妊娠中期のケトン体濃度が高いと産後うつリスクが高い
妊娠中期の血清ケトン体濃度が、産後うつリスクの予測マーカーとなり得る可能性が報告された。北海道大学大学院医学院産婦人科の馬詰武氏、能代究氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に2月2日掲載された。
国内の妊産婦の死亡原因のトップは自殺であり、その原因の一つとして、産後うつの影響が少なくないと考えられている。うつ病を含む精神・神経疾患のリスク因子として栄養状態が挙げられ、脂質をエネルギー源として利用する際に産生されるケトン体が中枢神経系に有益である可能性が、基礎研究から示されている。また、妊娠中には悪阻(つわり)の影響で低血糖傾向になりやすいが、ケトン体の一種である3-ヒドロキシ酪酸が低血糖に伴う神経細胞のアポトーシスを抑制するという報告がある。さらに、3-ヒドロキシ酪酸はアルツハイマー病やパーキンソン病の進行を抑制する可能性が報告されているほか、てんかんの治療法としては古くからケトン産生食(糖質制限食)による食事療法が行われている。
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また、妊娠中のケトン体濃度は従来、つわりのある妊娠初期に高値になると言われていたが、馬詰氏らが行った以前の研究では、妊娠の後期になるほど高値になることが確認されている。以上の知見をベースとして同氏らは今回、妊娠中期以降のケトン体濃度が高いことが、産後うつリスクを抑制するのではないかとの仮説を立て、以下の検討を行った。
研究対象は、2021年1~6月に札幌市内の産科クリニック(単施設)で出産が予定されていた妊婦のうち、年齢が20歳以上の日本人で、妊娠36週以降に出産した女性126人。帝王切開による出産、多胎妊娠、妊娠前のうつ病の既往、他院への転院、データ欠落などの該当者を除外し、99人を解析対象とした。血清ケトン体は、妊娠中期(26.4±0.7週)と妊娠後期(34.8±0.5週)、および産後1日目と1カ月後(31.9±3.6日後)に測定。そのほか、産後うつリスクに関連する可能性のある、ビタミンD、甲状腺機能、鉄代謝を把握した。産後うつの評価には、エジンバラ産後うつ質問票(EPDS)を用い、また、母親の子どもに対する愛着を、標準化された評価指標(maternal–fetal bonding score)で把握した。
解析対象者の主な特徴は、年齢30.3±3.9歳、初産婦が53%、BMI21.0±2.4で、妊娠期間は39.3±0.8週。総ケトン体は妊娠中期が33.4μmol/L、後期が75.6μmol/L、産後1日は33.2μmol/L、1カ月後は48.0μmol/Lと推移。EPDSスコアは産後3日が3.39±3.1、1カ月後は2.85±3.0であり、産後1カ月時点で7人(7.1%)が、産後うつのカットオフ値(9点)以上だった。
産後1カ月時点でEPDSスコア9点以上だった群とその他の群を比較すると、年齢やBMI、妊娠期間、児の出生時体重には有意差がなかった。その一方、妊娠中期のケトン体(総ケトン体、3-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸)はいずれも、EPDS9点以上の群が有意に高値だった(全てP<0.001)。ただし、妊娠後期や産後1日、1カ月後のケトン体レベルには有意差がなかった。また、ビタミンD〔25(OH)D〕、甲状腺機能(TSH、チロキシン)、鉄代謝(フェリチン、血清鉄、TIBC)は、妊娠中から産後にかけて全ての時点で有意差がなかった。
このほかに、産後3日のEPDSスコアと1カ月時点のその値は有意な正の相関があることや(r=0.534、P<0.001)、母親の子どもに対する愛着とEPDSスコアが正相関すること〔産後3日はr=0.384、1カ月後はr=0.550(ともにP<0.001)〕も明らかになった。
著者らは、これらの結果について、「妊娠中のケトン体レベルは以前の研究と同様に妊娠の経過とともに上昇していた。一方、妊娠中期にケトン体レベルが高いことは、産後うつリスクの高さと正相関することが示され、この点は研究仮説と正反対の結果だった」と総括。その上で、「この関連のメカニズムは不明であるものの、妊娠中期のケトン体レベルから産後うつリスクの予測が可能なのではないか」と結論付けている。なお、ビタミンDレベルと産後うつリスクとの関連が認められなかった点については、「研究期間が新型コロナウイルス感染症パンデミック中であり、妊婦の外出頻度が少ないために日光曝露が減り、ビタミンDレベルに差が生じにくい状況だったことが、結果に影響を及ぼしている可能性もある」と考察している。
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