2週間の有酸素運動で冷え性の症状と睡眠の質が改善――日本人女性での検討

 冷え性の女性に対してウォーキングなどの有酸素運動を2週間続けてもらったところ、冷感が和らぎ睡眠の質が改善したとする研究結果が報告された。皮膚温や深部体温には有意な変化が生じず、一方で脳波検査からα波の増強が認められたことから、運動によって冷えに対する脳での感受性が低下したことによる効果と推測されるという。山口県立大学看護栄養学部の山崎文夫氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of Physiological Anthropology」に9月29日掲載された。

 快適と感じる温度には個人差があり、寒さに敏感な場合は「冷え性」と呼ばれ、男性より女性に多い。冷え性の症状は特に下肢に強く現れやすく、下肢の冷感のために睡眠が妨げられることも少なくない。他方、運動には血流改善効果があり、それによって冷えの症状が軽減されると報告されている。これらを背景として山崎氏らは、運動により下肢の冷えとともに睡眠の質も改善する可能性を想定し、そのメカニズムとして冷えに対する感受性の変化が関与するとの仮説の下、脳波検査を含む詳細な検討を行った。なお同氏らは、冷え性の人はα波(リラックス時に現れやすい脳波)が弱く、β波(緊張している時に現れやすい脳波)が強い傾向のあることを以前に報告している。

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 この研究の対象は、冷え性ではあるが健康で、過去1年間に習慣的な運動をしていなかった20~21歳の女性16人。冷え性の有無は精度検証済みのスクリーニングツールで確認した。全体を無作為に運動群と対照群に分け、前者に対しては1日の歩数を5千歩増やして、そのうち15分間は速歩またはジョギングとするという運動を、1週間に4日以上、2週間続けてもらい、対照群は普段どおりの生活を続けるよう指示した。

 運動介入の効果は、下肢の皮膚温、深部体温、下肢や全身の温冷感や快適感および全身11部位の冷感についての主観的評価、睡眠の質、ポータブル脳波計で測定した睡眠時脳波などから検証。これらは介入直前と介入終了直後に、いずれも自宅で記録してもらい解析に用いた。この研究は冬季(12~2月)に行い、室温は18℃、就床時刻は23~1時とし、かつ就床の3時間前までに夕食、1時間前までに入浴(浴槽に浸かる時間は10分以内)を終え、寝具は同じものを用いることとした。

 介入前の身長、体重、運動量(歩数と消費エネルギー量)、睡眠の質は、両群間で有意差がなかった。また、睡眠、入浴、食事の時間帯もほぼ同等だった。介入によって運動群では、1週目に歩数が4,105±2,713歩/日、消費エネルギー量が170±96kcal/日、2週目は同順に3,133±1,574歩/日、137±53kcal/日、それぞれ有意に増加していた。対照群の運動量には有意な変化が観察されなかった。

 結果について、まず下肢の皮膚温と深部体温に着目すると、運動群、対照群ともに有意な変化はなく、介入前/後ともに群間差が非有意だった。一方、下肢および全身の温冷感と快適感のビジュアルアナログスケール(VAS)スコアは2週目に入ると運動群で有意に上昇し、介入後の値に有意な群間差が生じていた。また、運動群では介入後に指先、下肢、つま先の冷感が有意に減弱しており、下肢とつま先の冷感については対照群との間に有意差が認められた。

 睡眠については、運動群で中途覚醒が10.3±9.7分から2.4±3.3分へと有意に減り、深い睡眠(ステージN3の睡眠)は54.1±16.9分から84.3±22.2分へと有意に増加。VASスコアによる睡眠の質の評価も運動群で有意に改善していた。睡眠時間や睡眠潜時(就床から入眠に要する時間)は、両群ともに有意な変化がなかった。

 脳波については、運動群で睡眠前α波のパワー(脳波活動に占める割合)が7.9±6.3%から12.5±10.3%へと有意に増加していた。睡眠前のβ波や睡眠中の脳波には有意な変化はなかった。一方、対照群では睡眠前のα波も含めて全て、有意な変化は見られなかった。

 これらの結果を著者らは、「冷え性のある若年女性に対する2週間の有酸素運動による介入は、四肢の末梢部の冷感を改善し、睡眠の質を向上させた。この変化は1週目では非有意だったことから、改善の自覚には2週間以上の運動継続が必要なようだ」と総括している。また、皮膚温や深部体温に有意な変化が見られなかったにもかかわらず、冷感や睡眠の質の改善効果が認められたことのメカニズムとして、「冷えを感じ取る脳の感受性が運動によって低下したためではないか。睡眠前のα波の増強はそれを表していると考えられる」と考察している。

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HealthDay News 2023年11月6日
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