• 摂食速度の速い高齢糖尿病患者は筋肉量が減りにくい

     一般に「早食いは体に良くない」とされている。しかし、高齢2型糖尿病患者のサルコペニア予防という視点では、そうとは限らない可能性を示唆するデータが報告された。自己申告で「食べるのが速い」と回答した人は、筋肉量の低下速度が緩徐だという。京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科の小林玄樹氏、松下記念病院糖尿病・内分泌科の橋本善隆氏、京都府立医科大学の福井道明氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Nutrition」に6月23日掲載された。

     糖尿病患者に対しては、食欲にまかせた大食いを防いだり、食後高血糖の抑制のために、ゆっくり食べるように勧められることが多い。一方で近年、人口の高齢化に伴い、サルコペニア(筋肉量や筋力の低下)を併発している糖尿病患者が増加し、高血糖による合併症ではなく、サルコペニアが予後を左右するようなケースの増加が指摘されている。サルコペニアの予防や改善には、タンパク質を中心とする栄養素の十分な摂取と、筋力トレーニングが必要とされる。加えて同研究グループでは、摂食速度がサルコペニアリスクと関連があることを、横断研究の結果として既に報告している。ただし、2型糖尿病患者の摂食速度が筋肉量の変化に影響を及ぼすか否かは不明であった。そこで小林氏らは、京都府立医科大学などが外来糖尿病患者を対象に行っている前向きコホート研究「KAMOGAWA-DMコホート」のデータを用いた縦断的解析を行った。

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     同コホートの参加者のうち、生体インピーダンス法により筋肉量が複数回測定されている患者284人を解析対象とした。年齢により推奨される摂取エネルギー量が異なるため、解析は65歳未満(91人)と65歳以上の高齢者(193人)に分けて行った。なお、摂取エネルギー量が極端な患者(600kcal/日未満または4,000kcal/日超)、体組成に影響を及ぼし得るステロイドが長期処方されている患者、および追跡期間が6カ月未満や解析に必要なデータの欠落している患者は除外されている。

     参加者の主な特徴は、65歳未満の群は平均年齢54.0±8.7歳、男性48.4%、BMI26.6±5.3kg/m2、骨格筋量指数(SMI)7.3±1.0kg/m2、HbA1c7.8±1.7%、糖尿病罹病期間9.2±6.8年。高齢者群は平均年齢72.2±5.2歳、男性56.5%、BMI23.8±3.9kg/m2、SMI6.9±1.0kg/m2、HbA1c7.2±1.0%、糖尿病罹病期間15.9±10.0年であった。

     「食べる速さは?」との質問に、「かなり速い」または「やや速い」と答えた人を摂食速度が「速い」群と定義し、「普通」と答えた人を摂食速度が「普通」の群、「やや遅い」または「かなり遅い」と答えた人を摂食速度が「遅い」群と定義した。65歳未満では摂食速度が「速い」群50.5%、「普通」群42.9%、「遅い」群6.6%であり、65歳以上では同順に40.4%、38.3%、21.3%であった。

     65歳未満群は1.6±0.6年、高齢者群は1.7±0.7年後に追跡調査を実施。年齢、性別、喫煙・運動・飲酒習慣、インスリン・SGLT2阻害薬の処方、摂取エネルギー量およびタンパク質摂取量で調整後の1年あたりのSMI低下率は、65歳未満群では摂食速度が「速い」群は0.67%、「普通」群は0.58%、「遅い」群は-1.84%であり、群間に有意差はなかった。一方、高齢者群では摂食速度が「速い」群はSMI低下率が-1.08%とSMIの上昇を認めたのに対して、「普通」群は0.85%、「遅い」群は0.93%とSMIは低下しており、摂食速度「速い」群との間に有意差が存在した。

     次に、既報研究に基づき、年0.5%以上の筋量低下を「SMI低下」と定義し、「SMI低下」の発症について検討した。解析に際しては前記の交絡因子に加え、BMI、HbA1cを独立変数として設定した。その結果、65歳未満群では摂食速度は「SMI低下」と有意な関連がなかった。一方、高齢者群では、摂食速度「遅い」群と比較して「速い」群では、「SMI低下」のオッズ比(OR)が0.42(95%信頼区間0.18~0.98)と有意に低かった。摂食速度「普通」群はOR0.82(同0.36~2.03)と有意差を認めなかった。

