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9月 03 2024 日本の大学院生の自殺に関する実態調査
日本の大学院の自殺に関する20年間の調査データを分析した結果から、男子学生、工学専攻、留年歴があることなどの特徴が、自殺率の高さと関連していることが明らかとなった。また、自殺の動機として多かったのは就職活動の失敗だったという。お茶の水女子大学保健管理センターの丸谷俊之氏らによる研究であり、「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に3月8日掲載された。
大学院生の自殺既遂例に関する研究報告は少ないが、大学院生はさまざまなストレスにさらされており、メンタルヘルスに関する問題を抱えやすいといえる。海外での研究では、指導教員からのプレッシャーや抑うつ症状などが自殺の要因として指摘されている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。著者らは今回、全国の国立大学の大学院生を対象として国立大学保健管理施設協議会が実施している死因に関する調査データを用いて、2002年度から2021年度までの20年間における大学院生の自殺について分析した。学歴(修士・博士)、専攻(7種類)、休学歴、留年歴などと自殺リスクとの関連や、自殺に関連する情報を詳細に検討した。
20年間の累積学生数は238万3,858人(男子171万6,590人、女子66万7,268人)であり、そのうち347人(男子292人、女子55人)が自殺していた。自殺時の平均年齢は26.2±5.1歳、年齢中央値は24.0歳だった。
男子学生は女子学生と比べ、自殺率が高かった(学生10万人当たり17.0対8.2)。性別と修士・博士課程で比較すると、修士課程の男子学生の自殺率が最も高かった(調整済み残差:6.2)。専攻別では、工学、理学、人文科学を専攻する学生は自殺リスクが高く(調整済み残差:それぞれ3.9、2.6、2.1)、医歯薬看護・健康科学、教育学、農学、社会科学を専攻する学生はリスクが低かった(調整済み残差:それぞれ-4.1、-3.1、-1.5、-0.9)。また、留年歴のある学生は留年歴のない学生より自殺率が高かった。しかし、留年歴のない男子学生の自殺リスクは、留年歴のある女子学生よりも高かった(調整済み残差:それぞれ2.9、-0.1)。
精神医学的診断が報告されていた44人の診断名は、気分障害が27人で最も多かった(うつ病19人、双極性障害2人、下位分類不明6人)。また、自殺の推定動機が報告されていた36人のうち、最も多かったのは就職活動の失敗(13人)であり、次いで学業不振(9人)、恋愛関係の問題(5人)が続いた。2020年度には、1人の日本人学生が新型コロナウイルス感染症に関連した就職活動の問題を抱えており、留学生2人はパンデミックに伴う渡航制限が影響していた。
今回の研究で就職活動の失敗が自殺の動機として最も多かったことに関して、著者らは、修士課程・博士課程ともに定員数が大幅に増やされてきた一方で、学術的なポストの数は不足しており、就職活動が困難になっていることに言及している。また、研究結果から、「大学院生における自殺の高リスク群を認識することの重要性」を指摘している。
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8月 21 2024 「孤食」の人は自殺リスクが2.8倍に?
