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6月 05 2024 健康問題による生産性低下の要因に男女差
従業員が何らかの健康問題や症状を抱えて出勤し、出勤時の生産性が低下している状態を「プレゼンティーイズム(presenteeism)」という。今回、プレゼンティーイズムと睡眠、喫煙や飲酒との関係が新たに調査され、男女間で異なる結果が得られた。飲酒ついては、女性では正の関連、男性では負の関連が見られたという。鳥取大学医学部環境予防医学分野の研究グループによる研究であり、「Journal of Occupational Health」に12月14日掲載された。
病気などで欠勤することを「アブセンティーイズム(absenteeism)」といい、健康経営の課題となっている。しかし、それと比べて、健康問題を抱えながら出勤する「プレゼンティーイズム」の方が、従業員の生産性の低下(健康関連コスト)は大きいことが報告されている。その重要性が増していることから著者らは、プレゼンティーイズムと主観的な睡眠の質、喫煙、飲酒との関連について、男女差に着目して横断研究を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。鳥取県の1つの地方自治体の職員に対する2015年の質問紙調査のうち、713人(男性57.8%)のデータが用いられた。対象者は、生産性の測定ツール(WHO-HPQ)による質問「あなたの過去4週間の全体的なパフォーマンスをどのように評価しますか?」に、10段階で回答。それを100点満点(0点が最低、100点が最高のパフォーマンス)に換算し、40点以下をプレゼンティーイズム(自己評価による絶対的プレゼンティーイズム)と定義した。
主観的な睡眠の質に関しては、過去30日間の全体的な睡眠の質を尋ねる質問への回答を基に、「良い」と「悪い」に分類。また、飲酒および喫煙に関する質問への回答に基づき、対象者の状況を「非飲酒」「元飲酒」「時々飲酒」「現在飲酒(毎日)」および「非喫煙」「元喫煙」「時々喫煙」「現在喫煙(毎日)」にそれぞれ分類した。
その結果、プレゼンティーイズムに該当した人は174人(24.4%)であり、そのうち男性は102人(24.8%)、女性は72人(23.9%)で、有意な男女差はなかった。年齢層ごとの割合は、30歳未満が33.0%(32人)、30~39歳が29.7%(44人)、40~49歳が21.7%(51人)、50歳以上が20.2%(47人)だった。
また、対象者の状況については、睡眠の質が悪い人は314人(44.0%)で、男性が190人(46.1%)、女性が124人(41.2%)。現在飲酒者は182人(25.5%)で、男性が145人(35.2%)、女性が37人(12.3%)。現在喫煙者は、男性が117人(28.4%)、女性は4人(1.3%)のみだった。
ロジスティック回帰分析の結果、プレゼンティーイズムと睡眠の質が悪いこととの正の関連が、全体(オッズ比1.70、95%信頼区間1.18~2.44)と男性(同1.85、1.12~3.05)で認められた。女性では現在飲酒(同3.49、1.36~8.92)との正の関連が見られた。反対に、負の関連を示した要因は、全体では50歳以上(同0.50、0.27~0.93)、男性では現在飲酒(同0.43、0.20~0.92)、女性では40~49歳(同0.24、0.09~0.66)だった。
以上の結果から、プレゼンティーイズムと睡眠の質との関連は、特に男性で顕著だった。また飲酒は、女性ではプレゼンティーイズムと正の関連、男性では負の関連を示す可能性が示唆された。著者らは、因果関係は示されていないとした上で、「プレゼンティーイズムと関連する要因は男女で異なり、従業員の生産性向上に向けて取り組む際は、男女差を考慮する必要がある」と結論付けている。
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2月 13 2024 漢方薬による偽アルドステロン症、高血圧や認知症と関連
漢方薬は日本で1500年以上にわたり伝統的に用いられているが、使用することにより「偽アルドステロン症」などの副作用が生じることがある。今回、日本のデータベースを用いて漢方薬の使用と副作用報告に関する調査が行われ、偽アルドステロン症と高血圧や認知症との関連が明らかとなった。また、女性、70歳以上などとの関連も見られたという。福島県立医科大学会津医療センター漢方医学講座の畝田一司氏らによる研究であり、詳細は「PLOS ONE」に1月2日掲載された。
偽アルドステロン症は、血圧を上昇させるホルモン(アルドステロン)が増加していないにもかかわらず、高血圧、むくみ、低カリウムなどの症状が現れる状態。「甘草(カンゾウ)」という生薬には抗炎症作用や肝機能に対する有益な作用があるが、その主成分であるグリチルリチンが、偽アルドステロン症の原因と考えられている。現在、保険が適用される漢方薬は148種類あり、そのうちの70%以上に甘草が含まれている。
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解析の結果、偽アルドステロン症では他の有害事象と比べて、漢方薬に含まれる甘草の投与量が有意に多く(平均3.3対1.5g/日)、漢方薬の使用期間が有意に長いことが判明した(中央値77.5対29.0日)。偽アルドステロン症の報告で最もよく使用されていた漢方薬は、「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」(90件)、「抑肝散(ヨクカンサン)」(47件)、「六君子湯(リックンシトウ)」(12件)、「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」(10件)などだった。