     65歳未満群では摂取エネルギー量および摂取タンパク質量が多いこと、HbA1c高値、および飲酒習慣が、SMI低下に対する有意な保護因子として抽出された。高齢者群では摂食速度以外の関連因子は特定されなかった。

     以上より著者らは、「高齢2型糖尿病患者では、遅い摂食速度が筋肉量の減少と関連していた。サルコペニア対策の観点からは、摂食速度にも細心の注意を払う必要があるのではないか」と述べている。なお、早食いが筋肉量の維持に有利に働く機序としては、ゆっくり食べることでGLP-1やペプチドYYなどの食欲を抑制するように働くホルモンが分泌され摂取量が減ることや、食事誘発性熱産生が亢進することなどの影響が考えられるという。さらに、筋肉量が減少しているために嚥下機能が低下していて摂食速度が遅くなるという、因果の逆転の影響も想定されるとしている。

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    HealthDay News 2022年10月17日
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  • 浴槽入浴が糖尿病患者の治療を後押し?

     湯に漬かる入浴(浴槽入浴)の頻度が高い糖尿病患者は、血糖コントロールの指標であるHbA1cが良好であるというデータが報告された。国立国際医療研究センター国府台病院糖尿病・内分泌代謝内科の勝山修行氏らの研究によるもので、詳細は「Cardiology Research」6月発行号に掲載された。HbA1c以外に体格指数(BMI)や拡張期血圧も、浴槽入浴の頻度が高い患者の方が良好だという。

     サウナや浴槽入浴の頻度が、心血管イベント発生率と逆相関することが既に報告されている。ただし、これまでに国内で行われた研究は解析対象者数が少なく、また、心血管イベントの既知のリスク因子を網羅的に解析した研究は見られない。勝山氏らは、同院の外来糖尿病患者約1,300人を対象とする横断研究を実施し、この点を検討した。

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     2018年10月~2019年3月に同院を受診し、入浴の習慣に関するアンケートに回答した糖尿病患者のうち、2型以外の糖尿病、および必要なデータが欠落している患者を除外して、1,297人を解析対象とした。解析対象者の主な特徴は、平均年齢66.9±13.6歳、男性55%、BMI25.9±5.3、HbA1c7.17±1.14%で、冠動脈疾患の既往者が6.6%、脳卒中の既往者が5.5%含まれていた。また、99.9%は自宅に浴槽付きの風呂を有していた。なお、季節による入浴頻度への影響を抑えるため、アンケート実施期間を冬季に限定した。

     浴槽入浴の頻度は週に平均4.2±2.7回で、1回当たりの入浴時間は16±14分だった。浴槽入浴の頻度は年齢と有意に正相関(高齢であるほど頻度が高い)していた(R=0.098、P<0.001)。反対に、HbA1c(R=-0.078、P=0.005)、BMI、(R=-0.104、P<0.001)、拡張期血圧(R=-0.118、P<0.001)とは有意な負の相関が認められた。収縮期血圧や血清脂質(コレステロール、中性脂肪)、および腎機能(eGFR)や肝機能(AST、ALT、γ-GT)の指標は、浴槽入浴との有意な相関がなかった。

     浴槽入浴の頻度に基づき全体を3群(週に4回以上、1~3回、1回未満)に分類して比較検討した結果も同様に、浴槽入浴の頻度の高い群は、高齢で(P<0.001)、HbA1c(P=0.012)やBMI(P=0.025)、拡張期血圧(P=0.001)が低いという関係が認められた。一方、性別(女性の割合)や収縮期血圧、血清脂質、および腎機能の指標は、この3群間で有意差がなかった。また、心血管代謝関連の処方薬のうち、GLP-1受容体作動薬のみ、浴槽入浴の頻度が低い群で処方率が有意に高く(P=0.038)、その他の薬剤の処方率は有意差がなかった。

     次に、入浴頻度との有意な関連が認められた、HbA1c、BMI、拡張期血圧について、それらを従属変数とする重回帰分析を行った。その結果、HbA1c(β=-0.078、P=0.020)、BMI(β=-0.074、P=0.012)、拡張期血圧(β=-0.110、P=0.006)、いずれに対しても、入浴頻度が独立した有意な関連因子として抽出された。