日本の高齢者4.6万人を7年間追跡し、社会的つながりと自殺との関連を調べたところ、「孤食」の状態にある人は、自殺死亡のリスクが約2.8倍、高かったという推計結果が発表された。日本福祉大学社会福祉学部の斉藤雅茂氏らによる研究であり、「Social Science & Medicine」4月号に掲載された。
日本では依然として、国際的に見て自殺率が高い。社会的孤立の問題が指摘されているが、個人の社会的つながりに関する多様な指標と自殺死亡を検証した研究は少ない。また、日本では50~59歳の年齢層の自殺者数が最も多いが、70~79歳と80歳以上の自殺者数を合計するとそれを上回る。そのような中、高齢者の自殺に関する研究は不足している。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。そこで著者らは、日本老年学的評価研究の「健康とくらしの調査」に回答した、北海道・千葉・山梨・愛知・三重・長崎における要介護認定を受けていない65歳以上の人を対象に前向きコホート研究を実施した。2010年にベースライン調査を開始、2017年まで追跡し、死亡した人の死因を人口動態統計に基づいて特定した。
社会的つながりの乏しさの指標については、孤食(一人で食事をすることが多い)、情緒的・手段的サポート授受の欠如(心配事などを聞いてくれる/聞いてあげる人や、病気のときに看病などをしてくれる人/してあげる人がいない)、社会的活動への不参加(ボランティアや趣味などのグループに参加していない)、友人との交流の欠如(知人・友人と会っていない)を調査した。
その結果、解析対象者4万6,144人(女性2万4,710人)のうち、7年間の追跡期間中に55人が自殺した(10万人当たりの年間自殺率は18.96)。社会的つながりが乏しかった人や抑うつ傾向の人では、自殺率が高かった。
ベースライン時の性別、年齢、教育年数、婚姻状態、世帯構成、等価世帯所得、治療疾患の有無の影響を考慮して統計解析を行った結果、孤食状態にあった人は、自殺リスクが2.8倍ほど高いことが明らかとなった(ハザード比2.81、95%信頼区間1.47~5.37)。抑うつ傾向の影響を考慮しても、自殺リスクは約2.5倍だった(同2.49、1.32~4.72)。また、孤食により、年間1,800人程度の高齢者の自殺(年間の高齢自殺者の29%)が生じている可能性があると推計された。
今回の研究結果から著者らは、「孤食による高齢者の自殺は、抑うつ傾向による自殺と比べても無視できない規模といえる」と総括している。また、社会的つながりは可変的なものであるとして、「うつへの対策だけでなく、特に孤食をなくすことは自殺対策において有用であり、自殺リスクの『気づき』のポイントとしても、孤食への対策が有用であることが示唆された」と述べている。
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7月 09 2024 心電図所見から夜間の自殺企図を予測できる?
精神疾患と心電図所見の関連については多くの研究が行われている。新たな研究として、自殺企図歴のある日本人の精神疾患患者を対象に、夜間の自殺企図と心電図の波形との関連が検討された。その結果、早期再分極を示す心電図により、夜間の自殺企図を予測できる可能性のあることが示された。東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科の亀山洋氏らによる研究結果であり、「Neuropsychopharmacology Reports」に3月17日掲載された。
早期再分極パターン(early repolarization pattern;ERP)は、心電図におけるQRS-ST接合部(J点)の上昇(スラーやノッチと呼ばれる波形)を特徴とする。ERPは男性に多く、健常人にも見られるが、精神疾患との関連が報告されており、自殺企図などの衝動性と関連する可能性も示唆されている。自殺行動は夜間の時間帯に多いことが知られているため、その危険性を事前に予測することが重要となる。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。そこで著者らは、自殺企図歴があり、2015年1月から2023年1月に東京慈恵会医科大学附属柏病院精神神経科を受診、または身体科入院中に精神神経科が介入した精神疾患患者で、心電図検査を行った人を対象とする後ろ向き症例対照研究を行い、心電図におけるERPと夜間の自殺企図との関連を検討した。全身状態が悪いなど心電図に影響が及ぶ可能性のある患者、自殺企図の時間帯が不明な患者、夜間(18時~6時)の心電図しか記録されていない患者などは対象から除外し、日中に記録された最初の心電図を用いて評価した。
評価対象者43人(男性17人、女性26人)のうち、ERPのある患者は21人(平均年齢46.9±18.7歳、男性9人)、ERPのない患者は22人(同55.7±19.1歳、同8人)だった。自殺企図が夜間に行われたのは、男性、女性のどちらも11人ずつだった。夜間の自殺企図の割合は、ERPのある患者で76.2%、ERPのない患者で31.8%だったが、この差は統計学的に有意ではなかった。
