通院先の病院までの距離と下肢切断リスクが有意に関連
末梢動脈疾患(PAD)で治療を受けている患者の自宅から病院までの距離と、下肢切断リスクとの関連を検討した結果が報告された。病院までの距離が長いほど切断リスクが高いという有意な関連が認められたという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月12日掲載された。
PADは心筋梗塞や脳卒中と並ぶ動脈硬化性疾患の一つ。下肢の疼痛や潰瘍などの主要原因であり、進行すると下肢切断を余儀なくされる。高齢化や糖尿病の増加などを背景に、国内でもPADが増加傾向にあるとされている。PADに対しては、動脈硬化リスク因子の管理に加えてフットケアなどの集学的な治療が行われるため、地域の中核病院への通院が必要なことが多い。一方でPADは高齢者に多い疾患であり、遠方の医療機関へのこまめな通院が困難なこともある。PAD以外の外科領域では、自宅から病院までの距離が疾患の転帰に影響を与える可能性を示唆する研究結果が報告されている。しかしPADに関するそのような視点での研究は少なく、特に日本発の報告は見られない。
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藤原氏らの研究は、千葉県の南房総地域にある地域中核病院2施設の患者データを後方視的に解析するという手法で行われた。2010~2019年度に904人のPAD患者が記録されており、必要なデータがそろっている630人(平均年齢73.4±10.9歳、男性72.2%)を解析対象とした。なお、同地域は人口の高齢化率が42%と国内平均の28.4%(2020年)より高く、またPADの集学的治療および下肢切断を行っているのはこの2施設に限られている。
自宅から通院先病院までの直線距離の中央値は18.9kmだった。これを基準に対象者全体を二分すると、近距離群の方が高齢(74.5±11.3対72.4±10.4歳、P=0.017)で通院歴が長い(3.24±2.72対2.67±2.68年、P=0.009)という有意差が見られた。
つま先の切断も含む下肢切断は92人(14.6%)に施行されていて、近距離群が12.4%、遠距離群が16.8%であり、後者に多いものの有意差はなかった(P=0.114)。
一方、自宅から病院までの距離を連続変数として解析すると、距離が四分位範囲(22.1km)長いごとに下肢切断リスクが46%上昇するという有意な関連が認められた〔ハザード比(HR)1.46(95%信頼区間1.08~1.98)〕。下肢切断リスクに影響を及ぼし得る因子〔年齢、性別、喫煙歴、虚血重症度(フォンテイン分類)、併存疾患(糖尿病、高血圧、脂質異常症)、血管内治療・透析の施行、アスピリン投与など〕を調整後も、この関連は有意性が保たれていた〔HR1.35(同1.01~1.82)〕。
このほか、前記の近距離群と遠距離群とで生存率をカプランマイヤー法とログランク検定により比較すると、わずかに有意水準未満ながら、近距離群の方が高い生存率で推移していた(P=0.0537)。
著者らは本研究の限界点として、自宅から病院までの距離を直線距離で判断しており、実際のルートや移動手段を考慮していないことなどを挙げた上で、「高齢者人口の多い地域では、自宅から病院までの距離が長いほどPAD患者の下肢切断リスクが高い可能性がある」と結論付けている。さらに、「このような地域に住むPAD患者の転帰改善には、病院までのアクセスを改善する必要があり、また臨床医は、患者が通院に支障を来していないか確認する必要があるのではないか」と付け加えている。
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