• 漢方薬による偽アルドステロン症、高血圧や認知症と関連

     漢方薬は日本で1500年以上にわたり伝統的に用いられているが、使用することにより「偽アルドステロン症」などの副作用が生じることがある。今回、日本のデータベースを用いて漢方薬の使用と副作用報告に関する調査が行われ、偽アルドステロン症と高血圧や認知症との関連が明らかとなった。また、女性、70歳以上などとの関連も見られたという。福島県立医科大学会津医療センター漢方医学講座の畝田一司氏らによる研究であり、詳細は「PLOS ONE」に1月2日掲載された。

     偽アルドステロン症は、血圧を上昇させるホルモン(アルドステロン)が増加していないにもかかわらず、高血圧、むくみ、低カリウムなどの症状が現れる状態。「甘草(カンゾウ)」という生薬には抗炎症作用や肝機能に対する有益な作用があるが、その主成分であるグリチルリチンが、偽アルドステロン症の原因と考えられている。現在、保険が適用される漢方薬は148種類あり、そのうちの70%以上に甘草が含まれている。

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     今回の研究では、「医薬品副作用データベース(JADER)」を用いて、漢方薬による偽アルドステロン症と関連する臨床的要因が検討された。同データベースには、患者背景、使用薬、有害事象に関する自己報告データが含まれている。2004年4月から2022年11月までの期間に報告された有害事象から、保険適用の漢方薬148種類に関する報告を抽出。不完全な報告データを除外して、有害事象のデータ2,471件(偽アルドステロン症210件、他の有害事象2,261件)が解析対象となった。

     解析の結果、偽アルドステロン症では他の有害事象と比べて、漢方薬に含まれる甘草の投与量が有意に多く(平均3.3対1.5g/日)、漢方薬の使用期間が有意に長いことが判明した(中央値77.5対29.0日)。偽アルドステロン症の報告で最もよく使用されていた漢方薬は、「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」(90件)、「抑肝散(ヨクカンサン)」(47件)、「六君子湯(リックンシトウ)」(12件)、「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」(10件)などだった。

     さらに、偽アルドステロン症と関連する因子を検討した結果、女性(オッズ比1.7、95%信頼区間1.2~2.6)、70歳以上(同5.0、3.2~7.8)、体重50kg未満(同2.2、1.5~3.2)、利尿薬の使用(同2.1、1.3~4.8)、認知症(同7.0、4.2~11.6)、高血圧(同1.6、1.1~2.4)との有意な関連が認められた。また、甘草の1日当たりの投与量(同2.1、1.9~2.3)および漢方薬の14日以上の使用(同2.8、1.7~4.5)も、偽アルドステロン症と有意に関連していた。

     著者らは、今回の研究は自己報告のデータを対象としており、過少報告の可能性や臨床的背景の情報が限られることなどを説明した上で、「漢方薬による偽アルドステロン症の実臨床における関連因子が明らかになった」と結論付けている。ただし、今回の研究では抽出された関連因子と偽アルドステロン症との因果関係については検証できず、今後の課題だという。著者らはまた、関連因子のうち、高血圧を特定できたことの意義は大きいとしている。さらに、「複数の因子を持つ患者に対して、甘草を含む漢方薬が14日以上処方される場合は、偽アルドステロン症を予防するために注意深い経過観察が必要である」と述べている。

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    HealthDay News 2024年2月13日
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  • 白内障手術で軽度認知障害患者の認知機能が改善か

     高齢の軽度認知障害(MCI)患者は、白内障手術を受けると認知機能が改善する可能性のあることが、順天堂東京江東高齢者医療センター眼科の吉田悠人氏らの研究グループが実施した前向きコホート研究から明らかになった。一方で、認知症患者では白内障手術前後で認知機能テストのスコアに有意な変化は見られなかったことから、研究グループは「認知機能の改善を期待するには、認知症の前段階で白内障手術を行うことが望ましい可能性がある」と述べている。研究の詳細は「Acta Ophthalmologica」に12月25日掲載された。

     白内障は、世界的に視覚障害の原因の一つとなっている。先行研究では、白内障手術を受けた患者は、手術を受けていない患者に比べて認知症の発症リスクが低減することなどが報告されているが、これらの関連は明らかになっていない。また、臨床現場では、重度の認知症患者においては白内障手術後に認知機能の改善が見られるケースは少ない。そこで吉田氏らは、重度の認知症患者よりもMCI患者は白内障手術後に認知機能が大幅に改善する可能性があるという仮説を検証するため、75歳以上の高齢者を対象とした多施設共同前向きコホート研究を実施し、白内障手術が認知機能に与える影響を検討した。

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     この研究は、2019年から2021年の間に白内障手術を受けた75歳以上の患者88人(平均年齢84.9歳、男性28.4%、視覚障害の有病率43.2%)を対象に実施された。術前および術後3カ月の時点で最高矯正視力(BCVA)などの視力を測定し、同時にミニメンタルステート検査(MMSE)と視覚障害者向けのMMSE(MMSE-blind)を用いて認知機能を評価した。ベースライン時のMMSEスコアに基づき、対象患者を認知症群(MMSEスコア23以下:39人)とMCI群(同スコア23超27以下:49人)に分けて解析した。

     その結果、対象患者全体では、MMSEスコアは白内障手術前と比べて術後の方が有意に高かった(MMSE:22.55±4.7対23.56±5.54、P<0.001、MMSE-blind:15.34±3.94対16.11±5.01、P=0.001)。認知機能障害の重症度別に見ると、認知症群では白内障手術前後のMMSEスコアに統計学的な有意差は見られなかったのに対し、MCI群では、MMSEスコア(25.65±1.03対27.08±1.99、p<0.001)とMMSE-blindスコア(18.04±1.14対19.41±2.01、p<0.001)はいずれも術後の方が有意に高かった。また、対象患者全体とMCI群では、「注意/集中力」「即時想起」の2つの領域で術後のスコアが改善した。

     さらに、年齢や性別、手術前の認知機能などで調整したロジスティック回帰分析の結果、認知機能は、認知症群と比べてMCI群の方が有意に改善した(調整オッズ比2.85、95%信頼区間1.02~7.97、P=0.046)。なお、視力は、両群ともに白内障手術後に有意に改善した。

     著者らは、今回の研究には認知症のサブタイプ分類がなされなかったこと、観察期間が短かったこと、認知機能の評価がMMSEに限られていたことなど限界があったと指摘。その上で、「白内障手術によって、認知症患者のMMSEスコアには有意な変化は見られなかったが、MCI患者の認知機能は有意に改善することが分かった。この結果は、白内障手術後に認知機能が改善するかどうかは、術前の認知機能の状態に大きく影響を受ける可能性を示唆するものだ。今後さらなる研究で検証していく必要がある」と結論付けている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2024年2月13日
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