自殺企図の行われた時間帯を比較すると、ERPのある患者では早朝5時と夜間21時が最も多かった。一方、ERPのない患者では8時と14時が最も多く、早朝や夜間の自殺企図は少ないという特徴が見られた。また、心電図所見を比較したところ、心拍数、QRS間隔、QTc間隔について、ERPの有無で有意な差は認められなかった。
さらに、夜間の自殺企図との関連を検討するため、ERP、男性、50歳代を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。その結果、ERPは夜間の自殺企図に対する有意な予測因子であることが明らかとなった(オッズ比5.25、95%信頼区間1.32~20.8)。一方、男性(同2.50、0.61~10.2)および50歳代(同3.07、0.22~43.3)に関しては、夜間の自殺企図の有意な予測因子ではなかった。
以上の結果について著者らは、単一施設での後ろ向き研究であること、症例数が少なかったことなどから一般化可能性には限界があるとした上で、結論として、「ERPと夜間の自殺企図との関連が明らかになり、ERPから夜間の自殺企図を予測できる可能性が示唆された」と述べている。
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1月 17 2024 自殺未遂者のうち精神疾患の既往がない人ほど身体所見の重症度が高い
精神疾患は自殺の主な危険因子の一つであり、自殺予防対策では精神疾患のある人への支援が重要視されている。秋田大学大学院看護学講座の丹治史也氏らが秋田市内の自殺未遂者のデータを分析した結果、精神疾患の既往のない人は、その既往がある人と比べて、致死性の高い自殺企図の手段を選ぶ傾向があり、身体所見の重症度も高いことが分かった。同氏らは、精神疾患のある人だけでなく、精神疾患のない人にも配慮した自殺予防対策が重要だとしている。詳細は「Journal of Primary Care & Community Health」に11月19日掲載された。
日本の自殺率は近年減少傾向にあったが、新型コロナウイルス感染症の流行が影響して増加に転じている。自殺の主な危険因子には自殺未遂歴と精神疾患が挙げられる。自殺企図者の9割以上が精神疾患を有するとの報告もあり、精神疾患のある人は自殺リスクが高いと言われている。一方で、精神疾患のない人は致死性の高い自殺手段を選ぶ傾向のあることが報告されているが、精神疾患の有無と自殺未遂者の身体所見の重症度との関連は明らかになっていない。そこで、丹治氏らは今回、秋田市のデータを用い、自殺未遂者における精神疾患の既往の有無と救急搬送時の身体所見の重症度との関連を調べる二次データ解析を実施した。
この研究は、秋田市内5施設で収集した自損患者診療状況シートのデータを用い、2012年4月から2022年3月の間に救急搬送された自殺未遂者806人を対象に実施したもの。精神疾患の既往を曝露変数とし、主要評価項目は、自殺未遂者の身体所見の重症度(中等症または重症)とした。対象者のうち女性が67.6%を占め、76.4%(616人)は1つ以上の精神疾患の既往を有していた。
年齢と性、自殺企図の回数および支援者の有無で調整した解析の結果、自殺未遂者において、精神疾患の既往と身体所見の重症度との間に有意な負の関連が認められた〔有病割合比(PR)0.40、95%信頼区間0.28~0.59〕。つまり、自殺未遂者において、精神疾患の既往がない人は身体所見の重症度が高いことが分かった。この関連には年齢や性による差は認められなかった。また、自殺企図の手段に関する分析では、精神疾患の既往がある人は薬物過剰摂取などの致死性の低い方法を選ぶケースが多かったのに対し、既往のない人は、首つりや手首の深い損傷など致死性の高い方法を選ぶ傾向にあった。
以上から、著者らは「致死性の高い自殺企図の手段を選択するということは、自殺死亡に至るリスクが高まることを意味する。今回の研究は、精神疾患の診断がつく前に自殺を企図する可能性は高いことを考慮することの重要性を強調するものだ」と述べ、「精神疾患がなくても精神科を受診したり、社会的な支援を得られたりしやすい環境を整えることが自殺率の低下につながる可能性がある」と付言している。
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9月 19 2023 自殺関連ツイート急増後に自殺した人の特徴
マスメディアやソーシャルメディアでの自殺関連情報が、自殺リスクの高い人の自殺行動を促してしまう懸念が指摘される中、ツイッター(現:エックス)に自殺関連ツイート(同:ポスト)が急増した数日後に自殺に至った人の特徴を検討した研究結果が報告された。40歳以下、男性、失業中、都市生活者などは、ツイート件数増加後にハイリスクとなる可能性があるという。岡山大学病院新医療研究開発センターの三橋利晴氏の研究によるもので、詳細は「JMIR formative research」に8月10日掲載された。
