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4月 21 2025 高齢の心不全患者が感染症で再入院にいたる因子とは
心不全(HF)患者の再入院は、患者の死亡率上昇だけでなく、医療機関に大きな経済的負担をもたらす。高齢HF患者では、しばしば感染症による再入院がみられるが、この度、高齢のHF患者における感染症関連の再入院にフレイルと腎機能の低下が関連しているという研究結果が報告された。徳島大学大学院医歯薬学研究部臨床薬学実務実習教育分野の川田敬氏らの研究によるもので、詳細は「Geriatrics & Gerontology International」に3月11日掲載された。
世界でも有数の高齢化社会を擁する日本では、高齢のHF患者が大幅に増加している。高齢者では免疫力が低下することから、高齢HF患者の感染症による再入院率も増加していくと考えられる。これまでの研究では60代や70代のHF患者に焦点が当てられてきたが、実臨床で増加している80代以上の高齢HF患者、特に感染症による再入院に関連する因子については調べられてこなかった。このような背景から、川田氏らは、高齢化が特に進む日本の高知県の急性肥大症性心不全レジストリ(Kochi YOSACOI Study)のデータを使用して、高齢HF患者の感染症による再入院に関連するリスク因子を特定した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。研究には、2017年5月から2019年12月の間に急性非代償性心不全(ADHF)でレジストリに登録された1,061名を含めた。この中から死亡した患者30名、左室駆出率、日本版フレイル基準(J-CHS)スコア、その他の検査結果などが欠落していた302名を除外し、729名を最終的な解析対象に含めた。
解析対象729名のHF患者の平均年齢は81歳(四分位範囲72.0~86.0)であった。患者は退院後2年間の追跡期間中に感染症関連の再入院を経験した121名(17%)と、感染症関連の再入院を経験しなかった患者608名に分けられた。
HF患者の感染症関連再入院に関連する因子はロジスティック回帰分析により決定した。その結果、独立した予測因子として、J-CHSスコア≧3(調整オッズ比1.83〔95%信頼区間1.18~2.83〕、P=0.007)が特定された。
次に感染症関連再入院の確率を予測するために、各患者について勾配ブースティング決定木(GBDT)モデルを構築した。GBDTモデルでは、J-CHSスコアの高さと推算糸球体濾過量(eGFR)の低下が、感染症関連再入院の増加を予測する最も重要な因子であり、それぞれ「スコア≧3」、「eGFR<35mL/min/1.73m2」の場合にリスクの増加が観察された。また、決定木分析より、感染症関連再入院のリスクは高(J-CHSスコア≧3)、中(J-CHSスコア<3、eGFR≦35.0)、低(J-CHSスコア<3、eGFR>35.0)に分類された。
本研究について著者らは、「本解析より、高齢のHF患者に発生する感染症関連の再入院は、フレイルの程度とeGFR値に関連することが示された。これらの知見は、医療提供者が高齢のHF患者の再入院リスクを適切に管理し、患者の転帰を改善するための貴重なインサイトを提供するものである」と述べた。
本研究の限界点については、観察研究でありワクチン接種などの交絡変数が考慮されていないこと、Kochi YOSACOI Studyには平均年齢81歳という高齢の患者集団が含まれており、HF患者全体に一般化することができないことなどを挙げた。
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2月 17 2025 便秘が心不全再入院リスクと関連――DPCデータを用いた大規模研究
心不全による再入院のリスクに便秘が関与している可能性が報告された。東京都立多摩総合医療センター循環器内科/東京大学ヘルスサービスリサーチ講座の磯貝俊明氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation Reports」11月号に掲載された。
便秘は血圧変動などを介して心不全リスクを高める可能性が想定されているが、心不全の予後との関連を調べた研究は限られている。磯貝氏らは、便秘が心不全による再入院リスクに関連しているとの仮説の下、診断群分類(DPC)医療費請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を実施した。
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主要評価項目として設定した「退院後1年以内の心不全による再入院」は、10万2,221人に発生しており、発生率は便秘あり群24.0%、なし群18.6%だった。副次評価項目として設定した「退院後1年以内の心不全による再入院および全ての再入院中の死亡」という複合エンドポイントは11万4,661人に発生し、発生率は前記の順に26.6%、20.6%だった。
60項目の共変量(年齢、性別、BMI、併存疾患、入院中の管理・治療、退院時処方薬、入院した年度、入院期間、退院時の日常生活動作〔ADL〕、病院の特徴〔大学病院か否か、年間心不全入院患者数〕など)を調整したCox比例ハザードモデルでの解析により、便秘あり群は便秘なし群に比べ、高い心不全再入院リスクと関連していた(調整後ハザード比〔aHR〕1.08〔95%信頼区間1.06~1.10〕)。また、死亡も含めた副次評価項目についても便秘と有意な関連が認められた(aHR1.09〔1.07~1.10〕)。
著者らは、本研究がDPCデータに基づく解析のため把握不能な臨床指標があること、退院後の増悪時に初回の入院先とは異なる病院に入院したケースを追跡できていないことなどを研究限界として挙げた上で、「心不全患者の便秘有病率は高く、便秘を有することは再入院リスクと関連している。今後の研究では、便秘に対する介入が再入院リスクの抑制につながるかどうかの検証が求められる」と総括している。
なお、便秘が心不全の増悪リスクを高める機序については、排便時のいきみによる血圧上昇、不快感のストレスによる交感神経系の亢進、便秘に伴う腸内細菌叢の変化を介した動脈硬化の進展などが考えられるという。