さらに、偽アルドステロン症と関連する因子を検討した結果、女性(オッズ比1.7、95%信頼区間1.2~2.6)、70歳以上(同5.0、3.2~7.8)、体重50kg未満(同2.2、1.5~3.2)、利尿薬の使用(同2.1、1.3~4.8)、認知症(同7.0、4.2~11.6)、高血圧(同1.6、1.1~2.4)との有意な関連が認められた。また、甘草の1日当たりの投与量(同2.1、1.9~2.3)および漢方薬の14日以上の使用(同2.8、1.7~4.5)も、偽アルドステロン症と有意に関連していた。
著者らは、今回の研究は自己報告のデータを対象としており、過少報告の可能性や臨床的背景の情報が限られることなどを説明した上で、「漢方薬による偽アルドステロン症の実臨床における関連因子が明らかになった」と結論付けている。ただし、今回の研究では抽出された関連因子と偽アルドステロン症との因果関係については検証できず、今後の課題だという。著者らはまた、関連因子のうち、高血圧を特定できたことの意義は大きいとしている。さらに、「複数の因子を持つ患者に対して、甘草を含む漢方薬が14日以上処方される場合は、偽アルドステロン症を予防するために注意深い経過観察が必要である」と述べている。
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5月 30 2023 富士登山で高山病になる人とならない人の違い
富士登山で高山病になった人とならなかった人の血圧、心拍数、乳酸、動脈血酸素飽和度、心係数などを比較した、大阪大学医学部救急医学科の蛯原健氏らの研究結果が、「Journal of Physiological Anthropology」に4月13日掲載された。測定した項目の中で有意差が認められたのは、心係数のみだったという。
毎年20万人前後が富士登山に訪れ、その約3割が高山病を発症すると報告されている。高山病は一般に標高2,500mを超える辺りから発症し、主な症状は吐き気や頭痛、疲労など。多くの場合、高地での最初の睡眠の後に悪化するものの、1~2日の滞在または下山により改善するが、まれに脳浮腫や肺水腫などが起きて致命的となる。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。高山病のリスク因子として、これまでの研究では到達高度と登山のスピードの速さが指摘されている一方、年齢や性別については関連を否定するデータが報告されている。また、心拍数や呼吸数の変化、心拍出量(1分間に心臓が全身に送り出す血液量)も、高山病のリスクと関連があると考えられている。ただし、富士登山におけるそれらの関連は明らかでない。蛯原氏らは、高地で心拍出量が増加しない場合に低酸素症(組織の酸素濃度が低下した状態)となり、高山病のリスクが生じるというメカニズムを想定し、以下のパイロット研究を行った。
研究参加者は、年に1~2回程度、2,000m級の山を登山している11人の健康なボランティア。全員、呼吸器疾患や心疾患の既往がなく、服用中の薬剤のない非喫煙者であり、BMI25未満の非肥満者。早朝に山梨県富士吉田市(標高120m)から車で登山口(同2,380m)に移動し登山を開始。山頂の研究施設(旧・富士山測候所)に一泊後に下山した。この間、ポータブルタイプの測定器により、心拍数、血圧、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定し、ベースライン時(120m地点)と山頂での就寝前・起床後に、心係数(心拍出量を体表面積で除した値)、1回拍出量を測定。またベースライン時と山頂での就寝前に採血を行い、乳酸値、pHなどを測定した。
高山病の発症は、レイクルイーズスコア(LLS)という指標で評価した。これは、頭痛、胃腸症状、疲労・脱力、めまい・ふらつきという4種類の症状を合計12点でスコア化するもので、今回の研究では山頂での起床時に頭痛があってスコア3点以上の場合を高山病ありと定義した。
11人中4人が高山病の判定基準を満たした。高山病発症群と非発症群のベースライン時のパラメーターを比較すると、高山病発症群の方が高齢であることを除いて(中央値42対26歳、P=0.018)、有意差のある項目はなかった。登山中に両群ともSpO2が約75%まで低下したが、その群間差は非有意だった。また、登山中や山頂で測定された心拍数、1回拍出量、乳酸値などのいずれも有意な群間差がなかった。唯一、心係数のみが以下のように有意差を認めた。
高山病発症群の山頂での就寝前の心係数(L/分/m2)は中央値4.9、非発症群は同3.8であり、発症群の方が有意に高かった(P=0.04)。つまり、研究前の仮説とは反対の結果だった。心係数のベースライン値からの変動幅を見ると、睡眠前は高山病発症群がΔ1.6、非発症群がΔ0.2、起床後は同順にΔ0.7、Δ-0.2であり、いずれも発症群の変動幅の方が大きかった(いずれもP<0.01)。
このほかに、LLSで評価した症状スコアは、高山病非発症群の7人中4人は睡眠により低下したのに対して、発症群の4人は全員低下が見られないという違いも示された。
以上より著者らは、「山頂到着時の心係数が高いこと、およびベースライン時からの心係数の上昇幅が大きいことが、富士登山時の高山病発症に関連していた。心拍出量の高さが高山病のリスク因子である可能性がある」と結論付けている。ただし、高山病発症群は非発症群より高齢であったことを含め、パイロット研究としての限界点があることから、「高山病発症のメカニズムの解明にはさらなる研究が必要」としている。
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