低下するとの報告があることから、「食塩負荷は食塩感受性の有無にかかわらずEDのリスクになり得る」と述べている。

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    HealthDay News 2020年8月3日
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  • 新婚男性の勃起の硬さ不足は、精液の質の低下と関連

    「陰茎は大きくなるが硬くない」「硬いが挿入に十分でない」といった、勃起の硬さや困難さを表す症状がある場合、精液の‘質’が低下している可能性があることが報告された。日本人の新婚男性を対象とした順天堂大学浦安病院泌尿器科の辻村晃氏らの研究によるもので、詳細は「Sexual Medicine」10月24日オンライン版に掲載された。多変量解析では、勃起の硬さの不足が精液の質の低下を予測する独立因子として示されたという。

     近年、日本を含む先進諸国では出生率の低下が問題となっている。出生率の低下の原因の1つとして男性不妊が考えられるが、新婚男性の精液の質に関する報告は少ない。そこで辻村氏らは、結婚直前・直後に不妊症スクリーニングのため同院やDクリニック東京などの関連施設に受診した男性564人を対象として、精液の質を調査し関連する因子を検討した。対象者の平均年齢は35.5歳、BMI22.7、喫煙者率15.2%で、精巣容積は約20mLだった。

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     精液検査の結果を世界保健機関(WHO)基準に基づいて判定すると、対象の11.0%が精液量1.5mL未満、9.2%が精子濃度1500万/mL未満、10.6%が精子総運動率40%未満であり、これら3つの異常所見のいずれか1つが該当する人は全体の25.4%を占めた。また無精子症も1.8%の頻度で見られた。

     精子に異常所見がある群はない群に比較し、年齢とBMIが有意に高く、精巣容積が有意に小さかった。その他、γ-GTP、空腹時血糖、黄体形成ホルモン、卵胞刺激ホルモンに有意差があり、いずれも精子に異常所見がある群が高かった。なお、男性ホルモンのテストステロン値は有意差がなかった。

     また質問票を用いた評価の結果、勃起機能(SHIM)や勃起の硬さ(EHS)、男性更年期症状(AMS)に群間の有意差があり、異常所見のある群で低評価だった。前立腺症状(IPSS)は有意差がなかった。

     これらの有意差が見られた因子を用いて多変量解析を実施。その結果、年齢、黄体形成ホルモンと並び、EHSで評価した勃起の硬さが、精液の質低下の有意な説明変数として抽出された。EHSスコア4点(陰茎は完全に硬く、硬直している)を基準とすると、0~3点(順に「陰茎は大きくならない」「陰茎は大きくなるが、硬くはない」「陰茎は硬いが挿入に十分なほどではない」「陰茎は挿入には十分硬いが、完全には硬くはない」)では、精液の質低下のオッズ比が1.844(P=0.009)だった。

     以上の結果から研究グループは「挙児を希望する男性においても4分の1の割合で精液所見の異常が見られ、勃起の硬さや困難さというED症状が精液の質低下に関連している」と結論づけている。また、「一般に加齢やテストステロン分泌の減少に伴い男性の生殖能力と勃起能力の双方が低下するが、本検討ではEHSスコアが独立した因子であったことは興味深い」として強調。その背景として、動脈硬化がEDのみならず精子形成不全のリスクだとする報告があることから、血管内皮機能低下と精子の質低下が並行し進行している可能性を考察し、「今後の研究課題としたい」と述べている。

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    HealthDay News 2019年11月18日
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