• COVID-19の影響で日本人の死亡率が東日本大震災以来の増加

     日本人の年齢調整死亡率は年々低下が続いていたが、2021年には増加に転じたことが明らかになった。主な要因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)、循環器疾患、老衰による死亡の増加だという。国立がん研究センターがん対策研究所データサイエンス研究部の田中宏和氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に8月31日掲載された。

     日本人の死亡率(死亡者数が人口に占める割合)は高齢化のために年々上昇している。その一方で、高齢化の影響を統計学的に取り除いた年齢調整死亡率(ASMR)は、社会環境や生活習慣の改善、医療の充実などの影響を受けて、年々低下してきている。ASMRが上昇した近年での数少ない例外は、東日本大震災のあった2011年だった。

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     COVID-19パンデミックにより、医療現場の混乱が発生し、社会環境や生活習慣、受療行動などが大きく変化したため、日本以外の多くの先進国では2020年の段階で平均寿命の短縮が報告された。ただし2020年時点では国内の感染拡大の規模が諸外国より抑制されていたことから、日本人の平均寿命は短縮しなかった。ところが2021年には、国内のCOVID-19患者数が2020年の6倍以上に増加し、ASMRに顕著な影響が生じた可能性が考えられる。これを背景として田中氏らは、厚生労働省「人口動態統計」のデータを用いて1995~2021年の日本人のASMRの推移を検討した。

     統計解析の結果、2020年までASMRはマイナスが続いていたが、2021年は男性が前年比2.07%増、女性は2.19%増であり、東日本大震災以来10年ぶりに増加に転じていたことが分かった。死因別に見た場合、COVID-19による10万人当たりのASMRは、男性は2020年が3.8であったものが2021年には17.5となり、女性は同順に1.5から7.7と上昇していた。

     COVID-19以外には、循環器疾患と老衰などによる増加が、ASMRの上昇に寄与していた。循環器疾患死の増加について著者らは、COVID-19罹患が血栓イベントのリスクを押し上げるという直接的な要因と、心筋梗塞や脳卒中の発作時の救急搬送の遅延のため、タイムリーな治療を受けられないケースが発生したという間接的な要因が考えられるとしている。また、老衰死の増加については、パンデミック中に在宅死が増えたと考えられ、在宅死では老衰死と判定されやすかったのではないかとの考察が述べられている。

     一方、がん、肺炎、不慮の事故による死亡は減少していた。肺炎による死亡の減少は、COVID-19感染抑止対策の副次的な効果であり、不慮の事故による死亡の減少は、外出自粛による交通事故などの減少が寄与した可能性があるとのことだ。

     論文の結論には、「日本ではCOVID-19パンデミックにもかかわらず、2020年もASMRの低下傾向が続いていたが2021年には約2%の上昇が観察され、これはCOVID-19、老衰、循環器疾患などに起因するものだった。2021年は日本の死亡率の推移の転換点となったのではないか」と述べられている。また、2022年の国内のCOVID-19患者数はさらに急増したことから、「ASMRに対するインパクトはより大きくなっている可能性がある」としている。

     なお、9月15日に発表された2022年の「人口動態統計(確定数)」では、日本人の死亡者数が2年連続で過去最高となったことが報告されている。

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    参考情報:リンク先1リンク先2厚生労働省「令和4年(2022)人口動態統計(確定数)の概況」

    HealthDay News 2023年10月16日
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  • 肝臓と腎臓の慢性疾患の併存で心臓病リスクが上昇する

     狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患(IHD)のリスク抑制には、肝臓と腎臓の病気の予防が肝腎であることを示唆する研究結果が報告された。代謝異常関連脂肪性肝疾患(MAFLD)と慢性腎臓病(CKD)が併存している人は、既知のリスク因子の影響を調整してもIHD発症リスクが有意に高いという。札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座の宮森大輔氏、田中希尚氏、古橋眞人氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association(JAHA)」に7月8日掲載された。

