• 緑地の存在が自殺リスクの低さと関連――初の全国調査

     日本国内の全ての市区町村の公園や森林などの緑地と、自殺による死亡率との関連を解析した研究結果が報告され、緑地の存在が近隣住民の自殺リスクの低下につながっている可能性が示された。早稲田大学政治経済学術院の上田路子氏らの研究によるもので、詳細は「Social Science & Medicine」8月号に掲載された。

     緑地の多さがその地域に住む人々のメンタルヘルスに良い影響を与えている可能性を指摘した研究報告は少なくない。しかし、緑地の多さと自殺との関連は十分検討されていない。これを背景として上田氏らは1975年までデータを遡り、緑地と自殺リスクとの関連に関する初の全国調査を行った。

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     調査対象は、国内の全ての市区町村(合併などによる境界線の変化を考慮に入れた2015年の情報に基づく1,741)。政府統計に基づき、大都市(43)、中小都市(790)、農村(908)に分類。市区町村の規模により影響は異なる可能性があることから、それぞれの分類ごとに、性別・年齢層別に緑地の多さと自殺による死亡率との関連を比較検討した。分析には国勢調査の実施に合わせて1980年から2010年までの10年ごとのデータを用いた。

     緑地の多さの評価には、農林水産省などのデータに基づき全ての自然/人工公園8万4,370カ所と森林について、各調査年につき市区町村ごとに人口当たりの数と面積を算出し変数として用いた。自殺による死亡率は、厚生労働省のデータに基づき、市区町村ごとに人口10万人当たり調査年を中心とした10年間の平均値を算出し(例えば1980年のデータには1975~1984年の平均値を使用)、その対数変換した値を分析に用いた。なお、18歳未満、外国人または国外で死亡した日本人、死亡場所の情報がない人のデータは解析から除外した。

     解析に際しては、自殺リスクに影響を及ぼし得る以下の要因を調整した。人口密度、産業構造(第一・二次・三次産業の人口比)、収入(1人当たりの税収)、失業率、および人口当たりの単身世帯数、離婚・結婚件数、居住外国人数、精神科病院数。また、市区町村および各調査年に固有の要因の影響も調整した。

     1975~2014年の自殺による死亡者数は、88万6,440人であった。自殺による死亡率の全体的な傾向として、日本の北東部と南西部で高く、男性は女性より高かった。緑地の多さと自殺死亡者率との間には、以下のような有意な関連が存在した。

     まず、大都市では、人口当たりの公園の数が多いほど、65歳以上の女性の自殺死亡者率(人口10万人当たり死亡率の対数変換値)が低かった(係数-1.24±0.19、P<0.001)。推計結果は人口当たりの公園の数が1標準偏差分多いごとに、当該グループの自殺死亡者率が約24.8%少ない傾向にあり、10万人当たり自殺死亡者数は8.1人少ないことを示唆している。そのほかにも、18~39歳の男性(-0.51±0.18、P<0.01)、同女性(-0.62±0.18、P<0.001)、40~64歳の女性(-0.39±0.20、P<0.05)、65歳以上の男性(-0.64±0.22、P<0.01)で、人口当たりの公園の数と自殺死亡者率の低さの有意な関連が認められた。一方、公園や森林の面積とは有意な関連がなかった。

     続いて中小都市では、公園の面積の広さが、40~64歳の女性(-4.19±1.97、P<0.05)、65歳以上の女性(-5.08±1.37、P<0.001)の自殺死亡者率の低さと有意に関連し、人口当たりの公園の多さは65歳以上の男性(-0.07±0.03、P<0.05)の自殺死亡者率の低さと有意に関連していた。森林の面積とは有意な関連がなかった。

     農村では、公園の面積や人口当たりの公園の数は、自殺死亡者率との間に有意な関連がない一方で、森林の面積の広さが自殺死亡者率の低さと関連していた。具体的には、65歳以上の男性の自殺死亡者率については森林面積が有意に負の関係にあった(-3.44±1.73、P<0.05)。これは人口当たりの森林面積が1標準偏差分多いごとに、自殺死亡者率が約5.5%低下して、10年で10万人当たり14.9人減少することを意味する。また、40~64歳の男性も森林面積の広さが自殺死亡者率の低さと有意に関連していた(-3.32±1.35、P<0.05)。