     著者らは本研究の限界点として、横断研究であり因果関係は不明であること、入浴頻度の高い患者は身体活動量が多い可能性があることなどを挙げている。その上で、「われわれの研究結果は習慣的な浴槽入浴が、肥満、拡張期血圧および血糖コントロールを、わずかながら改善する可能性のあることを示唆している。浴槽に漬かるという温熱療法は、2型糖尿病患者の心血管疾患抑制のための補助的なオプションとなる可能性があるのではないか」と結論付けている。なお、既報文献を基にした考察から、浴槽入浴による効果発現のメカニズムとして、「体温上昇と血管拡張による血流や血管内皮機能の改善、一酸化窒素(NO)産生の増加、インスリン感受性の亢進などが考えられる」と述べている。

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    HealthDay News 2022年8月10日
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  • クレアチニン/シスタチンC比で糖尿病患者の動脈硬化を評価可能

     血清クレアチニンとシスタチンCの比が、2型糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化の存在と有意な関連があるとする論文が報告された。松下記念病院糖尿病・内分泌内科の橋本善隆氏、京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科の福井道明氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open Diabetes Research & Care」に6月23日掲載された。

     糖尿病が動脈硬化の強力なリスク因子であることは古くから知られており、心血管イベントの発症前に動脈硬化進展レベルを評価した上での適切な治療介入が求められる。一方、近年は高齢化を背景に、糖尿病患者のサルコペニアも増加している。サルコペニアの診断には歩行速度や骨格筋量の測定が必要だが、より簡便な代替指標として、血液検査値のみで評価可能な「サルコペニア指数(sarcopenia index;SI)」が提案されている。SIは、血清クレアチニンをシスタチンCで除して100を掛けた値であり、低値であるほどサルコペニアリスクが高いと判定される。またSIは、心血管イベントリスクと相関するとの報告がある。ただし、SIと動脈硬化進展レベルとの関連は明らかでない。

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     これを背景として橋本氏らは、京都府立医科大学などが外来糖尿病患者を対象に行っている前向きコホート研究「KAMOGAWA-DMコホート」のデータを用いて、SIによる糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化を検出可能か検討した。2016年11月~2017年12月に登録された患者から、データ欠落者、および動脈硬化性疾患〔虚血性心疾患、脳卒中、末梢動脈疾患(ABI0.9未満)〕や心不全、腎機能障害(血清クレアチニン2.0mg/dL超)の既往者などを除外した174人を解析対象とした。動脈硬化進展レベルは上腕-足首脈波伝播速度(baPWV)で評価した。

     解析対象者は平均年齢66.9±10.1歳、男性56.3%、BMI23.5±3.5kg/m2、糖尿病罹病期間17.7±11.6年、HbA1c7.3±0.9%であり、血清クレアチニンは0.76±0.23mg/dL、シスタチンCは0.99±0.26mg/dLで、SIは77.6±15.8、baPWVは1,802±372cm/秒だった。baPWVが1,800cm/秒を超える場合を無症候性アテローム性動脈硬化と定義すると、43.7%が該当した。

     相関を検討した結果、SIは男性(r=-0.25、P=0.001)、女性(r=-0.37、P=0.015)ともに、baPWVと有意な負の相関が認められた。性別を区別せずに全患者を対象としてROC解析を行ったところ、無症候性アテローム性動脈硬化の検出能は、AUC0.66(0.57〜0.74)であり、SIの最適なカットオフ値は77.4(感度0.72、特異度0.58)と計算された。

     続いてロジスティック回帰分析にて、共変量(年齢、性別、BMI、喫煙・運動習慣、収縮期血圧、HbA1c、降圧薬・血糖降下薬・スタチンの使用)を調整後に、無症候性アテローム性動脈硬化の存在に独立して関連する因子を検討。その結果、年齢〔オッズ比(OR)1.19(95%信頼区間1.11~1.28)〕、収縮期血圧〔OR1.06(同1.03~1.09)〕が有意な正の関連因子として抽出され、反対にスタチン使用〔OR0.33(同0.13~0.86)〕とSI〔1上昇するごとにOR0.95(同0.91~0.99)〕が有意な負の関連因子として抽出された。性別や喫煙・運動習慣、HbA1cなどは有意でなかった。

     以上より著者らは、「SIは2型糖尿病患者の無症候性アテローム性動脈硬化の存在と関連しており、患者のイベントリスク評価に有用と考えられる」とまとめている。両者の関連のメカニズムについては、サルコペニアと動脈硬化に、身体活動量の低下、酸化ストレス、炎症、インスリン抵抗性などの共通の病因が存在しているため、SI低下と動脈硬化が並行して進行する可能性を考察として述べている。その上で、「因果関係を明らかにするには、さらなる大規模な前向き研究が必要」と付け加えている。

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    HealthDay News 2022年8月8日
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