• 生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関係が明らかに

     特定健診データを利用した解析から、生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関連が明らかになった。喫煙習慣の有無にかかわらず、身体活動の低下は呼吸器疾患関連死の独立したリスク因子である可能性などが示された。山形大学医学部第一内科の井上純人氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月22日掲載された。

     生活習慣と心血管代謝性疾患リスクとの関連については数多くの研究がなされているが、呼吸器疾患については、喫煙と肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の関連を除いてほとんど明らかにされていない。これを背景として井上氏らは、2008~2010年の7都道府県の特定健診受診者、66万4,926人のデータを用いた縦断的解析により、生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関連を検討した。

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     解析対象者の主な特徴は、平均年齢62.3±8.8歳、男性42.76%、BMI23.4±3.5、喫煙者15.56%、習慣的飲酒者46.50%。7年間の追跡で8,051人の死亡が記録されていた。死因のトップは悪性新生物で4,159人(51.66%)であり、呼吸器疾患は437人(5.43%)で4位だった。死因としての呼吸器疾患には、ウイルスまたは細菌感染症(202人)、間質性肺炎(126人)、閉塞性肺疾患(42人)、誤嚥(30人)などが含まれていた。

     悪性新生物の中の「気管支及び肺の悪性新生物」による死亡(826人)を加えた計1,263人を「呼吸器疾患による死亡」として、特定健診の健診項目データとの関連を検討すると、単変量解析では、高齢、男性、収縮期血圧高値、喫煙・飲酒習慣などが、オッズ比上昇と有意な関連があり、反対にBMI高値や運動習慣はオッズ比低下と有意な関連が認められた。

     単変量解析で有意な関連が認められた因子を説明変数とする多変量解析の結果、呼吸器疾患による死亡リスクに正の独立した関連のある因子とそのハザード比(HR)は、高齢(1歳ごとに1.106)、男性(3.750)、喫煙習慣(1.941)、HbA1c(1%高いごとに1.213)、尿酸(1mg/dL高いごとに1.056)、尿蛋白陽性(1.432)、および脳血管疾患の既往(1.623)となった。反対に、負の独立した関連因子は、BMI(1高いごとに0.915)、運動習慣(0.839)、飲酒習慣(0.617)、歩行速度が速いこと(0.518)、LDL-コレステロール(1mg/dL高いごとに0.995)だった。

     次に、「気管支及び肺の悪性新生物による死亡」を除く437人で多変量解析を行うと、高齢(1.141)、男性(3.898)、HbA1c(1.241)、尿酸(1.066)、尿蛋白陽性(1.876)、eGFR(1mL/分/1.73m2高いごとに1.006)および脳血管疾患の既往(2.049)が正の独立した関連因子、BMI(0.831)、運動習慣(0.591)、歩行速度が速いこと(0.274)、LDL-コレステロール(0.995)が負の独立した関連因子として抽出された。喫煙習慣や飲酒習慣は、単変量解析の段階で有意な関連が示されなかった。

     続いて、「気管支及び肺の悪性新生物による死亡」の826人のみで多変量解析を行うと、独立した正の関連因子は、高齢(1.096)、男性(3.607)、喫煙習慣(3.287)、HbA1c(1.209)であり、独立した負の関連因子は歩行速度が速いこと(0.629)とヘモグロビン(1g/dL高いごとに0.884)が抽出された。

     著者らは、上記3パターンの解析のいずれにおいても、運動習慣を有することや歩行速度が速いことと死亡リスクの低さとの強い関連が認められたことから、「日本人60万人以上を対象とする大規模なサンプルを用いた解析から、喫煙習慣の有無にかかわらず、運動は呼吸器疾患による死亡リスクを抑制するための重要な因子と考えられる」とまとめている。

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    HealthDay News 2023年7月24日
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  • 糖尿病予備群は食後高血糖是正により心血管転帰が改善――介入後10年間の観察研究

     食後高血糖への介入が転帰改善につながる可能性を示唆するデータが報告された。国内で実施された多施設共同研究「DIANA研究」終了後の追跡観察調査が行われ、国立循環器病研究センター心臓血管内科部門冠疾患科の片岡有氏らによる論文が、「Journal of Diabetes and its Complications」5月号に掲載された。