     著者らは、「都市部の公園と農村の森林は自殺死亡率に対する保護効果があるようだ」と結論付けるとともに、本研究では検討対象に含めなかった未成年者について今後の研究が必要としている。

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    HealthDay News 2021年8月10日
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  • 孤立している高齢者のメンタルを犬が救う?――大田区民での調査

     社会的に孤立した生活の高齢者はメンタルヘルスが悪化しやすいことが知られているが、犬を飼っている人や過去に飼ったことのある高齢者は、そのリスクが低いという研究結果が報告された。一方、猫を飼うことには、そのような効果が認められなかったという。東京都健康長寿医療センター研究所の池内朋子氏らの研究によるもので、詳細は「Animals」に2月24日掲載された。

     ペットを飼うことによるメンタルヘルスへの影響を検討した研究は少なくないが、社会的に孤立した状態の高齢者での研究は少ない。池内氏らは、そのような高齢者でもペットを飼うことのメリットがあるとの仮説を立て、東京都大田区の住民を対象に行われている「大田元気シニアプロジェクト」のデータを用いて以下の検討を行った。

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     2016年8月に大田区在住の65~84歳で要介護状態でない高齢者1万5,500人にアンケートを郵送。得られた回答1万1,925件(回答率76.9%)から、記載内容に不備のあるものなどを除き、9,856人分の回答を解析対象とした。対象者の平均年齢は79.9±5.5歳、50.1%が女性であり、19.6%は独居だった。また93%以上の人は、移動や買い物、金銭管理などを自分自身でできると回答した。

     「友人や隣人と会ったり外出したりする頻度」、「電話で友人や隣人と話す頻度」などの4つの質問に対する全ての回答が「週に1回以下」だった場合に、「社会的に孤立している」と定義すると、家族と同居している人でのその割合は29.7%、独居の人では25.3%だった。

     メンタルヘルス状態は、世界保健機関による指標(WHO-5)で評価した。これは主観的な幸福感を25点満点でスコア化するもので、点数が低い場合にうつ傾向が強いと判定される。本研究では13点未満をメンタルヘルスが不良と定義したところ、27.7%がこれに該当した。

     ペットの飼育経験については、14.1%が現在、犬または猫を飼っており、29.7%は過去にいずれかを飼っていた時期があり、56.2%は犬や猫を飼ったことがなかった。

     これらのデータを基に、社会的孤立やペットの飼育経験とメンタルヘルス状態との関連を、多重ロジスティック回帰分析により検討した。なお、メンタルヘルス状態に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、独居/同居、収入、居住地域)は調整した。

     まず犬の飼育経験の有無で比較すると、犬の飼育経験があり社会的に孤立している高齢者に比べ、犬の飼育経験がなく社会的に孤立している高齢者は、メンタルヘルス不良の起こる可能性が有意に高いことが明らかになった〔オッズ比(OR)1.22、95%信頼区間1.03~1.46〕。その一方で、猫の飼育経験の有無で比較した場合、メンタルヘルス不良の起こる可能性に有意な差はなかった(OR1.11、同0.90~1.37)。

     なお、社会的に孤立していない高齢者では、犬や猫の飼育経験の有無にかかわらず、メンタルヘルス不良に該当する確率が、ペットの飼育経験があり社会的に孤立している高齢者より有意に低かった。

     この結果を基に著者らは、「犬の飼育経験がある社会的に孤立した高齢者のメンタルヘルス状態は、飼育経験がない人よりも良好と言える」と結論付けている。なお、猫の飼育経験と犬の飼育経験とで異なる結果となった理由については、犬を散歩させる習慣がメンタルヘルスに好影響をもたらす可能性や、犬は人間との豊かな意思疎通が可能であることが関係しているのではないかと考察している。

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    HealthDay News 2021年4月19日
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  • SNS利用頻度とメンタルヘルスへの影響――都民対象の調査

