• 生理痛の強さと生活習慣との関連が明らかに

     朝食を欠かさずビタミンDやB12が不足しないようにすること、毎日入浴することなどが、月経痛(生理痛)の痛みを和らげてくれるかもしれない。月経痛の重い人と軽い人の生活習慣を比較したところ、それらの有意差が認められたという。順天堂大学の奈良岡佑南氏らの研究結果であり、詳細は「Healthcare」に4月30日掲載された。

     日本人女性の月経痛の有病率は78.5%という報告があり、生殖年齢にある多くの女性が周期的に生じる何らかの症状に悩まされていると考えられる。月経痛は本人の生活の質(QOL)低下を来すだけでなく、近年ではそれによる労働生産性の低下も含めた経済的負担が、国内で年間6830億円に上ると試算されるなど、社会的な対策の必要性も指摘されるようになった。

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     これまでに、ビタミンやミネラルなどの摂取量、または食事や運動・睡眠習慣などと月経痛の強さとの関連を個別に検討した研究結果が、いくつか報告されてきている。ただし、研究対象が学生に限られている、または一部の栄養素や食品の摂取量との関連のみを調査しているといった点で、結果の一般化に限界があった。これを背景として奈良岡氏らは、就労年齢の日本人女性を対象として、摂取栄養素・食品、朝食欠食の有無、睡眠・運動・入浴習慣など、多くの生活習慣関連因子と月経痛の強さとの関連を検討する横断研究を行った。

     研究参加者は、2018年5~6月に、一般社団法人Luvtelli(ラブテリ)のオンラインプラットフォームを通じて募集された511人から、年齢40歳以上、妊娠中・授乳中、何らかの疾患治療中、経口避妊薬使用、摂食障害、データ欠落などの該当者を除外し、20~39歳の健康な女性321人(平均年齢30.53±4.69歳、BMI20.67±2.62、体脂肪率27.02±5.29%)を解析対象とした。

     調査項目は、月経周期や月経痛の程度、自記式の食事調査票、および、就労状況、飲酒・喫煙・運動・睡眠習慣などに関する質問で構成されていた。そのほかに、身長、体重、体組成を評価した。なお、月経痛の強さは、「寝込むほどの痛み」、「薬を服用せずにいられない」、「痛むものの生活に支障はない」、「痛みはほとんどない」の四者択一で回答してもらい、前二者を月経痛が「重い」、後二者を「軽い」と判定した。

     解析対象者のうち、76.19%が月経痛を経験しており、痛みが重いと判定された人が101人、軽いと判定された人が220人だった。この2群を比較すると、年齢、BMI、体脂肪率、摂取エネルギー量は有意差がなかった。ただし、総タンパク質、動物性タンパク質、ビタミンD、ビタミンB12、魚の摂取量は、月経痛が重い群の方が有意に少なかった。反対に、砂糖、ラーメン、アイスクリームの摂取量は、月経痛が重い群の方が有意に多かった。また、朝食を欠かさない割合は、月経痛が軽い群73.6%、重い群64.4%で、後者が有意に低値だった。

     栄養・食事以外の生活習慣に着目すると、毎日入浴する割合が、前記と同順に40.5%、26.7%で有意差があり、月経痛が重い人は入浴頻度が少なくシャワーで済ます人が多かった。睡眠時間や1日30分以上の運動習慣のある人の割合については有意差がなかった。

     これらの結果について著者らは、以下のような考察を述べている。まず、糖質の摂取量の多さが月経痛の強さと関連していることは、先行研究と同様の結果だとしている。その一方で、欧州からは肉類の摂取量の多さは月経痛の強さと関連していると報告されており、今回の研究では異なる結果となった。この点については、日本人の肉類の摂取量が欧州に比べて少ないことが、相違の一因ではないかとしている。

     このほか、ビタミンDは子宮内膜でのプロスタグランジン産生抑制、ビタミンB12はシクロオキシゲナーゼの合成阻害などの作用が報告されており、炎症抑制と疼痛緩和につながる可能性があり、魚はビタミンDとビタミンB12の良い供給源であるという。また、朝食摂取や入浴は体温を高め、血行改善や子宮収縮を抑制するように働いて月経痛を緩和する可能性があるが、本研究では体温を測定していないことから、今後の検証が必要と述べている。

     論文の結論は、「日々の食事で魚、タンパク質、ビタミンB12、ビタミンDを十分に摂取し、朝食や入浴などによって体温を上げるような生活習慣とすることが、月経痛の緩和に効果的である可能性が考えられる」とまとめられている。