     糖尿病では食後のみでなく食前の血糖値も高くなるが、糖尿病予備群と言われる75gブドウ糖負荷試験にて診断可能な耐糖能異常(impaired glucose tolerance;IGT)や初期の糖尿病は、食前の血糖値は正常だが食後の高血糖を伴う。食後の高血糖は心血管疾患発症のリスク因子であることを示唆する多くの疫学研究結果が報告されている。しかしながら、食後高血糖への治療介入により、心血管疾患発症リスクが抑制されるかという点については、いまだ十分に明らかになっていない。

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     大阪府済生会富田林病院の宮崎俊一氏は、冠動脈疾患(CAD)を合併したIGTあるいは初期糖尿病患者を対象として、食後高血糖を改善させる薬剤による冠動脈硬化の進展抑制効果を食事・運動療法と比較する前向き無作為化試験「DIANA研究」を実施した。その研究では、食事・運動療法と比較して1年間の食後高血糖に対する薬物治療の冠動脈硬化進展抑制効果は認められなかった。しかしながら、薬物あるいは食事・運動療法いずれの治療下においても、治療開始から1年後に食後高血糖が改善していた症例は、冠動脈硬化進展が有意に抑制されていた。今回の報告は、DIANA研究終了後に実施された追跡観察調査の結果であり、1年間の食後高血糖への治療介入が、その後の約10年間の心血管疾患発症に及ぼす効果について検討された。

     DIANA研究では302人の患者を、α-グルコシダーゼ阻害薬(ボグリボース)群、グリニド薬(ナテグリニド)群、あるいは食事・運動療法群の3群に無作為に割り付け、1年間の介入終了後は主治医の裁量による治療が継続されていた。このうち、243人が追跡調査の解析対象とされ、その平均年齢は64.6±9.3歳、女性が13.6%であり、IGTが58.9%、初期の2型糖尿病は41.1%であった。主要評価項目は、観察期間中の全死亡、非致死性心筋梗塞、緊急冠動脈血行再建術を含めた主要心血管イベント(MACE)の発生率と定義された。

     中央値9.8年(範囲7.1~12.8)の観察期間におけるMACE発生件数は91件であった。DIANA研究において食後血糖改善を目指した薬物治療群のMACE発生率は、食事・運動療法群と有意差を認めなかった〔ボグリボース群はハザード比(HR)1.07(95%信頼区間0.69~1.66)、ナテグリニド群はHR0.99(同0.64~1.55)〕。MACEを構成する全死亡、非致死性心筋梗塞、血行再建術それぞれの発生率についても、薬物治療群と食事・運動療法群の間に有意差は見られなかった。IGT、初期糖尿病それぞれにおいても、薬物治療群のMACE発生率は食事・運動療法群と同等であった。

     本研究では、薬物あるいは食事・運動療法いずれの治療下においても、治療開始から1年後における糖代謝改善の有無(IGTから正常耐糖能への変化、糖尿病からIGTあるいは正常耐糖能への変化)により対象症例を2群に分類しMACEの発生率が比較された。対象症例の55.9%は糖代謝改善を認めたが、MACE発生率は非改善群と有意差を認めなかった〔HR0.78(0.51~1.18)〕。

     対象症例を、IGT、初期糖尿病に層別化して検討を行った。IGTの症例においては、IGTから正常耐糖能へ改善していた群は、非改善群に比して観察期間中のMACE発生率が有意に低率であった〔HR0.55(0.31~0.97)〕。年齢、性別、インスリン抵抗性(HOMA-IR)、血圧、スタチンやβ遮断薬使用を調整後も、結果は同様であった〔HR0.44(0.23~0.86)〕。
    一方、初期糖尿病症例では、IGTあるいは正常耐糖能へ改善していた群のMACE発生率は、非改善群と比較して有意差を認めなかった〔HR1.49(0.70~3.19)〕。

     著者らは本研究の限界点として、post-hocの事後解析であること、無作為化割り付けによる介入期間が1年間と比較的短いこと、観察期間中の糖代謝の変化のデータは収集していないことなどを挙げている。α-グルコシダーゼ阻害薬のアカルボースによる心血管イベント発生率の減少を報告した先行研究「STOP-NIDDM」は介入期間が長く、IGTのみを対象としており、CADを有する症例は4.8%のみであった。一方、本研究はCADをすでに有しているIGTあるいは初期糖尿病症例を対象としていることから、著者らは、α-グルコシダーゼ阻害薬の心血管疾患発症に対する効果が異なった可能性を述べている。これらの考察の上で論文の結論は、「CADのあるIGT患者の長期予後改善においては、正常耐糖能への改善を目指した介入治療が必要と考えられる」と記されている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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    HealthDay News 2023年7月24日
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