     ソーシャルネットワークサービス(SNS)の利用とメンタルヘルスとの関連が報告された。メンタルヘルス状態はLINE利用者で良好であり、一方でTwitter利用者は良くない傾向が見られるという。東京都健康長寿医療センター研究所の桜井良太氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に3月3日掲載された。

     これまでの研究から、メンタルヘルスの維持には他者との交流が重要であることが分かっている。しかし、近年急速に普及してきたSNSでの交流が、メンタルヘルスの維持に有効であるかについては明らかでない。そこで桜井氏らは、都民を対象としてアンケート調査を行い、SNS利用の実態を把握するとともに、メンタルヘルスとの関連を調査した。

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     無作為に抽出した都民2万1,300人にアンケートを郵送、回答の得られた9,250人(回答率43.3%)から内容が不完全なものを除外し、8,576人を解析対象とした。評価項目は、主観的幸福感(WHO-5スコア)、悩みや抑うつ(K6スコア)、および孤独感(よく感じる~ほとんど感じないの四者択一)という3項目。なお、SNS利用頻度は、閲覧と発信に分けて、「毎日」「週に数回」「月に数回」「使用しない」の4つのカテゴリーに分類し、閲覧もしくは発信が週に数回以上を「頻繁な利用」と定義した。また、解析は年齢により若年(18~39歳の2,543人)、中年(40~64歳の3,048人)、高齢者(65歳以上の2,985人)という3つの層に分けて行った。

     最初に、SNSを利用するための機器(スマートフォン、タブレット、パソコン)の所有率を見ると、若年層はほぼ100%、中年層も95%以上であり、高齢者でも62.3%に上った。次に、利用しているSNSの種類を見ると、全世代でLINEが最も多く、Twitter、Instagram、Facebookの順に続いた。LINEは60代の半数、70代の3分の1が利用していた。

     メンタルヘルスとの関連は、結果に影響を与え得る因子(性別、年齢、教育歴、生活環境、併存疾患、主観的健康感、経済状態、外出頻度、対面での対話や電話といったSNS以外の従来型コミュニケーションの頻度など)で調整後、以下のような結果が得られた。

     まず、主観的幸福感については、若年層のInstagramの頻繁な閲覧(B=0.89、95%信頼区間0.43~1.36)、中年層のFacebookの頻繁な発信(B=1.00、同0.15~1.84)が、主観的幸福感の高さと関連していた。また高齢者の場合、LINEの頻繁な発信(B=0.85、同0.41~1.29)および閲覧(B=0.97、同0.51~1.42)が、主観的幸福感の高さと関連していた。

     次に、悩みや抑うつについては、若年層のInstagramの頻繁な閲覧(B=-0.88、同-1.30~-0.45)、中年層のLINEの頻繁な発信(B=-0.52、同-0.87~-0.16)が、悩みや抑うつ傾向が低いことと関連していた。しかしその反対にTwitterの頻繁な利用は、若年層(発信B=0.83、同0.34~1.32。閲覧B=0.72、同0.33~1.12)と、中年層(発信B=0.98、同0.15~1.80。閲覧B=0.75、同0.34~1.17)ともに、うつや不安傾向が強いことと関連していた。高齢者では、SNSの利用と悩みや抑うつ傾向との関連は認められなかった。

     最後に、孤独感については、中年層のTwitterの頻繁な発信〔オッズ比(OR)2.22、同1.35~3.65〕と閲覧(OR1.70、同1.28~2.25)は、いずれも孤独感を感じる割合が高いことと関連していた。また高齢者のTwitterの頻繁な発信も、同様の関連が見られた(OR14.3、同4.00~51.2)。若年層では、SNSの利用と孤独感との関連は認められなかった。

