• 歯科治療の中断が全身性疾患の悪化と有意に関連――JACSIS研究のデータ解析

     歯科治療の中断と、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、心・脳血管疾患、喘息という全身性慢性疾患の病状の悪化が有意に関連しているとする研究結果が報告された。近畿大学医学部歯科口腔外科の榎本明史氏らの研究によるもので、詳細は「British Dental Journal」に4月11日掲載された。

     近年、口腔疾患、特に歯周病が糖尿病と互いに悪影響を及ぼしあうことが注目されている。その対策のために、歯科と内科の診療連携が進められている。また、糖尿病との関連に比べるとエビデンスは少ないながら、心・脳血管疾患や高血圧症なども、歯周病と関連のあることが報告されている。歯周病とそれらの全身性疾患は、どちらも治療の継続が大切な疾患であり、通院治療の中断が状態の悪化(歯周病の進行、血糖値や血圧などのコントロール不良)につながりやすい。榎本氏らは、歯科治療を中断することが全身性疾患の病状に影響を及ぼす可能性を想定して、以下の横断的研究を行った。

    歯周病に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     研究には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模Web調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータが用いられた。パンデミック第5波に当たる2021年9月27日~10月30日に、Web調査登録者パネルを利用して、年齢、性別、居住都道府県を人口構成にマッチさせた上で無作為に抽出した3万3,081人に回答協力を依頼。2万7,185人(年齢範囲15~79歳、男性49.7%)から有効回答を得た。

     このトピックに関する質問は、「過去2カ月間に、全身性疾患の病状は悪化したか」、「過去2カ月間に、歯科治療を受けることができたか」という二つで構成されていた。前者は「はい」か「いいえ」、後者は歯科治療を「継続していた」、「中断した」、および「該当しない(以前から継続的な歯科治療は受けていない)」から選んでもらった。

     全身性疾患の検討対象者は、もともと内科疾患を放置している人やコロナ禍のもと内科疾患の通院を中断した人は除外。最終的には、糖尿病1,719人、高血圧症5,130人、脂質異常症2,998人、心・脳血管疾患833人、喘息677人、アトピー性皮膚炎792人、うつ病などの精神疾患1,638人を対象者とした。これら各疾患の患者のうち、50~60%は歯科治療を継続しており、4~8%は中断していた。いずれの疾患においても、歯科治療継続群より中断群の方が、病状が悪化したとの回答が多かった。

     糖尿病患者を例にとると、1,719人のうち88人が歯科治療を中断しており、そのうち16人(18.2%)が糖尿病の悪化を報告。歯科治療を継続していた1,043人ではその割合が5.6%だった。年齢、性別、喫煙習慣、教育歴、収入、居住環境(独居か否か、持ち家か否か)を共変量として調整した解析でも、病状悪化率の群間差は有意だった(P=0.0006)。

     同様の解析で、高血圧症(P=0.0003)、脂質異常症(P=0.0036)、心・脳血管疾患(P=0.0007)、喘息(P=0.0094)も、歯科治療を中断した群の病状悪化率の方が有意に高かった。アトピー性皮膚炎とうつ病などの精神疾患に関しては、有意差が見られなかった。

     著者らは「本研究は横断研究であるために因果関係は不明」とした上で、「歯科治療の中断がいくつかの全身性疾患の状態を悪化させる可能性が示された。つまり、歯科治療の継続が全身性疾患の進展を抑制し得るのではないか。また、全身の内科的疾患の症状悪化によって、将来的に医療において必要となる人的労力や経済的負担が、口腔の健康の維持のための比較的軽度な負担によって抑制可能かもしれない。この結果はわが国における医歯学連携の推進を後押しする、有意義な知見と考えられる」と結論付けている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年5月15日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 抑うつ症状の強い女性には下部尿路症状が多い――国内ネット調査

     日本人女性では、頻尿や尿失禁などの下部尿路症状と抑うつ症状との間に有意な関連のあることが明らかになった。特に若年女性で、より強固な関連が認められたという。横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科の河原崇司氏らが行ったインターネット調査の結果であり、詳細は「Lower Urinary Tract Symptoms」に3月30日掲載された。

     頻尿、尿意切迫感、尿失禁、排尿後の尿漏れといった下部尿路症状(LUTS)は加齢とともに増え、特に女性では尿失禁や尿漏れが男性に比べて起こりやすい。LUTSは命にかかわるものではないものの、生活の質(QOL)を大きく低下させる。一方、うつ病も女性に多い疾患であり、かつ、うつ病は時に命にかかわることがある。これまで海外からは、女性のLUTSがうつ病リスクに関連していることを示す研究結果が報告されている。ただし、それを否定する研究もあり、また日本人女性対象の研究報告はまだない。河原氏らの研究は以上を背景として行われた。

    過活動膀胱に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     インターネット調査のパネル登録をしている日本人女性5,400人に、LUTSと抑うつ症状を把握するためのアンケートへの回答を呼びかけ、4,151人(76.9%)から有効回答を得た。LUTSは、過活動膀胱症状質問票(OABSS)と尿失禁症状に関する質問票(ICIQ-SF)により評価。抑うつ症状は、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)という指標で評価した。

     解析対象4,151人の主な特徴は、平均年齢48.3±13.8歳、配偶者のいる女性64.2%、子どものいる女性52.7%であり、過活動膀胱の有病率が14.2%、切迫性尿失禁は20.3%だった。QIDS-Jで評価した抑うつ症状は、若年層ほど重症度の高い人の割合が高く、20代では重度が12.7%、極めて重度が7.9%を占めていた。

     抑うつ症状(QIDS-J)と過活動膀胱の症状(OABSS)の関連を解析した結果、QIDS-Jスコアが高いほどOABSSスコアが高いという、有意な正相関が認められた(P<0.001)。具体的には、QIDS-Jが正常群のOABSSスコアは1.43±1.76点、軽度群は2.16±2.22点、中等度群2.55±2.58点、重度群3.11±3.05点、極めて重度群4.49±4.44点だった。また、過活動膀胱や切迫性尿失禁の有病率も、抑うつ症状が強い群ほど高いという結果だった。

     これらの関係を年齢層別に解析すると、全ての年齢層で有意な関連が認められたが、若年層ほど、抑うつレベルが高いこととLUTSの関連が強いことが分かった。例えば、60~80歳の高年者では、QIDS-J正常群を基準として、極めて重度群では過活動膀胱や切迫性尿失禁のリスクが3~4倍〔相対リスク(RR)が同順に3.73、3.05〕であるのに対して、20~39歳では同じ比較で7倍以上のリスク差が見られた(過活動膀胱はRR7.42、切迫性尿失禁はRR7.44)。なお、40~59歳の抑うつレベルとLUTSの関係は、若年者と高年者の中間だった(同順にRR4.71、3.58)。

     以上より著者らは、「日本人女性では、LUTSの悪化が抑うつ症状と相関しており、特に若年層でその関連が強く認められる」と結論付けている。なお、高年者より若年者で抑うつとLUTSとの関連が強固であることの理由については、既報文献に基づく考察から、「高年者ではLUTSに影響を及ぼし得る婦人科系疾患や糖尿病などの有病率が高いために、抑うつの影響が相対的に弱まる。反対に若年者はそれらの影響が少ないために、抑うつによる血管内皮機能や膀胱平滑筋への影響などを介したLUTSリスクが、より明確に現れるのではないか」と推察している。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2023年5月15日
    Copyright c 2023 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。