経頭蓋磁気刺激療法でlong COVIDの精神症状改善の可能性――国内パイロット研究

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の急性期以降に症状が遷延している、いわゆるlong COVIDの精神症状に対して、経頭蓋磁気刺激療法を施行したパイロット研究の結果が報告された。抑うつ症状や倦怠感、認知機能を改善する可能性が示されたという。慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室特任准教授(新宿・代々木こころのラボクリニック副院長/東京横浜TMSクリニック技術顧問)の野田賀大氏らの研究によるもので、詳細は「Asian Journal of Psychiatry」3月発行号に掲載された。

 Long COVIDでは、筋肉や関節の痛み、しびれ、頭痛、倦怠感などの身体症状のほかに、抑うつ、不眠、ブレインフォグ(頭がぼんやりして記憶力などが低下した状態)などの精神症状が現れやすく、これらに対する治療法はいまだ確立されていない。一方、精神疾患の治療法として、磁気エネルギーによって脳内に微弱な電流を起こす「経頭蓋磁気刺激療法(TMS)」のエビデンスが蓄積されてきており、難治性うつ病に対しては保険診療として行われている。野田氏らは、long COVIDの精神症状に対するTMSの有用性と安全性を検討した。

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 この研究は、都内でTMSを行っているクリニック2施設のlong COVID外来患者を対象とするケースシリーズ研究として実施された。研究参加の主な適格条件は、PCR検査が陽性で、COVID-19罹患後に初めてうつ病または不安障害の診断基準を満たす状態となり、TMS治療を希望する20~70歳の患者であることなど。一方、除外基準として、神経変性疾患などの器質的疾患、原発性睡眠障害、双極性障害、統合失調症、てんかん、インプラントやペースメーカーの使用、妊婦などが設定されていた。評価項目は、うつ病の重症度(MADRS)、抑うつ症状(PHQ-9)、パフォーマンスステータス(PS)、認知機能(PDQ-D-5)などで、TMS施行前とTMSを20回試行した後でこれらの変化を検討した。

 研究参加者は23人で、平均年齢38.2±11.7歳、女性13人で、COVID-19急性期に入院を要していた患者が7人であり、long COVIDの主訴は慢性疲労が12人、認知機能障害が11人。そのほかに大半の患者が、軽症以上の抑うつ症状も有していた。COVID-19罹患からTMS施行までの期間は48.6±30.2週だった。

 では結果だが、MADRSはTMS施行前が21.2±7.0、施行後は9.8±7.8、PHQ-9は同順に12.9±4.7、8.2±4.6、PSは5.4±1.6、4.2±1.8、PDQ-D-5は10.0±5.2、6.3±4.7であり、いずれも有意に改善していた(全てP<0.0001)。サブ解析の結果、男性は女性より抑うつ症状がより大きく改善したこと、COVID-19急性期の入院の有無やワクチン接種歴は有効性に有意な影響を及ぼしていないことなどが明らかになった。

 著者らは、本研究が小規模なパイロット研究であり、盲検化されていないこと、長期予後を評価していないことなど、多くの限界点があるとした上で、「難治性うつ病の治療に用いられているTMSが、long COVIDの精神症状の改善にも有用である可能性を、初めて示すことができた」と総括し、大規模な無作為化比較試験の必要性を述べている。

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HealthDay News 2023年4月2日
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