     このほか、SNS以外のコミュニケーション(対面での会話や電話)が少ない人は、年齢層を問わず、全てのメンタルヘルスの指標が悪い傾向が認められた。

     本研究の結果について著者らは、「横断的な研究であり、因果関係を示したものではない」としている。その上で、「顔の見えるFacebookやLINE、または、肯定的なイメージのやりとりが主体になることの多いInstagramであれば、メンタルヘルスの維持に役立つ可能性がある。他方、匿名性と自由度の高いTwitterは、その逆の影響が現れる危険性を含んでいる」と考察し、「バランスのとれたSNS利用が必要と言える」と結論付けている。

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    HealthDay News 2021年3月22日
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  • メンタル不調に市販薬での治療は是か非か――国内3千人の調査

     不眠や気分の落ち込みなどのメンタルヘルス不調時に、医療機関を受診せず、市販薬(OTC)を中心とするセルフメディケーションで対処することについて、国内ではその是非を問われることが多い。しかし、メンタルヘルス不調時のセルフメディケーションの実態がそもそも明らかになっておらず、実のある議論が進みにくいのが現状。そこで、千葉大学社会精神保健教育研究センターの椎名明大氏らは、このテーマに関する一般市民の意識調査を行い、その解析結果を「PLOS ONE」に1月25日報告した。

     この調査は2019年10月に、Webアンケートサービス「楽天インサイト」を用いて行われた。調査回答時点でメンタルヘルス上の問題を抱えている「患者群」、過去にそのような問題を抱えていたことがある「元患者群」、そのような経験のない「非患者群」が、それぞれ1,000人(合計3,000人)になった時点で回答受付けを終了した。なお、本人または血縁者にメンタルヘルスの専門家や製薬企業社員がいる人は除外した。

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     取り上げたメンタルヘルス症状は、不安、うつ、不眠、幻覚、その他の5項目。これらの症状の経験者数は、患者群では740人、780人、732人、84人、75人であり、元患者群では610人、764人、618人、39人、37人だった。OTCに対するイメージなどを評価してもらい、その回答を前記の3群で比較したところ、以下のような結果が得られた。

     まず、不眠症状の有無で二分すると、経験のある人(1,350人)は経験のない人(650人)に比べて、OTCの有効性を否定的に捉えていた。ただし、不眠症状に対して実際にOTCを用いたことのある人(216人)と、用いたことのない人(1,134人)の比較では、評価に有意差がなかった。また、OTCの安全性についての評価は、OTCを利用したことがある人の方が肯定的だった(いずれもP<0.001)。

     次に、メンタルヘルス症状に対するOTCのメリットについては、「不調時に柔軟に対応できる」という意見に対して、患者群の259人、元患者群の294人、非患者群の213人が同意し、元患者群は非患者群に比べて同意率が有意に高かった(P<0.001)。また、「OTCは安全である」に対しては患者群の169人、元患者群の145人、非患者群の117人が同意し、患者群は非患者群に比べて同意率が有意に高かった(P<0.01)。

     一方、デメリットについては、「診察を受けずに薬剤を正しく選択することが困難」という意見に対して、患者群の652人、元患者群の647人、非患者群の523人が同意し、患者群と元患者群は非患者群に比べて同意率が有意に高かった。また、「依存のリスクがある」に対しては患者群の540人、元患者群の529人、非患者群の413人が同意し、患者群と元患者群は非患者群に比べて同意率が有意に高かった。「危険である」に対しては患者群の449人、元患者群の390人、非患者群の350人が同意し、患者群は非患者群に比べて同意率が有意に高かった(いずれもP<0.001)。

     これらの結果から著者らは、「一般市民はメンタルヘルス不調の治療にOTCが向いていないと考える傾向があるが、OTCを使用したことのある人は、薬効を否定的に捉えていないようだ」との考察を述べている。また、不眠症に対してOTCを用いることにリスクを伴うとの回答が多いものの、やはりOTC使用経験のある人では、そのような捉え方は多くはなかったという。

     結論として、「メンタルヘルス関連セルフメディケーションのニーズは限定的と考えられる」とまとめている。その上で、国内では医師教育課程でOTCがほとんど取り上げられないこと、OTC以外にもオメガ3脂肪酸やビタミンDなどメンタルヘルスの維持・改善に有効な成分が存在することなどを指摘し、この領域のセルフメディケーションを推進する余地があることに言及。「適切なセルフメディケーションの普及のため、さらなる研究と教育が必要」と述べている。