マスメディアでの自殺報道が自殺行動を増やす可能性があることから、世界保健機関(WHO)が自殺報道に際しての留意事項を公表するなどの対策が取られている。ただしこれまでのところ、どのような人がメディア情報の影響を受けやすいのかは不明。また近年は、ソーシャルメディアでの情報発信・閲覧の比重が増え、それらの情報と自殺行動との関連も指摘されている。メディア情報の影響を受けやすい人の特徴が分かれば、実効性の高い自殺予防対策を確立する一助となると考えられる。これを背景として三橋氏は、ツイッター上の自殺関連ツイート数が急増した後に、自殺既遂に至った人の属性を解析することにより、その特徴を明らかにすることを試みた。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象期間は2011~2014年で、この間の全ツイートの約1割にあたるランダムサンプルの中から、「自殺」、「自死」などの自殺関連の単語を含むツイートを抽出。そこから、「予防」、「対策」、「プロジェクト」、「支援・サポート」、「ディスカッション」、「カンファレンス」など、自殺予防活動に関連する単語が含まれているツイートを除外し、残ったツイートを「自殺関連ツイート」としてカウントした。一方、この間の自殺による死亡については、厚生労働省「人口動態統計」から情報を得た。また感度分析として、自殺以外の「予期せぬ死亡」についても同様の検討を行った。
1日当たりの自殺関連ツイート数は、57~6万875件の範囲に分布していた。前日からの変動は0.14~44.3倍の範囲であり、その95パーセンタイルに相当する、前日比1.79倍を超過して増加していた日を「自殺関連ツイートが急増した日(曝露日)」と定義。曝露日の3日後および7日後の自殺による死亡者の特徴〔年齢(40歳以下/41歳以上)、性別、就業状況、婚姻状況、居住地域(都市部/非都市部)〕を、ケースオンリー解析(症例内のみでの比較)により検討した。ケースオンリー解析は、もとは遺伝因子と環境因子の相互作用の検討に用いられていたが、近年では、時間経過とともに変化するリスクへの曝露と関連が予測される因子との相互作用の検討などにも用いられている。
解析に必要な情報が欠落している死亡者は除外した。なお、解析対象日を曝露日の3日後と7日後とした理由は、気温と死亡リスクとの関連を検討した先行研究が曝露日当日と2日後のデータを解析しており、ツイート件数と自殺との関連はそれよりもややタイムラグが長いと考えられたため。また、データ取得時期(2011~2014年)のツイッター利用率が40歳以下で高いことから、年齢は40歳を基準に二分した。
解析対象期間の自殺による死亡者数は15万9,490人(平均年齢58.5±20.6歳、男性65.1%)だった。曝露日の3日後に自殺既遂に至った人には、以下のような特徴が認められた。年齢が40歳以下〔オッズ比(OR)1.09(95%信頼区間1.03~1.15)〕、男性〔OR1.12(同1.07~1.18)〕、失業者〔自営業に対してOR1.12(1.02~1.22)〕、離婚〔婚姻関係ありに対してOR1.11(1.03~1.19)〕、都市に居住〔OR1.26(1.17~1.35)〕。一方、婚姻状況が死別の場合はオッズ比の有意な低下が認められた〔OR0.83(0.77~0.89)〕。就業状況に関しては、会社員、農業従事者、および「その他」は、関連が非有意だった。
曝露日の7日後に自殺既遂に至った人の解析結果も、失業者で関連が非有意であることを除き、曝露3日後の解析結果と同様だった。一方、感度分析として行った「予期せぬ死亡」(11万5,072人、男性55.3%)については、婚姻状況が死別の場合に曝露7日後のオッズ比が有意に高いこと以外〔OR1.08(1.02~1.15)〕、予期せぬ死亡との関連は認められなかった。そのため、この研究で得られた結果は、自殺による死亡に特異的と考えられた。
これらの結果から三橋氏は、「自殺関連ツイートへの感受性と関連する個人的特徴が明らかになった。若年者、男性、失業者、離婚者などは、自殺関連ツイートの急増に対して脆弱な可能性がある」と結論付けている。
ツイート件数と自殺行動が関連し得る背景として同氏は、「自殺関連ツイートを閲覧することによって受ける影響と、ツイートを見なくてもその時点の社会情勢などから受ける影響という二つの経路で、自殺行動のリスクが上昇してしまうのではないか」とし、特に前者についてはツイッター利用率の高い若年者でより大きな影響が生じる可能性を考察。また、「自殺リスクの高い人はネガティブな情報にアクセスする傾向が指摘されており、ツイッターのリツイート機能などを介して、そのような人たちがクラスター化することもあるようだ」と述べ、そういったハイリスク者を特定した上での公衆衛生対策を推進する必要性を指摘している。
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