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9月 03 2024 eGFRは心臓突然死のリスク予測因子
推算糸球体濾過値(eGFR)は、心不全患者の心臓突然死の独立予測因子であり、リスク予測において左室駆出率(LVEF)にeGFRを追加することが有用であるという研究結果が発表された。藤田医科大学ばんたね病院循環器内科の祖父江嘉洋氏らが行った前向き研究の成果であり、「ESC Heart Failure」に6月10日掲載された。
心不全患者の心臓突然死の予防において、LVEFおよびNYHA心機能分類に基づき植込み型除細動器(ICD)の適応が考慮される。ただ、軽度から中等度の慢性腎臓病(CKD)を有する患者に対するICDの有用性に関して、これまでの研究の結果は一貫していない。そこで著者らは今回、心臓突然死における腎機能の役割を検討するため、2008年1月から2015年12月に非代償性心不全で入院したNYHA分類II~III度の患者を対象として、心臓突然死の発生を追跡し、心臓突然死の予測因子を検討する前向き研究を行った。
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追跡期間中央値25カ月(四分位範囲4~70カ月)の間に、198人(11.8%)が心臓突然死により死亡した。退院から心臓突然死までの期間の中央値は17カ月であり、退院後3カ月以内の心臓突然死が23%を占めた。心臓突然死患者は生存患者と比較して、若年、男性、糖尿病、脂質異常症、虚血性心疾患の有病割合が高い、QRS時間が長い、LVEFが低い、抗血小板薬やアミオダロンの使用率が高いといった特徴が認められた。
対象患者のうち、eGFR(mL/分/1.73m2)によるCKDステージ1(eGFR 90以上)の人は122人(7.3%)、ステージ2(eGFR 60~89)は337人(20.1%)、ステージ3(eGFR 30~59)は793人(47.3%)、ステージ4(eGFR 30未満)は424人(25.3%)だった。また、ステージ1の人のうち死因が心臓突然死だった人の割合は6%、ステージ2では33%、ステージ3は24%、ステージ4は23%だった。
患者の臨床背景を調整して多変量Cox比例ハザード回帰分析を行った結果、心臓突然死の独立予測因子として、男性(ハザード比1.61、95%信頼区間1.03~2.53)、eGFR 30未満(同1.73、1.11~2.70)、LVEF 35%以下(同2.31、1.47~3.66)が抽出された。心臓突然死の予測モデルにおいて、LVEFにeGFRを追加することで心臓突然死の予測能は有意に向上した。このeGFRの予測能は、2年間で時間依存的に低下した。
今回の研究の結論として著者らは、「NYHA分類II~III度の心不全患者において、心臓突然死の予測能はeGFR 30未満を加えることで改善した」としている。また、患者の4分の1が退院後3カ月以内に心臓突然死を発症していたことに言及し、退院後3カ月間は着用型自動除細動器(WCD)を用いた介入が有効である可能性があると述べている。
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8月 19 2024 CAVIは心不全の予後と関連
動脈硬化の指標とされる心臓足首血管指数(cardio-ankle vascular index;CAVI)は、心不全入院患者の予後と有意に関連するという研究結果が発表された。東邦大学大学院医学研究科循環器内科学の木内俊介氏らが日本人患者を対象に行った研究であり、「Journal of Clinical Medicine」に5月6日掲載された。
大動脈は「Windkessel効果」と呼ばれる機能を持ち、収縮期に左室から拍出された血液の一部は大動脈に蓄えられ、その血液は拡張期に末梢に送り出される。この血管機能の破綻は心不全の一因とされるが、血管機能障害と心不全の予後との関係は完全には解明されていない。また、心不全の治療は進歩しているものの、心不全患者の死亡率や再入院率は低下しておらず、適切な予後の評価と治療が重要となる。
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その結果、MACE発生群(57人)はMACE非発生群(157人)と比べて、退院時の平均年齢が高く(70.9±10.1歳対64.2±13.9歳)、男性の割合が低く(56.1%対73.2%)、BMI平均値が低く(21.4±5.0対23.8±4.9)、心不全の既往歴(42.1%対21.7%)と慢性腎臓病の既往歴(82.5%対51.0%)のある人の割合が高いなどの特徴が認められた。
また、MACE発生群の方が、入院時の胸部X線による心陰影および経胸壁心エコーによる左室サイズが有意に大きく、左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の割合が有意に高かった。入院時の収縮期血圧、拡張期血圧は両群間で有意差はなかったが、CAVIに有意差が認められた。MACEリスクとの関連について、Cox比例ハザードモデルを用いた多変量解析を行った結果、CAVIはMACE発生の独立予測因子であることが明らかとなった(モデル1:ハザード比1.33、95%信頼区間1.05~1.68、モデル2:同1.31、1.07~1.60)。
さらに、ROC曲線から、MACE発生を予測するCAVIのカットオフ値は9.0であることが示された(感度0.554、特異度0.754、AUC 0.66)。このカットオフ値を用いて生存曲線を比較すると、CAVI高値群は低値群と比べて、MACE発生率が有意に高かった。MACEのうち、心血管死亡率についてはCAVI高値群と低値群で有意差は示されなかったが、心不全による再入院率では有意差が認められた。
以上の結果から著者らは、「CAVI高値は心不全の予後不良と関連するため、これらの患者にはより慎重な治療が必要だ」と述べている。また、今回の研究は後方視的研究であり、患者のQOLや生活環境、看護ケアなどは評価していないと説明し、より大規模な前向き研究の必要性を指摘している。
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