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    HealthDay News 2021年2月22日
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  • EPAが人を幸せにする?――日本人女性医療福祉職者での検討

     魚を食べると幸せになれるかもしれない――。日本人女性を対象に行った研究から、魚油に多く含まれている「エイコサペンタエン酸(EPA)」の血中濃度が高い人ほど、幸福感が高いという関連が報告された。ただし、同じように魚油に多く含まれている「ドコサヘキサエン酸(DHA)」については、やや異なる結果が示された。両者はいずれもオメガ3(ω3)脂肪酸という必須脂肪酸だが、メンタルヘルスへの影響は同等でない可能性がある。

     この研究は、金沢大学医薬保健学域の坪井宏仁氏らが、女性医療福祉職者を対象に行ったもので、詳細は「Nutrients」に11月11日掲載された。ω3脂肪酸には心臓血管系の保護作用があることが知られているが、メンタルヘルス上のメリットも指摘されている。しかしそれらの研究の大半はEPAとDHAを区別していない。EPAの血中濃度はDHAよりも低く、脳を構成する脂質はほとんどがDHAとアラキドン酸であるが、神経系への影響はDHAよりも強い可能性が基礎研究から示されている。そこで坪井氏らは、両者を区別したうえで、主観的幸福感や、やり甲斐との関連を検討した。

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     研究の対象は、静岡県内の複数の医療関連施設の女性看護師および介護福祉関連職員、計140人。年次健診に合わせて、主観的幸福感(Subjective Happiness Scale;SHS)とやり甲斐(Visual Analogue Scaleで評価)を調査した。乳び血清のためω3脂肪酸の測定に影響が生じる可能性のある参加者などを除外し、133人のデータを解析対象とした。

     解析対象者の平均年齢は45.4±13.2歳で、閉経前の人が53.4%を占め、ω3脂肪酸濃度はDHAが414.7±150.5μmol/L、EPAが184.5±113.1μmol/Lであり、体内でDHAやEPAに変換されるα-リノレン酸(ALA)は81.8±30.8μmol/Lだった。なお、以下に記す結果について、論文中ではω3脂肪酸濃度を多価不飽和脂肪酸に占める割合(%)との関連で述べているが、坪井氏によると実測値で検討しても同様の関連が認められるという。

     年齢、BMI、閉経前か後か、身体活動習慣、間食習慣で調整した上で、ω3脂肪酸と幸福感や、やり甲斐との関連を解析。その結果、DHAとEPAは、幸福感ややり甲斐と有意な正の相関が認められた。一方、ALAは幸福感との相関はなく、やり甲斐とは有意な負の相関が認められた。幸福感に対する相関係数は、DHAがr=0.20、EPAがr=0.27であり、EPAの方が相関が強かった。なお、やり甲斐に対する相関係数は、DHAがr=0.21、EPAがr=0.20であり、ALAはr=-0.30。

     次に、幸福感を従属変数とする回帰分析を施行。すると、EPAとの相関はβ=0.25(P=0.03)で引き続き有意だったが、DHAはβ=0.13(P=0.19)となり、有意性が消失した。また、月経のある参加者は閉経後の人よりも、幸福感が高かった。

     以上のように、本研究ではEPAとDHAとでは幸福感との関連に差が存在することが示された。このような差が生じる背景について、著者らは、中枢神経系における両者の作用機序の違いを述べている。EPAの代謝物は、幸福感を高めるカンナビノイド受容体への親和性がDHA代謝物より圧倒的に高いこと、また神経機能を阻害する炎症に関わる接着分子(VCAM-1やICAM-1)の働きを低下させる機能が影響しているのではないかと考察している。

     著者らは今回の研究を、「幸福感とDHA、EPAの関係を個別に検討した初めての解析」と位置付けている。そして、横断研究であるために因果関係は不明なものの、「EPAがわれわれの幸福感の維持に多少なりともメリットがあるかもしれない」と、今後の研究に期待を示している。

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