     MAFLDとCKDはどちらも近年、国内で患者数の増加が指摘されている慢性疾患。MAFLDは、脂肪肝とともに過体重/肥満、糖尿病もしくはその他の代謝異常(血糖や血清脂質、血圧の異常など)が生じている状態で、最近では動脈硬化性疾患の新たなリスク因子と位置付けられている。一方、CKDは腎機能の低下を主徴とする疾患だが、腎不全のリスクというだけでなく、動脈硬化性疾患のリスクとしても重視されている。肝臓と腎臓はともに生体の恒常性維持に重要な役割を担っており、動脈硬化性疾患に関しても、MAFLDとCKDが存在した場合にはリスクがより上昇する可能性がある。ただし、そのような視点での研究はこれまで報告されていない。古橋氏らの研究グループは、健診受診者のデータを用いた縦断的解析により、この点を検討した。

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     解析対象は、2006年に渓仁会円山クリニック(札幌市)で定期健診を受けた人のうち、2016年までに1回以上、再度健診を受けていて追跡が可能であり、ベースライン時(2006年)にIHDの既往がなく、解析データに欠落のない1万4,141人(平均年齢48±9歳、男性65.0%)。このうち、ベースライン時点でMAFLDは4,581人(32.4%)、CKDは990人(7.0%)に認められ、両者併存は448人(3.2%)だった。

     平均6.9年(範囲1~10年)の追跡で、479人がIHDを発症。1,000人年当たりの発症率は、男性6.3、女性2.4だった。IHD発症リスクとの関連の解析に際しては、年齢と性別の影響を調整する「モデル1」、モデル1に現喫煙とIHDの家族歴を追加する「モデル2」、モデル2に過体重/肥満(BMI23以上)、糖尿病、脂質異常症、高血圧を追加する「モデル3」という3通りで検討した。なお、モデル3で追加した調整因子は、一般的にIHD発症に対して調整される必要があるが、MAFLDの診断基準と重複していることにより多重共線性の懸念(有意な関連を有意でないと判定してしまうこと)があるため、最後に追加した。

     ベースライン時点でMAFLDとCKDがともにない群を基準とすると、MAFLDのみ単独で有していた群のIHD発症リスクは、モデル1〔ハザード比(HR)1.42〕とモデル2(HR1.40)では有意な関連が示された。ただし、モデル3では非有意となった。ベースライン時点でCKDのみを有していた群は、全てのモデルで関連が非有意だった。それに対して、MAFLDとCKDの併発群は、モデル1〔HR2.16(95%信頼区間1.50~3.10)〕、モデル2〔HR2.20(同1.53~3.16)〕、モデル3〔HR1.51(1.02~2.22)〕の全てで、IHD発症リスクが高いことが示された。

     なお、性別の違いは上記の結果に影響を及ぼしていなかった(モデル3での交互作用P=0.086)。また、モデル3において、MAFLDの有無、およびCKDの有無で比較した場合は、いずれもIHDリスクに有意差がなかった。

     続いて、IHDリスクの予測に最も適したモデルはどれかを、赤池情報量規準(AIC)という指標で検討した。AICは値が小さいほど解析に適合していることを意味するが、モデル1から順に、8585、8200、8171であり、モデル3が最適という結果だった。

     次に、IHDの古典的なリスク因子(年齢、性別、現喫煙、IHDの家族歴)にMAFLDとCKDの併存を追加した場合のIHD発症予測能への影響をROC解析で検討。すると、古典的リスク因子によるAUCは0.678であるのに対して、MAFLDとCKDの併存を加えると0.687となり、予測能が有意に上昇することが分かった(P<0.019)。

     著者らは本研究の限界点として、食事・運動習慣やがんの既往などが交絡因子に含まれていないこと、脂肪肝の重症度が考慮されていないことなどを挙げている。その上で、「日本人一般集団においてMAFLDとCKDの併存は、それらが単独で存在している場合よりもIHD発症リスクが高いことが示された」と結論付け、「MAFLD、CKD、IHDの相互の関連の理解を進めることが、IHDの新たな予防戦略につながるのではないか」と述べている。

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    HealthDay News 2023年10月16日
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