不定愁訴に伴う疲労の関連因子が明らかに
「不定愁訴」と称される、医学的に説明できない症状のある人の「疲労」を悪化させる因子が明らかになった。めまいや頭痛という身体症状と、不安や抑うつという精神症状が、疲労の強さに独立して関連しているという。東邦大学医学部心身医学講座の橋本和明氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of General and Family Medicine」1月号に掲載された。
さまざまな検査を行っても患者の訴える症状につながる異常が見つからない場合、「医学的に説明不能な症状(medically unexplained symptoms;MUS)」または「不定愁訴」と診断される。MUSでは複数の身体・精神症状が現れることが多く、原因を特定できないために効果的な治療が困難であることから医療者の負担になりやすい。その影響もあり、医師はMUSの診療を避けようとする傾向のあることが報告されている。
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「疲労」もMUSとされやすい症状の一つ。疲労がMUSとされやすい理由として、疾患のない健康な人にも疲労は高頻度に見られるために、患者の訴えを医療者が重視せずにMUSと判断しやすいことが関係しているとする報告がある。ただ、疲労は生活の質(QOL)を大きく低下させる因子であり、経済的損失にもつながることもあって、患者の苦痛は小さくない。仮に、疲労の強さに関連があり、かつ、治療が可能な身体的または精神的症状があるとすれば、それらに対する介入によってMUS患者の疲労とQOLを改善できる可能性がある。このような背景から橋本氏らは、MUS患者の疲労に関連する因子の横断的検討を行った。
解析対象は、2021年1~3月に、東邦大学医療センター大森病院心療内科を受診した20~64歳の患者のうち、複数の医師によって症状に見合う器質的疾患の可能性が除外され、解析に必要なデータがそろっている120人。疲労の程度はチャルダー疲労スケール(CFS)で評価し、そのほかに身体症状スケール-8(SSS-8)、不安・抑うつスケール(HADS)を用いて身体・精神症状を評価した。対象者の平均年齢は47.7±11.3歳、男性が35.8%で、抗うつ薬が62.5%、睡眠薬が24.2%、抗不安薬が41.7%に処方されていた。
まず、CFSとSSS-8およびHADSの相関を検討。すると、SSS-8で把握した消化器症状、背部痛、関節痛、頭痛、胸痛・呼吸困難、めまい、活力低下、不眠症という身体症状と、HADSで把握した不安、抑うつという精神症状の全てが、CFSスコアと有意に正相関していた。特に抑うつレベルとCFSスコアの強い相関が観察された(r=0.71)。
次に、CFSスコアを従属変数、SSS-8およびHADSの各因子を独立変数とする重回帰分析を施行。その結果、CFSスコアに独立して有意に関連する因子として、頭痛(β=0.14)、めまい(β=0.18)という身体症状と、不安(β=0.35)、抑うつ(β=0.38)という精神症状が抽出された。一方、睡眠薬の処方は負の有意な関連因子であることが分かった(β=-0.12)。年齢や性別および前記以外の症状は、独立した有意な関連が示されなかった。
著者らは本研究が単一施設で実施したものであること、症状の程度を自己評価で判定していることなどの限界点があるとした上で、「MUS患者の疲労には、頭痛、めまい、不安、抑うつが関連している」と結論付けている。なお、疲労は睡眠障害との関連性が知られているが、本研究で睡眠障害はCFSスコアの有意な関連因子として抽出されず、睡眠薬の処方が負の関連因子として抽出されたことから、「既に治療が導入されていた患者が含まれていたため、疲労と睡眠障害の関連については再検討が必要」と考察している。
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