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    HealthDay News 2023年6月26日
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  • ICU患者の握力が退院後の精神症状と関連

     集中治療室(ICU)で治療を受けた患者に見られる集中治療後症候群(PICS)の精神症状が、退院時の握力と関連している可能性を示唆するデータが報告された。特に不安レベルと強く逆相関しているという。国内多施設共同観察研究の結果であり、日立総合病院救命救急センターの中村謙介氏らによる論文が「BMJ Open」に5月5日掲載された。

     PICSはICU入室中から退室後に生じる身体や精神の症状のことで、退院後にも数カ月以上続くことがある。一般的には時間の経過とともに軽快するが、精神症状は時に悪化していくことがあり、PICSリスクの高い患者を早期に特定し予防的に対処する戦略の確立が求められている。他方、高齢者や慢性疾患のある患者では、握力の低いことが精神症状のリスクの高さと関連していることが報告されている。これを背景に中村氏らは、ICU患者の握力がPICS精神症状の関連因子の一つではないかとの仮説を立て、ICU患者対象の国内多施設共同研究「EMPICS研究」のデータを事後解析し検討した。

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     2019年6~12月に国内9カ所のICUに入室した、滞在期間が48時間以上の患者1,041人から、18歳未満、中枢神経疾患患者、精神疾患の既往者、入院前から歩行に介助を要していた患者、および末期症状の見られる患者を除外し、退院3カ月後のアンケート調査に回答した98人を解析対象とした。アンケートには調査項目の一つとして、不安や抑うつの強さを評価する「HADS」が含まれていた。本研究では、HADS-A(不安レベルの指標)、HADS-D(抑うつレベルの指標)が、それぞれ21点満点中8点以上の場合に、不安や抑うつ症状が強いと判定した。

     解析対象者の主な特徴は、平均年齢70.5歳、男性63%、BMI23で、ICU滞在期間は4.7日、入院期間は23.5日。ICU入室時点で、重症度の指標であるAPACHE IIスコアが18点、SOFAスコアは7点。ICU退室時点で、筋力の指標であるMRCスコアは58点。退院3カ月後の調査で、不安レベルが高いと判定された人が26人(26.5%)、抑うつレベルが高いと判定された人が16人(16.3%)だった。

     単変量解析の結果、退院時の握力が低いほど3カ月後の不安や抑うつ症状が強いという有意な逆相関が認められた(HADS-Aはr=-0.37、P<0.001、HADS-Dはr=-0.30、P=0.0026)。握力以外にも、MRCスコア(r=-0.25、P=0.014)、および日常生活動作(ADL)の指標であるバーゼル指数(r=-0.22、P=0.029)も、HADSの総合スコアとの有意な逆相関が認められた。ただし、MRCスコアやバーゼル指数は、多くの患者が満点近くに分布するという偏りがあったのに対して、握力は正規分布していた。

     ROC解析から、退院時の握力による3カ月後のHADS-A 8点以上の予測能(AUC)は0.71であり、MRCスコア(0.61)やバーゼル指数(0.60)より予測能が高かった。一方、HADS-D 8点以上の予測能は、バーゼル指数0.58、握力0.56、MRCスコア0.44であり、いずれも高くなかった。

     年齢、性別、BMI、退院時握力、APACHE IIを説明変数とする多変量解析の結果、握力は3カ月後のHADS-Aと独立した有意な関連が認められ(P=0.025)、その他の因子は非有意だった。HADS-Dに関しては、独立した関連のある因子が抽出されなかった。

     このほか、ADL低下の有無で二分して(バーゼル指数が100点の群と100点未満の群)、退院時握力とHADSの関連を検討した結果から、ADLが維持されている場合は握力とHADS-Aが有意に逆相関し(r=-0.40、P=0.0035)、HADS-Dとは有意な関連がなく、一方でADLが低下している場合はHADS-Dと有意に逆相関し(r=-0.41、P=0.0043)、HADS-Aとは有意な関連がないことが分かった。

     以上より著者らは、「ICUに48時間以上滞在した患者では、退院時の握力が退院3カ月後の不安や抑うつ症状の強さと関連がある。あらゆる施設で簡便に評価できる握力が、退院後の精神症状のリスク評価に利用できるのではないか」と結論付けている。

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    HealthDay News 2023年6月26日
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